光圀伝 (下) (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA/角川書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (512ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041020494

感想・レビュー・書評

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  • 水戸藩主となった光圀は、理想の仁政をを目指し、次の世代にその理想を託すことを思いながら、あきらめることなく奮闘するが…


    いやぁ、面白かった!
    とにかく光圀の魅力的なこと。
    文武に優れながら驕らず、暗く捻れた心は少年時代に捨て去ったかのような、剛毅でいて柔軟な心。
    愛した者達を見送るたびに流す涙の熱さ。
    こんな主君がいたら、それは心酔するでしょう。

    熱く血がたぎるような物語と、『明窓浄机』のしんとした独白の構成も良かった。

    あれほどに目をかけ、将来を託せる人材として育てていた紋太夫を、手討ちにしなければならなかった苦しさ、切なさ。
    読了して、もう一度冒頭のシーンに戻って読み返すと、“大義”に悩み抜いた光圀が最後に紋太夫にかけた言葉の重みが、さらに沁みる。

    『天地明察』も傑作だったが、こちらも素晴らしかった。
    作中、算哲がちらっと登場するのも、ファンには嬉しいシーンでした。

  • 義に生きるために、犠牲にしなければならない事。その執着心と覚悟に、どこか人間としての快活さや浪漫を感じる。一生をかけるのだ。そんなモノが自分にはあるか。江戸時代は、生まれながらに身分があり、人生を賭す所業は、今よりもっと明確だった。不自由だったからこそ、迷う自由が無く、義を示しやすかったか。選択肢があるから、私はこれではない、という自分探しに迷う。時代を感じて、やや憧れもして。空想の向きが逸れたが、それも読書の醍醐味。光圀公が義に生きた軌跡とは。エンターテイメント性も保ちながらの秀作である、

  • 水戸光圀公の生涯。いわゆる伝記なのだが、光圀公の一人称で内面まで描かれている。若々しいエネルギーが暴発している青年期を経て、壮年、老年へと、凄みを増していく様子が本当にリアルに描かれており、筆者が膨大な資料を当たりつつ、想像力を膨らませたことが伺える。

    司馬遼太郎の作風を、よりリアルに一人称視点で描いたというとイメージできるのではないか?

    そして、光圀公の魅力的な人物造形がこの物語の最大の魅力である。虎のような猛々しさを露わにする、典型的な武人であり、太平の世に全くそぐわないキャラクター。それでいて、そんな人物が時代に適応しようとして必死に学問にうちこむ様子が滑稽で愛らしい。

    藩主を継承して、肩に力が入りすぎて、つい湯呑み茶碗を粉砕してしまう、花山薫のような肉体を持ちながら、ど天然の正妻に、膝枕されて、ご安心ご安心と撫でられたら、大人しくなる可愛さ。そんな人物が、過去の書物を引きちぎらんに力んで読み込み、ついに詩歌という文学の世界で天下を取る。

    抱きしめたくなるような、ひたむきさと純粋さで駆け抜けた光圀公の生涯は、本作でまばゆいばかりの光を放っていた。

    人の人生は、数百年を経た現在でも、たかだか100年に満たない。その限られた生をどう全うするか?自分に問いかけてくるような良作でした。

  • 20230106再読
    水戸から将軍が出たら…
    200年後への予言かななどと感じた

    光圀の人となりの練り方が強烈で、また周囲の面々も非常に魅力的だった

  • 徳川光圀については、“水戸黄門”が晩年近くの通り名になっていると本作にも在るのだが、『水戸黄門』とは一味違う「徳川光圀の人生」に出会えるのが本作の醍醐味であろう…愉しいので夢中で読了した!!

