人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの (角川EPUB選書)

著者 :
  • KADOKAWA/中経出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784040800202

感想・レビュー・書評

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  • 今、話題の「人工知能」の入門書。今年のお正月にやってたNHKスペシャル「NEXT WORLD 私たちの未来」はちょっと幼稚だったけど、本書は本格的。人工知能の基礎となる理論、手法が丁寧に解説されてててとても勉強になる。特徴表現学習の大進歩を実現した、ディープラーニングの仕組みの説明は完全には理解しきれないけど、特徴表現を見つけ出して分類するってことが知能にとって重要であるということは理解。そういや、頭の良しあしの一つの基準でもあるのかなと。終章で語られてる熱い心も感動します。仕事やる気になりました。事前の知識がないと理解しにくい部分もあるけど、高校生以上の理系っぽい人にはお勧めの一冊。

  • 東大の松尾さんによるディープラーニング派的な視点から体系的に人工知能がまとめられてて勉強になった。

    帯にも書いてあるけど、『人工知能を知ることは、人間を知ることだ。』というのはまさにだなと。赤ちゃんの頭の中で起こっている演算とか物凄いんだろうな。(P162)

    そして、人工知能も「過酷な環境」を与えることで成長していくというのも人間臭くて可愛いなと思いました。

    これからどうなっていくのか、俺は悲観的にではなくワクワクしながら待ち望みたいと思います。

  • 人工知能について、過大に捉えることなく、できること・できないことを客観的にまとめられた1冊。
    また、人工知能のレベル感(Siriやpepper、自動運転など)が端的にまとめられていたのも、分かりやすさに拍車がかかっていた。
    ぜひ、今後10~20年社会で働く人にとって、読んでほしい書籍。

    人工知能(Artificial Intelligence:AI)
    決められた処理を決められてように行うことしかできず、「学習」と呼ばれる技術も、決められた範囲内で適切な値を見つけ出すだけだ。例外に弱く、汎用性や柔軟性がない。ただし、「掃除をする」とか「将棋をする」といった、すごく限定的な領域では、人間を上回ることもある。

    【検索エンジン】
    「機械学習」をし、ユーザーにあったページを提供したり、迷惑メールと思しきものを自動的に分類していく。

    【星新一】
    作家・星新一のSSを人工知能に作成させようというプロジェクト「きまぐれ人工知能プロジェクト作家ですのよ」は、星新一が残した1000本ほどの短編のデータをもとに、人工知能に文章を書かせようというものだ。コンピュータは天才的なひらめきで流れるように文章を生み出すことは苦手だが、有望な組み合わせを大量につくり、トライ&エラーで結果のレベルを上げていく作業は得意中の得意だ。

    【ルンバ/Siri】
    自動で部屋の計上を読み取り、留守中に賢くお掃除してくれる。
    iPhoneに搭載されたSiriという音声対話システムを使ったことがある人は多いかもしれないが、これも人工知能の一例である。

    【ロボットによる代替】
    英国の仕事のうち35%が、今後20年間でロボットに置き換えられる可能性がある。
    今後10~20年ほどで、IT化の影響により、米国の702の職業のうち、約半分が失われる可能性があると述べている。米国の総雇用のなんと47%が、職を失うリスクの高いカテゴリに該当する。

    【映画「her」】
    2014年に公開された映画「her/世界でひとつの彼女」は、人工知能に恋する男性が主人公だ。リアルな女性ではなく、人格をもった人工知能のOSに心惹かれてしまうのだ。印象的なのは、コンピュータの「彼女」が浮気をする場面。なんと、彼女は同時に8000人以上と会話し、600人以上と恋愛関係にあると告白する。。

    映画「2001年宇宙の旅」はHAL9000という人工知能が意思を持ち、それを察知して機能を停止させようとした乗務員を殺害していく。
    【シンギュラリティ】
    人工知能が十分に賢くなって、自分自身よりも賢い人工知能をつくれるようになった瞬間に、無限に知能の高い存在が出現するというものである。

    【基本テーゼ:人工知能は「できないわけがない」】
    もともとの問いはとても単純で、人間の知能は、コンピュータで実現できるのではないか?だ。なぜなら、人間の脳は電気回路と同じだからだ。

    人間の思考をプログラムで実現できるという考え方は、たしかに、何か神聖なものを冒している気にさせる。人間という尊いものが、ただの計算で置き換え可能だというのは、にわかに信じがたい。

