- Amazon.co.jp ・本 (464ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041028100
作品紹介・あらすじ
明智光秀はなぜ瞬く間に出世し、信長と相前後して滅びたのか――。
厳然たる「定理」が解き明かす、乱世と人間の本質。
各界絶賛の全く新しい歴史小説、ここに誕生!
永禄3(1560)年の京。
牢人中の明智光秀は、若き兵法者の新九郎、辻博打を行う破戒僧・愚息と運命の出会いを果たす。
光秀は幕臣となった後も二人と交流を続ける。やがて織田信長に仕えた光秀は、初陣で長光寺城攻めを命じられた。
敵の戦略に焦る中、愚息が得意とした「四つの椀」の博打を思い出すが――。
何故、人は必死に生きながらも、滅びゆく者と生き延びる者に分かれるのか。
革命的歴史小説、待望の文庫化!
解説・篠田節子
感想・レビュー・書評
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恥ずかしながら自分にとって初めての歴史小説。忠臣蔵の物語が多いとは聞いていたが、これも御多分に洩れずその一つである。光秀と聞いても本能寺の変の一場面しか知らないリテラシーだったため、どこまでが史実なのかはわからないが、正しさは問題ではないのだろう。物語で描かれる光秀は歴史の教科書よりも実際に生き、思考し、逞しかった。
事前に聞いていた通り、この物語はモンティ・ホール問題を理解した僧、愚息と剣客新九郎という二人の光秀の忠臣蔵が中心に描かれている。関係ないが、数学の確立の問題はどうしてこう頭が痛くなるような問題ばかりなのだろう。物語を通して登場するモンティ・ホール問題もそんな頭痛の元の一つで、全く厄介な問題である。数学者がいなくなれば頭痛薬分のお金が浮くのではないだろうか。知らんけど。
かくいう光秀のサクセスストーリーは見ていてとても楽しかった。明智家を再興するという軸に沿って行動する男らしさは自分も見習わなければならないと感じた。しかし光秀がこんなに生き生きした人物だとは思わなかった。てっきり織田信長絶対殺すマンとして生を受け、本能寺で見事念願果たして死んだとばかり思っていた。史実がどうであれ、教科書の二文だけでは人の人生など語れないということが身に染みてわかった。よく教科書に残るほどの功績を残したいという人がいるが、ろくでもないまとめられ方をすればいいと思う。これは成功者への嫉妬である。勝てば官軍、負ければ賊軍。いつの日か時代が変わり、光秀も、ついでに私も、官軍の仲間になる日を夢見ている。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
歴史小説に対する自分の中のルールが崩されたかもしれない……。
歴史小説は、史実や歴史上の出来事を神の(作者)の視点から、何らかの意味づけであったり評価したりするものだと思っていました。そして、歴史小説はあくまで歴史上の有名人物が中心であることは当然だと思っていました。
この『光秀の定理』はもちろん明智光秀が主役なのですが、その主役を喰いつつも、一方でその主役の人物や人柄を際立たせる二人の名も無き恐らく架空の登場人物がいます。この二人に自分の歴史小説の思い込みが崩されました。
剣の道を志すも金に困り辻斬りをしていた新九郎は、愚息と名乗る奇妙な賭けをする僧と出会います。そして新九郎がある日辻斬りをしようと思った相手は、若き明智光秀で……。
そこから始まる三人の奇妙な押し問答。実力の差を認め、剣を交えることなく金を渡そうとする光秀。一方で愚息は、この勝負は光秀の勝ちだとして、新九郎に金を返すよう求め、徐々に新九郎は自分が勝った気がしなくなり……
このやり取りで、一気にこの三人に引き込まれます。この三人がそれぞれキャラを崩さず話が進めば、間違いなく面白い小説になるだろう、という予感が生まれました。
物語は光秀の視点と、愚息・新九郎の視点で語られます。世の流れに迎合せず、独自で仏の教えを理解し、そして愚直なまでにそれを実践する愚息。それは、相手が権力者であろうと関係なく、その姿や愚息の言葉に影響され、新九郎は徐々に肩の力が抜け、自身の剣技を極めていきます。
二人のやり取りやキャラの面白さに加え、新九郎が徐々に成長していく姿も面白く読み応えがありました。こっちはこっちで時代小説・成長小説としても通用しそう。
一方で光秀。自分だけでなく家門の復権を背負い、生真面目に活動し、愚息や新九郎の助力も得つつ、遂に織田信長の家臣となります。そして迎える運命の二択の場面。そこで光秀は再び愚息のことを思い出し……
明智光秀のイメージとなると三日天下とか、反逆者とか、なんとなく小悪党なイメージもあったりしたのですが、生真面目さであったり、家系への思いであったり、苦悩であったり、そのあたりのことを描かれているのも良かったです。
また、愚息と新九郎以外の登場人物それぞれが、それぞれの個性を出しつつ光秀の人間性を浮かび上がらせているのも良かった。
愚息曰く「悪人ではなく悪党」の光秀が初めに使える細川藤孝は、その処世術が喰わせ者感があっていいし、光秀の妻の煕子の聡明さ、そして光秀が妻に相談するシーンも、光秀の人間性の一端を現していると思うし、信長と光秀の関係性の描き方も良かった!
