幸福の王子―オスカー・ワイルド童話集

  • 偕成社
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感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784036515400

感想・レビュー・書評

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  • アイルランド出身の作家、オスカー・ワイルドの童話9編がこちらの1冊にまとめられています。
    「幸福の王子」「わがままな巨人」は読むたびにぽろぽろと涙が出てくるような素晴らしいお話です。
    キリスト教のすべてには賛同しているわけではないけれど、このような発想はキリスト教圏でないとできないな。ワイルドの皮肉めいた目線で、とても本人がそんなところで大人しくしていないだろうと思うような天国を描かれると素直に泣ける。
    あと一つ、私が好きなオスカー・ワイルド作品は「カンタヴィルの幽霊」なのですが、児童向けの短編集には収録されなくて残念。「カンタヴィル」も”愛”を謳っていますが、皮肉な口調にしては根本が優しくて好きなんですよ。

    しかしオスカー・ワイルド、とりあえずこの世の皮肉さや醜さ、キリスト教の欺瞞、身分宗教人種への差別意識への皮肉など一言言っとかないと気がすまないのか…、ところどころ「いいのかよ、これ…」という展開もあり。


    『幸福の王子』
    生きているときに無憂宮で享楽的に暮らして死んだ王子は、銅像となり街の高みに飾られ、人の醜さ惨めさを目にする。王子は群れに遅れたツバメに自分の装飾品を剥がして貧しい人々に届けさせる。
    ツバメは慰みに旅した世界中の話を聞かせると王子は答える。
    「およそ人間、男女の苦しみほど不可思議なものはないんだよ。不幸ほど大きな神秘がまたとあろうか」
    ツバメはそれまでは歌と恋と人生とを楽しんでいたが、王子を愛してしまっていたのでそこに留まり、冬の寒さに王子の足元で死ぬ。
    「お別れのキスしてもいいですか、死の家へ行くんですよ。死って、眠りの兄弟でしょう?」
    ツバメが死ぬと王子の鉛の心臓が真っ二つに割れて裂ける。翌日街の人たちは王子の銅像が薄汚れていることに気付き、引きずり下ろして溶鉱炉で溶かす。
    それでも王子の鉛の心臓だけは溶けず、ツバメの屍骸と共にごみ山に捨てられる。
    天国で神様は言った。
    「あの街で一番尊いものを二つ持ってくるように」
    天使たちは王子の鉛の心臓とツバメの屍骸を持ち帰る。


    『わがままな巨人』
    巨人は見事な庭を持っていたが、独占欲が強く遊びに来る子供たちを拒絶していた。庭から春は去り、冬が留まり続ける。
    ある日一羽の鳥が庭の木に止まり、子供たちが集う。ついに庭に春がやってきた。
    その美しさに感動した巨人は庭を開放し、子供たちと遊ぶ。
    巨人はその中でも一番小さな男の子を気に入ったが、その子はその後現れない。
    何年も経ち巨人の庭についにその幼子が現れる。喜びに駆け寄る巨人は、その幼子に傷跡を見つけて驚愕する。
    “子供の両手のひらには釘の痕が二つ、小さな両足にも二つ同じ釘跡が付いているのでした”「これは愛の傷なのだ。(略)お前はいつか自分の庭で私を遊ばせてくれたね、今日は私の庭へ一緒に行くのだよ、天国という庭に」
    その後遊びに来た子供たちは、白い花に包まれて横たわる大男を見つける。
    ==たしかイエス・キリストの言葉で「お前が誰かに親切にすることは私に親切にすることだ。私は彼らに代わってお前に礼を言おう」みたいなものがあったと思うのですが、それを彷彿とさせる話でした。
     
    『忠実な友だち』
    小男ハンスに友だちがたくさんいました。一番の友だちは大男の粉屋のヒューです。ヒューはいいます。「俺はお前に壊れた手押し車をやろうと思っているんだ、こんな素晴らしい俺のためにお前は友情をみせてくれたっていいだろう」
    こうしてハンスは自分の仕事をすべてヒューに捧げて、ヒューの雑用をすべて引き受けていました。だってヒューは壊れた手押し車をくれるって言ってくれたんです。こんな忠実な友だちの友情には答えなければいけません。お返しなんて求めたら友情に対して失礼でしょう?

