いくさの底

著者 :
  • KADOKAWA
3.26
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感想 : 43
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041061756

作品紹介・あらすじ

「そうです、賀川少尉を殺したのはわたしです」――ビルマ北部のある村に駐屯することになった日本人将校の突然の死。
いったい誰が、なんのために殺したのか?
皆目見当がつかず、兵士も住民も疑心暗鬼にかられるなか、のどかな村に人知れず渦巻く内紛や私怨が次第にあぶり出されていく。
戦争という所業が引き起こす村の分断、軍隊という組織に絡め取られる心理。
正体のあかされない殺人者の告白は、いつしか、思いもよらない地平にまで読者を連れ出す――
驚天動地、戦争ミステリの金字塔。

感想・レビュー・書評

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  • 戡定後のビルマの村に急拵えの警備隊として配属された賀川少尉一隊。駐屯当日の夜、何者かの手で賀川少尉に迷いのない一刀が振るわれる。彼はなぜ殺されねばならなかったのか。

    賀川少尉を殺したのは、ビルマの村の村民か、重慶軍か、日本軍の中にいるのか⁉︎ みな疑心暗鬼に。殺人者の告白に胸がしめつけられる。

    重慶軍は卑劣かつ怖ろしい。
    日本軍は非情かつ怖ろしい。
    戦争は人を狂わせる。戦争中にはこのような事がたくさんあったのだろうか。

    表紙の絵がいい。迷いのない一刀、殺人者の深い哀しみと怒りを表している。善ではないが悪でもないと思う。

    もっとドキドキハラハラかと思ったが、物語は殺人者の告白までは淡々と進み、何度も居眠りをしてしまった。久しぶりの古処誠二さん、戦争ものが好きな方は面白いと思います。

  • 戦時下ビルマ前線での事件。珍しい設定で、最初は世に進んだ。話が進むにつれて、淡々とというか、淡白にというか、話が進む。最後も、ああーーーなるほどねとは思うけど、それほどのインパクトはないかな。前半がテンポも良かったので3点。

  •  『UNKNOWN』で第14回メフィスト賞を受賞し、ミステリ作家としてデビューした古処誠二さん。第4作『ルール』以降は戦争小説作家に転じ、現在に至る。もうミステリーを書くことはないのだろう。そう思っていた。

     新刊はやはり戦争小説だが、ミステリー的方法論を持ち込んでいる点が興味深い。もっとも、そのように言われるのは、古処さんには不本意かもしれないし、ご本人はミステリーを書いたつもりなどないのかもしれないが。

     第二次大戦中期の、ビルマの山岳地帯の村で、駐留する日本軍の青年将校が殺害された。元々日本軍を遠巻きに見ていた住民たち。それぞれの思惑により分断され、疑心暗鬼に陥る小さな村。日本軍としては、とにかく収拾を図らねばならない。

     連隊本部から副官が送り込まれる。戦死として処理せよという方針には、一読者である僕でも首を傾げざるを得ない。誤魔化し通せるものか。しかし、上層部の命令ならば、事実なのだ。それが軍隊という組織なのだから。

     乱暴に言ってしまえば、いわゆるフーダニット・ホワイダニット・ハウダニット、誰が・なぜ・どうやってという、ミステリの定番的テーマが焦点である。ただし、前線ではないとはいえ、この村が戦場の一部であることが前提になる。

     軍隊における価値観と、戦場における価値観。軍隊に身を置き、それらを解する者でなければ、辿り着けない真相だろう。静かな村の秘密とは。現代社会や日常の価値観でしか判断できない我々には、説明されてももやもやが残る。

     組織へのダメージを最小限にするという論理思考は、現代社会にも通じるだろう。目的のために、誰かを切り捨てるか、あるいは見て見ぬふりをするか。しかし、これはその場しのぎでしかない。組織の価値観を優先するあまり、このようなその場しのぎが繰り返されたのではないか。

