里海資本論 日本社会は「共生の原理」で動く (角川新書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (232ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784040820132

作品紹介・あらすじ

里海=人が手を加えることで海を健康にし、豊かにするメカニズム。瀬戸内海の再生で世界から注目されている。地球の限界を救うモデルとして、瀬戸内海生まれ日本発の概念が、世界経済を今まさに変えようとしている!

感想・レビュー・書評

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  • 逆転の発想、視点はなかったが、取り組み自身は、興味深い。解説の藻谷氏の視点は鋭い。生命の循環を意識しなければ。

  • 519.81||In

  • 『里山資本主義』という、この本の前作となる本がありました。これは一見都会に見放されたと思われるド田舎が実はアツイというお話で、田舎好きの私にとって非常に興味深く面白かった本です。

    で、その続きともいえるのが本書「里海」。瀬戸内海で起こった魚の減少と海の荒廃、それを再生させた地元漁師と最先端研究のコンビを例に、人間がどんなに自然と乖離した生活を営もうとも、自然界の一員に過ぎないということを改めて感じさせる。

    実は「里海」は「SATOUMI」として学術用語になっている。海洋汚染は瀬戸内海だけの話ではなく地中海などでも深刻なようです。その取り組みが世界でも模索されているようですが、この瀬戸内海発の取り組みが注目されているとのこと。

    「里海」は「人手が加わることによって生物多様性と生産性が高くなった沿岸海域」と定義されている。ほったらかしにして自然に成り行きをまさせるのではなく、人が生物多様性の環境づくりを手伝い、そのおこぼれをいただく、ということ。

    この考えは、以前では学会で発表した日本人研究者が罵声を浴びせられたらしい。「お前は漁師の召使か!」と。それから数十年。彼はひるむことなく研究と実践を積み重ね、カキの水質改善能力と、カキ養殖、そしてカキの稚貝が住みやすい環境(それは他の魚も住みやすいことを意味する)づくりを見事に組み合わせた自然にも漁師にもプラスなる成果を出したことから世界的にも脚光を浴びることになったようです。

    里山よりもスケールの広い里海。やはり地方はアツイ。とはいえ、都会でもできることはある、と著者は締めくくっています。

  • 里山資本主義の続編! 東京でも素晴らしい自然がみれるのかな‼ちょっとずつ、自然を作り上げれるように、協力してみたい!

  • 何しろ私は岡山在住なので、NHK中国で取材している番組は、全てではないが見たことはある。取材対象が岡山県が多かったので、買ったのではあるが、「里山資本主義」の別バージョンかとは思っていた。二ついい意味で裏切られた。一つは、前著は半分以上は藻谷浩介氏の理論書だったが、今回は全面ドキュメンタリー番組の映像のテキスト化と補足になっていて大変わかりやすくなっていた。一つは、里海は里山の理論を覆って、(断定と曖昧は弱点だとは思うが)大きな理論になっていた。前著が資本主義で、今回が資本論であることにその時になって気がつく。

    日生、しまなみ海道の弓削島、因島、または笠岡の取り組みは興味深いものが多かった。確かに、赤潮の発生が今ではほとんど聞かれることがなくなった等々のわかりやすい指標以外にも、ガッテンすることはある。倉敷に住んでいると、あんなにも臭くて臭くてたまらなかった水島港の臭いが、この前約40年ぶりに行ったらほとんど臭わなかったのだ。そうか、海が再生されつつあったのだ。水島はアマモが生えていないし、カキ筏もないので、再生のスピードは遅いが海は大きく繋がっているのである。

    アマモの種付けで成果が現れ出したのは、始めてから25年後くらいだったという。確かに我々は死んだ海を長い間見てきた。その間に、漁師たちは諦めずに対策を立て実行してきたのである。「壊すのは簡単だけど、元に戻すのには時間がかかる」それは全ての環境問題に当てはまることなのかもしれない。

    日生のアマモ面積は戦後すぐは590ha、1971年には82haまで落ち込んだという。2014年には280haまで回復。まだ道半ばなのである。

    因島の除虫菊畑も復活しているらしいし、笠岡のカブトガニも今は干潟にもたくさん見えるという。この変化も、ほんの10年前には聞かなかった。アマモとはまた違う、独自の努力の賜物である。

