三秒間の死角 上 (角川文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (464ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041010730

作品紹介・あらすじ

犯罪組織から刑務所に麻薬密売の拠点を築くよう命じられた警察の密告者パウラ。政府上層部の後ろ盾を得て順調に商売を始めたが、やがて入所前に彼が関わった殺人事件を捜査するグレーンス警部の追及の手が伸びて……

感想・レビュー・書評

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  • 刑務所内に潜入捜査中の元犯罪者のパートと塀の外で起きた、その男が犯人と思われる殺人事件を追うグレーンス警部のしつこい捜査パートで進んでいく…感想は下巻で

  • 上巻でいろいろ仕掛けた。下巻でそれがどうやって結末に結びついていくのか楽しみ。

  •  本書は、『制裁』『ボックス21』『死刑囚』『地下道の女』に続くエーヴェルト・グレーンス警部シリーズの5作目であり、ある種の到達点となる作品である。それぞれの作品はそれぞれに異なる事件を扱っているものの、シリーズ全体がグレーンス警部を中心とした人生ヒストリーとなっているため、物語を動かす人間たちにも重点を置いて読みたい方は、どうか最初から順にお読み頂きたい。

     かつてランダムハウス社から出されていた三作は同社倒産による長い絶版の後、『熊と踊れ』が大好評を得たことから同ハヤカワ文庫よりシリーズとして順次再刊された。角川文庫で本書が発売された当時から6年もの間未完であった待望の『地下道の少女』は、この2月に新訳で上記ハヤカワ文庫のシリーズに加わったため、今であれば、誰もが正当な順番で読み進めることができる。ぼくもその種の幸福な読者の一人であった。

     そのことをここで強調しているのは、これまでの作品の経緯が本書の物語中各所で語られたり、過去作品の登場人物が再登場したりすることに加え、グレーンス警部にとって『地下道の少女』の巻末近くで大きな転機となる出来事が起こり、本書はそれを受けて、その影響から未だ逃れられず、元来の奇矯な行動にもさらなる変化や迷いが生じ、それが周囲のレギュラー・キャラクターとの関係性にも大きく影響を与えてゆき、それは大きなサブ・ストーリーとして本書の事件にも大きく関わってくるからだ。作品毎のストーリーに、シリーズ全体の流れを読み加えると、一冊一冊の物語に相当の奥行と深みが加わるので、大変重要なことだと思う。

     さて、この作品のことに移ろう。

     そう。この作品は、シリーズとしても単発作品としても、最初から不穏な爆発物だった。本作の前半部(上巻)は、導火線だった。その長い導火線は、実は最初から点火された危険な状態で読者に渡されていたのだが、その事実にぼくらが気づくのは、ずっと後、上巻の最終行に至る頃だ。

     そして下巻では、行頭から凄まじい火力の爆発が待っている。爆発後には、収拾の着きそうにない、絶望的な状況が残る。しかし、ここにグレーンス警部シリーズが関わってゆくことで、この難事件の解決に向けて強力な化学反応が生まれる。その構成だけで、十分にすべてが成功している。読後の今だから言える。最後の最後まで、物語の真実はわからない。タイトルの意味も。

     今回、作品が扱っているテーマは、犯罪者を警察の協力者に仕立て上げ組織に入り込ませる不法な国家レベルの機密となる潜入捜査である。この潜入捜査を強いられ日々を消耗する主人公は、ピート・ホフマンこと暗号名パウラ。警察機構の極々上部の者しか関わらず、極秘裡の超法規的捜査活動に携わる者たちの心にも大なり小なりの悪の濃淡が感じられ、自らの人間性に向き合う者は、過酷なストレスに曝される。

     パウラたちのようなスパイは、正体が割れた途端に組織から追われる身となるが、警察機構にとってはその瞬間から彼らは使い捨ての存在となる。そうした一つの駒に過ぎないパウラは、ある刑務所内での薬物流通を乗っ取り、組織を壊滅させるという重い任務を背負い込む。物語は、深く組織に潜入した主人公パウラを主体に、緊迫した時間と、彼の綿密な準備活動と、その後の作戦の経緯と、そして文字通り爆発的な転換によって静から動へと変わる。

