ずっと、そばにいる: 競作集〈怪談実話系〉 (角川文庫 ゆ 12-1)

著者 :
制作 : 「幽」編集部 
  • KADOKAWA
3.14
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本棚登録 : 70
感想 : 11
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  • Amazon.co.jp ・本 (267ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041012888

作品紹介・あらすじ

友人の家で見かけた奇妙な箱。ずっと、まとわりつく淫靡な牝の臭い。取り憑かれた人々-「これは実話ではない」と断言しつつ怪談実話のテイストを存分にかもしだす京極夏彦の名品「成人」をはじめ、日本唯一の怪談専門誌「幽」に集う恐怖の紡ぎ手10名が、幽明のあわいに文芸としての怪談の極意を追求し大反響を呼んだ、伝説の書き下ろし競作集。誰も味わったことのない戦慄と陶酔が今宵、貴方を待ちうける…。

感想・レビュー・書評

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  • 怪談本の中では中の上には入れられるくらい面白かったです。普段長編過ぎて読む機会があまりない京極さんの『成人』はなんとはなしの淫靡さと文芸の香りがしました。
    作家としての色の濃い方と怪談を語る場でよく見かける方がいらっしゃいますが、文章にすると面白いけど語りはちょっとという方とその反対の方といらっしゃいますね。

  • 怪談専門誌「幽」の作家さんたちによる〈実話系〉怪談の競作集。この中で目玉というか、やはり一番怖く、面白かったのは冒頭の京極夏彦「成人」だろう。
    (以下、内容ネタバレます)
    雛人形について綴った子供の作文、中学時代に友人の家で見つけた奇妙な箱の不気味な中身について書いた高校生の作文、さして仲良くもなかった大学の同窓生の家に泊まった際に見た奇妙な夢の話……それらが全て一つの家について書いていることなのだとわかった瞬間の恐ろしさ。裲襠(うちかけ)が衣紋掛けにかかっている仏間。親父さんの謎の言葉。結局のところ、それが何だったのかはわからない。二十年近く経って、かつて大学生だったBはまた思わぬ形でその家に引き寄せられてしまう。ちょっとクトゥルフ味もある。

    その他作家陣も著名な人たちばかりであるが、正直、インパクトある作品はなかった。体験談(っぽい作風)がほとんどだからだろうか。そういうコンセプトだから当然なんだけど。心霊の話が多い中、岩井志麻子さんのは自身が引き寄せてしまったヒトコワ話で、印象に残る。

