教えてみた「米国トップ校」 (角川新書)

著者 :
  • KADOKAWA
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感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784040821641

作品紹介・あらすじ

研究でも教育でも羨望の眼差しで語られることが多い米国トップ校。だが、その一つであるプリンストンで教えるようになった東大教授は、日本に蔓延する幻想に疑問を投げかける。語られなかった「白熱教室」の内実。

感想・レビュー・書評

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  • 印象に残ったのは、次の5点である。
    1.Holistic Admissionの現実:
    一度も教科書を開いたことのない異才、市川海老蔵氏が入学できる可能性が高いのは、東大かハーバード大か?――アメリカのトップ大学は、高校時代の全ての科目(運動や芸術も含めて)の成績が卓越していなければ入学資格を得られない(だから、浪人生がほとんどいない)。一方東大は、高校時代の成績が悪くても、受験科目のみ突破できる力をつければ合格できる。だから、ユニークな学生が多くなる。
    アメリカでもかつては学力試験のみで選抜していたが、1920年頃にHolistic Admission を導入した。人種差別との批判をかわしつつ、学力優秀なユダヤ人の受入れを抑えるためであった(pp.55-59)。つまり、多様な学生の受け入れを拒むための制度であったのだ。現在では、アジア人が増えすぎないように操作している可能性が指摘されている。またこの結果、学生の基礎学力にムラがあるのが米国トップ大学の特徴であるとする。
    2.大学の会社化:
    大学は、ノンテニュアの教員や非常勤講師を多く雇用することによって経費を削減し、組織的な抵抗が生じないようコントロールしている(p.137)。身分の不安定な労働者(任期付教員、非常勤講師)は、その不安定さゆえに互いに結束して過激な賃上げ要求を行ったり秩序を脅かすストライキに訴えたりしないから、経営者にとって都合がいい存在なのだ。
    3.年功序列制度の功罪:
    アメリカ式実力主義は、真似すべきシステムではないと著者は断言する。日本では、大学内でほぼ同じように遇されているからこそ、学問的に重要だと信じる研究に腰を据えて挑戦できる。日本の年功序列は、過度な競争意識を抑制し組織の和を優先する。「自分が大切に思われている」ことが実感できる制度である。アメリカに比べると、給与差は大した問題ではない。一方のアメリカ式実力主義では、組織のいざこざ(訴訟を含めて)が引き起こす時間・コストの浪費やストレスは甚大だということを忘れてはならない。
    4.アメリカ人が大学での学びにこだわる理由:
    専門職として就職することが多く、大学の学び(主専攻・副専攻)と就職との繋がりが強い。だから、多くの企業が大学時代のGPAで採用の足切りを行っている。新卒一括採用・終身雇用・企業内ジョブローテーションを軸として人材育成する日本企業が(特に文系学部の)学び(GPA)を重視しないことは、学生の学びのモチベーションを下げている。柳井正財団がアメリカトップ校への留学に「限定」して多額の奨学金を供与しているというのは、日本の企業と大学とのネガティブな関係を象徴しているようで残念だ。
    5.教員が教育・研究に専念できる環境を:
    アメリカの幹部職員の大部分は博士号取得者であり、他大学での実績が認められてリクルートされるケースが多い。大半が学士で、ジョブローテーションにより数年で異なる部門の仕事に移る可能性がある日本の幹部職員との立場・意思決定への関与の差は大きい。アメリカでは、かつて教員が行ってきた業務を専門の職員に委ねたり(弁護士・投資アドバイザー・心理カウンセラーなど)、外部委託を導入したりすることによって、教育研究環境を改善し、大学業務の高度化に対応してきた。しかし一方、これが高いコスト体質を生んでいることも事実である。

