明仁天皇と平和主義 (朝日新書)

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  • 朝日新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022736260

作品紹介・あらすじ

【文学/日本文学評論随筆その他】天皇陛下の平和を希求する強い気持ちは、どこに源流を発しているか──膨大な文献と証言から、ご誕生からの歴史的、個人的事蹟を丹念に読み解き、「人間」としての天皇の自己形成の道程をたどる。果てしない慰霊の旅と祈りの原点とは。

感想・レビュー・書評

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  • 今の天皇陛下のことは、けっこう好きです。
    好みの問題なんでしょうが。

    見た目とか、そういうことではないんですが、
    昭和天皇が亡くなって、今の天皇、明仁天皇さんになってから、
    報道で流れる天皇の姿と、天皇の発言を見ていると。

    無論の事、ある程度、パターンだし、良くある言葉でしかないのですが、
    その向こうに物凄く強固な「リベラル志向」を感じるんですね。
    もっと具体的に言うと、

    ●第2次世界大戦、太平洋戦争。それを、きちんと日中戦争まで含んだ「十五年戦争」と把握するべきだ、という志向。

    ●その過去について「日本は悪くなかったもんね」というニュアンスを一切、許さない雰囲気。

    ●といって、自虐的になりたいだけではなくて、「何があったのか」という事実を学ぶ重要性の上で、「同じようなことを繰り返さない」ことだけを強調する姿勢。

    ●はしばしで「今の日本国憲法を変えるなんて、ぜんぜん理由がわかりません」という空気感。

    ●「自分が死んだら大喪の礼は簡素に」「とにかく災害現場に行き、低姿勢で話を聞く」「奥さん(美智子さん)を大切にしている感じ」などから匂う、「マッチョ嫌い」「権威権力嫌い」。

    と、言うようなところでしょうか。

    もっと言ってしまえば。
    安倍政権が、大手マスコミをも委縮させる権力を振い、
    新聞は人々に見放され、ネットとテレビの刹那な情報が猛威を振るい、
    野党が求心力を失って、選挙制度が自民党有利に固定されてしまっている現在、

    「潜在的な精神として「アンチ安倍」を醸し出しながら、凛とした姿勢も失わない、日本で最も影響力があり有名な人物」

    というのは、実は天皇陛下なんぢゃなかろうか。


    ######


    という訳で、何か一冊、今の天皇さんについての本を読んでみようかなあ、と。

    どうやら、学習院関係の学者の方が書いた新書です。

    緩やかな、明仁天皇の伝記、でした。

    食い足りない部分としては、伝記としての執拗さがあまりなく、かなりな部分は過去の新聞記事と小学生のころの文章から推論しているだけ、みたいなお手軽さはいまいちでした。
    まあでも、分量そのものが軽い本なので、そこはまあ、そういうものかなあ、と。
    ブックレットみたいなもの。

    そして、冒頭からとにかく「明仁天皇ってさ、いやあ、素晴らしいですよね」という立場が明確に貫かれちゃってるので、その辺のこう、若干、提灯記事のような軽さもありますね。

    ただ、面白かった部分もありました。

    やっぱり、明仁天皇の発言をそれなりにトレースしていくと、とってもよく勉強して、そして考えてはるなあ、と。

    ●象徴天皇って、どういう役割をして、どこまでしていいのか。政治的でないところに立ちながら、とってもクリエイティブに、考えながら「天皇像」を作ってらっしゃる。

    ●多くの問題について、学者さんに聞くなどして、ホントに勉強してはる。3.11.直後に、地震や救援や原発について、ものすごい勉強してはった。

    ●実は、いろいろな公務で相当に日常的に忙しい。それに加えて、「自分で希望した仕事」を積み上げている。そしてそれを、びっくりするくらい美智子さんと分かち合って共同作業している。

    ●当然ながら「天皇制そのものの是非議論」「かつての戦争の責任の、天皇の有無議論」についても、「当然、議論はあってしかるべき」という、タブーを作らない姿勢。はっきりと、「言論の自由は大事である」と明言されている。