  • 面白かったです。
    よくあるおばけ〜な話と違って、プロの人の書く恐い話です。
    1つ目の話からすごく引き込まれました。

  • 実話とは言いがたいが、奇妙な話はこの世にいくつもある。それが実際にあったかどうかを考えるのはあなた次第だ。でも、もし。もしこの本に書いてあることが本当ならば、おそらく世界は怖いもので溢れているのだ。
    ***
    今年読み終わった記念すべき第一冊目。実話怪談系の本。実話怪談系という事なので、実話とも創作とも言い難い話をそれぞれの作家が書き出す。この本を読んで一番驚いたのは、京極夏彦が実話怪談系を書いていることを知ったこと。百鬼夜行シリーズや巷説百物語シリーズの印象が強くこういう実話怪談系というのはとても新鮮だった。(調べてみると他にも何作かMF文庫ダ・ヴィンチの実話怪談系に書下ろしを載せているので私が知らなかっただけなのだが)他にも、怪談話を多く手掛ける面々が名を連ねており、非常に豪華な競合作だった。どの話も面白かったが、特に面白かった話は「成人」、「見知らぬ女」、「顔なし地蔵」、「爺の怪談」。 「成人」は京極夏彦の作品。とある二つの作文とそれに伴う証言から紐解く、得体のしれない古い風習を取り扱った不気味な話。始まりは二つの文章から。一つ目は小学生が書いたと思しき作文、二つ目は高校生が文芸誌に寄稿した奇妙な話。小学生の作文は桃の節句について書かれた、普通の日常的な作品だと思って読んでいたが、ある一文に引っかかりを覚えた。見れないってどういうことだ?その期間中ならいつでも見れるだろうに、と首をひねりながらその作文を読み終えた。その時点で何か妙な気分だったが、その後に続く高校生の寄稿した話を読んで更に変な気分に。こちらの話は、もう最初から怖い話といった感じだった。あったことを淡々と書いてあるだけなのだが、それが余計に薄気味悪さ、得体に知れなさに拍車をかけていた。ここの文芸誌に載っていることは本当なのか。そうだとしたら、ここに書かれていた、奇妙な家の様子は何だというのか。高校生が書き綴ったものなのでこれ以上切り込んだ事実は出てこず、謎のみが残され余計にぞわぞわする。 そこで終わっていれば、何とも宙ぶらりんで中途半端な話だが、最後に語られる男の証言がでて来ることによって怖さがさらに増大した。証言の語り手はなんと、小学生が書いたと思しき小説を書いた人物と大学生時代に知り合ったのだそうだ。しかも件の家に泊まったというのだから期待が高まる。件の家という事もあり、かなり核心に迫った話が書かれていた。真相がわかりやすく示されているわけではないが、今までの話を読んだ後にこの証言を聞くと、この家で何か儀式めいた事が行われていたという事は確信できた。何のためにその儀式を行っているのかというのは判然としないが、家の繁栄か何かに関係がありそうだ。どの話にも女性に関する者がチラつくことから子孫繁栄か、それを介して何か良いものを降ろそうとしているのか。それを餌に何かを得ようとしているのか……。この奇妙な話が明るみに出たのは家に泊まった証言者の異常ともいえる探求心からなのだが、果たしてそれは本当に純粋な探求心だったのか。それとも、あの瞬間から見いられ再び舞い戻るように操作されているのかは分からないが、彼の今後が心配である。 「見知らぬ女」は福澤徹三の作品。歌舞伎町のような繁華街を舞台にした怖い話。最初の方は、人間の痴情のもつれや情が巻き起こす怖い話なのかなと思って読んでいたが、やっぱり実話怪談系。話はばっちり怪談話だった。怖い部分に到達するまでの基盤の話が長いため、割愛するが、作者とその知り合いの女性が覚えていて、他の人がまったく記憶していない女は何者なのか。今まで存在すると思っていたものが、存在しないかもしれないとなった時の気持ち悪さは計り知れない。果たして何者なのか、何者か以前に何故作者と女性の記憶には残っているのか。どういう存在で、どんな方法で彼らの記憶に残っているの。実害があったわけではないが、何か訳のわからないことに巻き込まれたような気がして、うすら寒さを感じる。今後このことが影響がなければいいが。「顔なし地蔵」はこれが一番この作品の中で怖かった。不気味さもダントツで、非常に面白い。作者のもとに送られてきた一通の手紙。それは昔からの友人である男からのもで、そこには差出人が体験した、恐怖と絶望の体験が書かれていた。作者と同じく山登りを趣味とする差出人は、友人二人と伴って、昔から慣れ親しんでいる某山に登った。何度も登っている山なので、勝手は知っているのだがそれでも面白くいろいろな発見がある。めいめいに山登りを楽しみ、途中で休憩のために立ち止まった道から外れた山の中、大きくそびえたつケヤキが目に入る。催した友人の一人が用を足すため、ケヤキの影に回り込み帰ってきた時、妙なことを言い出した。なんとケヤキの裏側に何体も変な地蔵があるのだそうだ。こんな所に地蔵があるのはやや変であるが、山頂には寺もあるし、山自体が信仰の対象なので、宗教物があったとしても不思議ではないかもしれない。妙だと考えるより好奇心が勝った一同は、発見した地蔵を見てみることに。ケヤキの後ろに隠れるように鎮座するなん十体もの地蔵は一様にして変だ。何が変というと、多くに顔がない。何も彫られていないのっぺりとした顔が据え付けられている地蔵たち。いくつか顔がある地蔵もあるが、彫られている顔は、変にリアルで本来の地蔵の表情とは違い、体との均衡がとれていない。異様な雰囲気を醸し出す地蔵に圧倒され、元来た道を引き返した。その後、山登りの楽しさと、麓の宿でゆったりした時間を過ごしたことによってその出来事は忘れてしまう。しかし、後日、なんと地蔵を発見した友人が山での事故であっけなく死んでしまう。どうしてそんなことで死んでしまったのかというような事故で死んでしまったが、山では何が起こるか分からないし、そういうこともあるのだろうと、彼の死を飲み込む。そして、彼を悼む気持ちで最後に一緒に登った山に登ることに。彼との思い出を思い出しながら登っていると、ふと以前地蔵を発見したケヤキの近くで立ち止まる。死んだ彼とゆかりがある地蔵だから拝んでいこうと友人が提案し、それに従うことに。(なんとなく不気味だといっていたのに再度行く勇気はすごい。追悼の気持ちが勝っていたのか?)再度地蔵を眺めていると、ある変化に気づく。顔の彫られている地蔵が増えているのだ。その地蔵の顔をよく見てみると……。顔が何だったかというのはこの話の肝なので伏せておく。この顔が何だったのかが怖すぎる。顔が彫られていること自体は、近くに寺があるので、その僧侶が何らかの理由で掘ったのだと思えるのだが、彫られた顔の造形自体が問題。どうしても因果関係を疑ってしまう。その後も、この地蔵が中心となって気味の悪い出来事が起こり続ける。山という場所で、誰が何のためにやっているのかが分からない所が非常に不穏で怖い。しかも、巻き込まれた彼らにはどうすることもできないという不条理も凄まじい。たまたまそこに至っただけで、何の罪もない彼らが不憫で仕方がなかった。「爺の怪談」こちらも、前述「顔なし地蔵」のように山に関する怪談が5話あったが、その多くは怖い話というよりは民話のような不思議な話が多かった。民話のような話は面白く興味深い話ばかりで伝奇を読んでいる様だった。しかし、最後に据えられた「迎去」はそれとは一線を画した怖い話だった。冥婚の儀式で知られる「ムカサリ絵馬」。生前に結婚できなかった故人と架空の人物とを合わせて一枚の画に描き、特定の寺や神社に奉納するというものだ。昔から山形でのみ(山形のみだという事は知らなかった!)行われるこの儀式。その禁忌としてよく知られるのが、故人と現在も生きている現実の人間を書いてはいけないというものだ。万が一描いてしまうと、故人に引っ張られて連れていかれてしまうのだそうだ。とある日、戦争で息子を亡くし、不憫に思った母親がはるばる仙台から息子のムカサリ絵馬を奉納に訪れる。一度奉納し終えた後は、みな基本的に絵馬には頓着しないそうなのだが、子を思う想いが強い母親は何度も足げく寺に通い子の幸せを祈り続けた。息子を深く愛する母親に周辺住民は不憫に思い、また同時に感心した。しかし、それも束の間。その奉納された絵馬をめぐって幽霊騒動が起こった。曰く、その絵馬に描かれた男性そっくりの男が、ふと村人たちの前に現れては消えるのだそうだ。多くの人がそれを何日にもわたって目撃しており、外部から持ち込まれた怪異に動揺し、また持ち込んだ母親を口悪く言ったりした。ちょうど母親がお祈りに来なくなった時期とも合っていたので、母親が息子を思うあまり何かしたのかと思った。しかし、その後語り手が、この母親が住んでいるという仙台に赴いた際、話は全く違う方向へ。ホラー小説や怪談本ならば、ムカサリ絵馬は正当に死んでいる人間と架空の人間が描かれる。あるいは死んだ人間と生きている人間とが描かれるのが普通だが、そのどちらにも当てはまらない今回の場合はどうなるのだろうか。村に朧げな実体をもって現れた彼は何だったのか。母親の想いが、形となり生まれたのか?しかし、その思いの対象物が存命だったら、その生まれたものはどこへ行くのか……。とても真相が気になる話だった。

