海戦からみた太平洋戦争 (角川oneテーマ21 B 151)

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  • 角川書店(角川グループパブリッシング)
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041100837

感想・レビュー・書評

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    ●アメリカの国民は、義務として兵役につき、戦争に参加している。同時にすべての兵士は国家に対して、生命の安全に関して最善の努力を払うことを要求する権利を持っている。もし一人の兵士が戦死すれば、その遺族はその兵士の死が”意義のある死”であったかどうかを知る権利を持っていた。それがアメリカという国家と国民の契約だった。(略)また、海軍の内部でも同じような契約があった。「義務を果たした者には名誉を、果たさなかった者には罰を」である。すべての失敗について責任者がきびしく失態や怠慢を追求され、それぞれ処分を受けたものである。(略)法廷で戦友のミスを追及することはアメリカ人にとっても、もちろん愉快なことではない。しかし今後、同じ過誤が繰り返されないために必要不可欠なこととされたのだ。ひるがえって、日本海軍のケースはどうであったろうか?(略)日本海軍の指揮官や高級幕僚が戦闘の重要な局面で重大な錯誤や失敗をおかし、以後の選挙区をきわめた不利なものとしたケースはミッドウエー作戦にとどまらず、海軍甲事件・海軍乙事件・台湾航空戦・レイテ沖海戦での栗田艦隊の反転など、枚挙にいとまがない。にもかかわらず、それらのケースの責任者で直接処分された者がいないということは、いったい何を意味するのだろうか。太平洋戦争における日本軍の反省を記した書籍や雑誌を見ると、個々の戦闘の戦術的巧拙についての評価、あるいは戦略的な総論に偏したもの、または日本人の国民性、というような茫漠としたものなどが多く、将兵の義務、責任、そして権利といったものについての考察は、ほとんどない。しかし、軍隊の本体が人間の集団である以上、将兵の一人の人間としての権利と義務に基づく立場の確立こそ、精強な軍隊の第一歩であると考えるべきであり、日本軍についてもこの観点からの研究が必要と思われる。
    ●戦争に至る原因の多くは、古来変わるものではなく、基本的には、国家間の政策、利害の衝突に過ぎない。これは、本質的には、外交交渉で解決されるべきものであり、戦争は、いわば交渉失敗の結果なのである。こう考えるとき、日英同盟を結び、米国における親日世論誘導を行い、ロシアの外堀を埋めた状態で闘った日露戦争と、日英同盟を失い、米国の対日世論の悪化に対策を打てず、あらゆる対外交渉に破れて開戦に踏み切った太平洋戦争を比較すれば、日本に、初めから勝利の可能性は無かったと言っても過言ではない。このような外交的敗北によって始まった太平洋戦争は破滅的な敗北で終わり、日清戦争に始まった、日本の五十年戦争も幕を閉じたのである。
    ●山本は、理詰めに根気よく説得するタイプの指揮官ではなく、「断固たる決意」の表明のみによって反対論をねじ伏せるスタイルで構想を実現した。(略)それだけでなく、自分の心中を他人に理解させようと努力するより、「判らない人間には説明は不要」と考える性質の人間であったようである。(略)この点については、山本の出身中学の後輩にあたる半藤一利(作家)による次のエピソードが興味深い「山本五十六は典型的な越後人であり、人見知りで口が重く開放的な正確にはほど遠いですね(後略)」(略)山本の処世訓として「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、褒めてやらねば人は動かじ」という言葉はあまりにも有名であるが、どう考えても山本本人のキャラクターを表したものとは考え難い。
    ●真珠湾攻撃構想時の山本の真意は、文言にあるような「桶狭間とひよどり越と川中島合戦とを合せ行う」という不退転の決意ではなく、一貫して「日米衝突は避けられるものなれば、此を避け此の際隠忍自戒、臥薪嘗胆すべき」という避戦にあったとみてもよい。そして実際には、山本は真珠湾攻撃もやりたくなかったのではないか、海軍中央に日米戦回避を説くための切り札として提唱したものの、内心では作戦の成功に懐疑的であったと考えられるのである。
    ●アメリカの手強さを正確に認めていた山本が、「衆人環視の前で戦艦を撃沈すれば講和に応じるであろう」などと、なぜ単純に考えたのであろうか。これでは、アメリカを正しく認識していたとは到底いえない。この点について半藤一利氏はかつて、「(略)山本五十六は知米派と言われていたけれども、アメリカ人で山本の友人というのは聞いたことがない。(略)」と語っている。きわめて示唆に富んだ観察といえるだろう。(略)このことも、「知米派山本五十六」という評価の疑わしさを示している。
    ●山本自身、ラバウルに行くことについては、参謀に、「ニミッツはハワイで指揮しているというのに、なんで自分はラバウルなんかに行くのだ」と不満を漏らしていた。
    →”前線視察での戦死=部下思いの結果”もまた伝説、虚像なのか。→真珠湾作戦におけるハワイ日系人の犠牲も納得できる?

