球体の蛇 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041006191

感想・レビュー・書評

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  • 読後、球体の蛇というタイトルに納得した。
    主人公が見聞きしたものが嘘なのか、主人公が考えたことが嘘なのか、何もかもが信じられない。
    曖昧なものが思いの繰り返しによって本当のようになっていく。
    想像や思いの中で物語が動いていくので(回想ってことじゃない)、まさに球体に閉じ込められたようだった。

    静かに進む出来事を不思議に眺めている、そんな気持ちで読み進めた。
    その感覚もまた、球体を見つめているようだ。

    最後の一行がとても印象的。
    そもそも終盤も印象的。

    奇妙な作品だったと思った。

  • 幼なじみの死の秘密を抱えた17歳の「私」はある女性に出会い惹かれる。その時言えなかった些細な真実が誰かを傷つけるなんて考えもせずに…。
    狭い世界でのたうち回る蛇のように、互いの嘘で傷つき傷つけあってしまう。最後の展開が救いだったのかはちょっと考えてしまうな。
    終始釈然としない主人公に苛立ちながら、妙に人間臭さも感じてしまった。

  • 2013.03.15読了。
    今年13冊目。

    著者の本は「向日葵の咲かない夏」から二冊目。
    向日葵〜が私は苦手な感じで...(私的にエグい暗い未来ない、かつよくわからん感じ)
    それから他の本を手に取ることすらなかったのだけど、これも友達から借りて。

    暗い、エグいは今回もかも。
    登場人物たちの暗い過去の事件や、
    それぞれが抱えている気持ち、ついてしまった嘘で暗い気持ちになりつつも、真実とその後の展開が気になり気付いたら一気に読み切り(笑)

    今回のキーワードは嘘。
    誰かがついた嘘で誰かが傷付き...
    巡り巡ってこんなにたくさんの人が傷付き、傷付け合ってしまうのだと思うと、嘘はつきたくないなと´д` ;

    ナオの嘘みたいに優しい嘘もあるのかもしれないけど、やっぱりできるだけ正直でいたいな。
    また真実を知る、追求することだけが幸せなわけじゃないとも思った。
    特に最後。
    どんなことがあっても大切なのは今なんだよなーと。

    そして最後解放された感じがほっとした。

    • ash1001kbcさん
      道尾さんは「光媒の蝶」なんかは良いですね
      道尾さんは「光媒の蝶」なんかは良いですね
      2013/03/15
  • ちょっとしたことで崩れそうな人間関係を間近で見ているようなハラハラ感。
    何が本当で何が嘘なのか分からない。ハッピーエンドと言っていいのだろうけどもやっとした終わり方。
    たまらない儚さを醸し出す作品でした。

  • スノードームの中を覗いているような感覚。
    登場人物の真意、また、真実がすべて明かされた訳ではない。スノードームの内側に降る雪の冷たさは、私たちには分からないから。
    暗くて、重たくて、胸に刺さるようなお話だったけれど、傘の下のナオは、きっと笑っているでしょう。
    深い余韻の残るお話でした。

  • 道尾作品文庫新刊。星はタイトルと表紙の絶妙さも込みで4つ。言葉がナイフに変わる瞬間は日常でもあるけれども、その極み。そして、何が真実であるかよりも生きてる自分を大切にしたい、と思った。結局、真実なんてあってないようなもんなのかも。

  • 最初から気持ち悪い小説で後味も気持ち悪い素晴らしい小説(褒め言葉)。西澤保彦の「黄金色の祈り」を思い出した。「球体の蛇」の方が主人公が純粋というか素朴というか、罪がない感じなのにどんどん不幸になっていく。それを全部必死に飲み込んで、生きていく決心。人生はままならない。

  • 今回はいつもの道尾秀介作品と一味違った二転三転でした。

    こういう静かな暗さ、嫌いじゃないです。

    まぁ主人公達にとっては決して静かな物語なんかでは無いのですが。

  • 皆嘘を内に抱えながら生きている。保身のための嘘もあれば救おうとしてついた嘘もある。嘘で作られたドームの中で、いつの日かやってくる救いを待っている。物語の終わりは雪で、まだ救いが来ていないことを示しているってことなのかな。。

  • 「道尾秀介」の長篇作品『球体の蛇』を読みました。

    『鬼の跫音』、『龍神の雨』に続き「道尾秀介」作品です。

    -----story-------------
    あの頃、幼なじみの死の秘密を抱えた17歳の私は、ある女性に夢中だった……。
    狡い嘘、幼い偽善、決して取り返すことのできないあやまち。
    矛盾と葛藤を抱えて生きる人間の悔恨と痛みを描く、人生の真実の物語。

    1992年秋。
    17歳だった私「友彦」は両親の離婚により、隣の「橋塚家」に居候していた。
    主人の「乙太郎さん」と娘の「ナオ」。
    奥さんと姉娘「サヨ」は7年前、キャンプ場の火事が原因で亡くなっていた。
    どこか冷たくて強い「サヨ」に私は小さい頃から憧れていた。
    そして、彼女が死んだ本当の理由も、誰にも言えずに胸に仕舞い込んだままでいる。
    「乙太郎さん」の手伝いとして白蟻駆除に行った屋敷で、私は死んだ「サヨ」によく似た女性に出会う。
    彼女に強く惹かれた私は、夜ごとその屋敷の床下に潜り込み、老主人と彼女の情事を盗み聞きするようになるのだが…。
    呑み込んだ嘘は、一生吐き出すことは出来ない―。
    青春のきらめきと痛み、そして人生の光と陰をも浮き彫りにした、極上の物語。
    -----------------------