    人間を特別視したい気持ちも分かるが、脳の機能や、その計算のアルゴリズムの対応を1つひとつ冷静に考えていけば、「人間の知能は、原理的にはすべてコンピュータで実現できるはずだ」というのが、科学的には妥当な予想である。

    【将棋における人工知能】
    1997年、IBMが開発した「ディープブルー」が、当時のチェス世界チャンピオンを敗った。
    2012年、「ボンクラーズ」により、永世棋聖が敗れた。

    あるタスクを実行するのに「関係ある知識だけを取り出してそれを使う」という、人間ならごく当たり前にやっている作業はかなり難しい。
    例えば、メールを返す時に、「親しい友達向けなのか、取引先の人向けなのか」、「メールではなく電話や手紙のがいいのではないか」「本当に返す必要があるのか」など。

    【学習するとは分けること】
    そもそも学習するとは何か。どうなれば学習したといえるのか。学習の根幹をなすのは「分ける」という処理である。ある事象について判断する、それが何かを認識する。うまく「分ける」ことができれば、のものごとを理解することもできるし、判断して行動することもできる。「分ける」作業は、すなわち「イエスかノーで答える問題」である。

    今まで人工知能が実現しなかったのは、「世界からどの特徴に注目して情報を取り出すべきか」に関して、人間の手を借りなければならなかったからだ。コンピュータが与えられたデータから注目すべき特徴を見つけ、その特徴の程度を表す「特微量」を得ることができれば、機会学習における「特微量設計」の問題はクリアできる。
    しかし、少し理解が難しいが、そうして得られた特微量を使って、最後に分類するとき、つまり「その特微量を有するのは猫だ」とか正解ラベルを与えるときには、「教師あり学習」になる。しかし、それでも効率はかなり上がる。

    ディープラーニングの登場は、少なくとも画像や音声という分野において、「データをもとに何を特微表現すべきか」をコンピュータが自動的に獲得することができるという可能性を示している。

    あるいは特微量の獲得は創造性そのものである。個人の内部で日常的に起こっているので、特に創造的であるとは思わないかもしれないが、あることに「気づく」のは創造的な行為である。

    一方で社会の誰も考えていない、実現していないような創造性は、いわば「社会の中に依然考えた人がいるかどうか」という相対的なものである。(中略)環境とのインタラクションが起きるようになれば、試行錯誤による創造性ということは自然に起こるはずだ。

    ①画像認識→レントゲンから診断
    ②マルチモーダルな抽象化→視覚、聴覚、触覚などを組み合わせて「猫」を認識
    ③行動とプランニング→周囲の観察から自分の行動結果を観察するようになる。「●●するために~~をしよう」の試行錯誤で行動計画の精度が増す。自動運転技術に応用
    ④行動に基づく抽象化→③のデータが増えると、行動に特微量を見出し行動が変わる。介護などで「強く手を握ると、相手は痛がる」ことなどを理解
    ⑤言語との紐づけ→④までで取り入れた概念に、言葉(記号表記)を当てることで、会話が成立
    ⑥更なる知識習得→実体験のないものを知識として取得できるようになる。教育分野にも参入できる

    【人間の仕事として重要なもの】
    ①非常に大局的でサンプル数の少ない、難しい判断を伴う業務
    ②人間に接するインターフェースは人間の方がいい、という理由で残る仕事

  • IBMの人工知能ワトソンが、みずほ銀行や三井住友銀行においてPoC(Proof of Concept、新しいコンセプトを実証すること)を実施し、実用化に耐えられることを証明した。コールセンター業務に投入され、オペレータ業務の効率化と品質向上に貢献するとして話題になっている。

    ワトソン自体は、質問の意味を理解して答えているわけではなく、質問に含まれるキーワードと関連しそうな答えを高速に引っ張り出しているだけらしい。人間と違って、「意味を理解」して答えているわけではない。ワトソンの性能がどれだけ上がったように見えても、「意味を理解」するということまでは至っていない。「知識」を入れることで能力向上を図ってきたのだ。

