ベトナムの風に吹かれて (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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本棚登録 : 130
感想 : 16
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041034569

作品紹介・あらすじ

ベトナムの首都ハノイで働く著者は、認知症になった母を新潟から移住させ新生活を始めた。人間関係の濃い下町の旧市街や、旅先での緑豊かな山々の光景に母は昔の想い出を語る。感動の輪が広がる映画化原作!

感想・レビュー・書評

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  • ものすごいご決断をされたと思う、本当に。

    認知症の方の詳しいことはわからない。
    でも、おそらく…


    いろんな映画や本などの体験談を読んで思うことは、

    認知症の方でも楽しい気持ちは積み重なって心の安定に繋がるし、

    嫌な環境(入院など)にいたり、人から怒られたり否定されてばかりだと、心が不安定になるのでは、ということ。

    【出来事は忘れても、その時感じた気持ちは全て蓄積はされている】

    これが私の仮説。

    とすると、その点、小松さんはお母様を否定されることなく妄想にも付き合い、心をずっと喜ばせてあげていた。

    そのことこそが、お母様のこのパワフルさ、可愛さ、素直さを引き出す最大の要因だったのではと思う。

    大変なご苦労もあったと思うけれど、認知症の方との、素敵な関わり方を提示してくれてありがとう。

    大切な一冊になりました。

  • 認知症の母とハノイで暮らすなんて
    母は幸せだっただろうなー
    周りの人たちがあたたかい!

  • 実話だからびっくり。
    日本語教諭としてベトナムで暮らす著者が配偶者をなくした80代の認知症の母(Baちゃん)を引き取ることになったところから始まります。

    越後の田舎で暮らし、飛行機にすら乗ったことのない高齢のBaちゃん。
    初めての海外で、認知症にとって環境の変化は一般的に、混乱させ、認知症を悪化させる恐れがあるとされており、周囲の反対もあるものの、娘である著者は、自分の生活拠点を変えることができないため、思い切って母(Baちゃん)をベトナムへ連れ出すのです。

    ところが、ベトナムの風景は、Baちゃんにとって、その昔の日本を思い出させ、色んな事を思い出したり、一つ一つのことに感動したりと、良い刺激も与えてくれることが分かりました。

    日本に比べ、発展に遅れがあったりで不便な面もあるけれど、そこはベトナムで暮らす日本人や現地の方たちの温かな気持ちによってカバーされ、地域の方たちにも温かく見守られて、Baちゃんは活き活きと生活し、娘と旅行に出かけたりと生活を楽しむ様子がよく伝わってきます。
    Baちゃんは誰にでも方言丸出しの日本語で話しかけますが、ちゃんとそれが相手に伝わってしまうことが素晴らしい!
    理解しようと心を尽くすベトナム人に、温かい気持ちになりました。

    初めての国でいきなり暮らすことになっても、自然体で周りに溶け込むBaちゃんが素敵です。

    1人でかってに散歩に行って行方不明になったり、怪我をして入院したりとハプニングもありつつ、周りの方たちに支えられながら暮らす母娘が素敵でした。

    日本にはこういった助け合い、(自分も含めて)昔はあったのだろうけど、今は結構少なくなってきているから、読んでいて新鮮で、温かい気持ちになりました。

  • 出国できずカンボジアから出ることなく3年が経過し、旅行したいなと思いながら探していて発見した本。小説と思い手に取ったらエッセイで、しかも先輩(海外在住の年上の日本人女性)の手によるものだった。
    この年齢になると、年上の女性のエッセイはとてもありがたく、近い将来の自分だったらどうするかと考えながら読むことができる。
    それにしてもこの女性の思い切りのよい判断力、情の深さ、行動力には感心するばかり。
    お母さんの順応力にも感心した。
    まだベトナムが遠い存在だったころの決断と生活、当時のベトナムを思い浮かべながら読んだ。

  • 何気なく読み始めたが、とにかくめちゃくちゃ面白い、唯一無二な本。
    読みやすいのに、中身は結構骨太な内容。

    本書は簡単に言えば
    2001年12月、日本語教師の筆者は、新潟で暮らす81歳の母、Baちゃん(要介護3)をベトナム・ハノイに迎えて同居生活を始める。

    …というもの。そもそもBaちゃんにとって初めての飛行機&海外。
    パスポートを取るのも一苦労だし、田舎の親戚からは(もちろんというべきか)反対されているし……と全然一筋縄ではいかないのだが、
    筆者は父(102歳で他界)の死から2か月ほどで母の移住に向けて着実にやるべきことを遂行していく。母と二人幸せになるために。

    無事ベトナムに着いてから、在ベトナム日本人、やベトナム人といった様々な人との関わりがあり、助けてもらいながら母との暮らしを営んでいく。

    お母さまが雪国から解放されてのびのび生活している様子にこちらまで嬉しくなる。
    認知症ともあって、なぜ自分がベトナムにいるのか時々わかっていないような場面もあるのだが、それでもなんだか幸せそうで、それを見守るお嬢さんである筆者も嬉しそうで。

