眠りの庭 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA/角川書店
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本棚登録 : 681
感想 : 58
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041043615

作品紹介・あらすじ

女子校の臨時教員・萩原は美術準備室で見つけた少女の絵に惹かれる。それは彼の恩師の娘・小波がモデルだった。やがて萩原は、小波と父親の秘密を知ってしまう……。(「アカイツタ」)
大手家電メーカーに勤める耀は、年上の澪と同棲していた。その言動に不安を抱いた耀が彼女を尾行すると、そこには意外な人物がいた……。(「イヌガン」)
過去を背負った女と、囚われる男たち。2つの物語が繋がるとき隠された真実が浮かび上がる。

感想・レビュー・書評

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  •  強さと弱さ、野生と抑制、絶望と生命力。正反対の性質が共存する者は、生々しくも美しい。
     支配欲に満ちた父親に育てられた小波は、意志を持たない。自我を持たない人間は、何も求めてこない。また側にいる者の欲求を、自分のものだと錯覚している。だからなのか、小波と関わった男性は、彼女に強く惹かれ、取り込まれ、そして破滅していく。
     自己主張は少なからず、加害性を帯びる。小波のように強固な人格形成をされていなくとも、繊細な心を持つが故に、大切な人といる時には我を持たないという選択を、無意識的にしている人は案外多いと思う。
     しかしたとえ望んだとしても、人間は本当の人形にはなれない。常に小波の腹の底には、理不尽に傷つけられたことに対する怒りがある。だから敵意を持つ者には敏感に反応して、躊躇なく潰す。また深い絶望を味わっているから、痛みや恐怖をほとんど感じない。
     「マカロンも果物のケーキも…ぺたんこの靴も本当はどうだっていい。耀に似合うものが好きなの。幸せのイメージに近づいていく気がして。」小波は最終的に、彼女から決して何も奪おうとしない耀と、「理解し合えなくても一緒にいること」に希望を見出す。人の心には、決して他人が無闇に暴いてはならない、神聖な領域が存在している。
     人は変化する。よって、「あなたを信じている」と言うことは、実は暴力に近い。誰かを愛することは、祈りを捧げることと殆ど同義だ。

  • う〜ん、よく分からない、、
    魔性の女っていう事なのかな?周りの人間がみんな夢中になっておかしくなってしまう。
    自分は頼んでないのに、と言いつつ、周りを思い通りに操って、被害者ぶるのがなんだか嫌。

  • 千早さんの作品は、色彩描写、風景描写、感覚描写が丁寧で美しい。
    ファム・ファタールを彷彿とさせる女に魅入られ、絡め取られていく男たち。
    空っぽな女は怖い。

  • 人は分かり合えないし、全てを知ることはできない。
    全部話さないといけないわけではない。

  • 前半の「アカイツタ」と後半の「イヌガン」。後半を読み始めた時は別の話なのかな?と思ったけど、10年後のお話でした。今まで読んだ千早さんの中では1番の耽美さや幻想が漂う作品でした。
    明確な解釈が記されているわけではなく、読者に委ねられているお話です。
    私的には結末がちゃんとしていて、なるほどねーそうきたか。でもこういうのもありだよなぁと想像するのが好きなので、千早さんの決めた結末を知りたいなーと思いました。

  • 始まりから終わりまでずっと不気味で、薄暗かった。あまり好みじゃなかったな。小波と萩原の関係が気持ち悪いと感じた。性格にいうと、萩原が。初めは小波が萩原のことをどう思っているか全くわからず、想像さえできなかったから萩原と関係を持ち出した時にはびっくりした。萩原は、なんの抵抗もできない小波を利用しているようにしか見えなかった。

  • 千早作品は本当にドキドキしながら引き込まれる。

  • 最後まで読んだら、その続きには希望があるようにみえるけど、最初に戻って読み返してみると、やっぱり絶望しかないのかもしれないと思って怖くなった。
    耀が重なる。

  • 千早茜さんの著作を読むのは2作目だけれども、文章から漂う湿度と香りがとても濃厚だなと思います
    ファムファタール的なヒロイン 小波をめぐる男たちの話
    読む人によって受け取る印象は変わりそうな気もしますが、
    破滅に向かう怖さもある前半を受けたからこそ、
    より静かに丁寧に男女の、人間の関係について描かれた後半が心に沁み入るように感じられました

  • 小波と、囚われる男たちの物語。

    「イヌガン」の方を読みすすめていくうちに、「アカイツタ」の方では、小波は今よりもっと年相応に、かつその状況下ゆえに不安定な精神状態だったのだと感じた。
    一つ下の高校生たちと比べると、大人びていて違う雰囲気を纏っているから気づきにくいけれど、特に幼かったのだと思う。
    歳を重ねても結局、小波のことは誰も救えず、そもそも心から救いを求めるという考えに至ることさえできなかったのかもしれない。

    萩原が小波のことを好きだといい、初めて人を美しいと思ったといい手を伸ばし、同じ罪を犯してしまう様は、真壁教授のいうように小波はまさにサロメのようだった。
    けれど小波をサロメだというそれも、確かに小波が周囲を狂わす生来の魅惑があったとしても、周りが与えるレッテルでしかなく、小波は常に奪われ続けた人間なのだと思う。

    小波にとって耀の存在は、少しは過去の何もかもを捨てて生きる上での救いとなれるのかという微かな希望もあったけれど、それでも小波は、過去に囚われ過去と心中せずには生きられなかったのかもしれない。
    最後の「このまま眠ってしまうかもしれない」という小波は、耀が傍で待っているなか、ここで最期を迎えるのではないかと感じてしまった。

    過去やそれぞれの歪な愛が、蔦のように絡みついてくる。またしても読了後の余韻から抜け出せない。

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著者プロフィール

1979年北海道生まれ。2008年『魚神』で小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。09年に同作で泉鏡花文学賞を、13年『あとかた』で島清恋愛文学賞、21年『透明な夜の香り』で渡辺淳一賞を受賞。他の著書に『からまる』『眠りの庭』『男ともだち』『クローゼット』『正しい女たち』『犬も食わない』(尾崎世界観と共著)『鳥籠の小娘』(絵・宇野亞喜良)、エッセイに『わるい食べもの』などがある。

「2021年 『ひきなみ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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