     パウラの受ける運命の過酷。切り抜ける意志と、閉じる罠。下巻の疾走感は素晴らしい。この作者ならではのものであるストーリーテリング。パウラの起こした大爆発。そして収拾を運命的に引き受けることになるエーヴェルト・グレーンス警部。彼の心の救いを求める物語と同時進行し、収斂してゆくこの巨大な物語に、握り拳で快哉を叫びたくなる。傑作としか言いようがない。

     『制裁』『死刑囚』に続いてシリーズ三本目の舞台となる刑務所内部であるが、そもそも元ジャーナリストであるルースルンドと、共著者であり自らが服役囚でもあったトゥンベリのコンビなので、事実とフィクションをミックスさせて創ってきた本シリーズに重みがあるのである。しかし超法規的捜査活動による捨て駒の存在や彼らに関わる人物履歴データの違法改竄などは現実のものであり、この物語のように収集が着いてはいないらしい。エーヴェルト・グレーンス警部はフィクションなのである。常に現実とフィクションを混ぜ合わせて社会の現実にある矛盾を告発する立場での文学活動を基とするこのシリーズは数々の文学賞に輝いている。当作品は英国でのインターナショナルダガー賞、日本でも翻訳ミステリー読者賞受賞と高く評価されている。

    • トトさん
      素晴らしいレビューを読めて感激です!このように読んでもらえたら作者も感無量でしょうね。
      素晴らしいレビューを読めて感激です!このように読んでもらえたら作者も感無量でしょうね。
      2020/03/25
  • 犯罪組織の中枢にまで潜り込んだスウェーデン警察の潜入捜査員パウラ。組織に与えられた任務は、刑務所内に麻薬密売の拠点を作ることだった。秘密裏に政府上層部のお墨付きを得たパウラは、巧妙な手段で麻薬を所内に持ち込み、ライバル業者を蹴落として商売を始めた。だが、パウラの正体を知らないまま、入所前に彼がかかわった殺人事件を捜査するグレーンス警部の追及の手が迫るのを知った政府上層部は非情な決断を下す…。英国推理作家協会(CWA)賞受賞、スウェーデン最優秀犯罪小説賞受賞。

    グレーンス警部シリーズ翻訳第四作。でも主役は潜入捜査官のパウラことピート・ホフマン。下巻に続く。

  • 2023/8/16読了予定。

  • 犯罪者による潜入捜査
    今後どうなるか、気になるまま下巻に続く

  • スウェーデン作家「アンデシュ・ルースルンド」と「ベリエ・ヘルストレム」の共著の長篇ミステリ作品『三秒間の死角(原題:Tre sekunder)』を読みました。

    『制裁』、『死刑囚』に続き「アンデシュ・ルースルンド」と「ベリエ・ヘルストレム」の共著の作品です… 北欧ミステリが続いています。

    -----story-------------
    〈上〉
    驚愕の結末へ、ノンストップで疾走する!
    英国推理作家協会賞受賞作

    犯罪組織から刑務所に麻薬密売の拠点を築くよう命じられた警察の密告者「パウラ」。
    政府上層部の後ろ盾を得て順調に商売を始めたが、やがて入所前に彼が関わった殺人事件を捜査する「グレーンス警部」の追及の手が伸びて……

    〈下〉
    『死刑囚』を超える北欧ミステリ最高峰。
    スウェーデン最優秀犯罪小説賞受賞

    政府上層部は保身のために「パウラ」を切り捨て、彼の正体を刑務所内に暴露した。
    裏切者に対する激しい攻撃を受けた「パウラ」は、入所前に準備した計画を実行に移す。
    その行動は誰にも予想のつかない大胆不敵なものだった!
    -----------------------

    本作品はストックホルム市警の「エーヴェルト・グレーンス警部」と「スヴェン・スンドクヴィスト警部補」が活躍するシリーズの第5作… 2009年(平成21年)に発表された作品です、、、