    最後に、日本の大学改革は、教育や研究の質を上げるためというよりは、文部省に睨まれないように、そして目前の少額資金獲得のためである。多忙な教職員が「形作り」「アリバイ作り」に汲汲としている。財政も逼迫している。地に足が着いた実質的な改革がに繋がらない理由のひとつは、ここにある。
    改革のモデルは常に欧米(特にアメリカ)である。そこには、文化・歴史の違いを考慮せず、背後で生じている諸問題に目を向けず、正しい情報がないままに欧米のやり方が正しいと妄信する日本人がいる。このような短絡的な姿勢に本書は一石を投じている。

  • 学力絶対の東大のほうが米国トップ校より多様な学生が集まっている、アメリカの大学はマイノリティを優遇するためとして入試の際に人種を問われ、人物全体を評価するが、人物を評価なんてできるのか?評価を気にしすぎる学生ばかり。アメリカの大学が入学しやすかったのは1970年代まで。今は極端に低い。ユニクロ柳井は米国トップ校を目指す学生に奨学金を寄付しているが、トップ校以外の大学は奨学金制度がて薄く、多くの学生が借金に苦しむ。日本の大学なら5倍の学生を助けられるのに。事務職員をもっと重用して、経営や寄付金集めに力を発揮させるべき。などなどとても勉強になる本だった!!

  • 東2法経図・6F開架:377.25A/Sa85o//K

  • はじめに
    海外のトップ校を進学先に選ぶ高校生が増加しているが、内情を知って決断したように思えない。筆者の勤務経験のある東大とプリンストンを比較することで、日本の教育の強みを確認したい。

    第1章 総合人物評価の落とし穴
    ・米国の大学の入試基準は、高校の成績プラス人物評価であり、均質な人間が集まりやすい。そもそも、人物評価はアングロサクソンの比率を保つために導入された経緯がある。日本は入試の公平性とコストパフォーマンスの良さという点で優れている。

    第2章 「白熱教室」の裏側
    ・日本人が考える米国の大学の授業内容は、イメージが先行している。すべての授業が対話型で進められているわけではなく、多様性に富むわけでもない。卒業要件となる単位数が少なく、授業時間外の勉強が多い。教授は研究に注力するため、TAが研究を見る。生徒同士の助け合いはなく、競争的な空気がある。

    第3章 「会社化」する米国大学
    ・米国の大学の教授が自分の研究に専心できるのは、環境が整っているためである。給与面において、研究実績に基づく格差がある。資金力に富み、雇用できるアドミの数が多い。そのため、教務にかかる雑用がない。ただし、即効性、汎用性のある学問に人気が集まり、長期的にとりくまれる人文社会系の局所的な研究は評価されにくい。

    第4章 やがて哀しきグローバル化
    米国の大学生は留学に消極的である。また、キャンパスで学ぶ外国人留学生の数も限られている。母国語以外のクラス数は少なく、受講が5人以下だと開講されない。
    ・研究にあたり、メインストリームには持てない視点かある。日本語は高度な学術内容に対応できる言語なので、データ重視の論文から、ストーリー中心の発表へとアウトプットを変えることで、十分国際化に対応する。

    第5章 米国トップ校から何を学ぶか
    大学改革への提言
    1)事務職員の意思決定参加
    2)環境としての体制整備
    3)運営における学生の役割拡大
    4)若手研究者の訓練
    5)国際性を培う(国際性とは平常心である)

    日本の大学の長所
    1)教授との距離が近く、インフォーマルな学びに恵まれる
    2)基礎研究に取り組む風土がある
    3)日本という局所性がオリジナルな研究を醸成する
    ・それが安価に実現される

    ∴プリンストンに比肩するどころか、それ以上の魅力を備えている。

    【感想】
    それでも資金に恵まれていたら留学をしたかったと思う。安全な立場で、テンポラリに異なる流儀に自らを曝すことは柔軟性を高めるよい練習になる。国際共通語となってしまっている英語力をイマージョンで身につけられるのも魅力だ。あーあ、宝くじにでも当たらないかな。。