    『すばらしい打ち上げ花火』
    王子様の結婚式に用意された打ち上げ花火は、他の花火への演説が昂じすぎて涙を流し湿ってしまいます。川に捨てられた打ち上げ花火ですが、川の生き物たちに自分は特別だ、自分こそ世界で一番素晴らしい式典で打ち上げられるのだと演説をし続けます。

    『若い王』
    若い王は、自分の持つ素晴らしい美術品や宝石、そして自分の若い美しさに夢中になり国のことなど顧みません。
    しかし王は夢をみます。そこでは自分の戴冠式のために国中の人々が苦しみ虐げられていました。
    王は涙を流して廷臣たちに夢の話をします。しかし廷臣たちは気にもとめません。「王は王者らしい装束をしていないと王だとわかりません。王が見すぼらしなど国民の恥です。だいたい我々のためにせっせと働いている者のことなどなぜ考えなければいけないのですか」
    王は身につけていた美しい装束を捨てて粗末な衣装で教会で神様にお祈りします。
    そこへ「みすぼらしい王など殺してしまえ」という臣下たちがなだれ込んできます。
    しかし臣下たちが見た王は、光に取り囲まれて真の王、まるで天使のような王の姿だったのです。


    『スペイン王女の誕生日』
    スペイン王女の12歳の誕生日の日、宮殿には庶民の子どもたちや、道化師たちが呼ばれました。そのなかにいたせむしの小人(ドワーフ)は、普段はあまりの醜さにみなから顔を背けられていますが、その日は可愛らしい王女様の前で踊り、微笑みをいただいたのでとても喜びました。
    王女様にもっと踊りを見ていただこう、自分の森の家に来ていただきたい、きっと自分からの贈り物を気に入ってくださるだろう。
    しかし生まれてはじめて鏡を見た小人は、自分が本当に醜いこと、王女様たちは自分を笑い者にしていたことに気が付くのでした。


    『漁師とその魂』
    漁師は美しい人魚に恋をしました。しかし異教徒である海の種族は魂を持たずに天国に行くこともありません。だから漁師が人魚と共に暮らすためには自分の魂を捨てなければいけません。
    漁師は魔女から教わったやり方で自分の魂を体から追い出し、人魚の国に行き愛の暮らしを送ります。
    しかし追い出された魂は毎年漁師に会いにきて、愛よりも財産や知恵や地位を手に入れる方法を教えるから自分を戻してくれと言うのでした。
    ==アンデルセンの「人魚姫」でも、人魚は魂を持たず死んだら泡になり数百年神様のために働いたら天国に行けるのだというキリスト教的救いのお話でしたね。
    こちらの「漁師とその魂」では、その人魚と添い遂げるために魂を追い出す漁師のお話です。しかも追い出された魂が悪いことを覚えて漁師を誘惑するというちょっと驚きの展開。キリスト教徒なら持っている魂がそんなことを言うとはまったく皮肉的。
    話としては、愛はあの世で成就され異教徒は立ち去る、というもので、キリスト教布教で追いやられた種族のことを連想しました。

    『星の子』
    貧しい木こりは、輝く星とともに落ちてきた星の子を育てます。
    しかし星の子は自分の美しさを鼻にかけ、傲慢で暴君で残酷に育ちました。
    ある時乞食の女が現れていいます。「私は10年前に息子をさらわれました。お前こそが私の息子。抱きしめさせておくれ」美しい星の子は醜い乞食女に酷い言葉を投げつけて追い返します。
    しかし女が去った後、星の子も醜くなっていました。自分のお母さんにあんな酷いことを言った罰が当たったのだ!初めて深い苦しみと哀しみを知った星の子は、お母さんを探して国中を旅するのでした。
    ==前半はどうなることやらと思ったが、後半は魂の美しさが感じられる良いお話だった。…しかし最後の一行…(-_-;) オスカー・ワイルド、この世の皮肉を顕さないと気がすまないのか…。

  • 西村孝次訳の新潮文庫版http://booklog.jp/users/melancholidea/archives/1/4102081046が気に入らなかったので読みなおし。
    文章はこちらのほうが読みやすいが言葉の美しさと装丁はあちらのほうが良い。
    解説の気に入らなさはどっこい。
    右手に新潮文庫、左手に偕成社文庫をもって比べながら読んだ。違いを見るのは楽しい。

    死と美がどうのとか死ぬけどバッドエンドじゃなくて魂が天国に迎えられるからキリスト教的価値観でどうのとか、こちらの解説も納得がいかない。
    本当に良いこととして描くなら、自分を称えさせようとする政治家たちの愚かさを描いた後で神様に「私を称えさせよう」なんて言わせるはずがない。
    小人の死だって救いなんかじゃない。
    同性愛についても、こちらはヘイトレベルのホモフォビアでこそないけれどなかったことにしてある感じ。
    「ムーア人」の説明はまるで動物扱い。


