クラバ-ト

  • 偕成社
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感想 : 206
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  • / ISBN・EAN: 9784037261108

感想・レビュー・書評

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  • これ児童文学なんですよね

    これは…残るなぁ
    大切なことがきっと残るなぁ

    愛することとか、勇気とか、友だちを大切にすることとか、誠実さとか、努力とか、弱い者に手を差し伸べることとかもうなんか全部詰まってる氣がします
    子どものこころに残しておきたいことが全部詰まってる
    これを読んでなにかひとつ残ってくれたらそれは親目線で言ったら嬉しいことだなあ

  • この書は一応児童書扱いであるのだが、どうしよう…
    信じられないほど夢中になってしまった(汗)
    今まで読んだ書の中で一気にベスト5内に躍り出てしまったではないか!
    ブラックファンタジーとでも言うのか、不思議な世界とダークな世界が渦巻いており、無彩色な映像が続き、常にピーンとした緊張感がある
    かなりの好みである(ぐふっ♪)
    しかしホントに児童書かね?

    小学校の教師から専属作家となったドイツ児童文化作家のプライスラーの作品

    ドイツ伝説集の中にある、「ラウジッツ地方」の伝説(場所はドイツの東部からポーランドの西南端にかけての一帯であり、当時はドイツ領
    ここはドイツ人(ゲルマン民族)の他に、ヴェント人(中スラブ系少数民族)がおり、そのヴェント人のクラバートについての伝説がおさめられていた)
    こちらに感銘を受けた著者が11年もかけ練り上げた作品
    年月の重みと丁寧な作品を思う存分に味わうことができる

    注)多少のネタバレあり

    クラバートは14歳
    この気の毒な少年は両親がおらず、村から村へ渡り歩き、家のない浮浪生活をしていた

    ある時から奇妙な夢の中で11羽のカラスに
    「水車場に来い」
    「親方の声にしたがえ」
    と導かれるようになる

    親方の弟子は11人と自分
    水車場の見習いになる
    過酷な製粉の仕事だったが
    食事はたっぷりある、家もある、暖かく清潔な寝床…
    そう彼にしてみればなんの不満もない夢のような場所なのだ
    最初のクラバートこんな呑気な感じだ

    過酷な労働と不思議な慣習
    不可思議なことを誰もが口を閉ざし教えてくれない
    「時が経てばわかる…」
    職人頭のトンダがそう言う
    そしてそのトンダがこっそり何度もクラバートを助けてくれる
    親方や心ない同僚に見つからないように、そっと

    週に一回、親方は魔法を教える
    強制されない程度の教え方だが、クラバートは熱心に学ぶように…
    魔法の術に通じれば他人を支配できる
    いつしか頑張れば親方と同等の力をつけることができる…と考えるようになる

    「なんでも魔法でできるのにどうしてまだ働く必要があるのだい?」
    「そんな生活はすぐにうんざりしてしまう
    人は働かなければけっきょくはだめになり、おそかれはやかれ破滅するほかないのさ」
    そんな教訓も仲間から学ぶクラバート

    ここでの1年は実は3年の経過を意味する不思議な異空間
    外に出るには親方の許しがいる
    暗く立ち込める死の影
    水車場では毎年1人減り…そして1人増える
    「水車場で死ぬものは、そんなやつはぜんぜんいたことがないように忘れられる
    そうすることによってのみ残った他のものは生きていけるのだ」 
    謎と秘密の多い親方
    親方にはさらに親分(大親分)がいる…
    理由はわからないものの、肌で感じ、何か「普通でないこと」を察するクラバート
    ここに居ちゃいけないんだ
    そうか親方と対峙しなくてはいけないのだ
    自分を守るためならどんなことでもするおぞましさ、人の心を操るえげつなさ、そしてずる賢く容赦ないやり口…
    こんなラスボスである親方にクラバートが本当に立ち向かえるのか…⁉︎

    だがクラバートは徐々に成長し、頑張るのだ!
    この成長ぶりは見ものである(児童書にややありがちな、わざとらしさや、みえみえさがないのでとても自然に描写される)
    仲間とのやり取りもなかなかだ
    裏切り者や嫌な奴とも不器用な奴とも、味方も敵も…
    それなりに協力してやっていかなくてはならない
    そして個性的な彼らもそれぞれ内に抱えるものや、複雑な思いがあるのだ(ユーロなんか大好きになった!)
    (さまざまな教訓も散りばめられているのだが、このあたりも嫌味のない表現が多く、読んでいてニヤリとしてしまう)
    訳の分からない状況でも与えられた環境でユーモアを忘れずに逞しく生きるクラバート
    そして、いつしか自分もトンダにしてもらったことを、新参者の少年に…
    そうトンダがいなくなっても彼はクラバートの心の中にいつも存在した

