美と共同体と東大闘争 (角川文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (176ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041212080

感想・レビュー・書評

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  • 三、四度目の再読。
    結論から書くと「難しい」。
    読む回数を重ねて漸く概念についての詳細と、事物についての詳細が理解できてきた。
    まだまだ分からない箇所は山のようにあり、何よりも情報量が膨大で途中調べたり考えたりして足止めを食らうというのを毎回繰り返している位に半端な量で苦戦した。
    左翼学生の今では殆ど見かけないエネルギーの強さとパッションを随分前に書籍化してくれた事により何度も体感できるので、とても有り難い一冊。
    敵対した者同士、相慣れない中で次々と展開される問題提起とその思想や哲学にかなり脳味噌を使う。
    何とか三島を負かしたい!と息巻く学生たちの熱情は唯一確かなものだと思う。
    最後の「討論を終えて」の芥正彦氏の思想が凶暴的で怖かった。
    学生運動に命を賭ける若者たちの覚悟も偽物ではないと思うし、映画化されてこれもまた数回観ただけでは通常の人間では理解が及ばないとも思うので、だからこそ書籍化は救いになる。
    何度も読み返したい本だし、まだまだその必要性があると感じている。

  • かじり読み。三島由紀夫との討論の映画を見たあたと、理解のための一冊。

    両者ともにロジカルに観念的な議論をしているが、学生たちがスーパー概念的でまっすぐにあるべき論を語るのに対し、三島は自分の経験、自分の感覚、自分の信念を含めて語る。

    学生たちの言葉は上滑りするが、三島の言葉は私たちの中に染み入る。なぜなら、三島が全身全霊で自分の言葉で語っているから。

    価値観のゆらぎ、迷いが魅力的。

    わたしは三島由紀夫好き!

  • 『つまり、これは』

    まあ、下らないと切り捨てられる人は、とても正常で健全な魂の持ち主であるだろう。この、討論にシンパシーのようなものを抱いてしまった僕は、東大教授によるとどうやら気違いらしい。ふむ。この本の価値は冒頭16ページで見極められる。ただ全共闘の人となりが低俗過ぎて萎えてしまった。

    人と話す時、情熱に託けて冷静でいられない人は頭が良くても、心の使い方を理解してない馬鹿だと僕は思う。買って後悔はしていません。

  • 当時二十代の学生たちがこれだけ観念的な議論をしていたのは素直に凄いと思った。
    そしてその一見荒唐無稽とも思える話を真正面から受け止め、自分の思想的立場を堂々と主張する三島由紀夫の凄まじさ。
    討論後に両者が寄せた文章でも明らかに三島の方が説得力がある。三島文学が論理的と言われる理由がよく分かる。全共闘側の文章は今でいう「邪気眼」のようだ。

  • もうあれですね、上の人たちの話合いです。映像で残っている分が好きですが、自身の存在証明において、なぜ日本人だと思えるのかの説明は天晴れ。象徴だからこそ、天皇の在り方への考えも角度を変え、できればみんなで協力して、強く元気な日本国を創っていただきたかった。

  • 三島由紀夫対東大全共闘、映画の原作。というか、69年の三島由紀夫が東大駒場で東大全共闘と討論した記録。討論のあとに三島由紀夫、全共闘の数名による文章も併録されている。
    議論自体はいまからみると、なぜこんな議論をこんな言葉使いでしているだろう、という疑問がわくけれど、当時はこの言葉づかいが彼らのアイデンティティだったんだろうと思う。言っていることはそんなに難しくなく、自己がより立つ基盤たる関係性をいかに脱却できるか、過去も含めてできるとする全共闘と、日本的なるもの=天皇からは抜け出せないとする三島の対立。三島が取り入れた持続の問題は運動の核心をついていて全共闘側はそれに正面から答えていない。それが彼らの闘争の弱点で68年前後で運動が途切れてしまったことの原因だと思う。
    途中観念的過ぎると批判した学生がいるけれど、まさにその通りで言葉が難しすぎて一般には落ちないだろうから、ただの雰囲気にしかなってないという印象。いまだから言えることだけど、それが残念な点だったと思う。

