雪と珊瑚と (角川文庫)

  • 760人登録
  • 4.04評価
    • (61)
    • (85)
    • (40)
    • (5)
    • (1)
  • 93レビュー
著者 : 梨木香歩
  • KADOKAWA/角川書店 (2015年6月20日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041030103

雪と珊瑚と (角川文庫)の感想・レビュー・書評

並び替え:

表示形式:

表示件数:

  • 生まれたばかりの赤ん坊・雪を抱え途方にくれていたシングルマザーの珊瑚・21歳。「赤ちゃん、お預かりします」の貼り紙の主で元修道女のくららと出逢ったのをきっかけに、果敢に人生を切り拓いてゆく、生きること・食べることの根元的な意味を問いかける物語。

    読んだ印象、「素直な物語」だと思った。
    スタートに何か問題があって、主人公がその問題を乗り越えるために周りの人たちの力を借りて段々と強さと自信を得て、途中でまた別の問題が起きたり傷つくことがあるけれどそれが自分を見つめ直すきっかけになり、まだまだ先がある余韻を残しつつ物語が終わる。
    個人的には端折り方が好もしいと思った。たぶんもっと詳細に描写すれば読者の共感を得やすい場面もあっただろうけど(主人公が苦労する場面とか)、そこを省いてシンプルな流れになっているところが私は好きだった。著者的に言いたいことがはっきり分かる気がして。
    主人公の周りにある様々な問題の真相が結局分からないまま終わっているところもあるけれど、実際の人の人生だって何だったのか分からないまま時間が過ぎていくことや追求しないまま終わることはたくさんあるし、全て解決しないところもまたリアルで良いと思った。

    若いシングルマザーの珊瑚が、周りに助けてもらいながら、保護林の中にある民家にカフェを開業する物語。自分が子どもを持ったことで母親の気持ちが理解出来るようになり、うまくいかなった自分の母親との関係を見つめ直す、というのがもうひとつの流れ。
    物語のあいだは、けっこうトントン拍子に事が進むけれど、それはごく短期間の出来事で、その後にはきっと乗り越えなきゃいけない壁がたくさんある。描かれていなくても何となくそういうことが想像出来るから、トントン拍子の物語も違和感がなかった。

    全ての人は平等、という考え方もあるけれど、私はそうではないと思う。生まれた環境が恵まれているか否かによってその後の人生が左右される時点でもう平等ではない。
    そういう現実が前提にあることは分かりつつ、それでも人間は平等なのだと何となく思わせてくれるくららの存在が心強い。飢えを知っているからこそ食べることを大事にする。当たり前のことを幸福だと捉える。出来そうで出来ないことをくららは自然にしている。
    教えを与えるような内容ではないのに、読みながら自分を考え直してしまうことがたくさんある、そんな小説だった。
    美味しそうな野菜や食べ物がたくさん出てくるところ、そして登場人物の全員が善人ではないところもまた良かった。

  • わたしは好きでした。
    テーマとしては、よくあるシングルマザー奮闘記であり、傷付いた人が美味しいものに癒されていく話ではあるのだけど、薄っぺらではなく、辛い現実も、人の感情や態度の裏側もきっちり描いています。

    最近、この手の話を立て続けに読んでいるのだけど(惹かれて読む本が、心の傷と食が関わる話ばかり)、中でも一番好きでした。
    “食”ってやっぱり、あらゆる意味で“生”の根源なんだなぁと感じさせてくれた。

    珊瑚の何年か先をまた見てみたい。
    そんな気にさせられました。

    それにしても、梨木さんは、素敵なおばあちゃんを描くのがとてもうまいですね〜。

  • 主人公がいい。再生の物語というにはしっくりこないなと思っていたけど、解説で平松洋子が復興という言葉を使っていて、なるほどそれだ!と思った。
    畑を耕し、慈しみ育てた野菜を、手をかけ、心をかけて料理する。誰かのことを思って作る、作った人を信じて食べる。食べる時間を共有する。それは、人が感じる1番わかりやすい信頼関係の形かもしれないと思います。
    好きな人とごはんを食べるときにはきちんとその幸せを噛みしめる事にしよう‥