    児童書だからって媚びてない!
    恐ろしいことや残酷なことや悲しみも実に容赦ない
    そのためこちらも身体を張って…いえ心を張って
    体当たりで(心当たり?で)読んだ

    わぁ、どうしよう止まらない!
    あぁ、でも終わってほしくない
    夢中になる手を止め、ちょっと我慢してみる
    でも気になる……くぅ

    この不思議な世界に浸っていたい
    クラバートがどうなるのか
    無事脱出し飛び立つことは可能なのか?
    …と同時に、この歪んだ不思議な世界がなぜか気になって仕方がなかった
    どんなカラクリでどんな掟があってどんな秘密が隠されているのか…
    どうしてこれほど生死が身近なのか…
    そしてこの圧倒的に抑圧された空間、環境でクラバーとが仲間がそして親方が何を考えどう行動していくのか…

    いやぁ~ワクワクした
    ブラックな感じも実に良い味を出している
    そのブラックペッパー的なピリッと感とクラバートの成長と仲間たちの考えと行動力が深みある御出汁のようで絶妙なバランスをとっており、実に素晴らしいのである

    久しぶりに何もかもが大満足の読書であった
    こんな年になるまで本書に出会えなかったのは残念だが、逆に出会えたことは本当に感謝感謝である

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      ハイジさん
      「クラバート」を読んだ人は、最後の決断を誤らない筈、、、は言い過ぎ?
      ハイジさん
      「クラバート」を読んだ人は、最後の決断を誤らない筈、、、は言い過ぎ?
      2021/09/01
    • ハイジさん
      猫丸さん

      クラバート好きに悪人はいない…
      これも言い過ぎ⁉︎
      猫丸さん

      クラバート好きに悪人はいない…
      これも言い過ぎ⁉︎
      2021/09/01
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      ハイジさん
      それは当たってるかも、、、
      ハイジさん
      それは当たってるかも、、、
      2021/09/01
  • 二人の仲間と一緒に浮浪生活を続けていたクラバート少年。ある日夢の中の強い呼びかけに誘われて、魔法使いの親方が運営する水車小屋で働くことになる。
    14歳の少年の3年間の成長を、ラウジッツ地方(旧東ドイツ東南部からポーランド西南部)の伝説をもとに著者が再編した物語。

    著者プロイスラーの「大どろぼうホッツェンプロッツ」シリーズは子供のころ夢中になって読んだ物語の一つである。悪者だけどちょっと間抜けなところもある大泥棒にクスッとさせられつつも、主人公の少年たちが魔法使いの家で過酷な労働を強いられる描写は、子供心にとても恐ろしかったことを覚えている。

    この話の主人公、クラバートも、両親を早くに亡くした後、引き取られた牧師の家を早々に逃げ出し、浮浪児として過酷な環境を生きることを選択する。
    水車小屋にやってきたクラバートは、最初はご飯と寝床にありつけてラッキー、という風にしか思っていない。厳しい労働でへとへとになるが、何かと気を配ってくれる職人頭のトンダや、厨房を担当するユーローなど、よい仲間にも恵まれ、魔法で力を持てることもうれしいと思っている。
    しかし、自由に行動することも愛する人に会うこともできず、自分の生命さえ支配される生活に、彼本来の独立心が目覚め始める。

    見習いだったクラバートが次第に自分の意志を強く持つようになり、信頼できる友人の助けと自己犠牲をいとわない女性の愛を得て親方と対決するクライマックスは、手に汗を握る展開で、ドラマチックである。また、水車小屋に来たばかりのころはトンダにフォローされていたクラバートが、2年後にはトンダと同じように見習の少年をフォローするようになっていて、彼の成長になんだかほろっとする。
    残酷な描写もあるが、少年の成長譚、冒険譚として楽しく、清々しく読むことのできる物語である。

