南の子供が夜いくところ (角川ホラー文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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本棚登録 : 873
感想 : 83
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041007129

作品紹介・あらすじ

からくも一家心中の運命から逃れた少年・タカシ。辿りついた南の島は、不思議で満ちあふれていた。野原で半分植物のような姿になってまどろみつづける元海賊。果実のような頭部を持つ人間が住む町。十字路にたつピンクの廟に祀られた魔神に、呪われた少年。魔法が当たり前に存在する土地でタカシが目にしたものは-。時間と空間を軽々と飛び越え、変幻自在の文体で語られる色鮮やかな悪夢の世界。

感想・レビュー・書評

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  • ☆4.0

    ゆるくつながる七編が収録されている。
    語り口は淡々としているが、そこには確かに叙情が滲む。
    南国の架空の島、トロンバス島が主に舞台となっているが、いつの間にか現実との境界を越えてあちらへ行ってしまいそうになる気持ちを体験した。

    「南の子供が夜いくところ」
    一家心中による死を迎えようとしていた一家が、訪れたバスの露店で出会ったのは、120年生きている呪術師の女性ユナだった。
    息子のタカシはユナに連れられていったトロンバス島で生活しながら、別々の島で働いているという両親を待っている…

    自分の知らぬところで自分のことが決められ、目まぐるしく振り回されたタカシが、本当の意味でトロンバス島に馴染んだのはきっとこの夜なんだろう。

    「紫焰樹の島」
    ユナが子供の頃住んでいた島には紫焰樹と呼ばれる樹があった。
    その場所は聖域となり、つけた果実は村でも大事にされ一年に一度の祭りの時のみ食すこととされていた。
    聖域にたどり着けるのは果樹の巫女だけ。
    ユナはある時紫焰樹に偶然たどり着き、巫女に選ばれたのだと知る…

    じゃれ合うユナとトイトイ様がとってもキュート。
    "古き良き"という表現が似合いそうな島は、その存在自体がファンタジーそのものだ。
    紫の焔のように見える紫焰樹の花を心底見てみたいと思った。

    「十字路のピンクの廟」
    トロンバス島のティアムという街で見かけた十字路にあるピンクの廟。
    中には木彫りのご神体があり、通りすがりの女の子が投げキスをしている。
    街の風習かと思いきや、知らない人もいる。
    聞き込みしてみると、小学校の先生が建てたと言う。
    何故そんなものを建てたのだろうか…

    な、なんておちゃめなヤツなんだ!と思ってしまった。
    絶対むっつりだぜ、あいつ。
    そんな一面も持っているけれど、本当は怖いヤツなんだろうな。

    「雲の眠る海」
    島の祭りが盛大に行われた翌日、ペライアは大国を後ろ盾にした付近の島から攻め落とされた。
    伝説にある島の一族の力を借りれば攻め返すことも不可能ではない。
    自らの家族の安否もわからぬまま、シシマデウは〈大海蛇の一族〉を探すため海に漕ぎ出した…

    明確に言葉にできないけど、とんでもなく切ない気持ちを心に刻み込んでいった一編。
    それは何故か泣き出してしまいたくなるような、もしかしたら傷なのかもしれない。

    「蛸漁師」
    崖の下に若い男が死んでいる、そう警官へ告げた蛸漁師をしている男は「ヤニューって知っているか?」と聞いた。
    その男が蛸漁師になった理由、そしてその崖にいた理由が少しずつ語られ明らかになってゆく。
    何故彼は警官にそんな話をするのか。
    そのことにさえ、とても大きな理由があるのだ…

    ちょっとミステリっぽさもあって、スリリングで好き。
    "俺だけが知ってる蛸の秘密"が、すごい究極の悪趣味よね。
    爺さんの愉悦って感じ。

    「まどろみのティユルさん」
    目覚めた時、何かに埋まっていた。
    動けずに長い眠りの中にいたが、飲まず食わずでも平気だった。
    名前はティユル。
    思い出してみれば海賊をしていた過去が浮かぶ。
    その頃出会った人、奪ったもの、奪った命、与えたもの。
    海賊をやめた後のこと。
    このまどろみの先には何が…

    一番好きな一編かも。
    読んでいるうちにティユルさんが雲上の人に思えてくる。
    ゆるやかな永遠の平穏にいてほしい。

    「夜の果樹園」
    ケイタは息子のタカシに会いに行くためにバスに乗った。
    間違ったバスだとは知らずに。
    たどり着いたのは町中に蔦が絡まる奇妙な町。
    そこに住むのはフルーツ頭の奴らだった。
    バスの停留所に戻ってもバスは一向に来ない。
    そこで赤ひげと名乗る一人の小鬼と出会う…

    この連作の中では最もホラーっぽい。
    流されて流されてここまで来たか。
    思えば最初からタカシの父親はそんな感じだったね。
    もうきっとタカシの方がしっかりしてるぞ!