    本シリーズを読むのは、第1作の『制裁』、第3作の『死刑囚』に続き3作品目ですが、本作品がイチバン愉しめましたね… 面白かったです。


    麻薬密売組織を内部から壊滅させるために極秘の潜入捜査を任じられ、麻薬密売組織の中枢まで上り詰めた優秀な警察の潜入捜査員「ピート・ホフマン(パウラ)」… 彼が身分を装って組織に潜入している最中、買い手として現れた男が別の潜入捜査官だと判明し、「ホフマン」の制止もむなしく男は組織の人間に銃殺されてしまう、、、

    潜入捜査が見破られれば己も死ぬ… しかし、更に踏み込んだ危険な任務を遂行しなければならない、「ホフマン」にはかけがえのない家族がおり、絶対に失敗できない。

    ストックホルム市警の「エーヴェルト・グレーンス警部」は、「ホフマン」が潜入捜査官であることを知らず、彼を凶悪な犯罪者と認識して捜査を進める… 「ホフマン」が組織に見破られないよう布石を打った偽装が完璧であるほど、警察に追い詰められる… 「グレーンス警部」が捜査を進めれば進めるほど「ホフマン」の脅威となる、、、

    それでも「ホフマン」は最後にして最難関の任務を果たすべく、ある計画を実行に移す… 重罪刑務所に麻薬密売の拠点を築くべく、法務省上層部の極秘の後ろ盾を得て、アスプソース刑務所内へ潜り込み商売を始めたが、その正体を知らぬまま、入所前に彼がかかわった殺人事件を捜査する「グレーンス警部」の追及の手が伸びるや、法務省上層部は保身のために「ホフマン」切り捨てを決定する。

    政府上層部がとった「ホフマン」切り捨て策は、彼が潜入捜査員であることを刑務所内に暴露することだった… たちまち裏切り者に対する容赦ない攻撃が始まる、、、

    「ホフマン」は、刑務所長の「レナート・オスカーション」を殴打して、自ら完全隔離区画へ収容されるが、そこも安全ではなかった… ここに至り、「ホフマン」は入所前に準備した計画を発動させることを決意する。

    生き延びるために彼がとった行動は、誰にも想像さえつかない緻密、かつ大胆なものだった! 驚愕の結末へ向かってノンストップで疾走する刑務所サスペンスでしたね、、、

    最悪の事態を予測して周到な対策を講じていた「ホフマン」が、強い意思と信念を持って、当初の目的の遂行と刑務所からの脱出を試みる行動、生き延びるための孤独な闘いに感情移入しつつ、一部の情報しか知らされず、限られた情報の中から「ホフマン」の狙撃を判断する「グレーンス警部」にも感情移入してしまい、どっちに肩入れして良いのかわからないまま、双方の立場になって読み進めました。

    図書館の本に分解して隠して持ち込んだ約5cmのミニガンを使い、看守長の「マルティン・ヤコブソン」や敵となったヴォイテク配下の囚人を人質に立てこもり… 「グレーンス警部」が狙撃兵「ステルネス」を使った狙撃を強行、狙撃後の謎の大爆発、、、

    その後、「ホフマン」が事前に手配していた郵送物により「グレーンス警部」に真実が知らされ… 「グレーンス警部」は、検察官の「ラーシュ・オーゲスタム」とともに警察上層部や法務局の関係者を追い詰めていく。

    これまで読んだ本シリーズの中では、最もエンターテインメント性が高く面白かったですねー 終盤の「グレーンス警部」の活躍にもカタルシスを感じましたが… 銃殺された後、爆発により粉々になった(はずの)「ホフマン」が計画していた作戦の全貌を知らされたときの驚き、そして、喜びはうまく表現できないほどでした、、、

