にいさん

著者 :
  • 偕成社
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感想 : 63
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  • Amazon.co.jp ・本 (40ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784039638908

作品紹介・あらすじ

芸術に生き、つよい絆でむすばれた兄と弟、いせひでこが魂をこめて描くゴッホとテオのものがたり。小学校高学年から。

感想・レビュー・書評

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  • 空がきみをかくしている。
    それとも黄金色の麦の波の中なのか。
    風がないのに穂がゆれている。
    空の青と日の照り返しがあんまりまぶしいので、
    棺を運ぶ友たちの顔が笑っているようにみえる。

    空の高いところで鳥が鳴いた。
    ヒバリだー
    実った麦。刈りとられる麦の穂の匂い、きみの匂い。

    でも、きみはどこにいる。

    (中略)

    小麦の穂がどんどんのびて、
    まあたらしい雲が麦畑から生まれるー夏。
    ふたりでヒバリの歌をきく。
    雲の影をおいかける。
    そんなとき、きみが麦の波間にみえなくなるのが、ぼくはひどくこわかった。

    でもきみは手をふりながらいつも笑っていた。
    世界に何も怖れるものなんかないようだった。

    あのときのように、きみは今、
    麦の穂にかくれているだけなんだろうか。



    以下、とても美しい詩情あふれる文章と深い青色を基調とした絵に圧倒されました。
    この絵本はいせひでこさんが描いた、ゴッホと弟のテオの物語です。
    どうしても描きたかった兄と弟の物語だそうです。
    兄の死後テオがオランダの母に宛てた手紙の中のことば「Ce  frere etait tout pour moi!ーにいさんは、ぼくのすべて、ぼくだけのにいさんだったのです!」がこの絵本を制作するあいだ心をはなれることがなかったそうです。

    テオがゴッホに対するような兄を自分自身のすべてだといいきれる兄弟関係は素晴らしく、二人の今生の別れは涙を誘います。

    表紙は黄色いひまわりと少年の絵ですが、中身は深い深い濃紺でとても澄みきった美しい色使いです。

  • 胸が裂けるような叫びが伝わって来ます。

    にいさん 
    2008.03発行。字の大きさは…大。
    絵も、文も、大好きな、いせひでこ(伊勢秀子)さんです。

    画家ヴィンセント・ヴァン・ゴッホと弟の画商テオドルス・ヴァン・ゴッホについて描いた絵本です。

    この絵本は、弟テオが兄ヴィンセントを回想したものです。
    兄の葬儀、そして小さかった二人、麦畑で遊んだ思いなどを綴り、兄が画商に勤め、また、いろんな勤めに就くが、誠実に生きようとすればするほど、節度のない過剰な人間とみなされて居場所を失って行った兄の生きづらさと、白い画布以外に自分らしく生きられる場所がないという痛切な叫びが伝わって来ます。
    胸が裂かれるようです。
    兄は弟に、社会の無理解という牢獄の扉を開けるカギは、兄弟として友人としての愛なのだと訴え続けています。テオは生涯かけて、その兄の想いにこたえようとしました。

    いままで見てきました、いせさんの絵とは、全く違います。いままでの絵は、水彩画で、透明なあおを基調としたものなどでしたが。今回の絵は、油絵です。それも、おもく、沈んだ、重圧感が感じられる絵です。
    2021.01.31読了
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    【令和3年(2021年)1月に読んだ本】

    1月に読んだ本は、32冊です。
    今月読んだ中で一番感銘を受けた馳星周さんの「雨降る森の犬」は、父が亡くなり、母がボーイフレンドとアメリカに行って、一人残された中学生の雨音と、力強くて、優しいく、賢いが強情なスイス原産の大型犬バーニーズ・マウンテン・ドッグの雄犬ワルテルの心温まる物語です。最後は、泣いてしまいました。

