里山資本主義 日本経済は「安心の原理」で動く (角川新書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (312ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041105122

作品紹介・あらすじ

「社会が高齢化するから日本は衰える」は誤っている! 原価0円からの経済再生、コミュニティ復活を果たし、安全保障と地域経済の自立をもたらす究極のバックアップシステムを、日本経済の新しい原理として示す!!

感想・レビュー・書評

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  • 6年前(2013年)に刊行されベストセラーになった本だが、仕事上の必要があって、いまごろ初読。

    「40万部突破」だそうで、私の手元にあるものは2018年2月の第19刷。
    スタジオジブリの近藤勝也による描き下ろしイラストを用いた、特製の「全面帯(新書の全面を覆う帯)」で飾られている。
    全面帯は通常の帯よりコストがかかるため、よく売れた本や売れるであろう本にしか使われないのだ。

    中国地方限定で放映された、NHKのドキュメンタリー番組がベースになっている。

    「里山資本主義」とは、本のカバーに書かれた定義によれば、「かつて人間が手を入れてきた休眠資産を再利用することで、原価ゼロからの経済再生、コミュニティー復活を果たす現象」のことだという。

    これだと、ちょっとわかりにくい。
    「かつて人間が手を入れてきた休眠資産」とは、具体的には「里山」など〝自然の中の休眠資産〟を指す。
    安い輸入材に駆逐されて無用の長物と化していた里山の木材などを、これまでとは違う形で再利用することで、過疎地域に新しい自立の道を拓くのが「里山資本主義」なのである。

    本書で「里山資本主義」と対置されているのが、「マネー資本主義」。資本主義の爛熟の果てに生まれた、〝マネーゲームを中心に据えた投機的資本主義〟を指している。

    日本の中国地方山間部や、瀬戸内海の島しょ部、さらにはオーストリアの小さな地方都市で展開されている、「里山資本主義」による地域再生の事例が紹介される。

    田舎暮らしをロマンティックに推奨する本だけの本なら、山ほどある。そこから一歩踏み込んで、地方再生の方途としての〝田舎暮らし2.0〟を論じたのが本書なのである。

    リーマンショックと「3・11」によって、「マネー資本主義」の脆弱性が決定的に露呈し、〝経済的価値観のパラダイムシフト〟を求める機運が高まったことが、本書の背景になっている。

    ただし、本書は〝里山資本主義がマネー資本主義に取って代わる〟とか、〝原発に完全に訣別して自然・再生エネルギーだけで暮らす〟などという、「お花畑」な夢物語を述べたものではない。

    著者たちは「里山資本主義」を、「マネー資本主義の生む歪みを補うサブシステムとして、そして非常時にはマネー資本主義に代わって表に立つバックアップシステムとして」捉えているのだ。
    エコロジストにありがちな極端な主張に陥らない、冷静な論調に好感が持てる。

    何より、とかくネガティブに捉えられがちな日本の少子高齢化・地方の限界集落化などがポジティブに捉え直され、日本の未来に希望を抱ける書である。
    だからこそベストセラーになったのだろう。

  • 「マネー資本主義」のシステムの横に、お金に依存しないサブシステム、お金が乏しくなっても水と食料と燃料が手に入り続ける仕組み、ネットワークを構築しておこうという「里山資本主義」。里山には燃料も食料もたんとある。
    確かに、これを活用せずに、燃料や食料を輸入に頼って外貨を流出させ続けるのは勿体なすぎる。地に足をつけた安心の生活がしたいと思っている人は多いはずなので、あと必要なのは便利な都会生活を捨てて田舎に行く勇気…だろうか?

  • 木屑で発電し、石油・石炭の値段に左右されない地域経済を営もうとしている地域がある。この秋私は真庭市を訪れ、そこの「バイオマス政策課」で担当者からほんの少しだけ説明を聞いた。その時に彼は「こういうことが出来るのは、この地域にたまたま製材産業があったためや、他の条件が重なったためです」と、わざわざ断りを入れたものである。石油よりもコストが安く、CO2も出さないこのエネルギーが日本の未来を救うのではないかという顔を私がしたためだろうと思う。この本によれば、真庭市のエネルギーは11%を木のエネルギーで賄っていると書いているが、実はこの数字、既に古い。私が見たのは13%だった(と言うことは、約1年で2%増えたということだ)。再来年四月には、市の全世帯の半分の電力がまかなえる発電施設が稼働するという。確かに、それもこれも、豊かな森林とそれだけの木屑を産み出す製材が製品化されなければ、出来ないことなのではある。その意味では、担当者の言うことは正しい。だがしかし‥‥。

    私の住んでいるのは、岡山県なので、この本の元になったNHK広島の「里山資本主義シリーズ」は何本かを観ている。テレビの映像でイメージはわかっていたのであるが、世界経済として自立発展している様子は、やはり活字で読んで初めて知ったことが多かった。

