いくさの底

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著者 : 古処誠二
  • KADOKAWA (2017年8月8日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041061756

いくさの底の感想・レビュー・書評

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  •  『UNKNOWN』で第14回メフィスト賞を受賞し、ミステリ作家としてデビューした古処誠二さん。第4作『ルール』以降は戦争小説作家に転じ、現在に至る。もうミステリーを書くことはないのだろう。そう思っていた。

     新刊はやはり戦争小説だが、ミステリー的方法論を持ち込んでいる点が興味深い。もっとも、そのように言われるのは、古処さんには不本意かもしれないし、ご本人はミステリーを書いたつもりなどないのかもしれないが。

     第二次大戦中期の、ビルマの山岳地帯の村で、駐留する日本軍の青年将校が殺害された。元々日本軍を遠巻きに見ていた住民たち。それぞれの思惑により分断され、疑心暗鬼に陥る小さな村。日本軍としては、とにかく収拾を図らねばならない。

     連隊本部から副官が送り込まれる。戦死として処理せよという方針には、一読者である僕でも首を傾げざるを得ない。誤魔化し通せるものか。しかし、上層部の命令ならば、事実なのだ。それが軍隊という組織なのだから。

     乱暴に言ってしまえば、いわゆるフーダニット・ホワイダニット・ハウダニット、誰が・なぜ・どうやってという、ミステリの定番的テーマが焦点である。ただし、前線ではないとはいえ、この村が戦場の一部であることが前提になる。

     軍隊における価値観と、戦場における価値観。軍隊に身を置き、それらを解する者でなければ、辿り着けない真相だろう。静かな村の秘密とは。現代社会や日常の価値観でしか判断できない我々には、説明されてももやもやが残る。

     組織へのダメージを最小限にするという論理思考は、現代社会にも通じるだろう。目的のために、誰かを切り捨てるか、あるいは見て見ぬふりをするか。しかし、これはその場しのぎでしかない。組織の価値観を優先するあまり、このようなその場しのぎが繰り返されたのではないか。

     筆致はあくまで淡々としている。日常の価値観が通用しない、戦場という特殊な世界。本作に描かれたのは、そんな戦場の恐ろしさなのかもしれない。

  • 著者の真骨頂である「戦時下のミステリ」。実際に戦争を体験しているのではないかと思わせる位、軍隊の描写や異国の空気感にリアリティがある。巧い。
    動機に納得しかねる部分もあるが、他はほぼ完璧。たまにはこういう硬派な作品も良いな。

  •  中国・ビルマ国境、いわゆる「援蒋ルート」近くの小さな村で起こった日本軍将校殺害事件に居合わせてしまった通訳の視点から、二つの国の軍隊に怯えながら生きなければならない村のありようと、軍隊の論理に翻弄されてしまった元日本兵の数奇な運命が描かれていく。軍隊内殺人といえば、奥泉光の『軍艦「橿原」殺人事件』が思い浮かぶが、それぞれの論理が複雑に交錯する分、より考えさせられる構図になっている。
     古処誠二のテクストを読むといつも、余計な修飾のない・起伏の少ない・過不足のないシンプルな文体に感心させられる。この文体こそ、軍隊の文体だと言ったら、飛躍が過ぎるだろうか。しかし、この作者の戦記小説のリアリティは、この文体にこそ支えられているように思えてならない。

  • よいミステリーだった。

  • 全編を通じてピンと張りつめた緊張感。第二次大戦のビルマ戦線、過剰な説明を排し、読者の基礎知識と読解力を要求しながら、ミステリという読み物としても良く出来ており、人物の葛藤や余韻は文学的でもある。8.0

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いくさの底の作品紹介

「そうです、賀川少尉を殺したのはわたしです」――ビルマ北部のある村に駐屯することになった日本人将校の突然の死。
いったい誰が、なんのために殺したのか?
皆目見当がつかず、兵士も住民も疑心暗鬼にかられるなか、のどかな村に人知れず渦巻く内紛や私怨が次第にあぶり出されていく。
戦争という所業が引き起こす村の分断、軍隊という組織に絡め取られる心理。
正体のあかされない殺人者の告白は、いつしか、思いもよらない地平にまで読者を連れ出す――
驚天動地、戦争ミステリの金字塔。

いくさの底のKindle版

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