     筆致はあくまで淡々としている。日常の価値観が通用しない、戦場という特殊な世界。本作に描かれたのは、そんな戦場の恐ろしさなのかもしれない。

  • 戦争モノというせいか読みにくかった。

    でもそれを補ってあまりあるくらい読み物としてミステリーとして秀逸だった。

    騙そう騙そうとしている謎解きなんかより上質な読書体験ができました。

  • ビルマの駐屯地で賀川少尉が何者かに殺害された。いったい誰が何の目的で?
    「戦場を舞台にしただけの推理ミステリー」というふうな感触で話は進む。ところが、終盤の終盤になって明かされるたったひとつの真相によって、その世界観はいきなり覆る。
    古処さんも今回はちょっと手を抜いたのか?と思った今作だったが、終わってみればやはり紛れもない古処誠二作品であった。ひたすらに唯一無二である。

  • 戦争ミステリ小説。
    初古処作品でした。歴史的背景に詳しくないので、深く読み切れていないかもしれない。
    特異な場所での殺人である。現代の価値観では計り知れない真実がある。
    ホワイダニットの強烈さは、息をのむ。犯人に圧倒される。

    この戦争のリアルさは、タイトルの意味が理解出来たときに、染みわたってくる。
    作者の筆政に圧倒され、戦争の悲劇だけでは済まされない読後感が押し寄せてくる。

  • ミステリーでした~~
    内容は戦時下のビルマでの殺人事件。
    この人?こうだったのか~と思います。

    少し印象に残ったとこを・・・
    【本文より】
     男が更に何かを言いかけてとき、オーマサが「黙れ」と一喝した。しゃにわに振り返ったオーマサの顔は怒りに占められていた。
     「いいか、戦いというものは単純ではないのだ。鉄砲を撃ち合って勝った負けただのと言えることではないのだ。ここに暮らす我々にも、それはよくわかることではないか。子供のような勝手な資格など我々にはそもそもない。チジマスターに甘え、日本軍に甘え、あげく守られているのが、当たり前だと勘違いしている者があるなら、今すぐ家へ帰れ」

  • このミス5位。不勉強なため、歴史的背景がよくわからず、その説明もほとんどないため、のめり込むことができなかった。

  • ビルマのある村で少尉が殺された。誰が、なぜか、戦場ミステリ。正直読みづらかったです。軍隊のことのせいか、それともオオマサ・コマサとか、どうもしっくりこなかったし。より戦争小説の色合いで書かれていたらよかったかな。淡々とした風ですが、日本軍、村人、華僑そして支那の複雑な関係、口を閉ざす人々の空気、最後の独白のところはよくかけていたかな。

  • この著者の作品はメフィスト賞後に戦争文学に移行してからはしばらく読んでいなかったが、今年の各種ランキング本の上位に入っていたので久々に読んでみた。
    第二次大戦時、ビルマの村に駐屯した日本軍の警備隊。村人は好意的に見えたが、警備隊の隊長が何者かに殺害される。犯人は隊員か、村人か、それとも侵入を企てる敵軍なのか…
    ノンフィクションのように淡々とした文章で描かれる戦地の息詰る緊張感、そして明らかになる哀しい真相。
    いますぐ生きるか死ぬかという悲惨な状況ではないように見えても戦争はいくつもの悲劇を生み出し、理不尽な死を引き起こす。ミステリとしても素晴らしいし、戦争について考えさせられる話だった。

  • 戦争小説とも言うべき作品を 数多く出している作家。彼の作品の中では、ミステリー色が強いように思います。
    戦争という、理不尽が引き起こした ともいえる事件の真相を追う物語になっています。
    結果、読み物としては面白いです。ただ、読み物として 自分から距離をおいて良いのか? というジレンマがあります。

  • 先の大戦中、日本軍がビルマを攻略した頃、ビルマ北部のある村に急ごしらえの警備隊として配属されたのは賀川少尉を小隊長とする部隊。その駐屯当夜、賀川少尉が喉を迷いのない一刀で切り付けられ殺害された。犯人は村人か敵の支那兵か、はたまた味方の兵士か・・・。適正住民の存在も疑われる中その死は厳に伏され、隊長代理として連隊から副官が派遣される。
    その二日後、今度は村長が賀川と同じ手口で殺害された。
    誰が、何のために二人を殺害したのか・・・通訳として従軍している軍属の依井は、連隊副官と共に事件の真相を探っていく。

