文系学部解体 (角川新書)

著者 :
  • KADOKAWA/角川書店
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感想 : 30
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784040820514

作品紹介・あらすじ

文部科学省から国立大学へ要請された「文系学部・学科の縮小や廃止」は、文系軽視と大きな批判をよんだ。自ら考える力を養う場だった大学は、いつから職業訓練校化したのか。

教養を身につけ、多様性を受け止める場だった教育の現場が新自由主義の波に晒されている。競争原理が持ち込まれ、その結果もあいまいなままにさらなる効率化が求められ、目に見える成果を求められている。そもそも教育の成果とはなんなのか。すぐに結果が見えるものなのか?

著者は、この問題が静かに、そして急速に進められつつあった当初から問題を指摘してきた現役の大学教授。「中の人」として声を上げたブログは、10万アクセスにも及んだ。著者が所属する学科は、今回の要請で一方的に「廃止」を宣言されている。1990年代に当時の政策で新たに創設された新設学科だったが、教員たちの尽力もあって、いまや受験生に人気の学科となっていた。にもかかわらず、一方的に廃止が告げられたのである。

その決定に率直に憤り、今や瀕死といっても過言ではない教育の現場を嘆きながらも、大学の存在意義を感じ、希望を見出そうとする著者。大学への希望を見出そうとする思いにあふれた渾身の書。

感想・レビュー・書評

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  • 地方国立大学の内部にいる筆者による陳情・意見の本なので、極端な例やかなり怒りに満ちた言も見受けられる(評価アンケートや手続き合理性など)。

    が、それをさしひいても、国の政権・行政方針が変わるたびに振り回されてしまう国公立大学の不憫さ(人手不足なのに学部新設させられたと思いきや早々に廃止だの、形式的事務作業圧迫だの、民間の経営手法に倣えだの・・)がうかがえる。

    人文系学問は短期的に役に立たないからと軽視すべきでないし、知の多様性をいかに守るべきかは大きな問題だ。
    まさに、哲学や文学に潜む文脈や歴史から、現世の常識を疑い、新しい問いを立てるための知なのだ。

  •  2015年6月8日付けの文科省通達「国立大学法人等の組織及び業務全般の見直しについて」は、「文系軽視」と大きな反響を呼んだ。「大学は社会が必要とする人材を育てる必要がある」というのがこの趣旨らしい。
     国立大学に限らず、社会全体に「競争原理」が導入され、常に「成果」を求められ、「役に立つ」かどうかということが価値尺度になっているように感じる。
     そのような流れの中で、教養的な学問の優先順位が低くされ、大学が本来持つ「自由の知」が失われつつあることに、著者は警鐘を鳴らしている。教養(Liberal Arts)とは、文字通り「自由な芸術」である。
     さて、福沢諭吉の「学問のススメ」の中では、「実際に生かせる学問」として「実学」を勧めているが、それは、①読書をする、②観察する、③推理する、④議論する、⑤文章を書く、⑥演説をする という6つの行動である。その観点から見れば文系・理系も同じではないかと思った。
     教養は、すぐに役に立つ「特効薬」ではないが、卒業後の社会生活の中で、じわじわと効いてくる「漢方薬」のようなものではないかと思う。

     

    • きよっそんさん
      文系学部では人文知を学びますが、案外日本社会全体の人文知の弱さが文系学部軽視の風潮を招いている気もします。
      最近世界ランキングにおける日本...
      文系学部では人文知を学びますが、案外日本社会全体の人文知の弱さが文系学部軽視の風潮を招いている気もします。
      最近世界ランキングにおける日本の大学の地位なども話題になりますね。以前読んだ論説に、オックスフォードは人文社会学系の強さがランクを大きく押し上げている、MITは工科大でありながら経済学をはじめとする人文社会学系でも世界最高水準、一方日本の大学は人文社会学系の水準の低さがランキングに反映している、といったものがありました。文系学部を軽視する風潮も実は日本社会全体の人文知の弱さの表れではないかと思うようになりました。
      さらにいえば民主主義は人文知の批判精神に依拠するので、日本社会の人文知の脆弱性は民主主義さえも揺るがしかねない、とまで言うとこじつけでしょうか。
      2016/04/17
  • あっはっはっは。
    つい声に出して笑ってしまった。室井尚さん。すいません、今まで存じ上げなかったのですが、横浜国立大学の先生なのですね。(内田樹推薦、が目を引いた)うわー、言うべきことを言ってるなーと、楽しくなりました。

