- Amazon.co.jp ・本 (201ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041028070
感想・レビュー・書評
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さまざまな賛美の言葉で表しても足りない抒情世界。
静かでありながら、奥底にある心は常に潤い、沸き立っている。身体の弱いコドモであっても感情がないわけではない。そんな世界を静かに静かに語っている。主人公が生まれた直後の文の波(=主人公の命の波)は静かで頼りないが、子どもが成長し、知識や体力をつけていくごとにぐんぐんと跳ね上がるリズムで引き込まれる。
宝箱に銀の匙が入ってる子どもは幸い哉。宝箱は持たずとも心に銀の匙を大切に持っていられる子どもも幸せ。心に銀の匙を持っていられる限り永遠の子どもでいられる。
漱石先生が絶賛した作品らしい。素晴らしい。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
透明でほんのり甘く、きらきらかがやきを閉じこめた、水飴のような涙のような印象。
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こんなにも日本語が美しいと感じた小説はありません。
著者独特の擬音語擬態語に酔わされて、巧みな描写に夢中になりました。
するすると、明治時代の少年の日常にタイムスリップして、主人公と古き良き日本を味わいました。 -
作家の半エッセイのような物語。生まれつき体の弱い主人公を、死んだ主人公の兄の生まれ変わりと信じ、甲斐甲斐しく世話を焼く伯母の愛情。気持ちの細やかな主人公を“男らしくない”と鍛えようとする兄の心の奥の寂しさ。主人公と友となった可愛らしく、もうどこか女の香りのする女の子たちや、やんちゃな男の子たち。主人公の目線で描かれる日々の彩り。表現がいちいち面白い。
やさしい、とは少し違うが、やわらかな感性の伸びていく様を綴った一作。-
「やわらかな感性の伸びていく様を綴った」
子どもだった頃をこんな風に語れるのが素晴しいし、羨ましい。。。読んだ人に、一時だけど永遠に安らぎを...「やわらかな感性の伸びていく様を綴った」
子どもだった頃をこんな風に語れるのが素晴しいし、羨ましい。。。読んだ人に、一時だけど永遠に安らぎを与える一冊。2012/04/17
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うまくは説明できないのだけれど、とても詩的な世界観。
前半のお惠ちゃんとの話もはかない感じだが、後半さいごの友だちの姉様の描写も気になる。ばあやと3人での最後の晩餐シーン。なぜただの豆腐があんなに旨そうに思えるのか! -
日本にこんな美しい描写の本があったとは知らなかった
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日本の景色を描いた水彩画のような、綺麗な印象のある本です。
高校以来久しぶりに読んだ日本の文芸作品だったため、
薄いわりに読むのに時間がかかりました。
夏目漱石の作品を思いおこさせると思ったら、著者の中勘助は大学で夏目漱石の講義を受けていたのですね。
背景の描写などが、影響を受けているように感じました。 -
まるで京料理のやうな、味はいがあつて、実に美しい。感性の鋭い、透明な、そして文才のある子どもが日々の自身の営みとそのまま綴つたやうな筆致だ。
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とても美しく情緒豊かな作品で読んでいて心地よく面白かった。
しかし作品を読んたあとこのような情緒ある作品はなぜ面白いのかが疑問に思ってしまい夜眠れなくなってしまった、 一体自分はこれのどこが美しくどこが面白いと思ったのだろうか? -
素晴らしかった。
明治の中頃が描写されていると思うが、全くの普遍性を感じる。
就学前後の年齢の主人公の周りに起こる出来事とそれに対する主人公の感性。
伯母さんの存在が大きく素晴らしい。
