ふたりの距離の概算 (角川文庫)

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著者 : 米澤穂信
  • 角川書店(角川グループパブリッシング) (2012年6月22日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (287ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041003251

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ふたりの距離の概算 (角川文庫)の感想・レビュー・書評

  • 古典部シリーズ再び。
    長距離走という苦行のさなか、奉太郎は推理する。
    勧誘らしい勧誘もしていないのに仮入部し、上級生にも馴染んでいたように見えた一年生はなぜ、急に本入部をとりやめたのか。

    千反田えると彼女の間に何が起きたのか…

    んもう、そんなの…

    新歓で折木奉太郎先輩に一目惚れ♥→仮入部→高校生活、恋に燃えちゃうゾ♥→あれ、千反田先輩と奉太郎先輩ってもしかして?→思いきって千反田先輩に訊いてみた→「はい」→そっ、そんな…礼儀正しくて顔が広くてお料理だってパパッとできて、野菜や山菜の下処理まで詳しい千反田先輩相手じゃ勝ち目ないよ…→悲しいけど入部取りやめます!くすんくすん…

    これで決まりでしょう!と思ったんだけど、米澤さんがそんなベタ甘展開を許す訳ないのでした…

    今回も奉太郎の姉から目が離せない。目からレーザーを撃てる招き猫…私、気になります!

  • 珍しく後味の良くないお話だったなと。学生の手の届く範囲ってどうしてこんなに小さいんだろうね。どうにかしたいけれど何もできない時は中途半端に手を伸ばすよりもすっぱり切ってしまうことが優しさなのかな…とか、考えてしまいます。何もできなかったという事に対して罪悪感を抱く奉太郎が、大日向さんのことより千反田を思っての事なのだろうなーと感じるのが微笑ましくも残酷ですね。

  • 「古典部シリーズ」第5弾。奉太郎たちは二年生になる。
    後輩ができるだけで立場が変わる。
    見上げられるということは、或いは理由もない恐れを抱かれることもあるということ。

    一年生だけだった古典部だが、奉太郎たちが2年に上がり、大日向友子という新入生が仮入部してきた。
    少し思い込み激しくテンション高め、小麦色で元気すぎるほど元気な子。
    部に溶け込んで楽しそうに見えていたのだが、いきなり辞めると言ってきた。
    千反田は自分のせいだと思い込んだ。

    人との距離の取りかたは本当に難しい。
    言葉を捻じ曲げて受け取られたり、勝手な方向に想像を膨らませられたりという経験は誰でもあるのではないだろうか。
    とても丹念に書き込まれている。
    マラソンしながら(というかほとんど歩きながら)推理して、聞き込みをして、という形式が面白い。
    里志が総務委員会副委員長として、走らなくていい立場であり、傍観という立場にいるのも、いつもの彼の立ち位置を象徴するようで面白い。


    序章 ただ走るには長すぎる
    省エネ人間の奉太郎は、走るだけでは時間の無駄なので、有効活用しようと思ったのである。
    めずらしい。
    「私、気になります!」と言われていない気がする。

    一章 入部受付はこちら
    「あたし、仲のいいひと見てるのが一番幸せなんです」
    大日向はそう言って入部してきたのだ。

    二章 友達は祝われなきゃいけない
    奉太郎の誕生日を古典部が祝いに来た。
    ちょっとした隠し事にハラハラするが…
    あとで思えばポイントはそこじゃなかった。

    三章 とても素敵なお店
    大日向が、いとこが喫茶店をオープンさせるので試食をしてほしいと頼んできた。
    「千反田先輩って顔が広いんですよね?」
    何を知りたかったのか。

    四章 離した方が楽
    昨日の放課後に何があったのか…
    奉太郎は必死に記憶をたどる。

    五章 ふたりの距離の概算
    「君の考え方はここで間違っていた、ここも違っている」人の過去の言動にいちいち赤ペンをいれていくのは気の重い作業である。
    模範解答があるわけではないからだ。
    人と人の距離を測るのも難しい。
    伸びたり縮んだりするからだ。

    終章 手はどこまでも伸びるはず
    大日向の思い込みの激しさは、ちょっと厄介な子だなという印象だったが、理由が分ってみれば気の毒でもあった。
    自分のためでさえ何かをしたがらなかった奉太郎が、千反田のためなら自発的に活動するようになった。
    彼は更に世界を広げつつあるのかもしれない。