    今月のベスト本は、下記の9冊です。
    ★★★★★5つは、下記の1冊です。
    雨降る森の犬 ―――――著者/馳星周

    ★★★★☆4つは、下記の8冊です。
    にいさん ――――――――――――著者/いせひでこ(伊勢秀子)
    日本の美しい幻想風景 ――――――著者/パイインターナショナル
    静かな木 ――――――――――――著者/藤沢周平
    あおのじかん ――――――――――著者/イザベル・シムレール
    白い馬 ―――――――――――――著者/東山魁夷
    本所おけら長屋(十五) ―――――――著者/畠山健二
    焦眉 警視庁強行犯係・樋口顕 ―――著者/今野敏
    南アルプス山岳救助隊K-9 風の渓 ―著者/樋口明雄

    ※令和2年(2020年)1月から、その月の最後に読んだ本に、その月のベスト本をのせています。

  • ヴィンセント ヴィンセント ヴィンセント……
    テオドルス テオ テオ テオ……

    あゝ。。。。。。言葉がでない。 涙……


    きみはみえない翼をひろげる。
    世界には何も怖れるものはないかのようにーーー
    きみは自分を解放した。

    ひまわりの声をきき、麦のことばをきき、星の歌をきいたにいさん。
    きみは、ぼくらのあの空に帰っていったのかい。


    きこえるかい、空の高いところで鳥がきみのことをうたっている。ーーー「にいさん」「にいさん」
    「にいさん」て。
    ああ、ぼくのたったひとりの、ぼくだけのにいさんーーー


    麦畑の中にきみの空がある。

    空の中にぼくらの麦畑がある。


    そこらは金と青の風の匂いでいっぱいだ。


  • 想いの弔い、の一冊。

    いきなり心を奪われた。

    なんて繊細で、なんて輝かしくて、なんて愛に満ち溢れた作品なんだろう。

    目に飛び込む豊かな色彩が、弔いの色が、文字が、絶え間なく心を掴んで揺さぶってくる。

    幼少期の春夏秋冬、かけがえのない時間。
    二人が見つめるその風景。
    ゴッホがその風景で特別なものをみつめる傍らでテオはゴッホをきらきらした瞳で見つめていたんだね。

    これはまぎれもなくテオが捧げるゴッホへのありったけの想い。
    その想いを天へと放ち静かに弔ったんだね。

    鮮やかな向日葵が哀しみと共に目に焼き付くテオとゴッホの物語。

  • ゴッホの弟の目線で語られている。
    それぞれに苦悩があったのだなと考えさせられる。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      翠さん
      猫は、絵描きならではの視点だと思ってます。
      伊勢英子の「ふたりのゴッホ ゴッホと賢治37年の心の軌跡」(新潮社)もお薦め、、、
      翠さん
      猫は、絵描きならではの視点だと思ってます。
      伊勢英子の「ふたりのゴッホ ゴッホと賢治37年の心の軌跡」(新潮社)もお薦め、、、
      2023/10/17
    • 翠さん
      猫丸さん
      コメントいただいたのに気付かずすみません。。
      なるほど絵描きの視点ですか!
      その発想はなかったので参考になります。
      お勧めいただい...
      猫丸さん
      コメントいただいたのに気付かずすみません。。
      なるほど絵描きの視点ですか!
      その発想はなかったので参考になります。
      お勧めいただいた「2人のゴッホ…」も読んでみたいです。
      ありがとうございます(^^)
      2023/10/21
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      翠さん
      お気になさらずに、単なる猫のお節介ですから、、、
      いせひでこ(伊勢英子)は、画面構成力・色使い・デッサンどれも素晴らしい描き手で...
      翠さん
      お気になさらずに、単なる猫のお節介ですから、、、
      いせひでこ(伊勢英子)は、画面構成力・色使い・デッサンどれも素晴らしい描き手です。是非色々読んでみてください、、、
      2023/10/24
  • ルリユールおじさんがとてもよかったので、期待して手に取った。絵本は読んだ本にカウントしないのだが、これは特別。自分のものにしたいと思ったほど。作者がゴッホの弟テオという人物にできうる限り寄り添ってできた作品ということがひしひしと伝わってくる。中でも兄を失ったテオの喪失感が痛いほど胸に響く。

