政略結婚

著者 :
  • KADOKAWA
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感想 : 100
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  • Amazon.co.jp ・本 (360ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041047682

作品紹介・あらすじ

金沢城で生まれた私の結婚相手はわずか生後半年で決まった。(中略)
早すぎると思うかも知れないが、当時ではごくごく当たり前のことで、
大名の子の結婚はすべて政略結婚、
祝言の日まで互いに顔を合わせず、文も交わさぬのが慣習である。
私の生まれた文化の世とはそういう時代であった。――第一章「てんさいの君」より

不思議な縁(えにし)でつながる、三つの時代を生き抜いた三人の女性たち。
聡明さとしなやかさを兼ね備え、自然体で激動の時代を生き抜く彼女らを三部構成でドラマチックに描き出した壮大な大河ロマン!
―――
加賀藩主前田斉広(なりなが)の三女・勇(いさ)は、生後半年で加賀大聖寺藩主前田利之(としこれ)の次男・利極(としなか)のもとに嫁ぐことが決まっていた。やがて生まれ育った金沢を離れ江戸へと嫁いだ勇は、広大な屋敷のなかの複雑な人間関係や新しいしきたりに戸惑いながらも順応し、大聖寺藩になくてはならない人物になっていく。だが、石高十万石を誇る大聖寺藩の内実は苦しかった。その財政を改善させるような産業が必要と考えた利極と勇が注目したのは――(「第一章 てんさいの君」)。
加賀藩の分家・小松藩の子孫である万里子。パリで生まれ、ロンドンで育った彼女は、明治41年帰国し、頑なな日本の伝統文化にカルチャーショックを受ける。やがて家とも深い縁のある九谷焼をアメリカで売る輸出業に携わることとなり、徐々に職業夫人への展望をいだくが、万里子の上に日本伝統のお家の問題が重くのしかかる。日本で始めてサンフランシスコ万博の華族出身コンパニオンガールになった女性は、文明開化をどう生きるのか――(「第二章 プリンセス・クタニ」)。
貴族院議員・深草也親を祖父に持つ花音子は、瀟洒豪壮な洋館に生まれ育ち、何不自由なく暮らした。だが、花音子が幼稚園に上がるちょうどその頃、昭和恐慌によって生活は激変。すべてを失った花音子と母・衣子は、新宿の劇場・ラヴィアンローズ武蔵野座に辿り着く。学習院に通いながら身分を隠して舞台に立つ花音子は一躍スターダムにのし上がるが――(「第三章 華族女優」)。

感想・レビュー・書評

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  • 江戸、明治、昭和と3つの時代を強く生きた3人の女性。
    政略結婚の話という感じでもないですけど(笑)

    第一章 てんさいの君
    加賀藩主の側室の娘・勇(いさ)は、生後半年で分家に嫁ぐことが決まっていました。
    18歳になり、夫となる加賀大聖寺藩の前田利極のいる江戸藩邸へ。
    結婚までは会ったこともないのがごく普通の時代、親戚でもあり、素直に受け入れていた勇。
    幸い、夫は優しい人で、子供が出来なくとも側室を迎えようとしなかったため、妻に甘いと評判になるほど。
    跡取りになるはずの男子が夭折し、夫も早逝、勇はお家の存続を守るため、養子縁組や縁談に力を注ぐ日々がえんえん続く。
    そういうことが女性の、とくに御台所の大事な務めだったのですね。
    詳しい説明で実情がわかり興味深いですが~やや歴史書っぽいといいますか。

    第二章 プリンセス・クタニ
    明治末頃。
    前田万理子は華族だが、海外駐在の銀行員である父と海外で暮らしてきました。
    日本のことをろくに知らないのはけしからんと呼び戻され、祖母たちのしつけを受けることに。
    縁談もいくつか持ち上がりますが、アメリカに住む相手に会うという口実で渡米。
    加賀藩由来の九谷焼の魅力を改めて知り、事業に乗り出します。
    活発なお嬢様の明るい話で、縁談は旧来の感覚で起きるものの、結果は夢のあるラブストーリーに。

    第三章 華族女優
    深草花音子は、豪華な洋館で何不自由なく生まれ育ちました。
    昭和恐慌によって財産を失い、すべてが一変してしまいます。
    女子学習院に通いながら新宿の劇場で踊ることになり、のちには女優に。
    貧しさに苦しんだ母は、人が変わったようになっていきます。
    政略結婚の話は出ないですよね‥
    もうそんな時代ではない!ってこと?
    華やかなヒロインでいいですが。

