月夜の島渡り (角川ホラー文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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感想 : 66
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041024720

作品紹介・あらすじ

鳴り響く胡弓の音色は死者を、ヨマブリを、呼び寄せる――。願いを叶えてくれる魔物の隠れ家に忍び込む子供たち。人を殺めた男が遭遇した、無人島の洞窟に潜む謎の軟体動物。小さなパーラーで働く不気味な女たち。深夜に走るお化け電車と女の人生。集落の祭りの夜に現れる予言者。転生を繰り返す女が垣間見た数奇な琉球の歴史。美しい海と島々を擁する沖縄が、しだいに“異界”へと変容してゆく。7つの奇妙な短篇を収録。
『私はフーイー 沖縄怪談短篇集』を改題し文庫化。

感想・レビュー・書評

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  • 舞台は、沖縄、というか琉球って言った方が雰囲気的には合うな。
    実に怪しい。
    琉球も異界の入口が、すぐ隣りにある感じなんかな?京都みたいに。
    実は沖縄は行った事ないんやけど、何か目的もなく行ってみたい気もするな。
    シーサーなどに守られている異界の街。
    そういう身近な異界をテーマにしてそうな短編集7つ。
    雰囲気、実に良し!
    そうホラー、ホラーって感じより、こういう怪しいの好き!
    妖怪というか、異形の者が、ホンマに近くにいそうで怖いけど…
    でも、命の価値はめちゃ低い…

  • 南の島に伝わる伝承のような短編。
    全ての短編において現実世界の中に怪異がふと顔を覗かせている。
    全て全く違う話ではあるもののキーワードでは繋がりを感じる。泉や、胡弓、山羊など。そして共通項として死が深くストーリーに絡まっている。
    生という日常の対立効果として死という未知なる異界・存在が際立つことで、この不思議な話に引き込まれていく。
    この小説の色は黒に近いグレーかな。
    そもそもホラー文庫から出発されてはいるけれど、恒川作品の中では明るい話が少なくて、個人的には星3つ。


    ・弥勒節
    ある楽器で弥勒節を引いたらヨマブリが吸い取られる。
    ヨマブリは瘴気みたいなもの?
    ヨマブリに触れたり当たったりしたら最悪死に至る。最終的に弥勒節でヨマブリの存在自体を吸い取ってしまった。最後まではっきりとヨマブリがなにかわからないけど、うやむやなところがこの世に存在する都市伝説みたいで本当にありそうに感じた。
    ・クームン
    クームン→廃屋に住みつき靴紐を愛する清潔感なさそうな男性。鳥には好かれる。言葉は話せず身振りのみ。
    一見あきらかやばい存在だけど、実は妖怪?幽霊?願いを叶えてくれたり守ったりしてくれる存在でもある。沖縄のお話。
    ・ニョラ穴
    ニョラという軟体動物の妖怪が洞窟の奥にいる。
    ニョラの臭いを自覚したら白昼夢に陥るらしい。
    こうやって民話のような伝説は語り継がれていくんだなと感じる作品。


    ・夜のパーラー
    現代のお話。これまでのような都市伝説のような話ではなく、生と死の人間くささが感じられる。
    おばあが妖怪のような人間なのか、人間のような妖怪なのかは謎だけど、1番怖いのは人間ですね。
    というかここまで全ての話で死が密接に関係している。
    ・幻灯電車
    昭和初期のお話。
    幽霊電車が今回の不思議体験ネタ。
    乗客はのっぺらぼうで車掌はヤギのような角がある。
    今回も生と死が根幹にあった。
    死が近くなると幽霊電車が現れるのかな?
    ・月夜の夢の、帰り道
    読み終わってからタイトルを読み直して納得。
    小学生の頃、旅行先の祭りで宣告されて運命。それ以降の主人公の未来は結果的に夢だった。夢とは少し違くてその運命を受け入れた通りの現実でもある。その運命を過去の自分達が否定すること、強い意志を持つことで語られる主人公の現実は消滅し、また小学生の視点に戻った。 
    ・私はフーイー
    フーイーという女性が50年おきに蘇りを繰り返す話。50年おきだから必ずフーイーを知っている知人がいる。そして、フーイーが接する死の瞬間に立ち会うもう1人の男もまたフーイーと同じく蘇りを繰り返していた。

  • 読了していた「私はフーイー」というタイトルの本と同じだった。再読してもファンタジーとリアルが混じりあう不思議な感覚は同じで面白かった。

  • とても幻想的な小説だった
    不思議な雰囲気だが、それ以上に感じる恐怖
    個人的には、夜のパーラーが一番怖かった。もはや人間なのか妖怪なのかも分からない、、

  • 久しぶりの読書。
    久しぶりの恒川光太郎 。夏になると彼の作品が読みたくなる。ので、未読だったこちらの短編集を。
    やっぱり彼の描く異界と、現実世界とが交わる時の滲むように曖昧な境界の表現が大好きだ。

    七篇の中でも特に『弥勒節』が気に入った。序盤に森で老婆に会うシーン、死者と語らっているとは思えない不思議な空間だった。
    読んでいてなぜか、『草祭』に出てきた天化が読みたくなった。膨大な数の声と人生とが胡弓に吸い込まれていく様が、なんだか天化の盤上を眺めていた時の感覚に近かったのかもしれない。