  • 弟テオドルスが、兄ヴィンセント・ヴァン・ゴッホに向けた愛の言葉。「麦畑の中にきみの空がある。空の中にぼくらの麦畑がある。そこらは金と青の風の匂いでいっぱいだ。」──。
    再読。何度読んでも心を引き付けられます。お気に入りの絵は、麦畑で一人佇むテオ、そして最終頁の兄弟です。美しい麦畑と哀愁漂うテオの背中の対照が…とても切ない。最後の二人は、最も通じ合っていた頃の場面なんだろうな〜。長年ゴッホを研究してきたいせひでこさんだからこそ、兄弟の絆を描くことが出来た傑作だと思いました。評伝も読みたい。

    メモ
    ゴッホの自画像といわれていたものが、実は、弟を描いたものだと近年判明した。

  • 画家ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ(1853-1890)の37年間の生涯に、弟エオドルス・ヴァン・ゴッホ(1857-1891)に宛てた700通近くの手紙を通して、絵本作家<いせひでこサン>が語り紡いだ “私の中のゴッホとテオの物語”・・・〝兄の死後、テオがオランダの母に宛てた手紙の言葉 ― 「兄さんは、僕のすべて、僕だけの兄さんだったのです!」が、この絵本を制作する間、心を離れることがなかった〟・・・作者の「あとがき」より抜粋。 憂鬱な青色と晴れやかな黄色が印象的な弟テオの心の軌跡。

  • 人と同じことが出来ない代わりに
    人と違うことが出来るってこともあるよね。

    テオもきっと、破天荒な兄に振り回されて辟易としながらも、幼い頃から一番近くで見てきた兄の特別さに憧れたりもしたんだろうな。ヴィンセントに対する尊敬の念がなければ、一生かけて支えることは出来なかったんじゃないかと思う。

    「兄さんは僕のすべて、僕だけの兄さんだった!」
    ヴィンセントのあとを追うようにしていったテオの人生は、きっとこの一言に尽きるのだろう。

    太陽の光が降り注ぐ、広い広いひまわり畑で、楽しそうに追いかけっこをする幼い男の子たちの姿が目に浮かぶ。

  •  兄・ゴッホと弟・テオの物語。
     しかし、兄弟は成長するにつれて夢と生活の狭間で揺れ動き、片やその柵から繊細かつ孤独な画家として、一方は兄の作品を取り扱う画商としての物語ともなっていく。
     弟・テオの視点で話は進んでいくが、互いへの愛情と依存、憧憬と軋轢を、文字だけではなく絵柄で見事に表現している大人向けの絵本。

     さて、ゴッホと言えば、やはり「向日葵」の印象が強過ぎるのか、そのイメージは目に鮮やかと言うよりは、まるで目を刺すかのように強烈な黄色である。
     しかし、黄色(表紙参照)よりも、著者の描く鮮やかで深みのある青が、他の色彩よりも印象的。話者がテオであるが故か?
     蒼穹、あるいは深海にも思える青は、己が信念を貫く才能溢るる画家としての兄への憧憬か、はたまた周囲との軋轢に苦しみ、自らを孤独へ追い込んでいく兄への憐憫か。

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著者プロフィール

[著者紹介]いせひでこ(伊勢英子)
画家、絵本作家。1949年生まれ。13歳まで北海道で育つ。東京藝術大学卒業。創作童話『マキちゃんのえにっき』で野間児童文芸新人賞を受賞。絵本の代表作に『ルリユールおじさん』『1000の風 1000のチェロ』『絵描き』『大きな木のような人』『あの路』『木のあかちゃんズ』『最初の質問』『チェロの木』『幼い子は微笑む』『ねえ、しってる?』『けんちゃんのもみの木』『たぬき』など、単行本・エッセイに『旅する絵描き』『七つめの絵の具』『わたしの木、こころの木』『こぶしのなかの宇宙』『猫だもの』『見えない蝶をさがして』『風のことば 空のことば』など多数。


「2022年 『愛蔵版 グレイがまってるから』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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