新書589 グローバリズム以後 (朝日新書)

  • 朝日新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (200ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022736895

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  • グローバリズム以後
    アメリカ帝国の失墜と日本の運命
    著:エマニュエル・トッド
    朝日新書 589

    1998年から2016年の間に進行したグロバリゼーションの分析と評価が本書の目的である

    グロバリゼーションを主導したのは、アメリカ帝国である
    EU欧州の主導権を握っているのは、ドイツである
    しかしながら、欧州は建設から解体へと移行していく
    日本はかつてないほどに経済的、軍事的安全にかかわる構造的な問題の解決を迫られている

    ■夢の終わり

    アメリカの白人層の45から54歳までの死亡率が1999年から上昇している
    1世代35年は国民国家衰退の時代であった。国家の弱体化の時代、国家の破壊の時代でした。
    帝国主義に苦しんでいるのは、まず自国民であった。ソ連であれば、ロシア人、アメリカでは、米国人そのものがその帝国支配に苦しめられてきた。

    英国のEU離脱(Brexit)の原因はあまりにたくさんの移民を受け入れることの拒否反応である

    平等の幻想。
    英国社会には平等はない、なぜなら、階級の違いがある
    米国には平等の伝統があるが、それは白人同士の平等で、民主主義である。ただし、黒人を含めてではない。つまり黒人の解放とはかなり幻想だということです

    英国では、離脱に投票したのは、ふつうの人でした。エリートは驚愕し慄然していたのです

    自由・平等を手に入れるためには、大きな犠牲を払ってきた。
    英国1640年清教徒革命、1688年名誉革命、2つの革命を通じて、選挙をともなう君主制を手に入れた。それから産業革命が起き、米国の独立宣言があった。
    フランスの人権宣言はそのあとに続きます。フランス革命はいわば最初の反応でした。

    エリートの反逆:かつて、エリートとは共同体の公益を担うのが役目であった。教育レベルは高く、外国語で意思疎通もできる。でもそれは、目くらましであった。
    欧州連合はエリートが構築したけれど、共同体の構築ということでは失敗している

    重要なのは、まず起きていることを見ることです。
    欧州の現実は、ドイツ経済が支配力をもつようになり、欧州東部をその中に組織していったことにあります。
    しかし、ドイツは、欧州を管理できない。あまりに自己中心的であるが故に、ドイツは帝国の建設には才能がない

    現在の巨大国家、世界帝国とは米国、ロシア、中国である

    民主主義の危機:民主主義とは、まず普遍的な識字運動であり、だれもが読み書きができるようになるということです。でも、今は、高等教育を受けた人でも、多くの人が、グローバル化の影響に苦しんでいます。
    伝統的なモデルで考えると、発展というのは、複雑だった家族構成がシンプルになり、個人というのが登場する。そして、家族構成がもっと個人中心となりもっと自由になり、もっと進歩することになることだ。

    ■暴力・分断・ニヒリズム

    近代への移行が生じる期間は劇的である。
    欧州の場合、フランスでは数十年の間、革命と戦争が続きました。
    ドイツでも、宗教革命やナチズムがありました
    ロシアでは、共産主義革命がありました。

    歴史家として、長期間について語るなら、残酷な結果を生みだすもので、そのモデルは、過去から変わっていません。だから、イスラム世界では、今とても厳しい状況にあります。
    中東では、国家を組織する能力を備えているように見える国が2つあります。トルコとイランです。
    サウジが崩壊の危機にあるのであれば、イランを必要で安定的なパートナーとして見直すべきです。
    イスラム世界の戦いは、シーアトスンニの戦いではなく、世代交代が起きていることによる脱イスラムの模索をしている中での対立がおきているためです。

    ニヒリズムとは、あらゆる価値の否定、死の美化、破壊の意志を示します。

    危機は、そこら中にあり、しかも、国ごとにそれぞれ違った形をとっています。
    経済は手段の合理化をもたらしますが、目的の合理化ではない。経済は何が良い生き方であるかを定義してはくれません。これが限界です。

    危機の4つの要素 ①共同体的な展望の欠如、②高齢化、③教育革命、④女性の地位の向上 です。

    日本の本当の問

    東日本大震災で目にしたものは、共同体、会社などの水平連携関係が、事態に対応ができなくなった政治制度に代わって、地域の再建を支えていた姿でした。

    文明の衝突には2つの危機があります。
    1つは、米欧、日韓などの発展の先頭を行く、国々の危機です。消費社会は停滞して、若者にそのしわ寄せが及んでいます。人口減少が進展し、不確実不透明になっています。
    もう1つは、移行期にある途上国のものです。制度変更に伴う混乱、暴力、自由競争の導入は生活水準を押し下げています。
    この2つの世界をグロバリゼーションが橋渡しをしていることで、両者を人は行き来するようになりました。これが文明の衝突です。

