シャム双子の秘密 (角川文庫)

  • KADOKAWA
3.76
  • (15)
  • (35)
  • (31)
  • (2)
  • (0)
本棚登録 : 360
感想 : 28
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041014554

作品紹介・あらすじ

休暇からの帰途、クイーン親子はデービス山地で山火事に遭う。身動きが取れない二人は、不気味な山荘を見つけ避難することに。そんな中、手にスペードの6のカードを握り締めた山荘の主人の死体を見つける。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 国名シリーズのひとつにしてクローズド・サークルもの。
    …と聞いただけで、クイーンにあらずクローズド・サークルのマニアとしては「どーせ父子は死なないんでしょ。37564じゃないクローズド・サークルなんて」とぶーたれたくなったが、どうしてどうして。これまで本書を避けてきた不明を恥じた。
    あらすじで見た「山火事」は、ただの閉鎖空間作りのための小道具かと思いきや、さにあらず。なんと、これがガチの危機をもたらすのである。読者と同じく最初は火事をなめていた登場人物たちが、次第に追い込まれていくさまは妙にリアル(なにしろ現実とシンクロしている)。後半では「もう殺人事件どころじゃない」とか言い出したりして、すっかりカタストロフものの趣である。

    ここのところで、そう言いつつも推理を巡らせてしまうエラリーを「ありえない」と笑う評をいくつか見かけたが、私はむしろ、この姿にこそリアリティを感じた。着実に迫り来る、避けえない死。それでも、それに呑み込まれる瞬間までは、誰しも否応なく生きなければならないのだ——昨日と同じ、ごくありふれた今日を。
    ここのエラリーくんや、本書のラスト1行を「ご都合」と笑うような人とは、お友達にはなれそうにない。たぶん、彼らは「螢」(麻耶雄嵩)のラストに激怒して、本を壁へと投げつけるのだろう。

    閑話休題。国名シリーズは「エジプト十字架」に続き2作めという不勉強な私は知らなかったのだが、本書は「シリーズ中の異色作」らしい。生粋のシリーズファンや、論理の鬼としてのクイーン・ファンの中には、推理の「弱さ」(そうかなあ…さすが、本格マニアは厳しいなあ…)や「読者への挑戦状」の欠如をもって良しとしない向きもあるようだが、「そんなの関係ねえ!」なクローズド・サークル好きには、むしろ大いにお勧めしたい。「どーせ父子は死なないんでしょ?」と敬遠・軽視するにはあまりに惜しい、「怪しげな館」「怪しげな人々」「全滅の恐怖」の三拍子が揃った、古き良きクローズド・サークルものである。
    また、タイトルロールの「シャム双子」がすばらしい。国名繋がりのこじつけや奇を衒った小道具ではなく、幾重にも張り巡らされた論理的必然性がある。本書に登場するのは断固として、結合双生児でなければならなかった。キャラクターとしても一服の清涼剤。

    実際、「どーせ父子は死なないんでしょ?」とは現代ならではの視点であって、リアルタイムの読者にとっては「えっ、これってもしや『クイーン最後の事件』…?」というドキドキもあったはずだ。なれば、上記のような「異色」部分も、作者のミスなどではありえない。間違いなく、狙って「外し」たものだろう。
    叶うことならばリアルタイムの読者として、かの「そして誰もいなくなった」にすら先んじていた本書の真価を、十二分に味わってみたかった。

    2015/12/12読了

  • クリスティの「そして誰もいなくなった」にも先行するという、最初期の〈クローズドサークル〉もの。エラリーらを閉じ込めるのは犯人の奸知ではなく天変地異で、窮地から脱しようとするエラリーらの苦闘にもかなりなページが割かれる。この設定なら、生還するに決まっているエラリー・クインものにしない方が、サスペンスが盛り上がっていいような気もする。ミステリとしてはダイイングメッセージもの。クイーン父子によって間違った指摘が何度も行われて、真相が二転三転する展開で、やっぱりダイイングメッセージって難しいなあ、というのが素直な感想。最後の犯人当てにはもうダイイングメッセージは関係なくなってるしね。とにかく楽しい。

  • 2018年1月21日、読み始め。
    2018年1月28日、読了。

    以前より気になっていた作品だが、「シャム双子」というタイトルの一部にひっかかるものがあり、手にすることがなかった。
    実際に読んでみると、なかなか凝った謎解きになっており、読後はウ~ンとうならされた。

  • 山火事は怖い。

  • 山火事によるクローズド・サークルもの。
    火の手が迫っている上に、二転三転する謎解きも絡み、今回は”読者への挑戦状”がなし。
    結合双生児の一人が犯罪を犯し、もう一人は関わっていない。その場合、裁判所はどのような判決を下すのか?という深い内容にも踏み込んでいる。

  • 国名シリーズで唯一「読者への挑戦状」がない作品。
    ストーリー展開も他の作品とは異なっていて、異常事態でのグランドホテル形式。思い返してみれば、国名シリーズはみんな構造が違う。ミステリーのいろんな可能性を提示しているわけだ。やっぱりすごいや。

  • 劇場型推理、と言いたくなる舞台設定。
    エラリーとパパが立ち会わなければ、2人目の犠牲者は亡くならなかったのでは、、と少し気になります。
    一見不自然なく見えているものを、疑ってよく考えて見てみるというのが、いつもいつも楽しいです。

  • 国名シリーズ初のダイイング・メッセージもの。意外といえば意外。犯人とエラリーのせめぎ合いが面白かった。

  • 山火事の脅威とクローズドサークル化した屋敷での殺人事件で、二重苦なクイーン父子。私は『アメリカ銃の謎』しか読んだことがないので、本作がシリーズ物としてどれほど異色かは判断できない。でも、山火事による疲労困憊で人間味が出て、探偵以外の表情も見せてくれたのが良かった。一般的とは言い難い状況下で、人はどれほど論理的に行動できるのだろう。じわじわと迫りくる焼死の危機に、最後まで目が離せなかった。

  • 国名シリーズ#7。迫る山火事、隠遁した医師、シャム双子、ダイイングメッセージ。
    シャム双生児という言葉があることをはじめて知った。
    怪しいと思っていた人がまったくもって犯人ではなかった。解説文中の「エラリーは事件捜査以外は役立たずなので、山火事の対応は、警視がリーダーシップを発揮する」に笑った。そのとおり。

全28件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

エラリー・クイーン。フレデリック・ダネイとマンフレッド・B・リーの合作ペンネーム。従兄弟同士で、ともにニューヨーク、ブルックリン生まれ。1929年『ローマ帽子の謎』で作家としてデビュー。ラジオドラマの脚本家やアンソロジストとしても活躍。主な代表作に『ギリシア館の謎(32)、『エジプト十字架の謎』(32)の〈国名シリーズ〉や、『Xの悲劇』(32)に始まる〈レーン四部作〉などがある。また編集者として「エラリー・クイーンズ・ミステリ・マガジン」を編集、刊行した。

「2021年 『消える魔術師の冒険 聴取者への挑戦Ⅳ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

エラリー・クイーンの作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
エラリー・クイー...
エラリー・クイー...
エラリー・クイー...
エラリー・クイー...
エラリー・クイー...
エラリー・クイー...
エラリー・クイー...
ピエール ルメー...
米澤 穂信
エラリー・クイー...
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×