    「道尾秀介」が、初めて「ミステリーではない」ことを意識して執筆された作品らしく… ちょっと物足りなさを感じましたが、『龍神の雨』と同様に、うまーくミスリードさせられ、物語が二転三転する展開だったので、序盤から終盤まで緊張感が途切れず、愉しく読めました。

    父親が家族に全く感心のないことが原因で両親が離婚… 父親と暮していた「友彦」は、父親が東京へ転勤した際、一緒に東京へ行くことを拒み、幼い頃から親しくしていた隣家の「橋塚家」に居候して高校生活を送っていた、、、

    「橋塚家」の家族は、白蟻駆除の仕事をしている父親「乙太郎」と娘の「ナオ」の二人… 7年前、キャンプ場でテントが火事になった事件で「乙太郎」の妻「逸子」は亡くなり、顔に大火傷を負った「ナオ」の姉「サヨ」は、事件後に自殺していた。

    「友彦」は、小さい頃から「サヨ」に憧れていたが、火傷を負った「サヨ」に対し、憐れみや同情の気持ちが強くなり、その気持ちを「サヨ」に話した直後に「サヨ」が自殺したことから、自分のせいで「サヨ」は自殺に追い込まれたと思い、そのことは誰にも言えず、自分の中で抱え込んでいた、、、

    土日に「乙太郎」の仕事を手伝い、白蟻駆除や点検で家々を訪ねるうち、「友彦」は「サヨ」に似た女性「智子」と出会い、彼女に強い魅力を感じた「友彦」は、夜な夜なその屋敷の床下に忍び込み、「智子」と屋敷の老主人「綿貫」との情事を盗み聞きするようになる。

    そんなある夜、「友彦」が、いつものように床下に忍び込んでいたところ、屋敷が火事になり「綿貫」は焼死… 床下に「友彦」が忍び込んでいたことを知っていた「智子」は、自分を「綿貫」から救うために「友彦」が放火したのだと思い込み、二人の関係は急速に親密になっていく。

    「智子」の勘違い… そして、それを否定せず、「智子」に近付きたいがために、自分がやったように仄めかす「友彦」、、、

    これが悲劇の始まりになるんですよねぇ… この後は、暗く哀しい展開が続きます。

    「智子」は、「友彦」を守るために「乙太郎」を持ってしまい、「友彦」は、その現場を目撃、、、

    さらに「智子」は、7年前のキャンプ場の火事は自分の煙草の不始末が原因と当時の教師「綿貫」に信じ込まされ、身体の関係を強要されていたことを告白… 「友彦」は、「智子」のせいで「逸子」が亡くなり、「サヨ」が自殺したことを知り、「智子」を罵倒して、彼女の部屋を後にする。

    思いやりの嘘や狡猾な嘘、同情に満ちた言葉、怒りの感情を抑えきれない言葉、そして胸に秘めた隠された事実… これらの言葉が相互に作用して、複雑に交錯、、、

    「智子」は自ら命を絶ち… と、負の連鎖を生み出すんですよねぇ。

    終盤では、「ナオ」の証言から、キャンプ場の火事は、「智子」のせいではなく、「サヨ」がテント内で花火に火を点けたことや、「サヨ」の自殺は「友彦」の同情とは関係なかった… ということが明らかになり、「友彦」は「ナオ」と結婚・妊娠と、二人の幸せな生活を予感させるエンディングでしたが、、、

    これも、「友彦」のことを自分のものにしたい「ナオ」の嘘だったのかもしれない… という、微かな不安を含んでおり、読み手によって、色んな解釈の仕方のある物語だったと思います。

    複雑な余韻の残る作品でしたね、、、

    この作品には、嘘を抱えた人間がたくさん出てくるのですが、良かれと思った嘘のせいでお互いを思いやる気持ちにズレが生じて、すれ違ってしまう… 本心でぶつかることを恐れたことにより誤解が生じているんですよね。

    これって、事の大小はあるけど、現実世界では日常茶飯事として起こっていることなので… 身近な自分の行動に置き換えて、一つひとつの言葉の大切さや、影響の大きさについて、考えさせられました、、、

    摩擦を恐れて誤魔化すばかりじゃなく、本音で、本心でぶつかることも必要なんだと改めて感じました。


    本作品、ミステリ的な要素を残した、青春小説、恋愛小説として巧く仕上がっていると思います… 「道尾秀介」の新しい境地かな、、、

    でも、個人的には、もっともっとミステリ色の強い作品を描いてほしいと思います。

著者プロフィール

1975年生まれ。2004年『背の眼』で「ホラーサスペンス大賞特別賞」を受賞し、作家デビュー。同年刊行の『向日葵の咲かない夏』が100万部超えのベストセラーとなる。07年『シャドウ』で「本格ミステリー大賞」、09年『カラスの親指』で「日本推理作家協会賞」、10年『龍神の雨』で「大藪春彦賞」、同年『光媒の花』で「山本周五郎賞」を受賞する。11年『月と蟹』が、史上初の5連続候補を経ての「直木賞」を受賞した。その他著書に、『鬼の跫音』『球体の蛇』『スタフ』『サーモン・キャッチャー the Novel』『満月の泥枕』『風神の手』『N』『カエルの小指』『いけない』『きこえる』等がある。

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