    日本は安全保障的に西側である続ける必要はあるが、こと中東対応では最低限の連帯を口にしておけばよいと説いています。

    アメリカ帝国の衰退は予想より早いスピードで進行している。まるでローマ帝国の末期に非常ににた状況である。
    グローバル化でアメリカ型世界に収斂していくという予想は外れ、国家の復活、再浮上。米国、ロシア、ドイツ、中国、かつての大国が再び台頭してきている

    民主主義の特徴は識字率の向上である。それとともに、出生率が低下し、女性の識字率が上がってくると、政治システムは民主主義に移行しようと、伝統的システムと決別するための政治的危機を体験する

    目次
    日本の読者へ
    1 夢の時代の終わり(2016年8月30日)
    2 暴力・分断・ニヒリズム(2016年1月27日)
    3 グローバル化と民主主義の危機
    4 アメリカ「金融帝国」の終焉
    5 終わらない「対テロ」戦争
    おわりに 大野博人
    初出一覧

    ISBN:9784022736895
    出版社:朝日新聞出版
    判型:新書
    ページ数:200ページ
    定価:720円(本体)
    発売日:2016年10月30日第1刷
    発売日:2016年12月20日第5刷

  • エマニュエルと聞いて、映画を思い出すのは、我々の年代以上でしょう、、、さておき。

    以前から気になっていた、エマニュエル・トッドの著書でも、簡単そうな部類で、新しいものを読んでみた。

    もう残すところ1ヶ月を切った2016年も、世界は波瀾万丈であった。イギリスのブレグジットEUからの脱退の国民投票の決定、アメリカの次期大統領にドナルド・トランプの決定。

    いずれも世界に大きな波紋を投げかけた。

    日本に住み、一般的な情報を入手しているだけだと、えっ、何故?となるだろうが、もしかしたら、それらは予見されていたことかもしれない。

    それは、エコノミストが出版する「2050年の世界」を読んでから益々そう思うようになった。そんな中、経済学の視点では無く、社会学の視点から世界を捉え、鋭い分析をしているエマニュエル・ドットの著作は面白そうだと以前から気になっていた。

    しかし、中々たどり着けずにいたが、ついに1冊読むことが出来た。

    結論を書くと、読むだけの価値はあった。

    特に、最初の方に新しい情報が入っており、後ろに行くに従って、過去の取材記事となっていく。最初の数十ページでもこの価格を払う価値が十分にある書籍である。

  • 本書は朝日新聞記者によるエマニュエル・トッド氏へのインタビュー集(1998年~2016年)とういことで、それぞれのインタビュー記事自体は短く読みやすいと感じました(※日本語が読みやすく大変良かった。以前別の出版社から出たトッド氏の本を読んで翻訳のひどさにストレスが溜まったのとは好対照でした)。冒頭の「日本の読者へ」で書いてあるように、トッド氏はグローバル自由主義礼賛の時代が今年終わったと述べています。米国の大統領選挙でトランプが勝利した後に本書を読んだ身からすると、この主張はかなり説得力を持つなあという印象を本書の冒頭から持ちました。

    本書はインタビュー記事と言うことで基本的に読みやすいのですが、トッド氏の主要な研究成果の知識を持っていないとなかなか意味が分かりづらい記述もあります。具体的にいえば、トッド氏は本書内でも各国の家族構造について折に触れて述べていますが、多様な家族構造(兄弟関係、親子関係、婚姻制度)と浸透する政治思想の関係という彼の研究成果については、他の著書(例:「世界の多様性」ただしこの本は大著なので読むのは大変ですが)、もしくはWebで多少勉強した上で本書を読むと理解がかなり深まると思います。

  • 日本人にはない視点で世界情勢を分析するトッド氏。漂流する超大国アメリカとアメリカが唯一の同盟国である日本。中国やロシアとの関係も含め、舵取りが難しい。

  • ロシアは日本には大事だと思う。中国とはもっとうまくやれそうな気はするが。それにしても、フランスで起こっていることと日本で今起きていることのなんと似ていることか。スケープゴートがイスラムか、中韓なのかの違いだけで。

  • 物事の背景を考えさせられる

  • フランスの学者 エマニュエル・トッド氏のインタビューをまとめた本。
    ちょっと違う独特な世界観が新鮮。


    以下、読書メモ:
    夢の時代の終わり
    米国 エリートへの反乱 最低限の安全を脅かさることへの抵抗
    EUは崩壊へ 移民への対応
    世界は接近するが一致はしない

