学力と階層 教育の綻びをどう修正するか

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  • 朝日新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (319ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784023304055

作品紹介・あらすじ

深部で進む「教育の地殻変動」に学力問題の第一人者が説く処方箋。

感想・レビュー・書評

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  • その分野では勿論のこと、評論の世界では言わずと知れた著者による「教育」と「社会」との関連性について論じた良書。昨今、「格差社会・階層化」という社会的・経済的な事項が問題視されている中、子供らの「教育」もその煽りを食う現状。それに警鐘を鳴らすのが本書だと思って頂きたい。
    生徒時代の自分や周囲の友人を思い返してみると、本書において掲げられた様々なデータとその推察・考察が正鵠を得ていると否応なしに痛感させられる。恐ろしい事実である。
    是非、一人でも多くの人に読んで頂きたい。

  • 苅谷さん。

  • 2008年刊行。著者はオックスフォード大学教授、東京大学大学院教育学研究科教授。

     確かな学力が必要なのは学業不振者、とあり、首肯。
     もっとも、本書は、これまでの著者の成果を凌駕するものではない。著者の書籍は色々読んだが、「階層化日本と教育危機」読了時のインパクトにはどうしても及ばないというのが現実だ。
     
     ということを考えると、もう今となっては、学力と階層(所得を中核要素とする階層概念)との間には一定の相関関係があることを所与として、それを解消するための具体的・現実的な処方箋・解決策提示の時期に来ているのではないか。
     そして、その際、考慮すべきは、財政的な手当てをどのように行うかを十分検討し、夢物語に落とし込まないことなのだろう。
     そういう感慨の生じる著作である。

  • 意欲が階層と相関するのは感覚的にわかっても定量的に見せられると改めて教育の機会均等の難しさを感じる。

  • 教育社会学者の筆者が、様々なデータを元に出版時の教育の問題点をまとめている。全15章の論文で、標題の学力と階層の問題は1章にある。

    1 授業の理解度、学習意欲に示される格差
    2 家庭的背景が学力に大きな影響を及ぼす
    3 学習時間の階層差とその拡大
    4 教育基本法改正が地域格差をもたらす

    5 多様な価値観を否定する徳育教育
    6 学習指導要領は学力を保証できるか
    7 義務教育機会の不均衡化は経済格差を生む

    8 現場の声に耳を傾けずに進めた教育改革 「教員勤務実態」調査 1
    9 教育改革は子どものために有効ではない 「教員勤務実態」調査 2

    10 戦後教育の軌跡と現況、将来の課題 東京都立大学名誉教授、兼子仁氏との対談から
    11 『大衆教育社会のゆくえ』以降-10年後のリプライ 日本大学教授、黒崎勲氏からの問題提起に答える

    12 学歴社会から学習資本主義社会へ
    13 受験のレベルも授業のレベルも上げられない
    14 「ダメ教師にムチ、優れた教師にアメ」政策は有効か
    15 「自己実現」という名の迷路。フリーターからの脱出口はあるのか

  • 先日、衆議院選挙は自民党の圧勝に終わりましたが、国会議員に対する批判の一つとして,世襲問題があります.
    世襲問題をどのように捉えるかは別として,資金や支持層の継承という点では,2世議員が有利な面がある様です.
    しかし,そのような世襲は、実は私たち日本社会に既に広がっていることでもあります.
    レベルの高い大学の学生は,高収入の親が多い傾向にあることは,現在はある程度,社会的にも認知されていますが,著者は,親の収入や学歴等が子どもの学力に影響すること,すなわち学力の階層格差の存在を早くから指摘されていました.
    そして,社会の移り変りが激しくなる21世紀では過去に学んだことのストックではなく,学ぶ力自体が重要になる「学習資本」主義の時代が来ることを指摘し,その中でも階層による格差が生じうることを指摘されています.
    その他にも,教員の勤務実態や教育政策,若者の自分探しについても言及されていますが,統計的な根拠に基づいた上で論の展開がなされており,説得力があります.
    自らのこれまでの経験とすり合わせながら読んでも,とても興味深い本だと思います.
    (2012ラーニング・アドバイザー/図情NAGAMI)

    ▼筑波大学附属図書館の所蔵情報はこちら
    http://www.tulips.tsukuba.ac.jp/mylimedio/search/book.do?target=local&bibid=1346053&lang=ja&charset=utf8
    【文庫版】
    http://www.tulips.tsukuba.ac.jp/mylimedio/search/book.do?target=local&bibid=1452680&lang=ja&charset=utf8

  • <概要>
    その分野では超有名(らしい)教育社会学者である苅谷剛彦氏の一般向け論文集。書名の通り、学力と階層にスポットを当て、学力格差が出身階層に影響を受けており、またその影響が近年増大していることを指摘し、教育改革の方向性に関する提言を行う。
    「受験戦争によって養われる学力をゆがめている」という批判に対して行われた一連の教育改革(「総合的学習の時間」の導入、週休二日制、地方への財源移譲)の影響を検討。