  • 四巻の『遠回りする雛』が短編集だったので、久しぶりの長編という感じがします。
    三巻までの彼らの関係の変化を短編で埋めていく四巻でしたが、五巻はさらに彼らの関係の変化が見えます。
    福部くんと摩耶花ちゃんの変化、ちーちゃんと奉太郎の変化に、にやにや←

    マラソン大会中に謎を解くということで、奉太郎の走った距離が増えれば増えるほど、謎が解かれていく過程がとても面白かったです。
    奉太郎が過去を思い出しながら走っていくので、臨場感?リアル?な感じです。
    こういうミステリーもあるんだなあ、と驚きつつ勉強になりました。

    相変わらず、奉太郎も福部くんも難しいこと考えてますね。
    私はあんまり人のこと言えないかもしれないけど←
    奉太郎曰く、下らないことも役に立つことも(私も友達と)話してます。
    だから、彼らには共感できる部分があるかも。

    古典部シリーズは、伏線をきちんと全て回収していくイメージがあって、読んでて気持ちが良いので私は好きです。
    伏線回収ってミステリーでも、ミステリー以外でも大事ですよね。
    日常の謎ってことで、リアルで想像しやすいのも良いです。

    次の巻も楽しみです。
    彼らの二回目の文化祭、修学旅行に期待。

  • 古典部シリーズ5作目。
    「古典部」に仮入部してきた新入生・大日向友子は「ともだち」という言葉に強いこだわりを持っていた。
    一方、折木奉太郎は相も変わらず、何事に対してもそうそう強いこだわりを持つことがない。
    そもそも、折木にとっては「古典部」のメンバーは友達というよりも、同じ「古典部」の仲間といった意識が強いような気がする。

    奉太郎が定義する「ともだち」とはどんな存在なのだろう。
    奉太郎自身には自覚がないようだろうけれど、いわれのない理由で「ともだち」が傷つけられるなら、出来る範囲でその傷が少しでも小さなものになるよう全力で努めるような気がする。
    たとえ真実が辛いものになったとしても、出来るだけ小さな傷ですむように・・・。
    奉太郎にとって「古典部」のメンバーが特別な存在なのは間違いない。
    何故なら、それ以外の人間に対しては関心すら持たないのだから。
    大日向が「ともだち」に抱く思い。
    友情という言葉では表しきれない複雑な気持ち。
    親しさや信頼、楽しいときもあれば存在自体を重く感じることもあるだろう。
    離れたいと願う一方で、自分だけは絶対に「ともだち」を裏切らない、見捨てないという思い。
    けっして単純な「友情」という言葉では済まない感情がそこにはある。
    もともとの思い込みの激しさも原因のひとつになっている。
    でも、それだけではない。
    「ともだち」に対するうしろめたさが、結局はこの騒動を巻き起こしたように思う。
    「ともだち」にまっすぐに向き合うことは難しい。
    「ともだち」だから余計にこじれてしまった感情を素直に伝えることが出来なくなる。

    「古典部」のメンバーの成長。
    葛藤や戸惑い。
    瑞々しい感性が詰まった「古典部」シリーズはやはり面白い。

  • 終盤、大日向とホータローの会話はこちらまで緊張感が伝わってくるようだった。お互い悪意はないのだろうが、それぞれ腹の探り合いのような会話。
    人を探るような言葉遣いだったり、他人には分からないような小さなトゲを含ませたり(主に大日向)。人の『弱い』部分について触れるものだから互いに慎重になるか。
    この話で『皮肉』という単語の意味を思い返していた。

    個人的に。
    大日向がやたら『○○が言っていたんですけど~』という第三者を引き合いに出して語るのは、彼女が自論に自信を持てない性格なのかと思って読み進めていたが、これがキーワード。
    大日向が周囲の『友達関係・人付き合い』について妙に食いつくなぁとは思っていた。なるほど、読んで納得!
    人とのココロの距離、マラソンでの走行距離について測る、まさしく『ふたりの距離の概算』というタイトルは秀逸。


    そして相変わらずホータローは思慮深くて優しい(笑)
    今回の新入部員・大日向をはじめ、古典部員はモチロンのこと、千反田に対しても。

    「どうした」
    そして、もう一度。
    「どうした?」

    ごちそうさまです!