    現在アメリカを中心に世界を覆う「マネー資本主義」。それに盲目的に従う日本政府と財界。この動きに大いなる「不安」を感じているのは、私だけではないだろう。

    著者は里山資本主義をマネー資本主義の歪みを補うサブシステムである、と一概に控えめに書いている。しかし私は、マネー資本主義のカウンターシステムとして、その主張をするべきであると思うし、本を読んで十分にその資格があると思う。もちろん、バイオマスは再生可能エネルギーの一翼でしかないし、直ぐにということではなく、50年後ぐらいが目安だとは思うのではあるが。

    現在、マネー資本主義は弱肉強食がもたらす「奈落の底」へとズルズルズルズルと国民を引き込んで行こうとしている。それは、3.11という究極の黒船でも変わらなかった。結局は国民が自らの手でそのトビラを開けなくてはならないのだ。里山資本主義という、一つのアンチテーゼを携えて。
    2013年11月2日読了

  • マネー資本主義が危機を迎えると、対抗運動がしばしば力を持つ。昔はそれが「共産主義」一択で、マルクスがその頃よく読まれたりするが、「里山資本主義」も含めて選択肢が増えているのは良いことだと思う。
    2022年現在のような、国際情勢が不安定な時はエネルギーや食べ物を海外に頼るのはリスクが高い。それを国内にある使われてない「資源」=耕作放棄地、手付かずの山林、空き家などを活用していくのは共感できた。
    里山資本主義はマネー資本主義を補完するサブシステムと紹介されている。しかしそれは資本主義を一度通すと、ただの里山への回帰に留まらず、一段洗練された姿(スマートシティのような)になるのかなと思い、将来主流になって行く可能性も感じた。否定の否定みたいに。

  • たまには違う分野の本を、と思って読んでみたのですが、本質は自分の分野と同じで、一周まわって戻ってきた感じです。

    里山資本主義。
    おもしろいですね。
    里山で生活しなくても、街にいてもできる、始められるというのがいい。

    豊かさとは何か。

    私たちの不安や、不信や、不満はどこから来ているのか。
    深く、深く、掘り下げてみること。
    その先で、見えたもの。

    その上で、「懐かしい未来」へ。

    読前と読後で世の中が違って見えてくる、そんな一冊でした。

  • お金の循環が全てを決するという前提の「マネー資本主義」に対して、身近にある資源活用に着目し、お金がなくても水・食料・燃料が手に入る仕組み「里山資本主義」を提唱する。NHKのドキュメンタリー番組を元に書かれた本で、発売から3か月で16万部が売れたとか。

    発売されたは2013年。東日本大震災により、都市部での計画停電や物流の脆弱さ、原発への不安といった経験から、お金に頼らない安心安全なエコシステムを作る大切さを説く。当時は東日本大震災であったが、今はコロナや戦争、食糧難など、昨今の情勢に当てはめてもやはり里山資本主義はもっと注目されてしかるべきと思う。

    本書で取り上げられていた指標が興味深かった。通常国単位で見る貿易収支を、地方自治体ごとに見る考え方だ。要は地方自治体の中でどれだけ自給できているか、域内で経済を循環できているか。結論としては石油・電気・ガスを買うために多くの金額を域外、ひいては国外に払っており、一番の赤字要因になっている。一方、地下資源に乏しくロシアといった国外からのエネルギーに依存しているオーストリアは、10年も前から危機感を持ってエネルギー自給への転換に取り組んでいるという例は、昨今の情勢を踏まえるとさらに興味深かった。10年前に例として紹介されていた取組や企業を検索しながら読み進めると、時間の経過によって導き出されたとりあえずの「答え」も見えて面白い。

    自分自身も結婚を機に昨年東京から地方へ移住し、オットの実家の裏山から持ってきた木で薪ストーブを燃やすようになった。畑仕事を終えて、温泉で話しているおばあちゃんたちは本当に元気だなと思うし、東京では感じられなかった自然のありがたみや季節の移ろいを感じて、非常に充実感を得ている。東京にいたときよりも、断然里山資本主義に近い暮らしをしている点で、力を込めて本書を読んだ。続編も読んでみよう。

  • 斉藤幸平「人新世の資本論」を読んだ流れで、この本を読んだことを思い出す。当時とにかく就職をする前で、関東から旅行以外で出たことのなかった自分がしばらく島根に滞在する機会もあり、田舎の人、食、風景の中に生きる豊かさ、美しさに打たれた。そこから翻ってみると東京の資本主義経済という不健康な巨大歯車の中、イチから下っ端としてお願いしてまで入れてもらって、わざわざ働きたくもない。この先明るい未来があるとも思えない。オルタナティブがあり得ないのだろうかという希望を持って手に取った本だった。

    ところどころに光が差すこともないではないのだが、最後まで読み進めた結果は、「メインは今まで通り以外あり得ないから、まあ他の選択肢は予備電源程度に備えとこうよ」という大人なところに落ち着いていて、現実はまぁそうだよな、という諦め混じりの納得と、途中で見えたあの希望の光は何だったんだ、というやるせなさで読み終えた。→「人新世の資本論」に続く。