    物語自体は興味深い。面白いとか好きというのとは違うんだけど。
    ここに出てくる死はやっぱりひどいこととして描かれているのだと私は思う。
    死んだって何にもならないし死なせたやつらにとっては屁でもないちっぽけな死だ。
    だからこれは、自分を貶める人のために尽くそうが死のうがなんにもならないという後ろ向きな肯定なのだと思う。
    「君が自殺してもいじめっこは苦しまないよ」みたいな。

    「若い王」は自発的隷従論http://booklog.jp/users/melancholidea/archives/1/4480094253を思い浮かべた。
    「漁師とその魂」は、恋を罪とみなされる話と読めばゲイっぽいし、
    「スペイン王女の誕生日」に出てくる菫は「障害者は障害者らしく申し訳なさそうに生きていれば同情してあげるのに」と、のたまう健常者を重ねたくなる。
    やっぱりこれは真っすぐ読んで真に受けるような本じゃない。
    この本は気に入らないけどワイルドはもっと読みたくなった。

  • 全体的にキリスト教色の強い、不条理劇にも似た色彩の童話集。とはいえ、単に教訓的という訳ではなく、独特の美的な世界観が背景を占めている。前5編に比べ、後4編はややテンポが悪く冗長にも思えるので(恐らく完訳版の為)、ある程度読書慣れした人にオススメ。逆を言えば、童話が子どもっぽく感じられて来た若い方へは、異文化への入り口にぴったり。
    個人的な感想としては、『幸福の王子』は記憶と展開が少し違っていて驚いた。また、本作が“あの”ワイルドの作品と今更知ったことにも驚き。

  • オグ・マンディーノによると究極の愛を表現した話である。(2002.5.22HPの日記より)
    【amazon紹介文】
    人の幸福を心から願い、自らはボロボロになるが、さいごには、天国にのぼる「幸福の王子」、恋のすばらしさとおそろしさをうたう「漁師とその魂」ほか全九編。ワイルドの残した2冊の童話集の完訳決定版です。小学上級から。
    ※2002.5.22読書のすすめから到着
     2008.2.11売却済み

  • 久々にタイトルの作品が読みたくなったので。
    いつぶりに読んだのかもはや思い出せないのですが、切なく美しい物語だなあと思います。
    その他ワイルドの寓話が沢山。教訓的な内容のものも多いですが、大人になった今読むと結構残酷だなあと感じてしまいました。
    挿絵もとっても魅力的で、あらためてこういう作品を手に取ってみるのもいいものですね。

  • 2011/10/15
    「ナイチンゲールとバラの花」
    http://www.nicovideo.jp/watch/sm7868751
    朗読:中村恵子
    しょうもない童貞だな……。ナイチンゲールかわいそす。

    まんが世界昔ばなしにもなった。胸に針を刺すシーンが本当に痛かった。あれを子ども向けに放送してたとか何考えてるんだ。トラウマものだ。

    「幸福な王子」
    http://www.nicovideo.jp/watch/sm7729567
    朗読:中村恵子
    自分と親切な他人を犠牲にしなきゃならない善行に価値があるとは思えない。意味がないとまでは言わないけど。

  • 「ナイチンゲールとバラ」が恋心と残酷な現実の狭間を見せつけられるようで、切な過ぎる。「すばらしい打ちあげ花火」はこんな人いるなーと思うし、皮肉たっぷりのところがユーモラス。最後の死に際も美徳を持っていて、なんとも頼もしさを感じてしまう。「星の子」もおもしろい。ただ死んだあとに続く現実はシビアだという部分は、他の童話とひとあじ違う。はんとも儚く、潔く。確固たる美を貫く主人公ばかり。オスカーワイルドの美意識の高さが覗える。

  • 幸福の王子ちゃんと読んだのは初めてでした。
    絵本とかで読んだことはあるとは思うのですが…今読むとやはり違います。
    幸福の王子のほかの童話ももの悲しいような切なくなるようなお話です。

    09’10’13

  • 動機・・・ ドラマでやってたのをきっかけに読んでみた

    自己犠牲

    って

    他人からみたらいい都合なのかな

    でも,それでもいいから自分が朽ちてもいいから
    他の人に幸せになって欲しい

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著者プロフィール

英文学者・比較文学者。明星大学名誉教授。うつのみや妖精ミュージアム名誉館長。金山町妖精美術館館長。著書に『妖精学大全』(東京書籍)、『ケルト妖精学』(筑摩書房)、『帰朝者の日本』(東京創元社、近刊予定)、訳書にW・B・イエイツ編『ケルト妖精物語』(筑摩書房)、ウィリアム・シェイクスピア『新訳 テンペスト』(レベル)、アーサー・コナン・ドイル『妖精の到来――コティングリー村の事件』(アトリエサード)ほか多数。

「2021年 『コティングリー妖精事件』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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