    自然の再生に、人間も少し「お手伝い」をする。その「里海」の考え方は、非常に日本的なのだという。里海理論が、やがて世界を救うのかもしれない。

    2015年10月19日読了

  • 里海に関する概要やストーリー、関連事例を知るのに良い。

  • 背ラベル:661.9-イ

  •  唯一神の世界では、海に手を加えるというのは環境破壊である。SATOUMIは牡蠣の養殖することによって海を浄化し、アマモという海藻を増やして豊かな瀬戸内海を取り戻した。つまり海に手を加えることによってより豊かな海を実現して、漁業によって生きる道を開こうとするものです。
     少し前に里山資本主義が有名になりましたが、里海資本論はそれを含めてオカネ資本主義に汚染された生き方を再考するきっかけになります。

     人類史上、パンデミックは人類の歴史を大きく変化させてきました。3世紀から4世紀にかけての寒冷化が民族大移動を引き起こし、東では漢帝国を滅亡させ、西ではローマ帝国を分断させました。寒冷化は大飢饉をもたらし、免疫力が低下した人類にパンデミックを引き起こさせます。
     14世紀のパンデミックも、ミニ氷河期の到来が原因で飢饉に陥り、大元帝国を崩壊させます。神への信仰に疑問を持つ多くの人が宗教改革やルネッサンスを起こすわけです。

     こんな時代にこの本は読む価値ありです。今信仰されているマネー資本主義、金融緩和すればデフレから脱却できるとか、新自由主義とか、MMTとか、怪しい信仰は崩壊する可能性があります。こんな時代だからこそ読むべき価値ある一冊と言えます。

  • 里山資本主義に続き、読んでみた。
    前回は随分と既存の資本主義をマネー資本主義と叩いていたように記憶するが、今回はトーンが落ち着き、様々な里海(海の多様性を放置するままではなく、少しだけ人為的に手を加えることによって多様性を復活させ、自然の恵みのおこぼれを貰う)の例が挙げられている。里山と里海の違いについて最後に書かれているが、その辺りの違いはあまりしっくりこなかったが、サステイナブルとはまさにこのことだと思う。だからといってどれだけの人類が自然に対して謙虚になっていけるのだろうか?そういう意味では世界規模で広げていくには大分難しいように思える。とはいえ、筆者の言うように日本人には馴染みやすい考え方だと思う。

    P.15
    一九世紀後半、都市化が進み資本主義が盛んになり、煤煙と工業排水と、地下鉄の通勤ラッシュと、ひどい労働条件とすさんだ暮らしを強いられた労働者があふれた、イギリスの首都ロンドン。そこで未来を必死に思い描こうとした社会主義者ウイリアム・モリスが、「二十二世紀ロンドンに現れるユートピア」を本に著した。(中略)
    「どう見ても、文明の最後の時代に人は物品の生産という問題で悪循環におちいってしまったようですね。(中略)<世界市場>と呼ばれるものです。その<世界市場>は、いったん動き出すと、物品の必要あるなしにかかわらず、ますます大量に生産しつづけるように強制しました。(中略)おかげで人びとは、ひたすらその悲惨な制度を維持するためだけに、とてつもなく多くの仕事を背負いこむはめになったのです」

    P.76
    「乱獲」や「資源枯渇」と対極をなす世界。網に魚が入るのを待ち、入った分だけいただく、おだやかな漁。
    馬鹿にしないで見て欲しいのだ。成果を現代的な経済用語で説明すれば「増収増益」したことになる。しかも投資資金はほぼゼロ円で。
    これこそが、「里海資本論」の掲げる「経済成長」なのだ。

    P.92
    岡本太郎が世界の芸術の先端を行くフランス・パリから帰ってきたのが戦中の一九四〇年。パリでシュルレアリスムや、ピカソのキュービズムなど、常任には理解できない芸術の最先端を貪欲に吸収したエネルギーをそのまま日本に持ち込んだ。
    戦争がおわり、日本の芸術のどこがすごいのか、見いだそうとしたが、いつまでたっても見つからなかった。平野さんの解説によれば、「わびだのさびだのという弱っちいものに芸術のエネルギーなど感じられるわけがない」ということだったらしい。
    それがある日、目を真ん丸にして「あった!」と叫んだ。「縄文土器」との出会いだった。太郎自身、驚きをこう記している。
    「驚いた。こんな日本があったのか。いや、これこそが日本なんだ。身体中の血が熱くわきたち、燃え上がる」
    (『岡本太郎の宇宙2 太郎誕生』ちくま学芸文庫、二〇一一年、二八五頁)