  • 「氷菓」と続けて読む。アニメーション化されていないので、初めて出会う物語。「氷菓」よりもずっと読みやすい文体になっていて、面白くぐいぐいと読める(オレキ君はじめ高校生っぽくなってていいです)。最後があっけない幕切れだけれど、ほろ苦い。あの子が次巻で普通に戻ってきてたら、それはそれでがっかりしちゃうぞ。

  • 「なぜか縺れた二人の関係を、ホータローは走りながら考える…」
    日常にもよくある人間関係の縺れ。古典部のある放課後から縺れた関係を、何故かマラソン大会の間にホータローは考える…。
    今回の面白さは、言葉に尽きる。人の発する言葉って、こんなに性格や心情が出るんだね〜。
    相変わらず全然当たらない推理をのびのびとしながら読みました。

  • こんなに色々考えた青春時代はおくってはないが、
    なんだか懐かしく感じる作品。

  • 『雨は降らなかった。あれほど祈ったのに。』

    『やらなくてもいいことなら、やらない。やらなければならないことなら手短に。』

    『折木さんって真夜中の赤信号は無視するタイプですか』
    『真夜中には出歩かないタイプだ』

    『あたしの友達が言うんですけど、愛は惜しみなく与えるものだって』

    『計算が苦手なら電卓を使えばいい、英語が苦手なら翻訳ソフトを使えばいい、走りたくないなら適宜別の交通手段を検討すればいいと、俺には最初からわかっていた。これこそ生きる力というものではなかろうか。』

    『自分の言葉ができるだけ強く千反田に届くよう願いながら、俺は言った。』

    『わかってほしくないなら、もっとわからないように言った方がいいな』
    『ロシア語とかで?』
    『ロシア語とかで』

    『初めて会ったときからで、いいんじゃないですか』
    『それだと長くなる。もうちょっと短く言えそうなんだが』
    『長くてもいいじゃないですか。どうせわたしたち…正しい道を外れちゃったんですから』

    『嘘ついてどうするんだ』
    『どうするつもりなんですか』
    『嘘はついてないから、わからん』

    『嘘ばっかり。…というか、優しい嘘ならもうちょっと上手くついてくださいよ』

    『それであたしたち、ずっと離れないって約束したんです』
    『難しい約束だな』
    『そのときはそう思わなかったんですね。頭悪いんですよ』

  • こういうことなんだろうなー、と想像しながら読んでたのと、全然違う結末で、それはそれで面白かった。
    でもあまり気持ちの良くない終わり方。これが「ほろ苦」ということ?
    摩耶花と里志の関係に決着がついたらしいことが嬉しい。詳しい話を知りたい。

  • 読後感すっきり、とは言えないようなお話でした。こうなると後書きのマラソン大会なのに歩いていれば、すら深読みしてしまいます。誰かと誰かの距離。とても難しいと思います。
    ふと昔友達から、はっきりさせておきたいの。私達親友だよね、と突然メールが来たことを思い出しました。友達の中で一番になりたい、と。
    私のことをなんでも理解してくれている、とか。優しいから何でも受け入れてくれる、とか。相手と自分の距離の測り方がまるで違うことに気付きました。
    誰かとの距離の測り方はそれぞれまるで違うもので、どこに重きを置くかもまるで違うもので。わたしには、親友と友達。その距離の違いがまるでわかりませんでした。
    折木、える組が素敵な結末を迎えられることを期待しています。

  • 古典部シリーズ、二年目のスタート、春の物語。
    それはちょっとしたボタンの掛け違いからはじまりました。

    意外にその底は深く、でも、青い友情であればありそうな。
    ちょっと学生のころを思い出しました、とある想いと共に。

    - だから、違うと思った。

    外からだと見えない(見ない)ことも、
    内に踏む込めば、だいぶ見えるようになるのでしょうか。

    ふたりの距離の概算も、少しは精度が上がってきたのかも、知れません。
    さて二年目の物語は、どのように綴られていくのでしょうか。。

  • 待ちに待った《古典部》シリーズ第5段、文庫化!!
    ということで、さっそく発売日に一気読みしました。

    『遠まわりする雛』から、高校2年生になった奉太郎たちの成長を感じられる1冊でした。

    特に、えるちゃんをはじめとした、古典部メンバーに対する奉太郎の姿勢は素直になったなぁと思いました。

    入部受付での他愛ない会話を聞いたら、私も古典部に入部希望だします。
    ところどころの、わかりにくいジョークや突っ込み、言葉遊びが軽快で心地よいです。

    いつもどおり、気付かないうちに散りばめられた伏線が、最後に回収されて行くのはさすがでした。

    米澤先生の作品の魅力のひとつである、切なさが残るさわやかな読後感は健在です。

    1年生の時にクラスメートだった何某くんと奉太郎の間で、なにがあったのか、私、気になります。
    いつかのための伏線だったらいいな。

  • 先輩との距離感はある意味適当なほうたろうが、後輩との距離感にはすごく戸惑っているところに、らしさを感じた。

  • 折木奉太郎という人格を作り出した
    米澤穂信という作家に 心底驚いた。

    目の端に映る ほんの少しの兆候。
    耳に残る ちょっとした言葉の切れ端。
    そんな断片たちから 全てを見透す。
    洞察力という言葉は 彼のためにあるように思う。