  • 21歳のシングルマザー珊瑚は貼り紙がきっかけで、生まれたばかりの娘の雪をくららに預けることになる。それがきっかけで、人と人が繋がって縁ができていき、カフェをオープンさせるまでになる。ちょっとうまく行き過ぎのところもあるけど、甘いだけじゃなく、隣の芝生が青く見えて嫉妬しちゃったり、珊瑚なりの葛藤があったりで、重さと甘さの塩梅が私には心地よい加減でした。美味しい野菜をふんだんに使ったシンプルな料理が食べたくなりました。『おおかみこどもの雨と雪』と少し世界観が似ているかな(こっちは、もちろん人間の子供の話だけど)。あのアニメが好きな方なら、こっちも好きかもしれません。

  • 生きていくことって、数学の方程式のように、必ずはっきりした答えが出たり、筋が通ることばかりじゃない。そして、努力しても必ずそれが報われるわけでもない。機が熟したり、時が解決していくこともあるんだよ。そして、丁寧に作られた食べ物には、心を元気にする栄養がたっぷりある。雑に暮らせば、やはり心がすさむ。

    そんなメッセージをこの本から受け取った気がします。

    毎日の暮らしを大切にして、流れに逆らわず、しなやかに、無理せず進んでいきたいものです。

  • 『裏庭』で出会った梨木果歩
    『西の魔女が死んだ』も好きだった。
    どの作品にも、食べること、創造すること、生きること、が
    物語の源流になっていつも流れている。

    食べ物がわたしたちをつくる、ということを
    これでもかと感じさせてくれる小説。
    体だけでなくて心も。

    母が病気をしてから、
    食べることと健やかさとのことをずっと考えていて、
    たまたまだけど今この本を読んだことにもなんだか縁を感じた。
    今読んだからこそ感じとれることがたくさんあったかもしれないな。

    困るのは、出てくる食べ物が全部おいしそうに思えて
    食欲がどんどん刺激されること。
    友達の農園から届く野菜が思い浮かんで、
    こんな食べ方もできるのかなぁとかそわそわした気持ちになる。

    食べるという行為をベースに、
    生きることは生きることであってそれ以上でもそれ以下でもない、
    って感覚が生まれてくる。
    母親に恵まれなかった珊瑚も達観して見えるようなくららも
    きっと生きる意味や自分のありかたについて葛藤があるのだけど
    それでも根本的には生きていくというのはシンプルな営みなのかなぁと
    そう思ってみるとなんだかちょっとほっとするような気がする。

    余計な添加物なしに、ちょっとのスパイスをかけるのが
    いちばん命の味がわかるってことなのかもね。



    もう一回読みたいなぁ~

  • 一言で言えないくららさんのくららさんらしさに、とにかく癒されました。丁寧な暮らしぶりだったり、好奇心だったり、柔軟な心だったり、共感能力の高さだったり。真似してみたくなるし、どんなことでも大丈夫な気がしてしまう。安定しているとはいいがたい生活を送っているシングルマザー珊瑚が、思わず冒険ともいえる一歩を踏み出してしまうのもわかる気がします。著者・梨木香歩さんのエッセイを読みましたが、くららさんは梨木さんの分身なんだな、と思いました。手元に置いて何度でも読み返したい本です。

  • やさしい物語。語られる芯は梨木さんらしく、きびしくつよいが故に、この設定と展開が都合よすぎるよなあとちょっとだけ、ちょっとだけね、おもった。悪いということではない。やさしいことはいいこと。特にそれが、物語であるならば。

  •  シングルマザーの珊瑚が、くららという女性に出会い、カフェを始めて自分の道を切り開いていくという話。

     周りの人に助けられて食べ物屋を始めたり、母と確執があるところが「食堂かたつむり」と似ているけど、こちらの方がまだ地に足が付いている気がする。
     
     親切のつもりでやったことが相手に負い目を感じさせてしまったり、「シングルマザーとして頑張っている」というポーズを見せて同情を引こうとしていると言われたり、誰もが感じたことのあるような苦い感情が掬い上げられている。

