遠い唇

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (212ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041047620

作品紹介・あらすじ

小さな謎は、大切なことへの道しるべ。
ミステリの巨人が贈る、極上の“謎解き”7篇。

■「遠い唇」
コーヒーの香りでふと思い出す学生時代。今は亡き、姉のように慕っていた先輩から届いた葉書には、謎めいたアルファベットの羅列があった。
■「解釈」
『吾輩は猫である』『走れメロス』『蛇を踏む』……宇宙人カルロロンたちが、地球の名著と人間の不思議を解く?
■「パトラッシュ」
辛い時にすがりつきたくなる、大型犬のような同棲中の彼氏。そんな安心感満点の彼の、いつもと違う行動と、浴室にただよう甘い香り。
■「ビスケット」
トークショーの相手、日本通のアメリカ人大学教授の他殺死体を目撃した作家・姫宮あゆみ。教授の手が不自然な形をとっていたことが気になった姫宮は、《名探偵》巫弓彦に電話をかける――。

全7篇の、一筋縄ではいかない人の心と暗号たち。
解いてみると、“何気ないこと”が光り始める。

感想・レビュー・書評

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  • 世の中には様々な謎が存在する。
    謎を解き明かしていて楽しくなったり微笑ましく思えたり、時に切なくなったりもする7編の短編集。

    7編の中で特に印象に残ったのは表題作。
    優しくて切ない謎解きが胸に染み入って、何度も泣きそうになった。
    遠い日の記憶を一瞬で蘇らせるコーヒーの染みと微かな残り香。
    そんな芳醇で香ばしい香りが漂う思い出の中、今なお生き続ける彼女の可愛らしい謎々が時を経て届けられる。
    それは淡く甘酸っぱい、遥かに遠い記憶。
    彼女と一緒に答え合わせができなくて、本当に残念。
    時を超えた一人きりの答え合わせに涙した。

    ラストの短編『ビスケット』も印象的。
    「わたくしも、いささか本を読み、そしてーー人生もまた、読みました」
    本を読むことは人生を読むことに繋がる。
    深みのある言葉に胸が熱くなる。

  • ミステリーカテゴリにしたけれど、どちらかと言えば文学的香りもする北村さんらしい作品。
    そういえば、ベッキーさんシリーズの「鷲と雪」も直木賞受賞作ではあるものの、結末の情景描写と言い、なんとなく文学的な印象を受けた。

    さて、この作品は6つの短編と1つの中編が収録されている。
    いずれもミステリーでもあり、人の心の深淵を覗き込むような、何とも物悲しく温かく切なくなるような作品が多かった。

    かと思いきや、数々の名作を宇宙人風に解釈した「解釈」や、乱歩先生の「二銭銅貨」を新たな視点で描く「続・二銭銅貨」など、コミカルな作品もある。

    そして最後の中編(字が大きいのでボリュームとしては小さいかも)、『人知を超えた難事件を即解決』する名探偵が登場する。
    その割には超難題というよりは、その世界の知識があれば解けそうな内容だったが。

    あとがきによると、北村さんが『好んで書く<名探偵>は、論理というより、常人の持たないひらめきによって真相に到達するのです。瞬時に、別世界を見てしまう特別な目を持っている』ものらしい。

    その意味で言えば、パズル系ではなく、ひらめき系と言えるミステリーなのだろうが、謎解きに重きを置くのではなく、そうまでして人は何を伝えたかったのか、そこから人は何を汲み取るのか、そういう作品集だったのかなとも思う。

  • 「一粒で二度おいしい」どころか(古い?笑)
    一冊で色々な味を何度も楽しめる短編集でした。

    特に好みだったのは#解釈
    お手伝いさんに首筋をつかまれ外に放り出される「漱石」
    メロスと走っても、息切れ一つしない健脚の持ち主「太宰」
    文豪の方々には大変申し訳ないのですが、笑ってしまいました。

    『八月の六日間』の主人公・女性編集者の話もあります。

    暗号モノ、一応チャレンジはしたものの…何の糸口も見つからず。ははは…

  • 久々の北村薫さん。
    お得意の“日常の謎解き”を中心とした、七篇の短編集です。

    表題作「遠い唇」は勿論のこと、どの話も程よい量と質で、まさに珈琲を飲みながら読むのにぴったりな一冊です。(実際カフェで本書を読んだ私)
    面白かったのは、他の話と毛色の異なる第四話「解釈」ですね。地球をリサーチ(?)に来た宇宙人によって、『吾輩は猫である』『走れメロス』『蛇を踏む』がとんでもないことにされてしまうのが笑えます。
    第六話「ゴースト」は『八月の六日間』、第七話「ビスケット」は『冬のオペラ』にそれぞれ連なる話です。どちらも前作は既読ではあるのですが、時が経ちすぎてほぼ覚えていませんでした。とはいえまぁそれなりに楽しめたのでよしとします。
    余談ですが、北村さんといえば、やたら作中でエラリー・クイーンを推してくるのが印象的で、“そんなに言うなら”とクイーンに手を出したものの、残念ながら私にはハマらなかったという記憶があります。
    で、本書でもまだクイーンを推していました。本当、北村さんはクイーンが好きなんだなぁと、我ながら変なところで感心してしまいました。