サブキャラそれぞれが、脇役だけど素晴らしい助演を演じていると思います。
物語のラストは本能寺の変から数年後の愚息と新九郎の会話から始まります。この二人だからこそたどり着く、本能寺の変の真実。これはある意味WHYミステリの面白さがあるのですが、光秀の心の動きを、これまでの物語と、光秀、愚息、新九郎の三人の絆を合わせて、この推理に落ち着けるのが見事。
そして光秀の生き方と愚息の奇妙な賭けが時代の流れと相まって、生まれる一つの定理。登場人物それぞれの生き方の対比や、戦国という時代背景が、また一つの余情を生みます。
垣根涼介さんの本は初読でしたが、非常に面白く読めました。また他の作品も追いかけていきそう。 -
明智光秀がメインではない。
愚息という世捨て人の坊主と、剣術の達人である新九郎、このコンビがメインです。(架空の人物かな?)
私は戦国の歴史はとんと疎いので史実をおって正確な感想は言えないが面白い一冊でした。
長良川の争いで明智家が離散したあとから朝倉家、のちに信長に仕え、かの有名な本能寺の変まで。
歴史小説は本の中での言動にどこまで感情移入してよいかわからないけれど光秀の苦労心労はこの時代では特に辛かったであろう。
それはともかく、とにかく愚息の考え方、身分の上下に関係なく我の通すのがかっこよかった。
本当にそこまで曲げられない信念があってもこの時代大変そうに思えるけれども。
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光秀の愛すべき人柄が分かる。
だからこそ、なぜ光秀は信長を討つことになったのか。そして滅びることになったのかを考えさせられる。
学校の歴史の授業を通しては、本能寺の変という事実のみに捉われ、裏切り者という理解をしていたが、この本を通じ、光秀がどれほどの信念をもち、世を変えようとしたのかということ、その中にどれだけの苦悩と、葛藤があったのかに理解を深めることができる。歴史小説の史実を元にどういう人だったのか想像を広げる面白さを知った。 -
信長の原理も気になっていましたが、
上下巻ということもあり、
まずは先に発刊されていたこちらをと手に取りました。
結果…とても面白かったです。
なんですか、これは…!
読み進めていく中で、
「最後の最後まで面白いじゃないか…!嬉泣」
という一言が思わず。苦笑
最初は、愚息と新九郎がメインで、
光秀はいつ登場して活躍するんだろうかと思っていたら。
光秀の人柄、周囲の人物、時代背景、
途中から光秀がどんどん走り始めます。
だけど、やはり愚息と新九郎が魅力的で。
その二人と光秀の友情というか、縁というか。
最後の最後まで全部が楽しかったです。
信長目線の「信長の原理」も読まなくてはです。 -
逆賊と呼ばれる覚悟は十分承知のうえで、主(信長)殺しを決起した明智十兵衛光秀の「定理」とは? 本能寺の変という大それた事件を起こす「理」とは?・・・若き日の十兵衛光秀が、辻賭博を行う破戒僧・愚息と兵法者を志す新九郎との運命の出会いを通して、滅びゆく者と生き延びる者の摂理が語られる、直木賞作家<垣根涼介さん>の読み応え十分、大迫力の歴史小説。「人は、死ねば土に還るのみだ。浄土も地獄もないのだ。もしあるとすれば、この世がそうだ。おのれらの世を見る心がそうだ」~愚息の説法。
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戦国時代の雄となる「明智光秀」が世に出るまでの話が中心。新九郎と愚息、2人の朋輩と共に定理とからめて時々頭を使いながら進行するので楽しく読めた。
歴史の教科書では「信長の側近でありながら、天下統一の土壇場で裏切り、三日天下に終わった裏切り者」のようにまとめられていたが、「そんなはずがあるわけ無いだろう」と学生の頃から違和感を感じていた。
最後は敗戦の将となり賊軍扱い。仕方の無い事だが、後の世で歴史は都合のいいように書き換えられ。謎の多い武将の一人となってしまった。しかし、謎が多いからこそ、明智光秀という人は興味深い。
来年の大河で取り上げられて、再び脚光をあびるかも知れないが、この小説のように今までの定説には一石投じて欲しい。
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久しぶりの歴史小説。
歴史小説も好きなので、たくさん読みたいのですが、
中々時間が取れず。。
そう言えば、この間まで大河ドラマ明智光秀だったな、と
思いながら、読んでみました。
著者の垣根涼介さんの小説を読むのは本当に久しぶり。