  •  何人かのブク友さんの本棚で目に付いた、この奇抜な表紙の絵。鮮やかな色彩の鳥…顔は人間で帽子を被っていて、こっちを見ている…に取り憑かれて読んでみることに。
     作者はドイツ児童文学界の巨匠、プロイスラー氏(恥ずしながら全然読んでない)。挿絵は、プロイスラー氏とよくタッグを組んでおられるらしい、ヘルベルト=ホルツィング氏。中に使われている挿絵はモノクロで紙版画のように味がある。
     これも何人かの読者さんのレビューによると「千と千尋の神かくし」の元になったお話らしいが、私には「ハウルの動く城」に影響を与えているように感じた。確かハウルでもハウルがカラスになって飛ぶシーンがあったし、魔法の先生に反抗する場面もあったし、魔法使いが戦争に魔法使いとして駆り出されるのも同じだ。
     読み始めると不思議に惹き込まれる。ある日、主人公クラバート少年が夢の中で十一羽のカラスに名前を呼ばれ、「シュバルツコルムの水車場に来い!親方の声に従え!」と言われる。
    なぜだか分からないが、少年はその夢に従い、件の水車場に行くと、ろうそくに照らされた黒い部屋にされこうべ。そして、黒い服を着て、黒い眼帯をした青白い顔の男が座っている。その男はその水車場の親方であり、魔法使いである。親方に「弟子になりたいか?」と聞かれ、自分の意思とは無関係に「なりたいです。」と言ってしまう。
     水車場には既に十一人の職人がいて、規則正しい生活をしている。親方にこき使われ、みんなキビキビ働いている。週に一回は魔法の授業がある。
    先輩の職人たちがクラバートを助けてくれたり、色んなことを教えてくれたり、時にはお祭り騒ぎをしていい日もあるので、暗い感じはしないのだが、不気味な謎もある。毎年、大晦日の晩には、職人の中の誰か一人が何者かによって殺され、その後、死んだ者のことは、初めからいなかったように忘れなければならないのだ。職人たちはこっそり助けあうのだが、親方に愛とか友情とか人間らしい感情を悟られると自分や周りのものが危険な目に合う。親方の目をくらませてこっそり愛や友情を育もうとしても、色んな生き物に姿を変えた片目眼帯の親方に見られている。そして、水車場から逃げ出すには、たった一つの方法で親方と対決しなければならないということを知る。
     カバーの折り込んだ所に、「生死をかけて親方と対決する日がやってくる。」と書いてありますが、流血沙汰の戦いではありません。元は、ドイツのラウジッツ地方(ポーランドとの堺)に伝わる伝説であったのをプロイスラー氏が膨らませて作品にされたもので、ヨーロッパの田舎の昔話を元にしたファンタジーらしい美しい光景も描かれています。最後はまるでジブリ映画の終わり方のようにほっこり、キュンとする終わり方です。

    • nejidonさん
      Macomi55さん、こんにちは(^^♪
      ステキなレビューですね!
      ずいぶん前に読んで忘れかけていた部分も思い出すことが出来ました。
      ...
      Macomi55さん、こんにちは(^^♪
      ステキなレビューですね!
      ずいぶん前に読んで忘れかけていた部分も思い出すことが出来ました。
      大人になった今読むと「暗い話だな」と思うかもしれません。
      でも子供だったから何の違和感もなく受け入れて、しばらく感動していたように思います。
      ファンタジーと言うと敬遠する現実的な大人が多いのが本当に残念になる作品。
      児童書と思えない、素晴らしい本ですよね。
      清々しくなるレビューでした。ありがとうございます♪
      2021/01/14
    • Macomi55さん
      nejidonさん、いつも有難うございます。
      nejidonさんは、子供の頃にこの本を読まれたのですね。羨ましいです。私は、子供の頃にこの本...
      nejidonさん、いつも有難うございます。
      nejidonさんは、子供の頃にこの本を読まれたのですね。羨ましいです。私は、子供の頃にこの本に出会っていたとしても、こんなに長いお話は読めなかったと思います。
      ファンタジーといっても、過剰な描写はなく、ヨーロッパといっても現在そこから連想する壮麗さはなく、中世?の質素で素朴すぎる風景に子供よりも大人のほうが入りやすいようにも思います。
      親方とクラバートが馬車に乗ったまま空を飛ぶあたりが一番ファンタジーっぽいと思うのですが、そこも色彩豊かなキラキラした世界というよりも、例えるなら、ろうそくの光でお話を聞きながら、精巧な切り絵細工を見ているような静かな幻想の世界でした。分かりにくい例えですみません。
      空気の澄んだ世界観でしたね。この良さをうちの子も分かってくれると良いなと思います。
      2021/01/14
  • ドイツから重厚ファンタジーを。まずこの表紙がいいですよね。人の顔を持つカラスの語りかけてくるような眼差し。これは手に取らずにいられない。

    内容はヴェント人の「クラバート伝説」を「大どろぼうホッツェンプロッツ」シリーズのブロイスラーが小説化したもの。
    ヴェント人とは、ゲルマン人の居住地の近郊もしくはその領域内に住むスラヴ人のことで、独自の風習や宗教観、魔女伝説などの民話がある。