  • 『海戦からみた日清戦争』『海戦からみた日露戦争』に続く『海戦から~』三部作の最終作。前2作に比べて若干質は落ちるが、なかなかの良作。
    日本近代史の3つの海戦は、後世の人は「日本近代史の50年戦争」と名づけるであろうが、その成功と失敗を俯瞰するにもってこいの『海戦史』である。その中でも、範囲・量・質においてずば抜けてるこの太平洋戦争は世界史上においても稀有の技術合戦であった。世界最初の空母艦隊(機動部隊)による攻撃、イギリスの誇りであった戦艦をあっという間に撃沈した航空攻撃、世界初で最後の空母対空母による決戦、レーダーやVT信管による防御の成立、あらゆる戦いが最先端であり、最大規模の海戦が行われたのが太平洋戦争である。
    日本軍は、緒戦において斬新で統率の取れた無敵の軍隊であったが、1年もしないうちに全ての面でアメリカ軍に超越されていった。
    零戦、酸素魚雷、機動部隊、邀撃作戦用の潜水艦部隊、戦艦空母、潜水空母といった世界最強の技術をもちながら、敗れていった日本軍について語るのは本書の頁数では足りないが、真珠湾からミッドウェー、ガダルカナル、サイパン、レイテ、沖縄へと続く総力戦による海戦の経緯を眺めていくと、技術が人間の身体を依拠とするものへと変化していく様が思い浮かぶ。私はすでに神風特攻、回天、桜花、震洋などの自爆兵器への経緯は理解できるようになったが、この理解不能の戦闘が日本で行われたという事実は我々日本人が最も学ばなければならない戦争の事実である。
    海洋国家日本に住む日本人は常に海を見なければ世界を把握することはできない。

  • 真珠湾攻撃で顕在化した海軍の弱点を冷静に改善する意志と勇気があれば,完全勝利はできなくとも,日露戦争のような多少は苦いが実のある結末になったはずだ.勝利に酔った海軍と日本国民は最終的に壊滅的な終局を迎えることになったが,交渉による解決が下手な習性は今日でも根強く残っている感じがする.

  • 真珠湾攻撃から全軍特攻の終局へ、「失敗」の
    本質を探る。
    昭和の日本海軍はなぜ、日露戦争の完全勝利再現に
    失敗したのか?海軍の敗北に読む日本の姿。

    太平洋戦争と海軍と言えば、山本五十六は外せない。
    本書でも、山本五十六に対する記述は、大きなウエ
    イトを占める。
    山本は、犠牲を顧みず真珠湾攻撃を徹底的に破壊し、
    敵の闘志を根本から萎えさせるという自らの真意を、
    南雲機動部隊にも軍令部にも、また連合艦隊司令部
    にも知らせてなかったという。このために、攻撃が
    不徹底なものに終わったという。
    著者は、山本は真珠湾攻撃もやりたくなかったので
    はないかという。
    図上演習によると、作戦は失敗するリスクが高く、
    成功しても、艦隊が全滅する可能性が高かった。
    実現困難な作戦を、対米戦回避を説得する恰好な材
    料として考えたという見方は面白い。ギリギリまで
    対米戦回避を考えていたという事を考えると、説得
    力を持つ見方である。

    著者は、山本の後任の古賀峯一の戦争指揮について
    も厳しい見方をしている。短期間により遭難した事
    により、影が薄いが、いたずらに航空戦力を消耗さ
    せたことにより、敗北への道が確定したという。
    ミッドウェー海戦以降の作戦指揮を誤らなければ、
    より良い負け方が出来たかもしれない。

    本書に書かれている、かずかずの失敗を過去の事と
    笑うことは出来ない。海軍の負のDNAは現在も日本
    のあらゆる組織に潜んでいるような気がする。

著者プロフィール

呉市海事歴史科学館(大和ミュージアム)館長。日本海軍史研究家。1948年、宮崎県生まれ。多摩美術大学美術学部卒業。1992年、(財)史料調査会の司書として、海軍反省会にも関わり、特に海軍の将校・下士官兵の証言を数多く聞いてきた。92年に理事就任。99年、厚生省(現厚生労働省)所管「昭和館」図書情報部長就任。2005年より現職。19年、『[証言録]海軍反省会』(PHP研究所)全11巻の業績により第67回菊池寛賞を受賞。著書に『戦艦大和復元プロジェクト』(角川新書)、『帝国軍人』(大木毅氏との共著)などがある。

「2022年 『海軍戦争検討会議記録 太平洋戦争開戦の経緯』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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