    そうして何よりも深く思うのだ。

    折木奉太郎の生活第一信条
    「やらなくてもいいことなら、やらない。
     やらなければいけないことなら手短に。」
    これは守られなければならないのだ。

    もし彼が自身の能力に自覚的で 
    人生を歩くのに能動的であったなら
    多くの人が その心の中を見透かされ
    傷つき 彼のそばを去っていくことだろう。

    彼の友人たちのために。そうして誰よりも
    彼自身のために。彼は動いてはいけない。

    彼が動くとき 彼は自身の能力ゆえに
    誰よりも深く悩み 苦しみ 傷ついてきた。
    折木奉太郎は 本当は誰も傷つけたくないのだ。
    それは優しさであり 自己防衛なのだ。
    人を傷つけるごとに それより深く傷つく彼は
    このままではいずれ 自らの心を壊してしまうから。。。

    彼は自覚的に 能動的に
    やらなくてもいいことは やらないのだ。

  • 古典部及び氷菓はアニメ共に最高ですね!笑
    あの大人過ぎる古典部員たちの会話劇がもう一度みたいです!(笑)

  • 相変わらず爽やかな青春ものとは言いがたい少しほろ苦い
    物語。このほろ苦さは青春物の青臭さとは真逆の老成と言ってもいいぐらいのものから出てきている気がする。相変わらず物事に諦観している主人公。言い換えれば爺むさい。

    こんな閑寂枯淡な高校生活を描いた作品はそうそうないだろうなぁ。

    読んでいる間はアニメシリーズを見ていたのでイメージし易かった。今作品もアニメになること希望。
    そして古典部シリーズの続刊も希望。

  • 読み終えて改めて本のタイトルを確認し、感慨に浸る。この一冊の中にはいくつも“ふたりの距離”があって、ところどころもつれたりほつれたりしているけれど、それも人間関係の一つの在り方。
    全編に散りばめられた伏線や謎かけもラストでしっかり回収し、最初から最後まで余すところなく楽しめるマグロ本でした。
    前作あたりから「これってもう古典部関係ないんじゃ…」と思いかけてたところに不意打ちの荻原朔太郎!現代高校生の日常会話にはなかなか登場しない引用が面白いです。

  • なんとも切ない話ですね。
    この本の名前が、距離が、色んなところにちりばめられていました。
    マラソンの距離とか人との距離感とか。
    ほんと『ふたりの距離の概算』

    最後ははっきり終わらされてないけども、切ない終わり方でよかったな。



    @手持ち本

  • 雛がとてもかわいらしかったので少しびっくりしましたが、ほかのも確かにこんなしょっぱさでしたね。
    でもやっぱり、クドまでに比べると、お話がとってもかわいい。
    そして折木さんの変化に驚きが隠せません。
    最初、大日向が折木さんのことが好きで、千反田さんがどう見ても好きそうに見えるのに、応援するみたいなこと言われて怒ったのかな、そんなんだったら嫌だなと思っていたのですが、幸いに見当はずれでした。よかった(笑)

  • いつもクールな奉太郎が、大日向の入部取りやめについて真剣に推理します。
    しかも、マラソン大会中に!
    「ただ走るには長すぎる…」と、20キロのマラソン中に走ったり、歩いたりしながら関係者が追いついてくるのを待ちつつ、独自の理論を展開していきます。

    省エネの持論通り、ただ走るより考える時間にしたいと…。
    なかなか面白いヤツです。

    そろそろ恋愛ムードもでてくるかと思いきや、相変わらずの雰囲気。
    のんびり待ちましょう^^v

  • 古典部シリーズ5作目。
    このシリーズを読む度に思うこと…
    奉太郎も里志も何故こんなに頭がいい、賢いのだろうか? と。
    自分が高校生だった頃に、こんなふうに考えることはなかったなと。
    自分と比較してしまうことが間違ってるだろうし、
    彼らが単に頭がいい、賢いだけなのかもしれないし、
    そもそもフィクションの世界なんだものね。

    もうひとつ思うのが、摩耶花の奉太郎への態度。
    この原因は描かれていなかったよね?
    今後描かれることはあるのだろうか?