    ===
    放浪生活を送っている14歳のクラバートはある夜夢で11羽のカラスに「シュヴァルツコルムの水車場にこい」と告げられる。
    その水車場には親方と、11人の職人たちがいる。
    ここでは粉挽きとともに魔法も教えているのだった。
     職人頭はふさふさした白髪だがまだ20代で恰幅のいいトンダ。何かとクラバートを密かに助けてくれる。
     従兄弟同士のミヒャルとメルテンは、力持ちで気立てが良い。
     戯け者はアンドルシュ。
     雄牛という渾名を持つハンツォー。
     彫刻が趣味のペータール。 
     明るく人気者のシュタシュコー。
     憂鬱そうな面持ちのキートー。
     無口なクーボー。
     間が抜けてるが人が良く家事が得意なユーロー。
     チクりやで嫌われ者のリュシュコー。

    親方は横暴で粉挽きの仕事は毎日つらい。週に一度魔法の訓練がある。そんな日々を過ごすうちにクラバートもだんだん水車場での暮らしに慣れていった。
    ある日親方の更に上の大親方がくる。
    親方でさえ決して逆らえない。水車場の仕事は必ず12人でと決まっているので、1人職人がいないときは親方も一緒に働かなければいけない。

    大親方とは?クラバートの前任者の職人はどうなったのだろう?どうやらこの水車場と魔法の契約には、職人たちが口を閉ざす秘密があるらしい。聞いても「時が来ればわかる…」と答えてはくれない。
    クラバートになにかと目をかけてくれる職人頭のトンダも口を閉ざす。そしてトンダは、むかし恋した女性がいたが親方の魔法の力で死んでしまったうこと、だから女性に恋してもけっして親方には知られないように、とだけ教えてくれるのだった。

    秘密の一つは大晦日に分かった。
    ある職人の死体が見つかった。

    そしてその翌年の大晦日。また次の職人の死体が見つかる。
    どうやら年に一人の犠牲者が必要で、親方との勝負に負ければ職人が、勝てば親方が死ぬようだ。
    職人は一人減るごとに一人増える。

    この間にクラバートは、ひと目垣間見た娘さんに恋をしていた。
    魔法の力を付けたクラバートは、密かに密かに娘さんの夢に語りかける。
    徐々に惹かれ合う二人。
    そしてクラバートは新しく入った職人のローボシュに対して、今まで自分がトンダや他の職人にしてもらったように密かに目をかけて助けてやる。

    3年目を迎えたクラバートは、次に死ぬのは自分だと察する。
    親方との勝負に勝つ方法を考えなければいけない。
    それには娘さんと、クラバートの事を考えてくれる友達の協力が必要だ。
    そして対決の日が来る。

    ==

    魔法などがでてくるファンタジー児童文学だが、かなり重厚な話になっている。
    親方や大親方の支配はかなり圧迫感があるが、そこでもクラバートが友情や愛情を持ち、自分が年長者となる成長が見られる。クラバートが良い人間関係を築いて成長するとだんだん話も光が指すように感じられる。そしてついに戦いに挑むときも、友達や愛する人との信頼関係がしっかり築けているのが良いなと思う。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      淳水堂さん

      今のカバーは綺麗で不思議な感じですが、猫は最初のカバーの方が好き。。。
      でも売れなかったのか、3~4刷時に今の装幀に変わったみ...
      淳水堂さん

      今のカバーは綺麗で不思議な感じですが、猫は最初のカバーの方が好き。。。
      でも売れなかったのか、3~4刷時に今の装幀に変わったみたい。
      2021/11/17
    • 淳水堂さん
      猫丸さんこんにちは。

      旧装丁知らなかったので検索しました。
      版画っぽい水車小屋とカラスたち、そして表と裏表紙が繋がっているのですね。...
      猫丸さんこんにちは。

      旧装丁知らなかったので検索しました。
      版画っぽい水車小屋とカラスたち、そして表と裏表紙が繋がっているのですね。
      水車小屋の幻想的な雰囲気がいいですね。
      2021/11/17
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      淳水堂さん

      でしょう~
      誰かがAmazonで販売されたのでしょう。ブクログにも載ってました。
      淳水堂さん

      でしょう~
      誰かがAmazonで販売されたのでしょう。ブクログにも載ってました。
      2021/11/17
  • 水車小屋と魔法か。水車の単調な回転運動は、魔法や催眠術と親和性が高いのかな。とんぼに指で円を描いて目を回らせるみたいに。
    物語には夢もよく出てくる。思えば少年期ってぼんやり夢みたいに過ぎゆくものだ。