     また、まるで家族のように珊瑚を助け、娘の雪の面倒を見てくれているくららさんとも、信仰を巡って相容れない部分があって、人間関係の微妙な摩擦がうまく描かれていると思う。

     単純にシングルマザーの奮闘記という物語ではなく、人との付き合い方について考えさせられる一冊だった。

  • 帯にもあるように、一人のシングル・マザーが一人娘を抱えながらさまざまな人々と出会い、惣菜カフェをオープンするまでの成長物語。

    中盤までは主に一人娘・雪を預かってくれているくららという人物と、主人公・珊瑚、そしてその間で育てられる雪の話で、修道女であったくららの知っている料理を教わってその素朴な味や人工物の入っていない天然由来の食物(ことに野菜)の美味しさに育まれていく母と娘、といったところだが、そこから広がる人間の輪、関わっていく人間たちの様相、そこから「親に愛されなかった子」として珊瑚の学ぶ事柄が中心になってくる。
    その描写が丁寧に丁寧を重ねていて、まるでくららの作る料理のように心を込めて書かれていたところが作者の腕なのだと感じた。自分が子だった場合の母と子、今となって母となった場合のそれ、妻と夫、気の置けない友人同士、働き先で知り合った人、…等々、さまざまな人間関係を通して、また手間のかけられていない手軽な料理が普及している昨今、真に必要とされているであろう真心のこもった「つくりもの(これにはくららや珊瑚の作る料理と、時生や貴行、佐々夫妻の作る野菜、桜井夫妻の作るパンなど、色々なものが当てはまる)」の交わりとともに緻密に描かれている。まるで一種の「雪と珊瑚と」のメニューに出てくる料理のように。

    作中で印象深かったのは、聖フランシスコを信仰しているアッシジ村の大地震の話と、スクールカウンセラーであった藤村の言った、珊瑚と珊瑚の母親の共通点のくだり。「信じていたものが自分の元に降りかかってくる」ことを「法悦の極致」と言ったくららの、「神と結婚した」修道女としての人となり。藤村の、母親と子両方を知っている立場からの洞察力のある言葉。人間が人間それぞれに生きていて、美知恵のような人間には珊瑚が「ポーズを決めているような人」に見えること。珊瑚も母親である前に人間で、だからこそ生きることに疲れることもある。自分の母親と同じように、まっすぐ偽りなく生きている。終盤の、疲れ果てた珊瑚に雪が「マンマ」と叫んだ場面に、自然とじわりと温かい涙が出そうになった。人間というのは、愛に生き、愛に疲れ、愛とともに生きるものなのだ。

    すべて読み終えた感想としては、解説にもある通り「理想的」すぎる物語、という感想を持ったのは否めない。実際、こういう風に上手くはいかないと思う。しかし、そのリアルさを白黒つけないことで、よりはっきりと浮彫りにされている人間の在り方や、そこに寄り添う食の力、徐々に生きるパワーを取り戻していく主人公のエネルギーを直に感じられる作品になっていると思う。珊瑚とともに感じられる雪の成長も見どころだ。最後の雪の言葉には、それこそ魔力のような力がこもっている。

    余談になるが、唐津のり子さんの描いたカバーイラストに描かれている女性は、そばに珊瑚が描かれていることから、成長した雪だろうか。ウェーブがかった髪が美しい女性だ。素晴らしい母親をもった彼女には、こんな女性に育ってほしいと思う。

全93件中 1 - 10件を表示

雪と珊瑚と (角川文庫)のその他の作品

雪と珊瑚と 単行本 雪と珊瑚と 梨木香歩

梨木香歩の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
辻村 深月
梨木 香歩
梨木 香歩
宮下 奈都
三浦 しをん
有効な右矢印 無効な右矢印

雪と珊瑚と (角川文庫)を本棚に「いま読んでる」で登録しているひと

雪と珊瑚と (角川文庫)を本棚に「読み終わった」で登録しているひと

雪と珊瑚と (角川文庫)の作品紹介

珊瑚21歳、シングルマザー。追い詰められた状況で一人の女性と出逢い、滋味ある言葉、温かいスープに生きる力が息を吹きかえしてゆき、心にも体にもやさしい、惣菜カフェをオープンさせることになるが…。

ツイートする