    続きが読みたいような、でもここで終わっていてほしいような、自分の中でも面白い位置に残る作品集だった。
    あわよくば、恒川さんの他の作品で少しリンクとかしてくれたら嬉しい。

  • 再読。今回もひんやり涼しく、楽しく読みました。
    小さな島なのかと思っていましたがかなり広いトロンバス島。コミュニティが小さくないからおおらかなのか、ユナを始めとして不思議な存在がたくさんあるから、今更変わった事があっても…みたいになるのか。いいな、南の島。
    トロンバス島が舞台じゃないお話もあってそちらは時代が違うけれど、その他は「こう繋がるんだ…」というゾクッと感があって良かったです。
    「まどろみのティユルさん」が今回も好き。ソノバのご先祖、「穏」の出身なのか。あの町から離れたら、一処に留まれずこの世界を巡り廻る定めなのかもしれない…と思ってしまう。それはそれとして、ティユルさんはこれからも大きな木陰を作って微睡んでるんだろうなと、聳え立つ菩提樹が目に浮かぶようです。
    タカシも波乱万丈だけれど、父ケイタもなかなか…フルーツタウンで迷子になってる場合じゃない。タカシ、トロンバス島に来られて良かったね…一家心中で死ななくて、というより、この両親のもとで育ってたらひねくれてそう。
    話数が多い連作短編集だと、恒川ワールドは時間にも広がりを見せてくるのが良かったです。滅びる場所もあるけど、何百年も続いてきて、また続いていく世界を感じられました。

  • 神秘や怪異がすぐ隣に「ただ、ある」ような。足元を少し掘れば残酷な歴史がすぐそこに現れるような。
    夢と現実がゆるやかに溶け合うような島の、連作短編集。

  • 今回も面白かった。
    最初の短編が結論なく終わったから不完全燃焼と思っていたが、全ての話においてタカシが絡んでおり、彼の島での生活が垣間見れる。
    オンも出てきて、他の作品と繋がった。
    それぞれの短編で主人公となる人物が決まっており、読みやすかった。
    情景描写も鮮やかで行ったことのない島の暮らしが目に浮かぶ。


    ・南の子供が夜いくところ
    一家心中寸前のところユナに手助けされ、南の島にやってきたタカシ。
    父親とも母親とも別々の島に暮らすことになる。
    結論が出るわけではないけど、タカシは生き延び日本に戻ってきたのかな、と思われる描写が冒頭にある。
    母親の勝手で振り回された子供が許さない気持ちわかる。南の子供が夜悪夢を見た時に行くところは、悪夢を取り除いてくれるおばさんの家。
    ・紫焔樹の島
    ある島ではタイトルの樹が一本生えている。実を食べれるのは一年に一度のみ。樹の場所がわかるのは女性だけで、選ばれたものは果実の巫女と呼ばれる。果実の巫女は島の神様トイトイ様と話せる。
    果実を食べると不老不死にはならないが、力が漲る程度の効果はある。白と赤の実のうち赤しか食べちゃダメ。主人公はユナ。最後は島全員伝染病で全滅し、ユナが白い実を食べてしまい、イギリスから来たスティーブンと島を離れておわる。
    この不思議な設定がもう面白いし、作り込まれた世界観。トイトイ様みたいな神様と私も友達になりない。
    ・十字路のピンクの屏
    タカシの友人のロブが主人公
    ロブが会った魔神がロブに変装して女性とキスをする願望を叶えた話。
    墓参り、私は全然行かないけど、死体を出して新しい布を巻き直して囲んで宴会する、ってなかなか子供には衝撃的だと思った。
    ・雲の眠る海
    ある島から命からがら逃れた戦士の話。伝説の海龍蛇の民族を探し、島を助けてもらうために旅に出る。結果現代のユナとタカシがいる島に流れつく。
    男のいた島は昔水没し遺跡の島となっている。雲が海面に着くほど下がってきて、雲の中を泳いだあと島に着いたこと先にユナたちがいた。タイムスリップもの。男は最後消えた。
    ・蛸漁師
    岬で蛸漁師をしている男が主人公。
    蛸漁師に至るまでの一連の事件を語る。この男の息子はユナとタカシに会ったことがある子供だった。彼が死に、検証をした父親が結果的に復讐を果たし、これまでの不思議な一連の顛末復讐した相手の父親に話しているというオチ。
    ・まどろみのティユルさん
    海賊だった男が主人公。ティユルは目が覚めると石になっていた。石だけど話せるし、少しずつ体が土から出てくる。タカシと話すこともできる。子供の頃のユナとも知り合いで、再開は果たせず木になった。オンが出てきた!!