    子どもにはちょっぴり怖く大人にはほろ苦いメルヘンだと思う。暖炉の火のそばで味わいたいような。

  •  「千と千尋の神隠し」はこの作品から生まれたそうです。
     とにかく暗い。でも、死を書いているからこそ、生が際立っている。悲しみや痛みは美しく描写されていて、そのような中にも救いがあることを感じます。
     魔法があれば生きることはずっと楽だ。それでも、苦しんで生きたい。自分自身で生きたい。誰かを愛したい。仲間を失いながら、他者を危険にさらしながら、クラバート少年がたどりついた答えには、涙が止まりませんでした。
     クラバートが、少女の名は何だろうと思いめぐらせる場面が好きです。「ミレンカ、ラドゥーシュカ、ドゥーシェンカ……」名も知らない少女の面影が、彼の心をほのかに照らすのです。何と悲しく、何と純真な恋でしょう。

  • あなたが(私が)期待に胸膨らませて、ある組織に所属したとする。
    仕事は確かに過酷だが、頼れる先輩や愉快な同僚もいる。コツコツと知識を学び成長する機会も与えられる。悪くはない。

    だが、徐々に闇が見えてくる。仲間のうち誰かを犠牲にすることで1年を無事に過ごせる異常さに気づく。これは逃げ出すしかない。

    だがしかし、頑張った甲斐もあって上の覚えもめでたく、管理側にまわれるチャンスが来たら?
    ここで裏切れば、辛いことにも耐えて身につけた力の全てを失うというのに、誘惑を感じないと言い切れるのか?

    クラバートの迷いなき覚悟が眩しい。
    物語がクライマックスを迎えたとき、待っていたのは魔法の対決ではなかった。
    暖かく静かな幕切れもまたよい。


  • この児童文学の傑作をようやく私も読むことができた。聞きしに勝る名作。

    両親に死なれ、物乞いのような生活を仲間たちとしていたグラバート。
    ある日夢の中で11羽のカラスと声に呼ばれ、シュヴァルツコルムの水車場へと誘われる。
    怪し気なその水車場で、11人の職人たちと共に、親方から仕事と魔法を教わることになる…

    この水車場も親方も謎ばかり。独裁者のような親方から守ってくれた、信頼する職人頭のトンダは、大晦日の夜、死んでしまう。
    こうして毎年誰かが死に、またこの水車場に新しい見習いがやってくる…

    誰よりも熱心に魔法を習得したクラバートは、親方と生死をかけて対決することとなるのだった。。

    クラバートはトンダから、復活祭の夜に、好きな娘を死なせてしまった秘密を打ち明けられる。
    少年だったクラバートには、わからなかったその日のトンダの言葉を、いつの日か胸にする日が、つまり、クラバートにも想いを寄せる少女ができる。その少女への想いが、更に物語を深く、めんどうにして行くようだった。

    クラバートが彼女に焦がれて仕事も手につかないようなところがとっても好感を持てた。少女の存在なしに、ここまでクラバートが親方と戦うことができただろうかと思う。

    クラバートの物語の中で大切なのは、死んでしまった先輩への想いと、仲間たちとと助け合って一緒に親方と対峙していくところにあるのだろうけれど
    恋、いいじゃないですか。

    プロイスラーは、ドイツに住むスラヴ系民族に伝わる、クラバート伝説をもとにこの物語を書き上げたのだけど、
    もともとその伝説には少女はなく、実の母が関わっていたそう。でも、少女の美しい歌声に取り憑かれたように惹かれるクラバートが私は好きだ。

    なんとももの悲しさあるスラヴ民族の色をたたえたお話しだが、魔法を試すために仲間を馬にして売り渡すお決まりの外出や、職人たちが大好きなデカ帽の話しなど、生き生きとした若い職人たちの姿を描いている所は、やっぱりプロイスラーだなと思わせる楽しさもあった。

    本当に大人にもたのしめる作品。

  • 昼休みに10分読書をコツコツと4カ月ほどかけて読んだのだが、飽きることなく引き込まれた。
    ただ、登場人物たちの名前が覚えにくい。
    主人公のクラバートの他に11〜13人の仲間が出て来るのだが、リュシュコーとかシュタシュコーとか馴染みのない響きで、判別が出来なくなってしまう…記憶力の落ちたオバさんの10分読書だからかもしれないけど。
    絶対的な力を持つ魔法使いの親方への挑戦と未熟なクラバートの成長、死と向き合う物語。
    全体的にずっと不穏な空気が漂うのだが、友情や初恋の切なさが闇に灯る光のよう。2019.1.25

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