    なぜこのタイトル、なぜこの構成なのか?微妙な疑問が残りました(笑)
    時代と環境は違っても、育ちの良さと、お付きの女性がいる暮らし、というのが3世代で共通しているところかしら。
    政略結婚あんがい良い、政略結婚みたいだけど違う、政略結婚は親の代まで、というお話3つ。

  • 江戸、明治、大正、昭和の女たち。
    彼女たちの共通点は、「おひいさま」。
    つまり、姫君であること。
    時代に翻弄されながらも彼女たちは誇り高く生きていた。

    「てんさいの君」
    さとう大根のような夫(夭逝するが)が人生の伴侶。
    加賀大聖寺藩前だけの姫として生まれた勇は、この時代の常として次々と当主、子供達を亡くしていく。
    悲しみにくれながらも、「死なぬものは死なぬ」として、残されたものの務めと、強く気高く生きていく。
    穏やかな夫との短い幸せ。
    結婚だけが人生の幸せではないが、こんな優しい殿様だったからこそ、勇は強く生きられたように思う。

    「プリンセス・クタニ」
    小松藩藩主の娘として生まれた姫。
    外国に生まれ、洋風に憧れた身ではあるが、あることをきっかけに自分の「国」を学ぶようになる。
    黄色い猿と罵られもしたし、芸者がよく使う手口などと出自をばかにされることもあった。
    それをはねのける強さは、彼女が学ぶことをしたからだ。
    その強い姫の下にあったのは、さとう大根の絵柄の皿......。

    「華族女優」
    家族がなくなろうとする時代の物語。
    レビューに惹かれ、バラを踏みつける心地よさを知ったかの子。
    自らが生まれ育った屋敷を取られながらも、一から這い上がろうとした女。
    このタフネスに現代女性は何を見るだろう。

    強い女性が好きだ。
    鋼鉄の鎧を身に纏うのではなく、彼女たちのような、柳の枝のようなしなやかな生き方がしたい。

  • 表紙の絵のように三代続く(直にではないが)女性たちの物語。

    タイトルだけみたら嫌々結婚させられる感じだけど、1話の勇も、2話の万里子も相手に恵まれたと思う。万里子は許婚との結婚ではなかったけど。
    3つの話の中ではこの「プリンセス・クタニ」が好きかな。お似合いの2人が一緒になれたから。

    でも1話も3話も、もちろん面白かった。お皿が時代を超えた。

  • 江戸時代の大名のお姫様からはじまり、明治、大正、昭和と、先祖がなんらかの繋がりがある3人のお姫様の一生を、それぞれの時代を背景に描かれた歴史物語。
    タイトルの通り、江戸時代の大名の元に産まれると、すべてが政略結婚。明治に入り、元大名家が華族に変わり、お姫さまの立場も変わっていくと共に、結婚の在り方も徐々に変わっていく様子が面白かった。

  • 江戸から明治、昭和の三世代、それぞれの時代を自分らしく生き抜いた女性たちの物語。

    彼女たちの時代それぞれで、愛や情ではなくとも絆を築けた結婚もあれば、自身で縁をたぐりよせた結婚もある。そのかたちはさまざまだけれど、一つの屋根の下でともに生き続けることの尊さを感じさせてくれる、今の常識だけではとらえきれない時代時代の「人と人、家と家とのつながり方」が描かれていて、興味深く読めました。

    作者の女性たちはサバサバっとした人たちが多くて読んでいて小気味よいのですが、この作品でもそのとおりで、たくましくも女性らしさも失わない凛とした姿が素敵な人ばかりでした。

    私は第二章のプリンセス・クタニがとても好きでした。ポイントは終盤のあの告白場面ですね。かっこよすぎました。

  • 加賀百万石前田家縁の3人のお姫様たちが、一枚の皿を通して江戸末期・明治・昭和と時代を超えて繋がる歴史ロマンもの。
    ストーリーは面白かったが、説明的な文章が多くてイマイチ頭に入ってこず、何度も章のはじめにある家系図に目をやったり、前の頁を繰ったりしながら読み進めた。

    3人の関係性が微妙に遠く、頭の中で家系図を書き直すもピースが足りず。
    こういう時代を超えた連作短編物は好きなのだが、各主人公たちの関連性がもう少し密な方が、登場人物に感情移入しやすかったように思う。
    第一章に登場する奥女中の「蕗野」が、第二章で主人公のお相手(侍女)の「曾祖母」として登場するが、一部表記が「祖母」になっているのは誤植ではないのか?