    このエッセイは「ベトナム暮らし×海外介護」が主な軸としてあるのだと思うけど、それだけじゃない。
    「婚家からの解放」
    「戦争によって壊されたもの」
    「認知症も異文化として捉える」といった事柄もエッセイの中で語られていて、とても興味深い。

    特にこの「婚家からの解放」はこの本のもう一つのテーマではないだろうか。
    1945年5月、戦争末期に21歳年上で6人の子持ちの農家に嫁いだBaちゃん。
    「昔は猫をあげるみたいに嫁に行かされたもんだよ」といった話にはなんとも言えない気持ちになり、当時の女性たちが当然のように背負わされた苦労に想いをはせる。
    執筆当時、まだ関係者もいるだろうし、その辺りの語り口はかなり控えめで抑えられてはいると感じるものの、個人的にはBaちゃんや筆者が雪国の田舎で感じてきたであろう束縛や耐え忍んできたであろう鬱屈みたいなものがなんとなく想像できた。

    大正9年生まれの母のこれまでの人生の断片が、ぽつぽつとベトナムで語られていく、このエッセイ。
    日本ではなく、第三国でやっと自由になれたんだね、と私は思った。夫が102歳でこの世を去って、自分も認知症になっちゃったとはいえ、ようやくイエからも解放されたんだね、と。
    個人的にはBaちゃんがよく天気の話をしているのか結構印象に残っていて、雪国って本当に大変なんだろうなと思った。雪国の農家…その嫁…。

    認知症とはいえ、いろんなタイミングで昔のものごとを思い出す時がある。そして娘である筆者もそれを丁寧に受け止める。
    「この病気をあなどってはいけない。上手に付き合えば、記憶の引き出しからもっと宝物が出てくるかもしれない。」という筆者の言葉が印象的。
    筆者の考える「認知症も病ではなく、異文化として捉えたら面白いかも」という認知症への新鮮な眼差しは、日本語教師としてベトナムに住み、異文化と向き合っていたからこそだと思う。
    Baちゃん失踪事件もあってハラハラするのだが、探し回った挙句、ニッコーホテルに”届けられて”いたりとちょっと笑える。
    大変なこともあったのだろうが、Baちゃんの海外介護にはどこかカラッとした感じが漂う。これが日本だったらもっと深刻さを帯びてしまいがちというか、ウェットな感じになってしまうと思う。認知症というだけで、日本の田舎では厄介者扱いされていたが、ベトナムではちょっとしたアイドルのように愛されたり、癒しの存在となったりする様子にはほのぼのとする。

    海外エッセイとしてベトナムの香りを感じられるだけでなく、人生の締めくくりを迎えた81歳の女性の独立&ベトナム見聞録の話でもあるし、とにかく面白いのでオススメです。

  • 面白いんじゃないかなと思って読んでみたらやっぱり面白かった。認知症になったお母さんをベトナム在住の著者が引き取って一緒に暮らすノンフィクション。
    認知症の人がベトナムの温かな人々に囲まれて意外やうまくいくという痛快さ。書中でもちょっとしたトラブルや心配事は紹介されているし、本になっているのは最初の1年分ほどのようなので、その後も痛快とはいかなかったろうとは思うけど、痛快なところで読み終えることができるのは幸い。でも、その後のことまで知りたくもあり。

  • 2020年8月読了。

  • ベトナムに行ってきたので読んでみた。
    行ったばかりのハノイの地名が出てきて、情景を想像しながら読めた。
    ベトナムの人は、確かに今の日本人より親切で、親身になって世話をしてくれるかもしれない。
    それでも、娘一人でヘルパーなどに頼らず(そもそもそのような制度がないらしい)異国の地で年老いた母を介護した著者は素晴らしいと思う。
    本書は明るく楽しく書かれているが、きっと苦労も多かったと思う。
    それでも楽しくやれるのは、周りの協力と著者の知恵だろう。
    素敵な親子の素敵なお話で、素敵な気分を味わえた。

  • 2018.11.10

  • 終始ほっこり

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著者プロフィール

1947年新潟県北魚沼郡堀之内町(現・魚沼市)生まれ。中学卒業後に上京、共立女子短期大学卒。出版社、法律事務所等勤務を経て、1992年にベトナムの首都ハノイに日本語教師として赴任。2008年よりベトナム社会主義共和国国営ラジオ局VOV「ベトナムの声」放送局勤務。現在、シニアアドバイザーをつとめている。ベトナム残留日本兵家族会コーデネーター。 2017年外務大臣表彰。認知症の母親をハノイで介護したエピソードは2015年、松坂慶子主演の日越合作映画「ベトナムの風に吹かれて」となった。著書『ベトナムの風に吹かれて』(角川文庫)。

「2020年 『動きだした時計』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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