  • こちらの本は北村薫さんの謎解き7編が納められたミステリーです。

    北村薫さんの作品はしっかり読まないと内容がわからないまま終わってしまうような内容が多いので、結構時間が掛かりました。

    今回も詩歌やアルファベットを使った謎解きや、名著などをパロったものなど、いろいろなカタチで読ませて頂きましたが、解ければ面白いんだけど正直ちょっと疲れました。

    短編の作の 「遠い唇」や 「しりとり」は 話しも短く、ほろ苦くもほほえむような内容の謎解きで読みやすかったですし、「解釈」なんかは宇宙人が地球の名著や言葉の不可思議さで 面白解釈するのはなかなか笑えました。

  • 最初の2話と宇宙人の話は確かに面白いんだけど、それ以外はちょっとやっつけでした。いや、ファンの方には満足なのでしょうか…。パトラッシュはもう謎解きでもないし、あとは説明文話とか、「ヤマもオチもない…で?」話とか、あんた死に際にトンチ考えてる場合か!?話とか、正直に言ってイマイチでした、ごめんなさい。

  • 人類に「言葉」という物があることは最高に幸せだなあ~と思ってしまう一冊。
    『解釈』の、地球外生命体の誤解に大笑い。
    言葉や文字に関する、謎と解明の短編集。

    『遠い唇』
    大学時代の思い出を、今ひもとく。
    先輩からのハガキに、謎の文字が並んでいた。
    「何でもないわ。――いたずら書き」そう言った先輩の硬く結ばれた唇。

    『しりとり』
    亡くなった夫が病院で、和菓子の包み紙の裏に書いた、真ん中の抜けた俳句らしきもの。
    空間には、「黄身しぐれ」が置かれていた。

    『パトラッシュ』
    パトラッシュ…疲れたり眠かったりしたとき、そっと寄り掛れる存在…

    『解釈』
    エキサイト翻訳に日本語文章を入れて外国語にする。
    その外国語を入れて日本語に翻訳する…
    そうするとこんなふうになります(笑)

    『続・二銭銅貨』
    「二銭銅貨」は、暗号文を文字に当てはめていく、江戸川乱歩の名作ミステリ。

    『ゴースト』
    この作品だけは毛色が違う物、と作者があとがきで触れる。
    脳は、記憶やイメージを勝手に重ねて勘違いしてしまうことがある…

    『ビスケット』
    北村作品の「名探偵」は、その頭の中に驚くべき量の知識が詰め込まれている。
    そして、大量の引き出しから即座にひらめいた組み合わせで正解を導き出す。
    しかし、名探偵の頭脳がなくても、謎が解けてしまうことがある…時代になったのかもしれない。
    商売あがったりだ。

  • 「解釈」、めっちゃおもしろい。
    どうしてこんなこと思いつくのだろう。
    宇宙人が愛しい・・・
    そりゃびっくりするよね。
    不思議に思うよね。

    最初の二つの短編もステキでした。
    さすが北村先生って感じのしっとり感。

  • 小さな謎解きの短編集。
    「しりとり」は和菓子のアンソロジーで読みました。とても好きな短篇で、読後食べたことがない黄身しぐれを買いに行きましたが、謎解きの方はすっかり忘れていました。情けなし・・・。
    「解釈」は宇宙人が走れメロスなどの名作を解釈する不思議な短篇。笑えました。
    ただそれぞれ話が始まってしばらくどういう語り手像が掴みづらく、あれ?と思うこともあって、全体としては入り込みづらい気がしたのが残念。

  • それぞれ独立した話の短編集。

    『ビスケット』で久々に名探偵に会えたこと
    でも時代の流れで名探偵以外の人が名探偵の
    頭脳を拝借できるものが存在するようになったことに
    対する北村氏の少し寂しさを感じさせる考察に
    しみじみした気分になりました。

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著者プロフィール

1949年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。大学時代はミステリ・クラブに所属。母校埼玉県立春日部高校で国語を教えるかたわら、89年、「覆面作家」として『空飛ぶ馬』でデビュー。91年『夜の蝉』で日本推理作家協会賞を受賞。著作に『ニッポン硬貨の謎』(本格ミステリ大賞評論・研究部門受賞)『鷺と雪』(直木三十五賞受賞)などがある。読書家として知られ、評論やエッセイ、アンソロジーなど幅広い分野で活躍を続けている。2016年日本ミステリー文学大賞受賞。

「2021年 『盤上の敵 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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