  • 義とは何か。なぜ彼を光圀は殺めることになってしまったのか。

    最初に読者に投げつけられた問への回答がじわじわと出てくる下巻は、光圀のひととなりや治世・物事に対するあり方が、ますます濃厚に見え、前半以上に読み応えがあります。
    フィクションとしつつも、文献をもとにしっかりと書かれたことが感じられますし、そもそも江戸時代に詳しくないため「光圀」といえばテレビの「水戸黄門」という強烈に持っていた印象が、この本のおかげで一気に払しょくされました。むしろ、この光圀の方が断然魅力的で好感が持てます。

    時代や国の流れなどでまかり通らないことがありつつも、己の「大義」を全うし、人々を動かし、後世に種をまく姿には、みんな光圀に惚れちゃいますわ。しかしそれがどう周囲に作用していくのか…。結末にはずっしりと重いものがのしかかります。
    多くの死を見送る光圀が、心許し、志を分かち合い・託し・託された人々にこぼす言葉の端々が胸にしみます。

    時代柄、戦があったりとかするわけではないのですが、動静ある濃厚な内容でした。
    同著者の「天地明察」とリンクする部分や共通のテーマにはにやりとしたり、納得したりするので、この2作はセットで読みたいところです。

    読んでよかったです。

  • 身内の死と共に、年を追うごとに感じる世代の意識。
    光圀自身が幾ら力や信頼を得ていようとも、その力や信頼までが受け継がれてゆくとは限らない葛藤。

    強大すぎるカリスマが故の、引き際。

    出来ることの時間的制約。

    うーん。仕事が出来る人の悩みだな、かっこえー。
    そしてクライマックス。信じるに足ると考えた男との、思想対決。これがまた、グッとくる。

    面白いのは、大政奉還という紋太夫の野望?が、結局は後の日本を大きく変えてしまうということだ。
    光圀が信じた未来さえ、結局は大きな流れに巻き込まれて形を変えてゆく。
    人は命を尽くして、何を成し、何を守るのだろう。

    「史書は人に何を与えてくれるのか?その問いに対する答えは、いつの世も変わらず、同じである。突き詰めれば、史書が人に与えるものは、ただ一つしかない。
    それは、歴史の後にはいったい何が来るのかと問うてみれば、おのずとわかることだ。
    人の生である。
    連綿と続く、我々一人一人の、人生である。」

  •  義に生きた男、徳川光圀。「義」というキーワードで幼少期から晩年を見事に描き切っている。儒学の考え方は近代に否定され、旧時代の遺物とされたため、現代の我々からすれば違和感があるものだが、光圀の「義」、物語の中心となる兄の代わりに当主になった不義を兄の子を後継ぎに据えることで克服するという考え方は私にはスッと入ってきた。恐らく光圀の負い目に共感できた結果だと思う。高尚な義の根本には人間の本質的な感情があるのではないかと思う。その点では人間が本質的な感情を無視して殺し合いをしていた戦国時代に秩序を取り戻したという点で儒学・朱子学の本当の価値があると思う。
     もう1つのメインである藤井紋大夫徳昭の事件。可愛がっていた一番弟子を殺さなくてはならなかった最終盤の光圀の描写も良かった。変に感傷的になるのではなく、淡々と自分が行おうとしていることをなぞっている感じ。藤井の「忠」が光圀の「義」に反していた悲しいすれ違い。お互い分かった上でこうするしかなかったというのが余計悲しさを醸し出す。
     そして長生きの宿命だが周囲が立て続けに亡くなっていくのは本当に辛い。特に良き理解者だった妻の泰姫と友・読耕斎の早すぎる死は読者にとってもきつかった。泰姫が描かれたページ数は少ないものの強烈な印象が残り、作者のキャラ描写の上手さを感じる。読耕斎の目指した西山への隠退を光圀が達成したときは非常に温かい気持ちに包まれた。
     本作が面白かったのは有名人のオンパレードだったことも大きい。宮本武蔵、沢庵、山鹿素行、渋川春海など政治以外での創作上の接点が非常にワクワクさせられた。