    「知識」を入れれば人工知能は賢くなるが、どこまで「知識」を書いても書き切れないという問題にぶつかった。いままで人工知能が実現しなかったのはこうだ。「世界からどの特徴に注目して情報を取り出すべきか」に関して、人間の手を借りなければならなかったからだ。コンピュータが与えられたデータから注目すべき特徴を自ら見つけ、その特徴の程度を表す「特徴量」を得ることができればよいのだ。「特徴量」をコンピュータ自身で獲得できるか、が最大の難関だった。

    人間が行っていた特徴量の抽出をディープラーニングという手法でコンピュータ自身ができるようになった。コンピュータが記号を記号として見ていたところ、概念を獲得し、記号を記号と概念がセットになったものとして扱うことができるようになったわけである。このブレイクスルーにより、画像だけではなく、動画や音声や圧力といった人間の五感に相当する様々な入力データから、マルチモーダル(複数の感覚のデータを組み合わせた)な特徴表現と概念の獲得が進み、人工知能は飛躍的に研究スピードが加速することが期待されている。

    人工知能が人類を滅ぼすのではないか、という点についても触れられている。自らを維持し、複製できるような生命体でないと、保存欲求や複製要求は生まれず、制服したいという欲求も発生しないと説いている。また、「自己再生産」という仕組みに到達するまでは、現実味がないと説いている。他の本でも勉強してみたい興味深い話である。

    人工知能についての理解が進む基本書であった。

  • 昨今の第三次AIブームの流れの中、必読本として読みました。 勉強になったし、歯ごたえがあった。 松尾先生は平易にわからせるようにする表現がうまい、と思った。
     よりシンプルに全体像をつかむのなら「東大准教授に教わる『人工知能って、そんなことまでできるんですか?』」のほうがわかりやすいかも。 

    仕事でディープラーニングとか関連するからみあり、勉強しておかねば、と、一応工学系大学院のマスターで、さらに計算機系を使った研究までやってきた研究者魂、で前のめりで読みましたが・・・正直歯ごたえがありました。 ディープラーニングの仕組みを記載しているところ、よく見る概念モデルの絵、も、見ました、P161の隠れ層を上に引っ張り出し、の、しくみでの説明もすごいと思いました。
    二度目は精読もしましたが、自分の言葉で語れるようになるには、やはり修行がいりそうだ。 

     三層からより踏み込む際に、計算機パワーが必要でした、は、わかるんですが、ノイズをいれる、ちょっと違った過去を使う、ドロップアウト、といったところは、うーん難し。 一部分の特徴量を使えなくすることが、適切な特徴表現を見つけることに有効に働く、とのこと。 一応言葉の意味はわかるんですが…。
    教師あり学習、教師なし学習、ディープラーニングは教師なし学習を教師あり学習的アプローチでやっている
    → 「データをもとに何を特徴表現すべきか」をコンピュータが自動的に獲得することができる可能性

    ⇒ コンピュータが『特徴量』を取り出し、自動的に「人間の顔」や「ネコの顔」といった『概念』を獲得する。

    うーーん、難しかったけど、たぶん今後5年10年、戻ってきて、あぁそういうことだったのか、と読み返すかも。 勉強になりました。 お勧めです。

  • 元々人工知能というテーマは好きでしたが、Prologが流行ったときも、エキスパート・システムが流行ったときも、わくわくしながら関係の科学書を読んだものでしたが、その後なかなか進展がないなと思っていました。
    が、最近、将棋の電王戦でコンピュータがプロに勝ったり、Googleが自動運転自動車の走行実験をしたりというニュースを耳にするようになり、人工知能研究も結構進んだのかなとまたちょっと興味が出たので、本屋でみかけたこの本を読んでみました。
    結果は大当たり。これまでの人工知能研究の歴史と現在の状況、最近、人工知能研究で大きなブレイクスルーがあり、それが今後の見通しをかなり明るいものにしてくれていること、人工知能と「生命」との違い、人工知能が発達した後、仕事や社会にどのような影響がありそうか、などなど、知りたかった話題がほぼもれなく、しかもきわめてわかりやすく書かれていて、大いに知的好奇心を満足させてくれました。
    結論としては、まだ現時点では人工知能の実用化レベルはまだまだだけれど、現在ものすごい開発競争が起きているところで、そう遠くない将来にいろいろな方面での実用化の可能性があり、それが社会に大きなインパクトを与える可能性があること、でも人工知能の「反乱」はありそうにないこと、人間の仕事は最後まで残りそうなことなどが納得できて、ちょっと安心できました。
    これからの人工知能研究の進展を、大いに期待したいと希望が持てました。