    ・夜の果樹園
    タカシの父親が主人公。タカシに会うためにやってきた島のバスに乗って、終点で降りると犬になっていたところから始まる。犬になって、小鬼になって、アボカドになって、最後は人に戻ってタカシに会えただろう、流れ。何年間ものストーリーに感じるがたった1日だったという神隠し的なオチ。島の裏の野生のフルーツがたくさんなってる廃墟に行ったと考えられる

  • 傑作『夜市』から続いてきた異郷を舞台にした作品群から一転。伝説、民話、神話、怪談という民族心理に根付いた寓話を一つの舞台で語られる短編集として構成、展開しようとした恒川光太郎の意欲作。
    絶望の淵からの再生と復活をテーマに7つの話が語られてゆく。表題の『南の子供が夜いくところ』は、この短編集のプロローグ的な話であり、主人公のタカシ少年と大呪術師ユナが南洋に浮かぶトロンバス島との関わり合いと、この島にまつわる奇談で読者を現代、過去、異界へ縦横無尽に駆け巡る異世界へと誘う構成と飽きることなく一気に読ませる「技」は見事。日本人の深層心理にある「南国望郷論」に基づくユートピア「トロンバス」。大自然の不思議は神々へ畏怖と優しさとして人の中に息づく。恒川が魅せた新たな「異世界」。
    作中、トロンバス島の住人の中に「ON:オン」からやって来たとされる人物は前作『雷の季節の終わりに』の舞台となった「穏:おん」からか?ちょっとしたファンサービスが嬉しい。

    • はこちゃんさん
      そうだ、文庫本化されていたのですね。買わなくちゃ♪ 竜が最後に帰る場所も早く文庫化しないかな~と思ったら、おぉ、13日発売!マエストロさん、...
      そうだ、文庫本化されていたのですね。買わなくちゃ♪ 竜が最後に帰る場所も早く文庫化しないかな~と思ったら、おぉ、13日発売!マエストロさん、サンキューです(*^-゚)b
      2013/09/05
  • 作者特有の、現実と異世界との境界が曖昧な、異界が現実と混ざっているような雰囲気が好きな私にとっては満足極まりの作品だった。
    あと、タカシ可愛い。

  •  文章は軽妙で読みやすくスルスル読めていく。悪霊やら不思議な存在が関わる話したちはなかなかに楽しい。短編集なものの、島々の今や過去を舞台にした話なので歴史やよく出てくる不思議なキャラの背景がわかり先に進むほど、不思議な世界に入り込める。
     続きがあるならもっと読みたいところだ

  • 一家心中の運命から救われた少年が、彼を救った魔女(?)に連れられて南の島で暮らし始める……。こう聞かされても、今時の読者はそこまで甘いだけに話を想像することはないだろうが、それでも大方の予想を超えて、血なまぐさく、暴力に満ちた連作集。全体の雰囲気から少しズレているような「十字路のピンクの廟」や、スーパーナチュラルな出来事が起きない「蛸漁師」なんかが好み。

  • 「南の子供が夜いくところ」南の島々を舞台にした7つの話。リアルで御伽噺で不思議な世界観、雰囲気。太陽の匂い、湿った夜の匂い、果物の熟れた甘い匂いがしてくるような錯覚。スッキリとはしないかもしれないけど、夢と現と過去と現実をたゆたう楽しさだった。

    「蛸猟師」「夜の果樹園」が不気味で何か良かった。「夜の果樹園」は映像で見たいけど、なかなかにグロテスク。変に記憶に残ってしまいそうだけど、この話が不気味で奇妙で私は好きだったな。

  • 時代や国を超えて、人々が繋がるところが好き。思いもよらない展開にぐんぐん惹き込まれました。何となくハロウィンの読書におすすめしたい本です。

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著者プロフィール

1973年東京都生まれ。2005年、「夜市」で日本ホラー小説大賞を受賞してデビュー。直木賞候補となる。さらに『雷の季節の終わりに』『草祭』『金色の獣、彼方に向かう』(後に『異神千夜』に改題)は山本周五郎賞候補、『秋の牢獄』『金色機械』は吉川英治文学新人賞候補、『滅びの園』は山田風太郎賞候補となる。14年『金色機械』で日本推理作家協会賞を受賞。その他の作品に、『南の子供が夜いくところ』『月夜の島渡り』『スタープレイヤー』『ヘブンメイカー』『無貌の神』『白昼夢の森の少女』『真夜中のたずねびと』『化物園』など。

「2022年 『箱庭の巡礼者たち』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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