    ●戦時中に既に、少年の明仁さんが軍人に「どうして特攻作戦をとるのか」と素直に質問した挿話は面白かった。


    と、いうような細部がちょこっと勉強になったのは、面白かったです。

    #

    ご高齢なので、今と同じ活躍が長くはできないでしょう。
    生前退位云々のありますが、希望としては、きっと、お子さんたちにも想いを共有しておられることですね。

    この先も、日本の社会の右傾化、ナショナリズムの暴走を止める最大の勢力に、天皇家がなってくれるのでは、という、素敵な皮肉が真実にならずに済むと良いのですけどね。

    #

    昔、10年くらい前に、一度だけ、車の中で通過する「生天皇夫婦」を見た事があります。
    沿道の僕らに微笑みながら申し訳なさそうに頭を下げておられました。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/685375

  • 天皇陛下のざっくりした伝記みたいな感じ。タイトルから期待したのは、陛下が平和についてどう考えとらえているかを皇位についてからの言動を中心に紹介・分析・論じてくれるものだったんだけど、そうではなかった。けっこう幼少期にもページを割いている。一人の人間の内面形成期をしっかり掘り下げ、そこから現在に至るものを見い出そうということかとも思うけど、掘り下げも足りない。
    ただ、幼少期には弱気だったり傲慢な態度も見せていた陛下が、その後の人生を生きるなかで今のように変わったことがすごいと思った。何が変えたのかはわからないけど(美智子さまがそのうちの1つなのは確かだけど)、人は後天的に変われるんだ。
    あと感じたのは、昭和天皇がヴァイニング夫人のような外国人の養育係をつけるよう望んだこととか、良子皇后が子ども思いだったといったエピソードについて。とかく、乳人なしで育児したことなど、現両陛下が皇室の革新者のように描かれるけれど、昭和の両陛下もしきたりを破り3歳まで現陛下を手元で育てたように、ちゃんと少しずつ変化させてきたんだなあ。

  • 明治天皇と大正天皇の時代は知らない。それでも、書籍から得る
    おふたりの人物像からは生真面目さを感じた。

    それは昭和天皇も同様だ。生真面目に立憲君主であろうとされた。
    その生真面目の系譜は今上陛下、明仁天皇にも受け継がれている
    のだと思う。

    昭和天皇の前半生は現人神であった。敗戦後の人間宣言で象徴天皇
    となられたが、今上陛下は即位と同時に象徴天皇になられた初めての
    天皇である。

    今上陛下の折々のお言葉や、ご高齢になっても皇后陛下と共に慰霊の
    旅を続けられるお姿からは平和への強い思いが伝わって来る。

    本書は今上陛下の平和への思いがどのように形成されたのかを考察
    した作品である。

    今上陛下の幼少期は戦争の時代だった。昭和天皇同様、将来は大元帥
    になるよう運命づけられた身分でいらっしゃった。しかし、それは日本の
    敗戦で大きく変わった。

    戦後の成長の過程で大きな影響を与えたのはやはりヴァイニング夫人
    と小泉信三氏なのだろうな。

    ヴァイニング夫人からは自分で考え、行動し、主体性を持つことを。
    小泉信三氏からは象徴天皇としての具体的なあり方を。

    また、同じように疎開経験を持ち、主体性と活発さを持った美智子皇后
    を伴侶にされたことも、現在の今上天皇を支えることになったのだろう。

    今上陛下の祈念する平和は、単に戦争のない状態ではない。非戦は
    勿論のこと、国民がみな健康であり、生活が安定し、福祉が充実し、
    国際親善がなされた、生活全体の平穏と安定の状態だ。

    慰霊の旅と共に、大きな自然災害が起こればその被災地に必ず両陛下
    がお見舞いされるお姿がある。東日本大震災と福島第一原発事故の
    際には異例のビデオメッセージを発表になられた。

    そして、7週連続での避難所・被災地へのご訪問。これぞ常に「国民と
    共に」とのおふたりのお考えの体現ではないか。

    いまはとて島果ての崖踏みけりしをみなの足裏思へばかなし

    サイパン島の「バンザイ・クリフ」で海に飛び込んだ女性たちを思い、
    美智子皇后が詠まれた御歌である。両陛下の「国民への共感と
    共苦」というお考えは、御製・御歌にも表れている。

    「大日本帝国憲法下の天皇と在り方と日本国憲法下の天皇の在り方
    を比べれば、日本国憲法下の天皇の在り方の方が天皇の長い歴史
    で見た場合、伝統的な天皇の在り方に沿うものと思います」