    表題作の『月夜の島渡り』はラストに向かって収束とも、救いのあるループの再回転ともとれる演出がとても心地よかった。あとオタクはどうしても転生譚のような『わたしはフーイー』が好き。五十年という、前世で関わりのあった人々の晩年と絶妙に被る周期で“思い出す”ことで生まれる交流や仕掛けもお見事です。

  • この文庫本は、2012年に刊行された単行本「私はフーイー 沖縄怪談短篇集」が改題され、文庫化されたものです。前題の通り、沖縄を舞台にした7つの短篇で構成されています。

    私自身は、恒川光太郎さんの作品はこれで5つ目です。今回は、自分には馴染みのない沖縄が舞台でしたが、節々に見られる方言などの沖縄らしさがとても新鮮でした。

    ちなみに、この中での私のお気に入りは「クームン」です。恒川さんらしさ全開の、温く、残酷で、どこか懐かしいストーリーでした。

  • メディアファクトリーから 2012年11月に刊行された『私はフーイー  沖縄怪談短篇集』の改題文庫版で作者の住む沖縄の島々を舞台にした怪談、奇談の7話で構成される短編集。
    デビュー作『夜市』以来、毎回「どうしてこんな話が描けるのだろう」と感心することしきり。琴線に触れるストーリーは、本編で語られる弥勒節(みるくぶし)を奏でる「胡弓」のようだ。 その旋律ともいえる独特のテンポと文体は、むかし、子供の頃に聞いた婆ちゃんが警句を込めた不思議で怖い怪談風味の土地寓話のような懐かしい「耳触り」がなんとも素敵。
    南方や近隣の島々から渡来して住人と成る独特な民族構成とその文化、そして時代の流れの中に激しく翻弄されてきた土地の歴史。「南国の楽園」と言うイメージに裏側に潜む暗く恐ろしい人間のエゴと自然と共存するために伝えられてきた信仰が絡み合うファンタジー。

  • 沖縄を舞台にしたホラー、になるのでしょうか。
    全部で7編の独立した短編集となっています。

    共通しているのは“異世界”、そして“死の匂い”、
    中でも印象的であったのは“フーイー”の物語。

    転生を繰り返しながら“琉球”を俯瞰する一人の女、
    歴史に翻弄されているとも見ると、なかなかに興味深く。

    なにはともあれ、沖縄に行きたく、なりました。

  • 沖縄舞台の短編7編。沖縄だけど明るいリゾート地じゃなく、現実と虚構と歴史と狂気が混ざったパワースポットっぽい感じ。

    ・よかった編
    「私はフーイー」
    「100万回生きたねこ」みたいだなぁと思いながら読む。何のためにと問われても答えられない転生。ねこは愛を得て終わりにできたけど、フーイーは島に人が生き続ける限り流転を繰り返すのかなーそれもまた大変だと。でもその背に翼が生えても、自由じゃなく故郷を求めて一直線なのが眩しくて切ない。

    「幻灯電車」
    「生きているから生きている。その時が来るまで生きている。」何のために、と考えていた昔の方がまだ希望があったんだと思わせる諦念が痛い。奪われ歯向かい、得ては失い、疲れ果てた彼女が最後に乗った電車の行き先が安寧の地であればいいなあと思う。

    ・良くなかった編
    特にない。でも前に見たことある断片が多いかなあという気はした。共通項が多いことが一概に悪い訳じゃないけど、新しい世界が見たいというのも読者のわがまま。

    <総評>
    文章にほの暗さと掴みどころのない色気が滲むのは詩才だなあと思う。あと「クームン」とかもそうだけど、恋が生まれて関係ができる所がものすごいさらっと書かれていて、ギュウギュウ悩んでドタバタするラブコメ(最近読んだ別作)とかとえらい違いじゃ、と思うと同時にうまくいく時はそういうもんだよな、というのも思った。あとはこの個性を生かしたまま違うタイプの新鮮さを、と思うんだけど、どうなんだろう同じものしか書けない(書かない)作家さんなのだろうかうむうむ。

  • とにかく語り口が絶妙。沖縄独特の空気感がとてもよく出ていた。奇妙だけどリアル、不気味なのに癒される、そんなファンタジー。

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著者プロフィール

1973年東京都生まれ。2005年、「夜市」で日本ホラー小説大賞を受賞してデビュー。直木賞候補となる。さらに『雷の季節の終わりに』『草祭』『金色の獣、彼方に向かう』(後に『異神千夜』に改題)は山本周五郎賞候補、『秋の牢獄』『金色機械』は吉川英治文学新人賞候補、『滅びの園』は山田風太郎賞候補となる。14年『金色機械』で日本推理作家協会賞を受賞。その他の作品に、『南の子供が夜いくところ』『月夜の島渡り』『スタープレイヤー』『ヘブンメイカー』『無貌の神』『白昼夢の森の少女』『真夜中のたずねびと』『化物園』など。

「2022年 『箱庭の巡礼者たち』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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