  • 2015/05/05 購入。大学じゃ計算機科学が専攻だったけど、人工知能はいわゆるエキスパートシステムで第2次ブームになる前の頃の知識しかなくて、最近のディープラーニングの流行にすごく興味を持ってた。一般向けの本ではあるが、昔のブームの頃も簡単に紹介してくれていて、本当の初心者にはどうかなって思ったけど、私のような人間にはぴったりな本。

  • 「先に種明かしをしておくと、「グーグルがネコを認識する人工知能を開発した」という一見すると何でもないニュースが、実は、同じグーグルが開発している自動運転車のニュースよりも、ずっと「本当にすごい」ことだとわかってもらえれば、本書はその役割を果たしたことになる。」(loc.366)

    人工知能についての過去の歴史をたどりながら、最近の話題である深層学習(deep learning)とその意義について書かれている。技術的な話題に触れたものだが、かなり読みやすい。一般向け説明のうまい人と見える。人工知能の話題については、データサイエンスの流行もあって大きく注目されている。だがその意義やもたらす影響については様々なことが言われているのが現状。何ができて何ができないのか、つまり「すでに実現したこと」と「もうすぐ実現しそうなこと」と「実現しそうもないこと(夢物語)」をきちんと腑分けして提示することが必要だ(loc.348)。

    人工知能は過去にも流行になった。1956年から1960年の第一次ブームで、推論や探索がメインテーマだった。1980年台に第二次ブームがあって、これは知識の時代。そして現在が第三次ブームで機械学習と特徴表現学習(representation learning)の時代だ(loc.42, 636)。第一次ブームのAIは与えられた情報を分析・理解するものであり、これは言われた事柄だけをこなすアルバイトのようなレベル1。第二次ブームのAIは大量の知識・ルールを備えたもので、一般社員のようなレベル2。第三次ブームにあるAIは、決められたチェック項目に従って業務をよくしていく課長クラスのレベル3と、チェック項目まで自分で発見するマネジャークラスのレベル4と特徴づけられている(loc.571)。意外にも、IBMのワトソンはレベル2のAIだとされている。ワトソンは「質問の意味を理解して答えているわけではなく、質問に含まれるキーワードと関連しそうな答えを、高速に引っ張り出しているだけである」(loc.975)。ちなみにここで言うワトソンとは、アメリカのクイズ番組"Jeopardy!"に登場して優勝したものだ。

    本書が語ろうとしている深層学習は「人工知能の50年来のブレークスルー」(loc.1388, 1439)である。ただしこれは著者の見解で、そうではないとする見解もある(loc.1711)。それまでのAIがいかなる問題に突き当たって、深層学習がブレークスルーになったのか、主に3つが書かれている。(1)人間が持つ知識の全体はいつまで経っても書ききることができない。サイクプロジェクトのような果てしない試みや、オントロジー研究の深遠さ、機械翻訳の困難さが挙げられている。知識やルールには関連性があるだけではなく、関連性の無さも必要であって、その量は極めて大きく実装が非現実的だ。(2)フレーム問題。関連する情報と関連しない情報を見分けることはAIには難しい。(3)シンボルグラウンディング問題。AIは基本的に記号列を扱っていて意味を理解していない。意味によって結びついて新たな知識を得ることができない。ちなみに、簡単に書こうとしているからだろうが、概念があればそれに言葉を当てればよいというクワイン的な博物館の神話が本書には見られる(loc.1859)。

    これらの問題が意味するのは、AIは概念を自ら獲得できていなかったということだ(loc.1385, 1699)。概念は、人間が与えてきたのである。例えば機械学習の精度を上げるには、何が事象にとって意味のある特徴なのかを人間が考えて、AIに学習させなければならない。こうした「特徴量設計」が機械学習の最大の関門だった。つまり、「世界からどの特徴に注目して情報を取り出すべきか」に関して、人間の手を借りなければならなかったのだ。深層学習がブレークスルーなのは、AI自身が与えられたデータから注目すべき特徴を見つけ、その特徴の程度を表す「特徴量」を得ることができるからだ(loc.1367, 1435)。