  • 先生としては凄いキャリアを持っている方!
    長女のコネを使う所も凄い‼️

  • 2020年の大学入試改革制度を考える上でも参考になった。
    米国のトップ校が「人を見る」入試を実施しているのに対し、東大は学力を筆記試験のみで判定する点で偏っていると批判されることが多い。
    しかし米国の事情を詳しく調べる過程で、筆記による学力試験の方が透明性の高い、公平で、比較的安上がりなシステムであると考えるようになった、と筆者。

    高校時代に教科書を一度も開いたことがない市川海老蔵氏が入れるとすればハーバードではなく東大。

    東大は受験科目のみ突破できるだけの学力を持っていれば合格できる。その分、面白く、片寄った学生が入ってくる。

  • 現代の高校生のうち1%に満たないトップ層は東大を滑り止めにし、米国や英国の大学進学を目指している。
    また東大がアジアNo.1の地位から転落して久しい。
    このような状況から東大よりアイビーリーグ、英国トップ校の方がなんかすごいという感覚が私にもあった。
    だがそれぞれの大学を中から眺めることのできる筆者には大学のあるべき姿から逸脱しているトップ校の現状が肌で感じられたようである。
    とても読みやすい良本。

  • 著者の実体験を踏まえたアメリカ大学レポートであり、とても興味深く拝読した。最後の指針については、大学運営・管理に関する点として示唆があると感じた。

  • 世界大学ランキングの盲点
     学費 米国トップ校 年間500万
        国立大学4年間で250万

    教員学生比率 1:7 イエール 1:4
    ただしアメリカは、学部生向けの広義は若手研究員や大学院生

    米国 教員が入試にほとんど関与していない、卒業生の面接をうける、
    フィーダースクール 
    8%の私立校出身者が合格者の40%

    レガシー入学 寄付金を期待

    1920年代 ラテン語などの伝統的な学問の到達度から、リーダーシップや人格といった全人的な側面に入学者選抜の基準を移行 ユダヤ人学生の数を抑制するため

    当時 ギリシャ語ラテン語を教えていた孝行はほどんど私立 学費の高いトップ校がもともと白人富裕層のための学校として作られていた

    プリンストン 男女比 1:1

    イーティングクラブ 食事を介した社交 高い入会金 70-120万

    給料は日本の国立大学の2倍以上

    夏目漱石 最近の東大生は英語ができない 1911のエッセイ 語学養成法
    英語で行われなかった授業を日本語に置き換えることができたという誇りの裏返し

    プリンストン 毎年100名前後の日本語履修者がいる

    複雑な近代科学を論理的に書き記すに足る語彙をもっている非ヨーロッパ言語というのは非常に少ない

    思考のベースとなる言語一つをまず洗練しなければ、文系学問の営みはなしえない

    何語ででなく何をかくか

    私たちは言葉を介して外界の物事や人物との距離を理解する。だとすれば、言葉の数だけ「真実」があるということに「なる

    非英語圏に生まれた私たちの仕事は、英語圏が圧倒的な力で押し付けてくる真実に、日本語に根ざす違った真実を指し示すことで、世界の多様性を守ることにある

  • 2017/9/14 メトロ書店御影クラッセ店にて購入。
    2017/10/8〜10/14

    東大とプリンストン大という日米のトップ校で教授経験のある筆者の日米大学比較論。要するにどちらも良いところも悪いところもある、ということだが、良くある米国大学礼賛ではなく、日本側にやや分があり、というところが本書の特徴であろうか。
    何でもそうであるが、形だけ模倣して日本に取り込むことはほんとに辞めた方が良いと思う。取り入れるのであれば、その文化的背景も取り入れないと絶対に失敗する(法科大学院のように)。山にたとえれば、アメリカは連峰型、日本は独立峰(富士山)型である。企業の分布も同じ。(日本は東京一極集中。アメリカはいろいろな州に大企業がある)国民の意識もそういう風潮があるのだから、そこんとこ良く考えないとどんどん改悪されていくと思う。

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著者プロフィール

東京大学東洋文化研究所教授

「2021年 『開発協力のつくられ方』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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