    ご結婚50年目の記者会見での今上陛下のお言葉だ。日本国憲法
    を改憲し、天皇は日本国の元首と書き換えたい人たちは今上陛下
    の折々のお言葉を読み返してみるといい。

    それがいかに大御心に背いているか分かるから。

  • 教育史を専門とする学習院大学教授の斉藤利彦氏が、今上天皇の自己形成の道程とそこから生まれた平和への希求について考察したものである。
    本書では、昭和8年に生まれ、自ら「戦争の無い時を知らない」と言う幼少期・少年期から、天皇陛下の自己形成に大きな影響を与えたと言われるヴァイニング夫人、小泉信三氏との交流を経て、美智子様と出会い、日本国憲法により定められた「象徴天皇」のあるべき姿を思索し行動する中で、たどり着いた「象徴天皇」の理念と意志が、「国民への共感と共苦」、「平和への貢献」(ここでいう「平和」とは、単に戦争のない状態のみならず、国民生活の基底としての平穏と安定が得られた状態を示す)、「非権力性」であったことが、多数の当時の天皇陛下の言葉とともに述べられている。
    近年の天皇陛下と皇后陛下の姿としては、今年、太平洋戦争の激戦地であったペリリュー島を追悼訪して拝礼される姿と、何と言っても、東日本大震災後に被災地を見舞われ、ひざまずいて被災者の目線で話をされる姿が強烈に印象に残っており、いずれも本書でも取り上げられている。
    被災地訪問時の両陛下の行動については、「何もあそこまで」と言う宮内庁幹部がいたり、阪神淡路大震災の時に、評論家の江藤淳は「何もひざまずく必要はない。被災者と同じ目線である必要もない。現行憲法上も特別な地位に立っておられる方々であってみれば、立ったままで構わない。馬上であろうと車上であろうと良い」と苦言を呈したともいうが、それについて、「天皇と皇后が自らの意志で行った、こうした行為こそが、二人の真情を率直にあらわしているのではないだろうか。誰も、人間の真摯で率直な行為を止めることはできないのである」と語る著者に同意する。
    また、天皇陛下と意志を共有されている皇后陛下についても多くが語られており、私には、皇后陛下が、知人の言葉に仮託してご自分の信条を語った、「ずっと忘れられずにいることは、「無関心であることが魂の平安であってはならない」といった一人の人の訴えでございました」という言葉が、多くの天皇陛下の言葉とともに、強く心に残った。
    両陛下の体現する三つの理念に強く共感するとともに、それを多くの人々と共有するきっかけとなって欲しい書である。
    (2015年7月了)

  • 裕仁天皇のものはいろいろと読んだことはありますが、明仁天皇のものは初めてです。
    将来の立場を使命に背負って生きてきた日々は想像するだけで恐れ入ります。
    皇后さまとともにいつまでもお元気でいてほしいです。

  • 明仁天皇の平和に対する想いと実践を少年期の記録から皇太子時代そして即位後まで丹念に追っている。2005年にサイパン島を訪れた両陛下が、当初予定になかった朝鮮半島出身者を慰霊した「韓国平和記念塔」にも拝礼したことを知った時から、ずっと気になっていた、明仁天皇の想いを少し知ることができた。「日本国憲法下で即位した初めての天皇として、「象徴天皇」の具体的な内実を自ら創り上げて」来たその姿に心から敬意を抱きます。

  • 明仁天皇の象徴天皇のスタンスをどうするかをよくわかった。平和健康文化環境力点をおいて権力を持たない天皇を演じていく。

  • 天皇(今上)陛下の生い立ち、成長、受けた教育等々から分析して現在の人間像に迫る本。
    天皇の素顔は『天皇家の執事』に詳しいが、そのような尊崇すべき(個性を有する)天皇が生まれた背景がわかる、納得の内容で参考になった。

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著者プロフィール

斉藤利彦

1953年福島県生まれ。学習院大学文学部教育学科教授。博士(教育学)。東京大学法学部卒業、同大学院教育学研究科博士課程修了。学習院大学助教授などを経て、94年より現職。著書に『作家太宰治の誕生』(岩波書店)、『試験と競争の学校史』(講談社学術文庫)、『学校文化の史的研究』(編著、東京大学出版会)、『明仁天皇と平和主義』(朝日新書)など。

「2019年 『「誉れの子」と戦争』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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