  • この不気味さはまさにホラーというより怪談だなと思った。そして、最初は気にならなかった表紙の女性……1話ずつ読み進めていくごとに、寝る前に枕元に置いてふと見ると、何だか目があうような落ち着かない気持ちになり、それが一番怖かったかも(苦笑)。
    <収録>
    『成人』京極夏彦、『見知らぬ女』福澤徹三、『顔なし地蔵』安曇潤平、『茶飲み話』加門七海、『怪談BAR』中山市朗、『リナリアの咲く川のほとりで』小池壮彦、『つきまとうもの』立原透耶、『爺の怪談』黒木あるじ、『お化くず』平山夢明、『美しく爛れた王子様と麗しく膿んだお姫様』岩井志麻子

  • 10人の作家による競作集(怪談実話系)ということで、いわゆる実話怪談から実話風ホラー?まで集まってます。ただし競作集といいつつ一部のみ書き下ろしだった。
    怖いのは安曇さんの「顔なし地蔵」だが、これは既読。京極さんの「成人」のもやっとしたいやな雰囲気が上手い。これがトップに掲載されているため、最初に満足感がピークになってしまったというのはもったいない感じも。加門さんの「茶飲み話」も好き。

  • 10人の作家さんによる怪談実話系の競作集。京極さんのは別の文庫本で読んだばかりだったので、ちょっとがっかり。
    岩井志麻子さんのは怪、というより生きている人間の怖さで、ん?という印象。…この作家さま初読みだったので、なんか微妙な感想でした。
    角川フェアの帯POP目当てで手にした一冊でした。イベントがなければ読まないジャンルだったので、たまにはいいかな、と。

  • 実話系の怪談の短編集で、私が怖かったのは祝山を書いた加門七海の茶飲み話と山の怪談本を1度読んだ事がある安曇平の顔なし地蔵。岡山からの帰りの新幹線中で読んだんだけどゾッとした。二人の共通点は、祟りというか、罰が当たるというか昔からの迷信を信じずに禁忌をおかすと悪い事に見舞われるという所。そういうことが昔から伝わっていたから、人々はモラルを持って生きてきたのかもしれない。今はそれこそ神も仏も恐れない人々が多すぎるから悪い事をして罰が当たるとか考えず人を簡単に殺めたり昔からの史跡などに落書きしたり壊したりするのかも。怖い話イコール悪いものと考えるのは間違ってると思う。

  • 2014/4/29〔火曜日〕

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著者プロフィール

1963年、北海道生まれ。小説家、意匠家。94年、『姑獲鳥の夏』でデビュー。96年『魍魎の匣』で日本推理作家協会賞、97年『嗤う伊右衛門』で泉鏡花文学賞、2003年『覘き小平次』で山本周五郎賞、04年『後巷説百物語』で直木賞、11年『西巷説百物語』で柴田錬三郎賞、22年『遠巷説百物語』で吉川英治文学賞を受賞。著書に『死ねばいいのに』『数えずの井戸』『オジいサン』『ヒトごろし』『書楼弔堂 破暁』『遠野物語Remix』『虚実妖怪百物語 序/破/急』 ほか多数。

「2023年 『遠巷説百物語』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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