    作品としては、ひとりの女子生徒の心変わりの理由を
    推測するという物語を、何か大きな事件があるわけではなく、
    一冊の作品として描いているのだが、
    よく一冊もたせられるな…
    というのが感想でした。

  • シリーズを読んで。
    ミステリーの謎解きは、正直…と思う部分もありました。私個人としては、キャラクターが織りなす人間模様や、いい具合に隠し味の利いた会話に魅力を感じた作品です。

    今とてもホータローにエールを贈りたい!

    もし次回作があるならばぜひ読みたいですね。

  • 『ふたりの距離の概算』は、例の古典部シリーズの最新作です。まだアニメ化もされていません。

     なにしろ古典部シリーズなので、物語は例によって地味です。しかし構成は凝りに凝っています。

     内容は、校内のマラソン大会の最中に、主人公が延々と推理を巡らせながら走るというもの。彼に与えられた謎はこうです――「古典部に入部しようとしていた女子生徒は、なぜ、ある日突然に入部を拒否し立ち去ったのか」。

     主人公はこの謎を解こうとします。それまでの、その女子生徒との会話や言動をひたすら回想し、そしてそれら回想シーンの中から、手がかりを解答を導き出していくのです。そこに犯罪めいた要素はほとんどなく、いわゆる「日常の謎」の積み重ねとなっていきます。

     こうした推理の果てに立ち現われてくる真相には、驚かされるというよりも感心してしまいました。散りばめられた手がかりと伏線が丁寧かつ巧妙に、まるで網のように張り巡らされ、最後にはその網でガバッと物語全体がすくい取られます。

     この作品を例えるなら、精巧なからくり細工といったところでしょうか。よくここまで精密に作ったものだと思います。

     またその他にも、物語の舞台をマラソン大会という場所に設定したことに、作者のセンスを感じます。それはなぜか。

     まず「日常の謎」には、ある難点があります。日常的な情景の中に手がかりがさり気なく散りばめられており、それを元に謎が解かれる……という展開においては、時として、殺人や凶悪犯罪を取り扱うミステリよりもご都合主義的になることがあります。

     どういうことかというと、主人公がたまたまその手がかりを見聞きしていたり、その主人公の話を聞いただけのはずの探偵役が、まるで自身の実体験のようにその話を語り出したりすることがあるのです。そのあたりが、僕には「日常の謎」ものの難点というかご都合主義的に見えるのです。

    『ふたりの距離の概算』は、そうした難点に対するひとつの解決法を示していると思うのです。

     この作品では、探偵役は、すでに全ての手がかりと伏線を体験しています。ですから彼は、自分自身のセンスに任せて、謎の解決に関係ありそうな手がかりだけを記憶の中から抜き出せばいいわけです。言うなれば、先に書いたご都合主義を先回りしているんですね。ですから違和感をおぼえません。

     さらに、舞台をマラソン大会の場に設定することで「推理」と「行動」とが並行しており、読者を飽きさせません。またそこに、人間同士の距離感というテーマも盛り込んであるので、文学的な色香も感じます。

     こうした工夫が、僕の目にはとても魅力的なものとして映ります。

     ただ、探偵役が自分の記憶の中から手がかりと伏線を抜き出してくるという書き方は、ある意味でとても危険です。

     なぜなら、必要最低限の手がかりが示されることになるので、読者がすぐに真相に気付くかも知れないからです。

     そこで今度は、読者に真相を悟らせないための工夫も必要になってきます。『ふたりの距離の概算』にはそれがあります。決して派手で長大な作品ではありませんが、小振りなサイズの中に信じられないほどの精妙な細工が込められているのです。

     僕の好みで言えば、この『ふたりの距離の概算』は、一連の古典部シリーズの中でも一番好きかも知れません(二番目は「心あたりのある者は」、三番目は『愚者のエンドロール』)。

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ふたりの距離の概算 (角川文庫)の作品紹介

大人気<古典部>シリーズ第5弾が文庫化!

春を迎え2年生となった奉太郎たちの古典部に新入生・大日向友子が仮入部することに。だが彼女は本入部直前、急に辞めると告げる。入部締切日のマラソン大会で、奉太郎は走りながら彼女の心変わりの真相を推理する!

文庫第5巻はアニメ版表紙とのリバーシブル仕様です。

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