    戦争ミステリといえば、浅田次郎さんの「長く高い壁」を思い出す。手法は違えど、そこに共通して描かれるのは保身のための嘘、軍ならではの論理、戦時における死の持つ意味。
    「そうです。賀川少尉を殺したのは私です」
    犯人の告白文から始まるミステリは、重苦しい緊張感が途切れることなく進んでいく。
    小さな違和感から明らかになる意外な事実の数々。そして、解き明かされていく驚くべき真実。

    戦争という状況、そこに紛れ込む戦闘行為以外での殺人。人を殺すことに違いはなくても、一方は正当化され、一方は追及される。日本で待つ遺族のために、殺害ではなく戦死扱いにするというまやかし。戦闘に紛れ込む私怨による殺人。

    物語の最後で依井がとった行動に戦争の姿が現れる。結局、それしかないのかな・・・
    最後まで息が抜けない異色のミステリでした。

  • 第二次世界大戦中期、戡定後のビルマの村に警備隊として配属された賀川少尉一隊。だが、駐屯当日の夜、少尉が殺される。私怨か、内紛か-疑心暗鬼に陥り、村は分断を余儀なくされていく。

    2018年日本推理作家協会賞受賞作。残念なことに私には作品の魅力がイマイチ理解できなかった。部隊が戦時中のビルマであること、村人が日本軍と中国軍のせめぎあいで複雑な立場に置かれていることの特殊さはわかったけれども…。
    (D)

  • 『戡定』ってなに?ってずっと思いながら読んでた(そして途中ダレた)。そりゃ日本軍がビルマにいたことは知ってたけど・・・結局は日本軍の不条理、なんだろうなあ。

  • 難しい用語が多いので頭に入りづらかったが、飽きかけたタイミングで次々と明かされていく新事実についつい読み進めてしまった。
    古処さんの小説は終盤にかけて『転』がどんどん出てくるが、本書も残り数ページで、依井と同様に純粋に賀川少尉を悼んでいた感情や思い込んでいた真実が一気にひっくり返され、心が掻き乱されたまま物語が終わってしまう。戦争や軍事に詳しくなくても読者の感情を揺さぶることのできる古処さんの凄さを改めて思い知った。

  • この作者の自衛隊ミステリは大好きなのだが、ミステリではない戦争小説にはどうも手が出ずにいる。
    この作品は戦争ミステリで、しかもとても評価が高い。
    やっと読めた!
    ミステリなので、戦争小説なのだが読みやすい。
    一言でそれまでの景色を一変させてしまう。ガーーン。
    紹介文の金字塔の文字にふさわしく、読み終わってすぐに再読したくなる。

    思えば、日本軍の小部隊ほど不条理なものはない。


    再読。初読時に「ん?」となんとなく収まりの悪い言葉だな、と思ったところが、全てが明らかになってみるとまさに「底」であったことがわかる。
    犯人の登場時の描写も見事。

    再読したくなるミステリに出会うと幸せだなと思う。

  • 2018.9.10読了。

  • プロローグが謎の犯人の自白から始まる戦争ミステリ。戦時中のビルマの村で発生した殺人事件は、舞台が戦時中というだけではなく、日中緬が絡み合う特殊な場所、特殊な人間関係ゆえ発生する。
    登場人物は少ないのだが犯人を当てることは難しい。

  • 戦時中ミステリー。
    人を殺すことが仕事のような戦争の最中に起きた殺人事件。
    命が軽い時代だからって、命が大事ではないわけではないのだ。

  • 第二次世界大戦下のビルマの村を舞台としたミステリー。

    作者初読みです。
    ミステリーとしては、犯人の想定まではできると思いますが、動機となる真相はさすがにわからないでしょう。
    その点からはミステリー的戦争小説といえるかもしれません。
    戦時の不条理が人を変えて理不尽な行動に駆り立てるという問題提起をしていると思いました。

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著者プロフィール

1970年福岡県生まれ。2000年4月『UNKNOWN』でメフィスト賞でデビュー。2010年、第3回「(池田晶子記念)わたくし、つまりNobody賞」受賞。17年『いくさの底』で第71回「毎日出版文化賞」、翌年同作で第71回「日本推理作家協会賞(長編部門)」を受賞。著書に『ルール』『七月七日』『中尉』『生き残り』などがある。

「2020年 『いくさの底』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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