    暴力・分断・ニヒリズム
    ニヒリズムとは、あらゆる価値の否定、死の美化、破壊の意思を指す。
    先進国の考察
    信仰システムの崩壊=共同体的な展望の欠如
    高齢化
    女性の地位の向上=教育革命
    不平等を受け入れる日本
    指導層はテロを利用している

    グローバル化と民主主義の危機
    国家の再浮上 多数を占める中高年が若者にかかわる政策を多数決で決めてしまうのは民主主義にかなっているのか
    ユーロは悲しみの製造機になっている。なくなったほうがいい。
    民主主義の機能不全
    自由貿易は新興国(中国)の景気を刺激するだけ
    ハイパー個人主義

    アメリカ「金融帝国」の終焉
    サミュエルハンチントンの文明の衝突は国際社会の対立はイスラム教文明とキリスト教文明の境界で激化すると。それに対してトッドはイスラム文明の近代化が遅れてきた過渡期の問題にすぎないと説く。
    近代化=教育レベルの向上=識字率の向上=本を読むことにより精神の構造を変える
    欧州、北米、極東に保護主義圏を。それぞれで内需拡大し、地域経済を立て直し、各極を基礎に置いたグローバル化を構築すべき。
    日本が核武装することで核兵器の偏在をなくし安定する。

    終わらない「対テロ」戦争
    米国が世界秩序混乱の原因 劇場型ミクロ軍事主義
    日本は米国以外の同盟国を持つべき。
    イラク危機は米国と欧州の対立、フセイン大統領は脇役。

  • ちょうど、平行して読み漁っている水野和夫氏の著書とも通じる部分がある。(当然、異なる部分もあるが)
    その中で、やはりエマニュエル・トッド氏の主張を特徴付け、説得力を持たせるのは、氏のバックグラウンドである、文化人類学や人口学の観点からの指摘であろう。
    出生率の低下を根拠にイランが近代化の過程であると指摘し、家族制度を根拠に日本やドイツには不平等を受け入れる社会的背景という。さらには、民主主義の発展に不可欠な、国民の識字率や高等教育の発展などがさらに進むと、教育格差として不平等の定着につながるとの指摘も、改めて慧眼であると感じた。

    そして、リーマンショックなどの金融危機以降、世界がグローバル化の問題に直面するなか、改めて国家の役割が注目されていることは、水野氏、トッド氏の指摘の通りであり、採るべき政策は自由貿易信奉による格差の拡大を是正することであることも両者の一致する見解である。

    しかしながら、現実の政府はP189でトッド氏が2001年に指摘した通り、「むしろ、秩序を維持するために治安への懸念を人々に感じさせ、軍備などの支出を増やす。」、そういう国家である。
    北朝鮮問題に絡み、米中に挟まれたいまの日本が、安全保障が極めて重要であることは疑いの余地がない。しかし、低成長時代への突入、資本主義の終わりという経済、そして社会体制の大きな転換点を迎えていることも確かである。
    政府が国民の目を外に向けることで根本的な問題を先送りにしないよう、注視していく必要がある。

  • 先進国、つまりヨーロッパ(特に英、独、仏)とアメリカ、日本の行き詰った現状についての解説本。
    著者はフランス人なのですが、長期的な歴史の視野に立って現代を観察してるんですね。
    アメリカ人やイギリス人(独立志向が強く、かつ差別に寛容、よって「自分さえよければ良い」思考に陥ってる)社会とほかの国との比較が語られて、とっても興味深かったです。
    国際的視野ってのは、実は単にアメリカ的視野になりがちですが、実は全然違うんですよね。
    たまにヨーロッパ人の視野で話を聞くと全然違って面白いです。

    ただ残念だったのは、朝日新聞に掲載されたインタビューをもとにしている割には、文章がわかりずらい。
    翻訳が今一つ・・・何を言わんとしてるんだろう?と何度も何度も一文を読み返す、ということをやりました。
    内容がちょっと硬くて難しめなので、なおさらでした。
    2016/11/18 09:52

  • 「問題は英国ではない、EUなのだ」と同著者であり読んだ。

    人口学から世界情勢を見ることの斬新さ。日本への提案も興味深かった。

著者プロフィール

1951年フランス生まれ。歴史人口学者。パリ政治学院修了、ケンブリッジ大学歴史学博士。現在はフランス国立人口統計学研究所(INED)所属。家族制度や識字率、出生率などにもとづき、現代政治や国際社会を独自の視点から分析する。おもな著書に、『帝国以後』『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる』などがある。

「2020年 『エマニュエル・トッドの思考地図』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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