    国公立大学から文系学部がなくなる、とメディアがざわついたことは比較的記憶に新しい。で、ここにこんなに憤っている方がいらっしゃったわーと思って嬉しかった。

    12月22日付の朝日新聞、鷲田清一の折々のことばにはこう書いてあった。
    「死ぬとわかっていてなぜ人は生きていけるのか。その根源的な理由を考えるのが、文学部というところです。大宅映子」

    これを見せてもらったとき、しみじみそうだなあと感じたし、これを載せた鷲田清一の思うところにも共感したのだった。

    学問とは使えるか使えないか、便利か不便か、そんな選択でははかれない「知へのアプローチ」だと思っている。
    筆者の言うように、ものをどう見るか、考えるか。本当はそういう所に楽しさがある。

    でも、訳の分からない名前のナンデモアリな文系学部とか、就職が厳しいものだからコーディネイター化してみたりとか、ともすれば資格取得で釣ろうとする高級専門学校化とか。
    学問からずっと離れたアプローチに切磋琢磨してきた大学も沢山ある中で、生き残るってどうしたいの?とも思わなくもない。

    つまり、それが学生のニーズなら、それが国や産業界のニーズなら、って簡単に切ってしまえる大学も少なくはないのかもしれない。残念だけど。

    筆者のような方が声をあげることで、文学部が単に軽視された末に消えてゆくのではなく、文学部が希少であることで本来的な意味で確実に生き残れば良いのにな。

  • 国立大学に限った話。タイトルにある件の是非はわからないが、日本に余裕がなくなっていることと大学が抱える課題はわかった。
    文系科目は世界最先端を目指すとか性能やコストを競うとか、そういう価値観に合わないマッタリ感があるので、理系と同じよう枠組みでの評価はキビシイね。

  • 東2法経図・6F開架:377.21A/Mu73b//K

  • 最後まで読んでみるとタイトルがミスリードであることが理解できる。正しくは「国立大学の文系学部解体」であって、少なくとも本書では私立大の文系学部に対する文科省の施策はほとんど語られていない。戦前の旧制大学のほとんどが理系学部しかなかったことは知らなかったが、確かに今や文系学部の授業料は国立と私立とでそんなに差がないわけだから、人文系の学問を学びたければ私学に行けばよいとの文科省の考え方は理解できなくもない。国立大に文系学部を残せという主張は、国立大の授業料をもっと安くしろ、という主張とセットでないと説得力がないわな。
    残念ながら本書で語られている事(施策がうまく行っていないとか、成功した例がないなど)が事実なのか著者の単なる感想なのかが事実で検証されていないので、全体として著者のノスタルジーとルサンチマンにしか聞こえない。もう少しロジカルに論を進めないと著者のお仲間以外には広く共感は得られないと思う。

  • ☆信州大学附属図書館の所蔵はこちらです☆
    http://www-lib.shinshu-u.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BB2023723X

  • 文系学部全体の解体に関する話かと思ったらそうではなかった。
    教員の需給の調整弁たる需要に柔軟に調整するための、教員養成系大学の『新課程』が廃止されることに対しての異論が書いてあった。

    文系学部、特に国公立のものは必要最低限で、私立も優秀な人材を集めて教育するだけに必要な補助金だけに限るべきだと思う。
    著者が大学に行くことで明確な何かの役に立つものでは無いという意見には賛同する。
    具体的な技術なりを身に着けるのであれば、専門学校とか高専とかに行けばよい。
    https://seisenudoku.seesaa.net/article/472425862.html

  • ◆5/24 シンポジウム「自由に生きるための知性とはなにか?」と並行開催した「【立命館大学×丸善ジュンク堂書店】わたしをアップグレードする“教養知”発見フェア」でご紹介しました。
    http://www.ritsumei.ac.jp/liberalarts/symposium/
    本の詳細
    https://www.kadokawa.co.jp/product/321506000365/

  • 大学が職業訓練校化するのには反対。
    技能や知識を身につけることも大事だけど、大学という場には、それだけではない意義が有る。

    問題があるとすれば、その意義を学生に理解させられていないことじゃないか?と僕は思う。

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