    P.96
    「現状のマネー資本主義」では無理だという人がいた。巨大かつ緻密で、複雑怪奇なマネー資本主義を成立させる高度な数学理論、金融工学の世界的な達人のひとりだ。
    彼の主張はこうだ。マネー資本主義は自己増殖しすぎた。そして「人間の幸せ」から乖離した。世界に存在するお金は今も増え続けている。しかしそれは、今存在するお金を増やすことにしか役に立っていない。「世界の人間の幸せの総量」を増やすことに、なんら貢献できていないと。
    だからその人は今、マネー資本主義の改革に取り組んでいる。明るく笑ってこういった。「自身はある」そしてこう続けた。
    「人間が昔からしてきたことを取り返せばいいのだ」そしてさらにこう付け加えた。
    「その後も進化を続けた金融工学を駆使すればそれは可能さ」

    P.98(プライベートエクイティーKKRの共同創業者、ヘンリー・クラビス氏)
    どのようにして投資先を選ぶのか。どうすればそんな利回りを獲得できるのか。
    信じられないほどシンプルな答えが返ってくる。
    「正しいことをすればいいのだ」
    何をきいても、どうきいても。答えはそのひとことに尽きた。
    マネーゲームに明け暮れる「マネーの猛獣」はたくさんいるし、たくさん稼いでいるのだろう。しかし本当に一番稼げる近道。それは世の中が一番困り、解決策を求めているところへの「正しい投資」なのだと繰り返した。
    世の中が求めることに必要な金をつぎこむのは政治の役割ではないのか、と尋ねた私たちに彼は言った。選挙に勝てればいい政治家たちには、もはやその役を果たせない。かわりをつとめられるのは、結局マネーしかない。
    では正しいことは何か。「地球の現k内に関すること」に話は及んだ。
    世界全体を見渡し、限界に達した、あるいは環境があっかしてすぐにでも対応しなければならないところを特定する。必要な額を計算し、信じられないほどの額のマネーをつぎこむ。世界中から有効な先端技術を選び出し、適切な形で問題を起こした地域に重点配備する。
    そうすれば「結果」はおのずと出る。地球の問題に対しての結果も、投資に対するリターンという結果も。

    P.180
    東京の川も、「悲しい色やね」と歌われた大阪の海も、なぜ未来永劫そこで泳げないと、あきらめるのか。多くの場所で、何十年か前まで当たり前に泳いでいたのに、そのことをみんな見事に忘れてしまっただけなのだ。思い出し、取り戻そうとすればいいのだ。
    理想追求に燃える技術者たちが生み出したニッポンじまの先端技術も総動員して、実現しようと前向きに、何ができるか考えていきたい。科学技術が自然を無理やり変えたり、壊したりする時代は終わった。どんな先端技術も「里守の道具」にする時代が到来しようとしている。

    P.197(里海づくり研究会議事務局長 田中丈裕氏)
    広大な干潟が広がる有明海。ノリの成長に欠かせない富栄養化物質が豊富な海だ。それが急にガタンと、とれなくなった。
    考えられる原因は、アサリやタイラギなど二枚貝の激減だという。二枚貝が過剰な植物プランクトンをせっせと食べ、尿として窒素をだしてくれたおかげでノリは成長できたのだそうだ。アサリなどの二枚貝が少なくなると、ノリは水中の富栄養化物質を植物プランクトンと奪い合うこおてい通りに生産されるとになり、負けてしまうらしい。
    物質循環、あるいは「命のサイクル」が回らなくなると、何かがうまくいかなくなる。海の絶妙のバランスの上に生き物たちは生きている。
    「原料さえ供給し、機械のメンテナンスさえぬかりなくやれば、製品は予定通り生産される」という「人口の世界」とは違うのだ。
    里海の掟がここにある。

  • 東2法経図・6F開架:519.8A/I57s//K

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著者プロフィール

1964年北海道生まれ。東京大学法学部第2類卒。87年NHK入局。静岡局放送部、報道局特報部、NHKクリエイティブ、NEP21、報道局番組部などを経て、現在はコンテンツ開発センター。NHKスペシャル『故宮・第6集、第12集』の制作・執筆のほか、NHKスペシャル『資本主義はどこへ行くのか~マネーの時代の選択』『ポル・ポトの悪夢』『オ願ヒオ知ラセ下サイ~ヒロシマ・あの日の伝言』などを制作。

「2022年 『ポル・ポトの悪夢』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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