汝、ふたつの故国に殉ず ―台湾で「英雄」となったある日本人の物語―

著者 :
  • KADOKAWA
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感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (372ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041035382

作品紹介・あらすじ

台湾で、その命日が「正義と勇気の日」に制定された日本人がいた――。日本と台湾の絆を表す「英雄」が歩んだ苦難と感動の物語。史上初の「日台」同時発売ノンフィクション!

1895年、ひとりの若者が台湾を目指して故郷・熊本をあとにした。台湾の治安維持と発展に尽くすためである。やがて台湾女性と家庭を築いた彼は、のちに「英雄」と呼ばれる男の子をもうけた。しかし、戦後の台湾の悲劇は、一家を動乱に巻き込んでいく。日本と台湾の“絆”を表わす「5代120年」にわたる壮大な一族の物語――。

「私には大和魂の血が流れている」「台湾人、万歳!」。台湾最大の悲劇となった1947年の「二二八事件」で、そう叫んで、永遠の眠りについた英雄がいた。坂井徳章弁護士(台湾名・湯徳章)である。父親は日本人、母親は台湾人で、生まれながらにして日本と台湾の“絆”を表わす人物である。父を早くに亡くした徳章は、貧困の中、辛酸を舐めながら勉学に励み、ついに当時の最難関国家試験である高等文官司法科と行政科の試験に両方合格する。

帝都・東京から故郷・台南へ帰り、台湾人の人権確立のために活動する中、徳章は国民党政府の「二二八事件」弾圧から台南市民を救うために奔走する。自らの身を犠牲にしながら、多くの市民を助けた徳章は、50年後に忽然と“復活”する。苦難の道を歩んだ台湾と、なぜ今も台湾人が日本と日本人をこれほど愛してくれているのか、その根源を解き明かした感動の歴史ノンフィクション――。

(プロローグより)
私は、蔡英文女史の姿と、歓喜で彼女の勝利を讃えた台湾人たちを見ながら、ここに辿りつくまでの「苦難の歴史」に思いを馳せずにはいられなかった。この勝利がもたらされるまでに、一体、どれほどの犠牲が必要だったのだろうか、と。そして、これまで流されてきた多くの、そして貴重な、血と涙を決して忘れてはいけない、と。勇気、信念、忍従、闘志、正義……先人たちが示しつづけた無形の財産こそ、台湾人の誇りだ。その多くの先人たちの中で、際立った光を放ち、日本人であり、同時に台湾人でもあった「一人の英雄」のことを、私は考えていた。もし、生きていたら、「この日」を彼は、どう迎えただろうか、と。

感想・レビュー・書評

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  • 久しぶりの書評ブログです。

    今回の書籍は、尊敬する門田隆将先生の新作「汝、ふたつの祖国に殉ず」であります。

    台湾人の日本びいきは知っている人は知っていると思いますが、それはもう彼の地では日本ファンが多く、東日本大震災の時もゴールデンで被災地への募金のテレビ番組が放送され、GDP比では多分一番寄付をして頂いた国家です。

    そんな、台湾には凄い(陳腐な表現ですが)台湾人がいました。

    名前は酒井徳章(日本名)・湯徳章(台湾名)さんといいます。

    彼は、台湾南部の台南に生まれ、警察官になり、警部補に30代でなり将来を約束されたのにも関わらず、来日し当時日本の最難関試験の高等文官の「司法科」(現在の司法試験)と「行政科」(現在の国家公務員総合職試験)の両方の試験に合格し、台南で弁護士業を営む傍ら、台南の参議院(台南市の議員のようなもの)を勤められていた方です。

    なぜ、湯徳章さんが門田先生の著書の題になったかというと、門田先生の書籍の対象である「心身共に鍛えられ、曲がった事はしないリーダー」であるという特徴があるからです。

    詳しくは本書を手に取って読んで欲しいのですが、徳章さんは幼少時代から頭脳明晰で柔道黒帯とというスーパーマンでありながら、つねに台湾及び日本の為に生きてきたという事実がありました。