    さらなるカタルシスを得ることができましたね… ホントに愉しめました。

    「アンデシュ・ルースルンド」と「ベリエ・ヘルストレム」の作品、他にも読んでみたいです。


    以下、主な登場人物です。

    「エーヴェルト・グレーンス」
     ストックホルム市警警部

    「スヴェン・スンドクヴィスト」
     ストックホルム市警警部補、エーヴェルトの同僚
     
    「マリアナ・ヘルマンソン」
     ストックホルム市警警部補、エーヴェルトの同僚

    「ニルス・クランツ」
     ストックホルム市警の鑑識官
     
    「フレデリック・ヨーランソン」
     ストックホルム市警の警視正。犯罪捜査部門の長

    「エリック・ウィルソン」
     ストックホルム市警の潜入捜査担当官
     
    「イェンス・クレーヴィエ」
     ストックホルム市警のインターポール担当者

    「トール・エイナション」
     ストックホルム市警押収品保管室の職員
     
    「ラーシュ・オーゲスタム」
     検察官

    「ルードヴィッグ・エルフォシュ」
     法医学者

    「ポール・ラーシェン」
     刑事施設管理局局長
     
    「ウルリカ・ダニエルソン」
     裁判所管理局の職員
     
    「ヤコブ・アナスン」
     コペンハーゲン市警強行犯課の警部

    「レナート・オスカーション」
     アスプソース刑務所長
     
    「マルティン・ヤコブソン」
     アスプソース刑務所の看守長
     
    「リュデーン」
     アスプソース警察の警部補

    「ヨン・エドヴァルドソン」
     警察特殊部隊司令官
      
    「ステルネス」
     狙撃手
     
    「カーステン(イェンス・クレスチャン・トフト)」
     コペンハーゲン市警強行犯課の警部
     
    「ピート・ホフマン(パウラ)」
     警察の潜入捜査員

    「ソフィア」
     ピートの妻

    「ヒューゴー」
     ピートの息子

    「ラスムス」
     ピートの息子

    「ズビグニエフ・ボルツ」
     ヴォイテク・セキュリティー・インターナショナル社副社長

    「グジェゴシュ・クシヌーヴェック」
     実業家。犯罪組織ヴォイテクのトップ

    「ヘンリック・バク」
     ヴォイテクの連絡係

    「マリウシュ」
     ヴォイテクの一員

    「イエジ」
     ヴォイテクの一員

    「ステファン・リガス」
     ヴォイテク配下の囚人

    「カロル・トマシュ・ペンデレツキ」
     ヴォイテク配下の囚人

  • 導入部分から引き込まれた。
    グレーンス警部はどう関わっていくのか。楽しみ。

    グレーンス警部はやっと吹っ切れたんやろか?

  • 上巻はろくでもない予感しかしない上、はなはだ息苦しい展開。ほとんど心が折れながら、先達のレビューを読んでみた。
    「話が動き出すまでは苦痛でしかないが、その後は俄然面白くなるので我慢して読み進めてほしい」
    我慢してみた。
    そのとおりだった。

    それにしても前半はつらい。
    もう最初っから、いやな空気しか漂っていない。おまけに主人公側が、「ボックス21」で盛大にやらかしたグレーンス&スンドクヴィストである(ヘルマンソンは無実なので除く)。どう目を凝らしてもバッドエンドしか見えなくて、気が進まないなんてもんじゃない。
    たぶん、ほとんどの読者がそうなんじゃないだろうか。そこで私も先人に倣い、声を大にして言っておこうと思う。
    「どうか、上巻で投げ出してしまわないで。我慢して下巻まで読んで。最後はきっと、面白くなるから!」

    救いのかけらのないオチも5作めともなるとさすがにまずいと思ったか、前作までとは趣を変えて曙光の見える終わり方。
    とはいえ泣く子も黙る北欧ミステリである。アメリカンな大団円を期待してはいけない。
    それでもほっと息をつき、次作も読もうと思わせてくれるラストだった。

    2022/1/5~1/15読了

  • <学生コメント>
    犯罪組織に潜入した警察官が、刑務所におけるミッションのさなかに様々なトラブルに巻き込まれる。それを切り抜けるための三秒は果たして長いものなのか、短いものなのか・・・死角がないように隅々まで読んでみてください。

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著者プロフィール

アンデシュ・ルースルンド 1961年生まれ。作家・ジャーナリスト。ヘルストレムとの共著『制裁』で最優秀北欧犯罪小説賞を受賞。

「2013年 『三秒間の死角 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

アンデシュ・ルースルンドの作品

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