    登場人物はどこまで歴史上の人物なのか、読みながら色々ググってみたがちっともヒットせず、架空の人物設定が多い模様。
    少なくとも最終章の「白樺かの子」は、戦中・戦後の様々な女優像をミックスして作り上げた人物で、終盤の“お昼の30分トーク番組”を20年以上……というくだりは黒柳徹子がモデルのようだ。
    第一章の前田勇は、前田家の家系図に「女」と書かれている程度の存在だった人物を、作者の想像で膨らませたのではないか?
    第二章の前田万里子には、誰だかは分からなかったが実在の人物のモデルがいそうである。

    一章・二章は、歴史ロマン的なファンタジーにほっこりしたのに、最終章で“家に縛られる母”、“娘と自分を同化し、自分の夢を託す母”と一気に現代的な「母から娘への呪い」がテーマの1つとなる。
    昭和は遠くなりにけり……といっても、今の平成と地続きの世界なのだ、と実感。

  • 九谷焼


    図書館から借りた本

  • 朝ドラかなんかで実写化してほしい。

  • 江戸、明治、昭和と時代を生きた女性たちの話。

    「てんさいの君」
    加賀大聖寺藩前田家に輿入れした姫 勇 は、優しい夫と短いながらも穏やかな生活を送る。夫や子に先立たれた後も藩のため、力を尽くす。
    「死なむものは死なむ」という義母の言葉が印象的。

    「プリンセス・クタニ」
    江戸時代は終わり、女性たちの装いも変わり、祖父母の時代は遠くなった時代に生きる万里子は、お姫様といわれてもまったく実感はなかった。
    ある時、国元を訪れた時、そこに住む人たちの姿を見て、家を絶やすわけにはいかないと思うようになる。

    「華族女優」
    昭和の時代を生き抜いた没落華族の娘、花音子は昭和22年の華族制度廃止でやっと自由を手に入れたと感じる。
    家を絶やすことにおびえなくていい時代の到来。
    ずっとついててくれた「ひとりでないのがいいんです」という言葉があったかい。

    3人のお姫様はそれぞれの生き方を貫いてて、潔かった。それぞれ側についててくれているお付の女性たちが居ましたがその人たちもカッコ良かったですね。

    1枚の大皿と共に時代の流れを感じる本でした。

  •  装丁がとても素敵です。

     幕末から昭和、平成まで。それぞれの時代を強く生きた3人の「おひいさま」の物語。
     少女小説から時代小説まで、幅広いジャンルを書かれる作家さんらしい楽しい一冊でした。
     最初のほうは、ほとんど説明ばかりのような文章が続いて味気ない部分もありますが、構成上、章を追うごとにだんだんと面白くなっていきます。

     主人公は大名家の娘や華族の令嬢。「家」に縛られることに反発しながらも、やがて「家」のために生きることを己の道と定めるようになる...と言うと、悲観的に語っているようですが、そこには、「家」のために自分にしかできない役目を、自分なりのやり方でまっとうしようと全力で挑む強い女性像があります。
     「個」よりも「家」が優先された時代の結婚観というのはこれまでも何度か出会ったことのある題材ですが、江戸から明治に至り、大名家や公家から華族へ姿を変えた「家」が、さらに昭和まで続く激動のなかでどのように長らえてきたかというのは、これまで小説では読んだことがなく、その点で「プリンセス・クタニ」「華族女優」の各章はとても興味深く面白かったです。自由を選ぶこともできる時代になったからこそ、それまでの不自由な時代にひたすら「家」を存続させてきた人々の生きざまが重く響きます。
     何百年と続く伝統であっても、そこに生きる人々にとってはたった一度の人生。その一人ひとりに苦悩や葛藤があったのだろうと考えさせられます。「自分の代で家を潰すわけにはいかない」という言葉が印象に残りました。

     「政略結婚」というタイトルは、彼女たちの運命を指すのではなく、男も女も、物語のなかでたびたび交わされる婚姻や養子縁組、或いは、そのための過程やそこに関わる人々すべてのことを言っているのだろうなと思います。「政略結婚」は「家」、引いては長らく続いた時代を象徴する言葉だとしみじみ感じます。

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著者プロフィール

1976年兵庫県生まれ。2000年『マグダミリア三つの星』で第4回角川学園小説大賞奨励賞を受賞しデビュー。主な著作に「トッカン」シリーズ、「上流階級 富久丸百貨店外商部」シリーズ、『メサイア 警備局特別公安五係』、『シャーリー・ホームズと緋色の憂鬱』、『マル合の下僕』、「カーリー」シリーズ、『剣と紅 戦国の女領主・井伊直虎』、『主君 井伊の赤鬼・直政伝』(文藝春秋)など。2013年『カミングアウト』で第1回エキナカ書店大賞を受賞。漫画原作も多数。

「2023年 『忘らるる物語』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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