    そう書くと「おまえ、たんなるエリートの権力への反対人生だろ?」と思われる方も多いと思いますが、そうではないのです。

    徳章さんは、弁護士という職業柄常に冷静に考え、実行に移すという行動をとり、命を落とすまで、それを貫き通したところが美談になったのです。

    つまり、彼はドン・キホーテではないのです。
    ご存知の通り、台湾は日清戦争後から第二次世界大戦終了まで、日本領でした。

    その後、蒋介石率いる中国国民党の領土となりました。

    その台湾で、外章人(元中国人)と本省人(台湾人)の間で、第二次世界大戦終了直後何度か対立がありました。その対立で、台湾の本省人の人々は多くの血を流します。

    徳章さんは、その中で英雄化されました。何故なら彼の死にざまが立派であったからです。

    彼の住んでいた台南では、台北や高雄で国民党が本省人を武力弾圧したという情報が入って来たのですが、徳章さんは英雄によくありがちな「武装蜂起」を指揮したのではなく、台南の人々に平穏を求めました。しかし、そんな彼の行動にも関わらず、国民党は彼を拘束し、拷問を行い、最後には銃殺を行ったのです。

    現在、台湾は民進党を率いる蔡英文女史が台湾総統職に就いています。

    しかし、中国は台湾を国家として認めてはいません。所謂「一つの中国」認識です。

    世界の諸国も台湾を正式に国家として認めてはいません。日本も含めてです。これはとても残念なことだと思います。特に日本は台湾の人々に大変お世話になっております。

    台湾人が好きな国ランキングでは、本書によると日本が55%でダントツだそうです。

    湯徳章さんの最後の言葉「台湾人、バンザーイ」(と彼は日本語でこう突然叫んだ)。
    という言葉とともに、日台友好を希求します。

    とにかく、台湾好きな人には台湾のルーツを知るのにとてもいい本だと思います。

    激しい音楽が好きな人は、台湾のブラックメタルバンド・ソニック(Chthonic)なんかに親しむと、台湾がもっと好きになるのではないのでしょうか?

    最後に私も叫びます。「台湾バンザーイ!!!」

  • 今日から台湾出張ということもあり手に取ってみました。出張中に読み終わればと思っていましたが、引き込まれてしまい、家を出て台中のホテル到着前に読み終えました。
    久しぶりに感動しました。台湾に関係する人には絶対によんでほしい本です。

  • 中国や韓国など日本周辺の国では反日的な世論が大勢を占めるケースが多い中、台湾は極めて親日的な世論が形成されている国です。その台湾の民主化、人権の確立などに生涯を捧げた日本人がいました。本書の主人公、湯徳章(坂井徳章)氏です。太平洋戦争直前のころ、日本人の父、台湾人の母というルーツを持ち、台湾では警察官として治安維持に携わっていましたが、台湾の近代化には日本で勉強することが必要と考えて来日、日本語の勉強も並行して進めながら当時最難関とされた高文司法科試験(弁護士資格のようなもの)、高文行政科試験(国家公務員試験のようなもの)に合格します。
    太平洋戦争前、台湾が日本によって統治されていた期間は日本からの熱心な教育者の派遣や秩序を保った統治によって台湾の社会は近代化を遂げていました。その当時、台湾の近代化に協力的であったことが今の日本への親日的な世論の基礎となっているようです。
    徳章氏が台湾で弁護士として人権の確立などに奔走していた時、太平洋戦争が始まり、日本が敗戦にいたって徳章氏の人生にも大きな転機が訪れます。日本の敗戦によって台湾の統治が中国国民党に委ねられることになったのです。
    中国国民党は露骨に外省籍(中国本土の人)と本省籍(台湾の人)との差別をしたり、台湾人にとって不公平な統治を実施しました。民衆のその不満が爆発したのが二二八事件です。台湾における天安門事件に相当する民衆暴動で、これを中国国民党は中国軍を投入して鎮圧しました。この二二八事件の際、民衆と中国軍との正面衝突を避けるべく、民衆の説得にあたったのが徳章氏です。このような功績を残した徳章氏を、中国国民党は事件終息後に見せしめともとれる公開処刑によって殺害してしまいました。台湾では徳章氏の功績をたたえるために、処刑が行われた公園の名前に徳章氏の名前が冠されています。このような日本人が存在したことを、本書を読むまでは私は全く知りませんでした。
    香港での昨今の中国の強硬な施策をみるにつけ、本書で触れられた台湾のケースがオーバーラップしてきます。