  • 遅ればせながら、友人に勧められて読了。かなり心が揺れた。そして一方で、悲観的ではない明るい日本の未来を描ける、数少ない貴重な本だろうなぁと思った。

    里山、資源が豊富だけど過疎化が進んだ田舎、で暮らしている人たちの成功例の最先端が紹介されている。どの例も非常に魅力的だ。特に、現在年金をもらう層、60〜75歳にとってはすぐにでも実践したい話な気もする。

  • 今更感がありますが、ふっと古本屋さんで目に入ったので手に取って読んでみた。興味深いところもあったが、最終章で現代的な資本主義をボロクソに言い、里山資本主義が救うと言うあたりのロジックが少々乱暴に聞こえる。

    自分の理解としては、現状のマネーを基準とした経済とは別の経済網、とくに過疎化した自然が豊かな場所において地元の資源をお金ではない収入(食料や燃料)として入手することによってセーフティネットにするというもの。またその副次的な資産として、自然から”収入を得る”ために他者との協力が不可欠で、つながりも強化されるという事。

    イノベーティブという単語がいくつか出てきた気がするが、近代から現代に移行するにあたって切り捨てられてきた非効率的な自然資産を今の技術を使って、より効率的に使用しようといったところか。

    オーストリアが国をあげて原発を排除し、豊富な森林からエネルギーを得ることを真剣に追求している姿は非常に興味深い。また高知県の収支をベースに、農漁業は黒字にも関わらず、県外から購入する飲食料品が圧倒的に赤字であり、そのギャップを埋めようとするという方法は色々な街でも参考になるのではないか。

    P.129 地元農家はこれまで、マネー資本主義の中では市場価値のない半端な農産物を捨て、地元福祉施設はこれまで、地域外の大産地から運ばれてきた食材を買って加工していた。全国レベルで見れば効率のいいシステムかもしれないが、地域レベルで見れば外へお金が出て行くだけの話だ。ところが捨てていた食材を地元で消費するようになれば、福祉施設が払う食費は安くなり、しかも払った代金は地元農家の収入となって地域に残る。農家の収入が増えるだけでなく、関係者にやる気も出るし、無駄も減る。地域内の人のつながりも強くなる。

    P.134 歌舞伎や文楽、浮世絵といった日本独特の文化が花開いていた江戸時代、オーストリアではワルツや交響楽、オペラといった欧州文化の枠が花開いていた。カフェでコーヒーを飲む習慣も、フランス料理の原形となった料理文化もこの時期のオーストリア発祥だったし、二〇世紀初頭にはクリムトに代表される画壇が華やかだった。時は流れ、日本発のカジュアル文化、たとえばマンガやアニメ、カワイイ洋服、映画に絵画、それに日本食は、引き続き世界に評価され発信されている。
    しかしオーストリア発の現代文化と言われると、女性に人気のスワロフスキーのクリスタルガラス製品以外、ちょっと具体名は思いつかない。チロリアンやチロルチョコは福岡県の産品だし、戦後の一時間日本でも絶大な人気を誇ったトニー・ザイラー以降、有名人も出ていない気がするというと失礼だろうか。
    だが、そのように歴史的に見れば停滞・後退を重ねてきたオーストリアは、にもかかわらず、質的にも金銭的にもとても豊かな生活の営まれる、美しい民主主義の国だ。

    P.142 お金を払って製剤屑を引き取ってもらい、他方で電力を買っていた今までのやり方を、自分で木くずを燃やす事で発電するのに切り替えたということは、結局自社内で木くずを電力に物々交換したわけだ。その結果、億単位の取引が消滅してしまった。その分、貨幣で計算されるGDPmo減ってしまったことになる。だが真庭市の経済がこれで縮小したわけではない。市外に出て行ったお金が内部に留まるようになっただけだ。

  • アメリカの「マネー資本主義」に毒された日本。都会では働いても給料は家賃・光熱費などに消え暮らしは一向に豊かにならない。幸い日本は国土の66%が森林で、田舎は豊富な資源の宝庫。「里山資本主義」は人や自然とのつながりを大事にする田舎暮らしの発想。生きるのに必要な水と食料と燃料をお金をかけずに自給自足し続けるシステム。これはマネー資本主義から決別できない都会人にもサブシステムとして併用が可能。でも人口当たりの自然エネルギー量が豊富な過疎地にこそ里山資本主義の可能性がある。

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著者プロフィール

1964年、山口県生まれ。㈱日本総合研究所調査部主席研究員。1988年東京大学法学部卒、同年日本開発銀行 (現、㈱日本政策投資銀行)入行。米国コロンビア大学ビジネススクール留学、日本経済研究所出向などを経ながら、2000年頃より地域振興の各分野で精力的に研究・著作・講演を行う。2012年度より現職。政府関係の公職多数。主な著書に『実測!ニッポンの地域力』(日本経済新聞出版社)、『デフレの正体』(角川oneテーマ21)。

「2012年 『藻谷浩介さん、経済成長がなければ僕たちは幸せになれないのでしょうか?』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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