    深層学習の特徴は二つ。一つは言葉の通り、学習の階層を何層にも重ねて行うこと。もう一つは、自己符号化器(autoencoder)という「情報圧縮器」を用いること。自己符号化器がやっていることは、主成分分析と同じだと書かれている(loc.1559)。入力した情報から自己符号化器を用いてより抽象的な、高次の特徴量を生成する。それを次の層に入力して、より高次な特徴量を得る。こうして与えられた個別例から、教師なし(unsupervised)で高次の抽象概念を獲得する。これは概念の適用例や適用規則を人間が天下りに与えることとは異なる、自己学習のプロセスだ。さほど強調されていないが深層学習の三つ目の特徴は、出力を入力と突き合わせることだろう。普通は入力は別の出力(すなわち回答)と突き合わせてフィードバックを行う。深層学習の場合、獲得した高次の特徴量から個別例が再現できるかを見る。深層学習は2006年頃から始まっているが、そのアイデアは1980年代の日本にもあるという。深層学習が生まれなかったのは、強固な概念を獲得するために「ノイズ」つまり若干違ったサンプルを混ぜるという、正則性のための方法と、マシンパワーが不足していたためとされる(loc.1632-1694)。

    後半は、深層学習がブレークスルーだとして、その限界や早とちりしがちなところのフォローをしている。AIが人間を滅ぼすかもしれないといったSF的懸念には著者は賛同しない。それには自己生存欲求が必要だろう、生命の概念が抜けているところでは成立しない話だ(loc.2031)。懸念はそんなところではなくて、AIが深層学習で獲得する概念は、人間の持つものと異なるかもしれない。それを人間の概念に近づけるために、「人間と同じ身体」「文法」「本能」が必要だと論じている。身体が無ければ感覚に関する概念は人間と同じにならないだろうし、空間的概念も怪しいだろう。また文法と言っているのは生成文法のように、概念獲得を生得的に制約する仕組みのことだ。最後の本能とは快・不快の区別のこと。脳において辺縁系の活動が学習に大きな影響を及ぼしていることは広く知られている。というわけで、「こうした「人間と同じ身体」「文法」「本能」などの問題を解決しないと、人工知能は人間が使っている概念を正しく理解できるようにはならないかもしれない」(loc.1946)。その通りで、それこそ生活形式(Lebensform)であろう。ウィトゲンシュタインが『探究』で書いたように、ライオンが我々と同じ言語を話しても我々は理解できないだろう。

    深層学習を備えたAIが得意とするのは異常検知である。したがって、「産業の中で異常検知に対して人手がかかっており、それがスケーラビリティや市場規模の制約となっている場合は、業界構造が一気に変わる可能性がある」(loc.2373)。例えば自動車、電車、飛行機などの操縦士・運転士がそれだ。こうして近未来には、人間の意義ある仕事は二つになる。一つは「非常に大局的でサンプル数の少ない、難しい判断を伴う業務」(loc.2308)、典型的には経営者(あとは芸術家などもこれだろう)。もう一つは「人間に接するインタフェースは人間のほうがいい」という理由で残る仕事である。

    最後には、爆発的に発展する人工知能の分野で日本がプレゼンスを維持するにはどうしたらよいか、課題が挙げられている。一番の問題は、日本には「機械学習の精度が上がると売上が莫大に伸びる」というビジネスモデルを築き上げている企業がほとんどないことだろう(loc.2492)。もちろんアメリカにもそんな企業はごくわずかだが、その規模や投資資金は膨大だ。

    最近の人工知能の展開について平易に知るには最適な一冊だろう。特に歴史を踏まえていることは学ぶことが多い。

  • 10年くらい前の本だけど、今話題になっている松尾先生の書籍なので読んだ


    昔から人口知能の研究はしていて最近やっと注目されるようになった。
    10年前にここまできていたのかという驚き
    今後注目が益々高まっていく。

  • 人間の思考とか感覚の実態ってなんだろう。発達するコンピュータと、どう付き合ったらいいんだろう。と考えていた時に読みました。

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著者プロフィール

1953 年、新潟県五泉市生まれ。1978 年東京教育大学教育学部芸術学科(彫塑専攻)卒。1989 年、毎日新聞社主催・毎日郷土提言賞富山県優秀賞受賞。
著書に『新潟街角の芸術̶̶野外彫刻の散歩道』(新潟日報事業社,1987)、『富山の野外彫刻』(桂書房,1991)

「2015年 『パブリックアートの展開と到達点』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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