何冊か楽しく読んだ記憶があります。
簡単な(でもよく間違えがちな)算数の問題と歴史小説をうまくかけ合わせた
斬新なテーマ設定で物語は進行していきます。
ちょっと算数が得意な人ならば、結構すぐにネタバレしてしまう内容なののですが、
上手く解けない人にとっては後半のネタバレまで
ワクワク感を維持したまま物語に没頭できるのかもしれません。
個人的には、前半部分に(主人公だと思っていた)光秀とは違う人たちが物語に出てきて、
彼ら主体で物語が進行していくので、
「あれ?あれあれ?」と思いながら、ストーリーを追っていました。
でも、テーマ設定がユニークなので、それなりに楽しめましたが。
もう少し算数パズル的な要素をふんだんに入れてもらった方が個人的には好みかな~なんて思いながら読みました。 -
お椀が云々とか、勝率?とかの話はあまりよくわかりませんでしたが、なぜ光秀は本能寺の変を起こしたのか?という、光秀の友人二人の推理が面白かったです。
戦国の時代も、多分今の時代も、変わり身の早い人は出世するのですね。人にどう思われるかは別として。 -
一気に読了。人物設定、描写手法、ストーリー構成、いろいろ新鮮でとても面白かった。作者は光秀が好きなんだろうな。批判でも同情でもない形でこれほど光秀に寄り添った文章を、ボクはまだ他に知らない。
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主役を飲み込んでしまいそうな魅力的な人物の登場でより深く主役を表現するというなかなか面白い作品。一気に読んだ。
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正直あんまり食指が動かない感じで読み始めたんだけど、数学的な話題と歴史、そして何よりサブキャラ二人が魅力的過ぎて光秀もさらに言えば信長も魅力3割増し!
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光秀のイメージが変わった。
しばらく垣根さん推しになりそう。 -
時代を変えた謀反人ともされた明智光秀は一体どんな人物だったのか。自分の信念から独自の世界観を持った坊主と技を極める兵法者から見た光秀とその時代を描き出した小説はなかなか面白いストーリーだった。
愚息という名前もとぼけていて妙だが、そんな奴らが時代を冷静に見ていたなってありそうな、なさそうな。人を食った描き方ならやはり垣根涼介らしい。 -
「君たちに明日はない」以来の垣根涼介作品。時代小説で敬遠していたが、これまでと違う明智光秀の人となりを知ることできた。愚息と新九郎の存在が印象に残った。
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愚息が特に魅力的。知性があり、物事の本質を見極めることができる。権力者におもねることが一切ないところは、気持ちが洗われる。。
愚息と新九郎の、息がピッタリ合った関係性が心底、うらやましい。
そんな二人とかけがえのない友情を築いたという点で、光秀の人間くささが際立つ。それゆえ、有能だけれど、愚直で不器用なところが魅力的に思える。
愚息が熱弁した釈迦の論理、かりそめの一場面にいたずらに惑わされず、その背後にある連続する必然を見よ。これは、心にとめておきたい。
根本的に、信長と光秀は見ている世界、目指す世界が違った。歴史の一場面だけを切り取ると、人間の行いが引き起こしたことであり、必然ではない。でも、その背後にある連続する必然、それこそは人として我々がどんな道を歩んで行くのかにつながる。歴史は苦手と感じていたけれど、最近、歴史小説を読むのが楽しい。 -
大河ドラマでもやっていたし、光秀に対する評価が色々と変わってきていて面白い。この小説も愚息達との関係性がいい味出してる。読みやすかった。
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メチャ面白かった。大河ドラマとイメージが一緒でよくわかった。信長の原理を読んだ後、是非読みたいと思ってた。その期待が期待通りでした。
我慢強さ、先見性、正義感、プライド、即決断、なんか人間臭くて、あるあるかな(笑)
日本人らしい^ ^