  • すごい……めちゃくちゃすごいものを読んだ。圧巻だった。

    天地明察に出てきた光圀のキャラがすごく好きで、また冲方さんが書く光圀が見られるなら~という軽い気持ちで手に取った本書。
    上巻では光圀が「義とは何ぞや?」と延々悩み続け、めんどくせー男だな、男ってみんなこんなもんなのか?長男じゃないのに世子の座につけちゃったラッキーくらいに軽く考えられんのか?とか思って読んでたんだけど、うん、何か全部必要な遠回りだった。
    自分の義が何なのか定めてから怒涛の展開です。
    特に喪失の描写が本当にもうもうたまらないくらいに素晴らしく、大火による天守閣の喪失、愛する妻や友人との別れ、どこを読んでも光圀にとって相手がどれほど大きな存在で、どれほど大切だったかが伝わってきて、胸を衝かれる思いがしました。
    泰姫を亡くした時の描写は本当つらくて、光圀と一緒に泣いてしまった。

    そんなこんなで友人や妻を失った空白にぽろっと転がり込んできた紋太夫くん。
    まさか彼が殺されるとは思ってなかった。
    綱條を将軍の座につけようと画策したから討たれることになったのかな?と思って読んでいったラストシーン、綱條を将軍の座につけて、政務を朝廷にお返しします、ときたもんだ。
    は、はーーーーー????スケールでけええええええ
    びっくりした。
    びっくしたし、彼のその言葉で綱吉が暗愚だろうと全く揺るがないと光圀も江戸の市民も読者も信じていた幕府というものが、一瞬で薄氷の上にそびえているような危うい存在になってしまったことにめちゃくちゃ衝撃を受けた。
    一人で全てを覆すというのか、今まで私が追いかけてきたこの分厚い長いお話全部……
    殺されてしまっても仕方ないのか、って思ってしまった。
    素直で真っすぐで高潔で、あまりにもあまりにも危ういんだもの。
    つまんない言い方するけど、生まれてきた時代が早すぎたとはこういうことなのかもしれない。

    五代将軍の段階で大政奉還とかいう話が出てきて呆然としてたら、光圀の最期について描かれていく描写の中に「はるかのち徳川幕府が衰亡を迎える世で、水戸家の血を引く最後の将軍が、どのような歴史的役目を果たすのかということも」って出てきてこれまた叫んだ。
    慶喜ううううあああああああ!!
    そうか、ここと繋がるのか、という。はい。

    すんごい長くて読むの大変だったけど、最後まで追いかけて本当に良かった。
    ここまで圧倒され続けた本、なかなかないです。
    人に勧めるにはあまりにもボリュームありすぎるんだけど、この「うわああああ、慶喜あああああ!」って気持ち、誰か一緒に味わってほしい……。

  • どこが史実で、どこがフィクションかわからないほど、綿密に組み立てられたストーリ。最後まで一気に読了した。幼少期から最後に至るまでの光圀の一生を、魅力あるキャラクタと共に描いている。

    今のような情報入手手段が無い中で、重要な判断を下すためには、一つ一つの物事や人物をよく観察し、熟慮し、判断を下さねばいけない。それを行う、光圀の思考のプロセスは、現代でも十分参考になる。

    その判断を確実に実行していく、意思の強さも印象に残った。


    ・自分で出来ることは、他人に任せない。
    ・吸収する柔軟性と、負けず嫌いを兼ね備えている。
    ・目標への信念は曲げない。
    ・生死をかけて実行する。
    ・相手のことを深く考える。
    ・物事の影響を深く考える。
    ・限られた情報から想像を巡らせる。
    ・義が何かを深く考え、実現に執着する。

著者プロフィール

1977年岐阜県生まれ。1996年『黒い季節』で角川スニーカー大賞金賞を受賞しデビュー。2003年『マルドゥック・スクランブル』で第24回日本SF大賞、2010年『天地明察』で第31回吉川英治文学新人賞、第7回本屋大賞、第4回舟橋聖一文学賞、第7回北東文学賞、2012年『光圀伝』で第3回山田風太郎賞を受賞。主な著書に『十二人の死にたい子どもたち』『戦の国』『剣樹抄』『麒麟児』『アクティベイター』などがある。

「2022年 『骨灰』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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