    授業の理解度が出身階層によって制約されており、「総合的学習」における積極性なども成績の自己評価を通じて階層によって影響を受けていることを指摘。
    従来の日本の義務教育の特徴であった「教育機会の平等」を担保していた国による税金配分も、地方への「縛りのない資金」となる財源移譲によって揺らぐ可能性がある。
    教育改革と教員の関係には、教員サイドに教育改革の目的が十分に理解されていないために、新しいカリキュラムの目的が達成されるか、という点に不安がある。また週休二日制の導入によって教員の激務化が起こり、授業の準備などのための十分な時間がとれていない、といった問題が見受けられる。
    近年教育格差が問題として取り上げられるようになった背景には、多くの人々が社会の実態を把握し、その改善に行動するようになってきたという変化(「社会回帰性の高まり」)があり、教育社会学は実証知提供を通じて社会に貢献できる可能性が高まっている。
    近年の教育の綻びとして①学習能力自体への評価がより高まる中で、この能力に関する機会の二極化が起こり得ることと、②修得よりも履修が重視される中で本来得られるべき学力が獲得できず社会的コストが発生していること、③教員養成大学の倍率低下を通じて教員の質低下の可能性、④自分らしさの追求を通じてかえって労働のミスマッチが起こることが挙げられている。

  • 今から最低でも4年前の事象であるが、何ら改善されること無くますますひどくなっていく教育界のような気がする。階層の開きによる不平等は、このままどこまで行くか怖いような気がする。そして耳ざわりの良い『生きる力を育む』とか『自己実現』という言葉に包まれて、未来ある若者がすり切れていってるような感じだ。
    この本の最後に示されたOJTの提案は、面白く思った。

  • タイトルの「学力と階層」について論じられているのは第1章であり、第2章以降は教育政策に対する筆者の論評である。第1章の内容は、要は階層が学力に影響を与えるという、筆者が以前から主張して来た内容をまとめたものである。
    個人的に面白いなと感じたのは、第5章。ここでは、社会学者としての筆者の尖鋭な指摘が読むに値するものであり、教育政策に関心のある人なら楽しむ事のできる部分である。
    ただ、私自身の感想としては、やはり階層という概念にはいまいちしっくり来ない部分がある。すなわち、果たしてそのようなものは本当に存在するのか、定義があいまいなのにそれをありきで議論するのはいかがなものか、ということである。少なくとも、階層という言葉はマジックワードなので、注意を払ってその概念を読み解くことが読者に求められる。そのような意味で、学力と階層の関係性についても、些か注意を払いつつ本書の論評を読む必要があるかと思う。

  • 計測困難な「質」のOutputではなく、
    計測可能なお金というInputに注目しながら、
    常識的に「質」落ちるんじゃね?という懸念を腑に落ちるかたちで呈示している良書。

    補足として、教員へのアンケート調査であるとかも扱っているのだけれど、
    政策批判の前提としてまずはお金の問題をもって話すので説得力が強い。
    (少子化が進めば教育にかかる費用も減るから、
    国から地方に財源移譲すると同時に地方に負担してもらうようにしても、
    将来的には負担が減るからだいじょーぶ☆
    という主張の怪しさに対する批判。
    ※現状、義務教育は義務教育国庫負担制度により地方間の格差が出ないように補正されている

    批判の内容としては、
    1.一人あたり義務教育費は減らない。
    少子化が進む⇒即刻、小・中学校の統廃合が進むわけではない。
    少子化が進む⇒(僻地などに)小規模校が増える
    が先に起こる。

    そして小規模校であっても一定数以上の教職員を配置することは義務標準法により規定されている。
    こうすると、小規模校ほど児童生徒一人あたりの義務教育人件費は高くなる。

    2.教職員ひとり当たりの人件費が今後数年上がり続ける。
     ⇒2005年時点で45歳前後(2011年では50歳前後ということ)に
       年齢別教員数のピークがある。

     ⇒年功序列型給与体系を敷いていて、しかもリストラが起こらない、
     かつ退職金が事前積立ではなく発生年に計上される教員の高齢化は
     即刻人件費の押し上げにつながる。

    1.少子化&2.教職員の高齢化に伴う教育コスト増の影響は、
    財政力の弱い自治体ほど大きく影響を被ることになる。
    義務教育国庫負担制度が廃止されれば、義務教育機会均等(現状でもある程度幻想であるにせよ・・・)が揺らぎ、
    どの地域に生まれ育ったか?が即、教育機会の不平等につながる事態を引き起こしかねない。
    と。

    苅谷先生てやっぱり真っ当なひとだなぁ・・・という感じ。
    (私の中で、「真っ当」というのは最上級の賛辞のひとつに数えて良いと思う)

    とにかくデータの読み方がわからない。
    時間ができ次第、単位のとれる統計ノート、とか読みなおそうかと。。。
    *

    本田由紀先生の本と同様の傾向として、
    選択主体としての個人、の、その形成段階にいま焦点があるのだということ。
    社会学の世界、教育学の世界であればそれは前々からのことだろうとも
    いえますが、「働く意欲のない若者」批判、への批判が、
    ある程度受け入れられる社会風潮というのは、もしかしてこの10数年のことなのですね。(その前を知らないけど。)

    簡単に言えば、別に私は強制されて受験勉強をした記憶もない。
    ただ絵が好きだったり料理が好きだったりする子がいるように、
    私は学校の勉強、受験に結びつくような類の勉強が嫌じゃなくて、
    むしろ参考図書読んだりするのは好きって子供だったので大学受験なんかもよくパスしたんです。
    というのが、そのまんま自分に関する事実。
    私自身の意思に基づく行動なのだから、一時期のお受験批判や教育ママ批判は我が家には当てはまらない。

    だけど、じゃあなぜ勉強が好きだったの?というところに届く議論をしようというのが今の議論であり批判になるということ。

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著者プロフィール

オックスフォード大学教授

「2023年 『新・教育の社会学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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