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★★★ 本能寺の変の描写はないが、光秀の生きざまが淡々と語られる。面白し。「わしはの、十兵衛どの、自分が馬鹿だとも思ってはおらぬが、さりとて凡人の域を出るような頭でもないことも知っている。また、そう常に自覚して生きることが、せめて凡人から愚者の道に墜ちぬ唯一の方法だとも感じている。」,「人間が持って生まれた本来の能力に、その素地に、たいした違いなどはない。それをそれら本人たちがある目的意識に向かってひたすらに磨き、鍛錬していくからこそ、能力が初めて他を圧する才能を産み落とすのである。」深いねぇ。
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これは面白い。
歴史苦手なんだけど、愚息と新九郎のキャラが立っているので退屈しない。
そして光秀との絡みだけを追っていけばいいので凄く読みやすかった。
何より四つの椀が非常に効果的というか、私はヒントが出るまでわからなかったので、それに引っばられて読まされた感じかな。
なんというか、ストーリーもキャラも椀の謎というアクセントもよく考え抜かれてて読後の充実感がかなりある小説です。
歴史好きで男の友情とか好きな人にオススメです。 -
自分にとってはとてもタイムリーで珍しく一気読みしました。歴史小説はなかなか手が出ないけれどほんと面白かったあ。
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2023/11/16
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2023/12/04
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こんなところでフロムが出てくるとは、ビックリした。一石を投じたすばらしい作品だ
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「ワイルドソウル」や「君たちに明日はない」で垣根氏のファンになりました。その垣根氏が光秀で歴史小説を書くとなれば読まずにいられないですね。
光秀は当然主人公ではありますが、真の主人公は愚息と新九郎の2人。愚息の博打手法である4つの碗の理が小説の幹となります。
年代を追って光秀を追っていく小説ではない。愚息と新九郎が光秀がなぜ本能寺の変を起こしたかを推察するのですが、少し弱いのかなと感じた。ただそれは本題ではないのかもしれない。
4つの碗の定理に従い、世の中の変化に変わることが出来るものしか生き残れないのか。生き残ったものはすごいし素晴らしい。どちらが善で悪でもない。ただ不器用に最初に賭けた碗を変えなかった光秀の生き方を誰も責めることは出来ない。敢えて変えなかった光秀は負けることを覚悟しての選択だったのかもしれない。
余韻の残る小説です。 -
四つの椀の話(定理)を使った展開。この四つ椀の確率の問題は思考実験の本などに取り上げられる問題。アメリカのクイズ番組で話題になったらしい。
信長の定理に比べると面白さはいまいちかな。 -
4つの椀の博打をキーに長光寺城攻めを攻略した光秀。
2つの椀になった背後には、たとえ目に見えなくとも、常に4つの椀の勝ち率が内包される。 -
北方先生もハードボイルドから歴史小説に移行。そして本作の垣根涼介先生も推理小説から近年は歴史小説に移行しているなんかはやりなのかなぁ?久し振りに嫉妬した尊敬じゃなくなぜか嫉妬だった。読んでいて久し振りに面白いではなく、素晴らしいと感じた。
「光秀の定理」
浅倉家でわずかな扶持を得て奮闘する十兵衛と剣豪の新九郎に破戒僧とも呼べそうな愚息。この3人が生き抜いた安土桃山時代を爽快に描いていく。正直、これだけのものを書ける垣根先生を羨ましく思えた。話の構成が素晴らしいうえに言語の使いまわしが上手い!それに加え小出しに出してくる当時の時代背景の中での豆知識みたいなものは歴史マニアの心をくすぐり続けた。「室町無頼」と「信長の原理」をすでに探し始めた! -
これは確かに歴史小説だ。だが、その一方でこれほどロジカルな歴史小説は初めてだ。
真の主人公の二人が光秀の本能寺の変を解釈しているところを読むと、分かりきっていたはずなのに、確かにそうだ、と納得してしまう。本能寺の変は必然的なものだったのだと。
しかし、個人的には細川藤孝の名脇役ぶりが際立っていて、この作者に藤孝を主人公にした作品を書いてもらいたいと思うレベル。 -
史実とフィクションを上手く合体させた物語だった。
動乱の時代を情に厚く、誇り高く生きた光秀の姿が描かれていて、彼が本当にこのような人柄だったらいいのに、と思った。
最後、愚息たちが刃を向けようとしたシーンも印象的だった。
フィクションなのに、すごくリアルで一気に読めてしまう物語だった。