巻末の解説で平岡敏夫は「比類なく美しい幼少年期の物語」といい、郷原宏は「永遠に錆びない『銀の匙』」といっている。
平岡敏夫の解説も素晴らしい。
「銀の匙」を最初に読み、最初に認めたのは夏目漱石だそうだ。
そんな知識などなくても素晴らしい小説だ。
うーん、なぜもっと早くに読まなかったのだろう。 -
前編が強く印象に残りました。どことなく文章にぎこちなさが感じられて、それがなんだか小さな頃の思い出を手繰るみたいで。
特に好きなのは、お国さんとのエピソード。幼い2人の、ちいさなちいさな秘密の世界みたいなものは私にも身に覚えがあるだけに、懐かしい気持ちになりました。
少ないページ数ですが、一気に読むより少しづつ、じっくりと美しい世界を細かく思い浮かべながら読んでいくのが合う作品でした。 -
匂い立つような言葉の細やかさ。
小箱から取り出した銀の匙をきっかけに、子どもの頃を回想するお話。描写がきれいでうっとりしてしまう。 -
近代の枕草子みたい。こまこまと「美しいもの」が純粋な感性で沢山書かれてる。
柔らかくて読みやすいいけどしっかり中身の詰まった本でした。擬態語の使い方が瑞々しくて、景色や感覚が再現できる。 -
聞かん坊が、青年になるまでの人生記だろうか。
大正時代の日々の営みが、どこか瑞々しく清々しく感じる。
今では使われなくなった言葉も多く、脚注とともに、想像し、調べ調べ、頭の中に世界を形作っていく。
不器用だけど、感性豊かな主人公。
忙しい時でも、何だかスッと読める話であった。 -
漱石が世に広めた才能らしい。現代日本人の思想の根底に漱石の小説があるなら、感性の根底にはこの本がある…初めて読んだけどそんな気がした。物凄く多くの人に読まれてきたんだなぁ。
個人的に小説とか役に立たないし読む時間無い!って思ってる人にこそ読んでみて欲しい。時を経ても変わらぬ懐かしいものや美しいものがあることにホッとできると思う。
序盤は何も起きなくて確かに退屈だと思ったが、主人公が成長しそれまで一心同体のように過ごしてきた伯母の手を離れ、だんだんと世界を広げてゆく様子が気持ち良かった。人との出会いがあれば、離別、決別、死別、惜別もそれぞれ計算されたように(起承転結回収みたいな)きちんと書かれるしどれもエモーショナルで期待以上の読後感が得られた。
主人公の傍には瑞々しい自然が広がっていて、繊細な感性をもつ彼の目を通せば花鳥風月がいきいきと映し出され描写される。
明治時代の暮らしを知るための貴重な資料でもある。縁日で売ってるものとか祭の様子など。神田の人は気性が荒いの?
子供時代の遊びなど自分もやった!と共通性を発見して嬉しくなる。
作者はよくこんなに幼少期のことを覚えてるなー。 -
見たことはないけれど、大正あたりの日本の風景はきっと原色が少ない風景だったんだと思う。
読んでいて想像するアースカラーの世界は自然の摂理の中に人間が存在することを思い出させてくれる。 -
やっと読めた。
高校生の時にならはまったかも。 -
同時に読んでいた三浦しをんのエッセイに、この中勘助の記憶力の良さについて書いてあった。
確かに、仔細にわたって覚えているものだ。
小説とはいえ、あったこと、見たことは、自分の子供時代のことから来ているのだろうから。
今で言うなら発達障害の子供だったのかな?
感受性が強く、なんでもわかっているけれど、それを口に出せずに損をしている。
でも結構子供ってそんなものかも、とも思う。
丁寧に愛をたっぷり持って一緒にいてくれた伯母さんの温かさが身に染みる。
最期は可愛そうとも思えるけれど、伯母と言うのは甥っ子との甘やかな記憶で生きていけるものなのですよ。 -
幼少期から次第に成長していく様子の描かれた、いわゆる自伝的小説。
展開の起伏があまりないので、読んでいる途中でなんとなく飽きてしまったものの、擬音の使い方をはじめとして言葉選びの美しい文章だった。
一気に読むよりも、それこそ新聞での連載のように少しずつ読み進める方が味わい深い小説なのかもしれない。
書評に拠ればこの小説を「センチメンタル」と評するのは妥当ではないらしいが、いまいちよく分からない。甘やかな回顧であって感傷とは違うということだろうか。