散り椿 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA/角川書店
4.12
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本棚登録 : 1047
感想 : 103
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  • Amazon.co.jp ・本 (422ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041023112

感想・レビュー・書評

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  • こまやかな情愛のこもった中に激しい想いが…。
    散り椿
    2021.08発行。字の大きさは…大活字。2022.05.25~06.04音読で読了。★★★★★
    亡き妻・篠の情愛が、静かに、そして激しく夫・瓜生新兵衛を動かす物語です。

    篠は、死に際して、私が死んだら夫はどうするだろうかと考えると、もしやして、夫は私が死んだら後を追って死ぬのではないかと。そこで一計を案じます。手元に持っていた祝言前に榊原采女から貰った三通の恋文を使って。
    私が死んだら国元に帰って散り椿を見てほしいと、そして榊原采女を助けてほしいと願います。新兵衛は、篠に「この願いをかなえたら褒めてくれるか」と。篠は、「お褒めしますとも」と。

    新兵衛は、篠の願いをかなえるために18年ぶりに国元に帰ります。そうすると、18年前に新兵衛が勘定方の不正を訴えたために国を出なければならなくなった事件が、再び蒸し返され、大きな御家騒動へと発展していきます。その中で四天王といわれた新兵衛の秘剣雷斬りが冴え渡ります。

    【読後】
    かつて二人で見た散り椿を見ながら新兵衛は、散る椿は、残る椿があるからこそ散って行けるのですと…篠のことを想います。新兵衛を心の底から愛する篠は、ただただ新兵衛に生きていて…ほしかったのです。
    多くのページは、御家騒動に費やされながら、その中で新兵衛の揺れる心、篠への想いが感じられ、とても良く、大変心に残る作品でした。音読しながら時々涙がとめどなく流れて来るのを止めることが出来ませんでした。

    「散り椿」。椿は、花がぽたりと落ちます。このため武士には首が落ちるとして嫌われますが。散り椿は、花弁が一片(ひとひら)ずつ散っていきます。

    【音読】
    2022年5月25日から6月4日まで、大活字本を音読で読みました。この大活字本の底本は、2014年12月に角川文庫から発行された「散り椿」です。本の登録は、角川文庫で行います。社会福祉法人埼玉福祉会発行の大活字本は、上下巻の2冊からなっています。

  • 久しぶりに最初からぐいぐい引き込まれる文章とあらすじに出会い、1日で読んでしまいました。
    登場人物のキャラクターもきちんと描かれていて、しかもみんな魅力的で(私は采女が好きでした)
    お話もしっかり作り込まれていて、最後まであっという間に読んでしまいました。
    でも、この間の瀬尾まいこさんの「幸福な食卓」といい
    全てがハッピーエンドではない本は読んでいてちょっと辛いです。今回も采女も亡くなり、新兵衛もまた何処かへ行ってしまい、とても寂しい気持ちが残りました。
    采女とお義母さんの和解させてあげて、できれば里美さんと采女を取り持ってあげて欲しかったなぁ。
    この先、藤吾がメキメキ政治手腕を発揮して、お殿様の片腕となり、良い国を作ってくれることを願っています。
    そのための散り椿、でもありますよね…

  • これは素晴らしい!
    心揺さぶられました!
    映画も見たい!!

    背景はお家騒動ですが、その中で描かれる男同士の友情、一人の女性。その時代を生きる人たちの清々しく、誠実な生き様。切なく心打たれます。

    ストーリとしては、
    かつて一刀流道場の四天王と謳われた勘定方の瓜生新兵衛は、上役の不正を訴え藩を追われます。18年後、妻・篠と死に別れて帰藩した新兵衛が目の当りにしたのは、藩主台替わりに伴う側用人と家老の対立と藩内に隠された秘密といった展開です。

    篠の最期の願いを叶えるため、一人故郷に戻ってきた新兵衛。そして、その旧友采女との決着。
    過去の事件の真相は?
    藩内に隠された秘密とは?
    そして、篠の願いの奥に秘めた本当の想いに心揺さぶられます。

    また、新兵衛の帰藩に伴い、大きく影響を受けるのが、新兵衛の甥の坂下藤吾。
    藤吾の父・源之進は使途不明金を糾問され、無実を主張したものの聞き入れられず自害することに。結果、家録を減らされ、藤吾はその家録を取り戻すべく、出世しようと励んでいます。
    新兵衛の振る舞い、生き方が、藤吾の生き方に大きく影響を与え、藤吾が成長していく様を感じます。

