- Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041043615
作品紹介・あらすじ
女子校の臨時教員・萩原は美術準備室で見つけた少女の絵に惹かれる。それは彼の恩師の娘・小波がモデルだった。やがて萩原は、小波と父親の秘密を知ってしまう……。(「アカイツタ」)
大手家電メーカーに勤める耀は、年上の澪と同棲していた。その言動に不安を抱いた耀が彼女を尾行すると、そこには意外な人物がいた……。(「イヌガン」)
過去を背負った女と、囚われる男たち。2つの物語が繋がるとき隠された真実が浮かび上がる。
感想・レビュー・書評
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強さと弱さ、野生と抑制、絶望と生命力。正反対の性質が共存する者は、生々しくも美しい。
支配欲に満ちた父親に育てられた小波は、意志を持たない。自我を持たない人間は、何も求めてこない。また側にいる者の欲求を、自分のものだと錯覚している。だからなのか、小波と関わった男性は、彼女に強く惹かれ、取り込まれ、そして破滅していく。
自己主張は少なからず、加害性を帯びる。小波のように強固な人格形成をされていなくとも、繊細な心を持つが故に、大切な人といる時には我を持たないという選択を、無意識的にしている人は案外多いと思う。
しかしたとえ望んだとしても、人間は本当の人形にはなれない。常に小波の腹の底には、理不尽に傷つけられたことに対する怒りがある。だから敵意を持つ者には敏感に反応して、躊躇なく潰す。また深い絶望を味わっているから、痛みや恐怖をほとんど感じない。
「マカロンも果物のケーキも…ぺたんこの靴も本当はどうだっていい。耀に似合うものが好きなの。幸せのイメージに近づいていく気がして。」小波は最終的に、彼女から決して何も奪おうとしない耀と、「理解し合えなくても一緒にいること」に希望を見出す。人の心には、決して他人が無闇に暴いてはならない、神聖な領域が存在している。
人は変化する。よって、「あなたを信じている」と言うことは、実は暴力に近い。誰かを愛することは、祈りを捧げることと殆ど同義だ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
う〜ん、よく分からない、、
魔性の女っていう事なのかな?周りの人間がみんな夢中になっておかしくなってしまう。
自分は頼んでないのに、と言いつつ、周りを思い通りに操って、被害者ぶるのがなんだか嫌。 -
千早さんの作品は、色彩描写、風景描写、感覚描写が丁寧で美しい。
ファム・ファタールを彷彿とさせる女に魅入られ、絡め取られていく男たち。
空っぽな女は怖い。 -
人は分かり合えないし、全てを知ることはできない。
全部話さないといけないわけではない。 -
前半の「アカイツタ」と後半の「イヌガン」。後半を読み始めた時は別の話なのかな?と思ったけど、10年後のお話でした。今まで読んだ千早さんの中では1番の耽美さや幻想が漂う作品でした。
明確な解釈が記されているわけではなく、読者に委ねられているお話です。
私的には結末がちゃんとしていて、なるほどねーそうきたか。でもこういうのもありだよなぁと想像するのが好きなので、千早さんの決めた結末を知りたいなーと思いました。 -
千早作品は本当にドキドキしながら引き込まれる。
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最後まで読んだら、その続きには希望があるようにみえるけど、最初に戻って読み返してみると、やっぱり絶望しかないのかもしれないと思って怖くなった。
耀が重なる。