  • 積読

  • 門田隆将の最新作ということで読んだ。
    ニニ八事件の概要は知っていたが、主人公(父親が日本人で母親が台湾人)のような人間が、形だけ裁判をとったとは言え、虐殺に近い形で殺害されたという事実は知らなかった。
    フィクション(主人公がどう思った)とノンフィクションの境がなく、筆者の推測を事実であるかの様に書いているのはマイナス点として認識すべきなのだが、それを差し引いても、筆者の主人公への愛情・情熱を感じ入る。力作である。
    同時に、主人公のような有為の人間を罪もないのに為政者側の都合だけで殺害してしまったのは、国民党政権にとり明らかに失敗だったと言える。唐代、則天武后の専横に対する反乱軍の檄文(「一抔之土未乾、六尺之孤安在」(一抔(いっぽう)の土 未だ乾かず 六尺(りくせき)の孤 安(いづ)くにか在る」(先帝の陵墓の土が未だ乾ききらず、先帝の二歳半にしかならぬ遺児は一体何処へ行ってしまったのか」)を読んで思わず感嘆してしまった則天武后が、「このような才能ある者を用いないのは宰相の過ちである」と言ったというではないか。
    二二八事件を描いたという映画「非情城市」も観ねば!!

  • 今年最大の感動でした。著者の作品はすべて拝読させていただいておりますが、またもやられた感じです。ニニ八事件の概要は知っておりましたが、このような裏面史があったとは。筆者の対象者への溢れんばかりの情熱と、それを全て伝え切りたいとの怒涛の筆致には圧倒されます。「非情城市」も観なければ。

  • ノンフィクション作家門田隆将氏の最新刊。雑誌記者らしい歯切れ良い文章は今回も健在だ。
    日中台の複雑な歴史の中で、自らの信念と国・家族への想いを貫いた、父親が日本人、母親が台湾人という男性が主人公。台湾では敬われているとのことだが日本では全く無名。このような人物をテーマに、世に出すことだけでも意義がある。
    戦後台湾の現代史、二二八事件なんて言葉だけ知っていたが、あまりの凄惨さんに驚いた。
    一方で、よく調べられてはいるものの、会話などは裏付けがないであろう。その点、フィクションが混じっている。
    戦前の日本について、中国との比較ではあろうが、少しよく書きすぎている気がする。

  • 日清戦争以降の日台関係は、現代人が考えるよりも濃く、深い。

    国民党=外省人政権の軛を逃れた今、「一つの中国」に束縛されない台湾と台湾人の歴史が始まる。

    我が国でも改めて日台関係とその歴史を再認識すべきだろう。

  • ウチの甥っ子も日台ハーフなので、
    本が読めるようになったら貸してあげたい一冊。
    門田さんの熱い文章が苦手で無ければ、
    ルポルタージュとして面白く読める筈。

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著者プロフィール

作家、ジャーナリスト。1958年、高知県生まれ。中央大学法学部卒業後、新潮社入社。『週刊新潮』編集部記者、デスク、次長、副部長を経て2008年独立。『この命、義に捧ぐ─台湾を救った陸軍中将根本博の奇跡』(集英社、後に角川文庫)で第19回山本七平賞受賞。主な著書に『死の淵を見た男─吉田昌郎と福島第一原発』(角川文庫)、『日本、遥かなり─エルトゥールルの「奇跡」と邦人救出の「迷走」』(PHP研究所)、『なぜ君は絶望と闘えたのか─本村洋の3300日』(新潮文庫)、『甲子園への遺言』(講談社文庫)、『汝、ふたつの故国に殉ず』(KADOKAWA)、『疫病2020』『新聞という病』(ともに産経新聞出版)、『新・階級闘争論』(ワック)など。

「2022年 『“安倍後”を襲う日本という病 マスコミと警察の劣化、極まれり!』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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