    「散る椿は残る椿があると思えばこそ、見事に散っていけるもの」

    切なく、そして強い

    とってもお勧め。

  • 亡くなった人の想いは、遺された人が想像するしかない。だけどたしかにそこにあって、いま生きる人を動かす力になる。篠の歌のように、姿は見えなくなってもずっと寄り添って見守ってくれているってこと、本当にあると思うなぁ。大切な人の魂を感じられるのは、苦しくもあり幸せなことでもある。

    采女の寂しい心は新兵衛との対話で少しは救われたのだろうか。采女にこそ生きてほしかった。
    散る椿は、残る椿に少しでも長く綺麗に咲き誇ってほしいと落ちていくんだね。せつない。。

    ちゃんばらあり、政治的などんでん返しあり、甘酸っぱい恋ありでエンターテイメント性が高いけど、しっかり心に響く物語。
    たとえば「篠が大切にしていたものは、それがしにとっても大事でござる」という新兵衛のやさしさ。
    「しかし、それでもわたしは、たいせつなひとを守り通したいのです」という藤吾の強さ。
    自分の信じるものにまっすぐ、誠実に生きること。葉室燐さんの小説を読むと、身が引き締まる思いがする。

  • 葉室作品は蜩の記に次いで二冊目
    映画化の話題に乗って

    一本芯の通った壮年の男性と、その人に関わる事で成長する若者
    どうにもならない世の中だけれど、己の信じるものを求め、ひたむきに生きる事の素晴らしさと切なさ
    語彙が少ない自分がもどかしい

  • 時代ものなので序盤は人の名前と関係を把握するのに時間がかかりましたが、途中からは引き込まれてあっという間に読み終わりました。
    良い話です。

  • 日本人らしい美徳に
    後半 涙する場面もありました
    散る椿は、残る椿があると思えばこそ
    見事に散っていけるもの
    という 犠牲を払いながらも
    相手を生かそうとする 愛の証ですね

  • 藩内部の権力争いに巻き込まれ死にゆく人達。
    逝く人達の思い。
    残された人達の思い。
    どちらの思いも心を打つ。

    散り椿のように見事に散っていく友たち。
    その散り様を見守ることしかできない新兵衛を思うと胸が痛む。
    本の最初から、最後の最後まで、余すところなく情景が浮かぶ。
    すばらしい作品でした。
    読めて良かった!

  • 葉室麟さんの作品はいつもパワーをもらえる。
    大きな組織力にはびこる悪に対して、無力かと思われる小さな正義が、友情や家族愛の強いきずなで実を結ぶ長い過程が物語の主軸になっている。

    今回特に心に残ったのは、大きな組織の中で自分の身を守るために悪を悪と指摘せずに組織の残ることで精いっぱいだった若い侍が、小さな正義に次第にひきつけられて、自分の身を守ることより大切な人を守り、悪を懲らしめる側に成長していく姿だった。

    若い世代に身をもって生きざまを知らしめるようなぶれない信念を、果たして今の大人は持っているのだろうか。
    自分を見つめるに、恥ずかしながら未だにぶれて迷って後悔を繰り返す日々を過ごしている。


    人とかかわると何かしら思いを残す。「あー言えばよかった、こー言えばよかった」は常で、あんなこと言ったけどどう思ったかしら?あの話はどういう意味?本音では私に何が言いたかった?など、会話の一つ一つが気になったり、表情を思い出して私の気持ち伝わったかしら?と思い出したりし始めると、結局出会って話したこと自体を後悔するようになる。


    十年以上前のわずかな会話や文のやり取りから、相手の本心に心を寄せ、それを生きていく糧にして目の前の正義を貫いていく物語に、今更ながら自分の未熟さを思い知らされる。

  • 瓜生新兵衛と榊原采女との因縁と藩の闇の動きを暴く。悲しいけど、しっかり物語が終わりまでまとまっている。非情に上手く出来ているなあ。 さすがは映画の原作になるはずだ!

著者プロフィール

1951年、北九州市小倉生まれ。西南学院大学卒業後、地方紙記者などを経て、2005年、「乾山晩愁」で歴史文学賞を受賞しデビュー。07年『銀漢の賦』で松本清張賞を受賞し絶賛を浴びる。09年『いのちなりけり』と『秋月記』で、10年『花や散るらん』で、11年『恋しぐれ』で、それぞれ直木賞候補となり、12年『蜩ノ記』で直木賞を受賞。著書は他に『実朝の首』『橘花抄』『川あかり』『散り椿』『さわらびの譜』『風花帖』『峠しぐれ』『春雷』『蒼天見ゆ』『天翔ける』『青嵐の坂』など。2017年12月、惜しまれつつ逝去。

「2023年 『神剣 人斬り彦斎』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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