  • 現在時の概念しかない全共闘を、持続性の観点から三島由紀夫が嗜める。学生運動自体が空理空論で、突発的な破壊以外何も残さなかったのと同じように。全共闘は、マルクス主義や現象学の難解な単語を並べるだけで、質問も応答も筋が通っていないが、三島由紀夫は哲学・文学の圧倒的教養で、まるで宥めるかのように丁寧に応える。
    国民の意思が中間的な媒介物を経ないで国家意思と直結することを夢見る点で、天皇親政と直接民主主義とはほとんど政治概念上の区別はない。
    全共闘のいう空間に、三島のいう時間を与えるとは、アーレント的にいえば公的領域の永続性ではないだろうか。両者は互いに政治の閉塞感に対して新たな公共的な場を作ろうとした。しかし、全共闘には時間の概念が欠けていたせいで──無論学生であることも影響するだろう──その後の活動の空間を担保することができなかった。
    三島は、過去からの持続の中にある言葉を、現在において選択する。死んだ過去の文化集積自体を尊重するのではなく、不定型な未来に賭けるのでもなく、目的論なしの現在の選択行為が集積して過去になる。
    映像作品もあるが、「討論を終えて」という項目で両者の寄稿があり、客観的にイベントを評していて面白い。三島は事前に議論テーマを用意しており、「暴力否定が正しいか」「時間は連続するか」「三派全学連の病」「政治と文学」「天皇」について持論を展開している。
    「暴力の否定」はその目的達成のために新たな暴力を招来することに触れており、その平和主義的な発想と毛沢東主義的な論理とを結びつけ断罪している。力を支持されるように差し向けることは、自分がいつも正しいことを前提とし、責任を放棄することにつながる。
    全共闘には「現在」しかない。三島は現在と死が横並びであり、現在の選択が過去へと積み重なる。全共闘が過去と未来を否定したとしても、左翼的進歩主義であるがゆえに、現在を必然的に未来へと無論理につなげざるを得ない。それは現在が過去へつながる事実を無視する矛盾だ。
    民青により全共闘は「左翼小児病」と批判されており、互いに左翼は左翼の批判で忙しいのは昔から変わっていない。
    全共闘は芸術至上主義を観念的思考の優位に結びつけていた。これは政治と文学を都合のいいように分離する、左翼独特の文化主義の亜種である。三島にとって、文学は生・無倫理・無責任の原理で、行動は死・責任・道徳の原理であり、後者が前者を引き受ける。
    社会・政治のザイン(存在)に対し、天皇がゾルレン(あるべき姿)としての価値付与をすることによって変革が起こると三島は考える。

  • 学生運動が吹き荒れたあの時代。全共闘がどんなものであったのか、ネットで調べながら本書を読みました。三島由紀夫と学生達の討論はやや難解でしたが、両者共に今の社会では駄目だというのは一致していたように思います。学生達が言っていたことは頭で考えすぎてるきらいがあり、それに対して三島由紀夫はもっと具体的で、彼の理論の方が幾分か分かりやすい気がします。三島由紀夫の凄いところは、ひとりの大人として、真摯に学生達と向き合って対等に、時間の限り言葉を尽くしたことだと思います。去年、映画上映されてたのを見逃したので、何処かで見たい。

  •  5月9日にケーブルTVで『三島由紀夫vs東大全共闘』がオンエアされた。鑑賞。かくも難しいことをさっさと構文し、とっとと発語する学生がいるのか……。三島の言わんとすることはどうにか解る。生活者としての背骨があるから(生活感は無いけれど)。学生らの言うことになると皆目わからない。
     以前、あまりの難解さに投げ出した本書をひもとく。やはり解らない。
     映画と本書はあい補うものだろう。赤子を抱いて三島を論駁する芥正彦(全共闘C)の様子など、テキストでは伝わらない。またこの子が、紫煙たちこめる騒がしい中、泣きもしないで場を和ませてくれる。

  • 言葉が媒体として存在した最後の時代。我々はそれを失った代わりに何を得たのだろうか。

著者プロフィール

本名平岡公威。東京四谷生まれ。学習院中等科在学中、〈三島由紀夫〉のペンネームで「花ざかりの森」を書き、早熟の才をうたわれる。東大法科を経て大蔵省に入るが、まもなく退職。『仮面の告白』によって文壇の地位を確立。以後、『愛の渇き』『金閣寺』『潮騒』『憂国』『豊饒の海』など、次々話題作を発表、たえずジャーナリズムの渦中にあった。ちくま文庫に『三島由紀夫レター教室』『命売ります』『肉体の学校』『反貞女大学』『恋の都』『私の遍歴時代』『文化防衛論』『三島由紀夫の美学講座』などがある。

「1998年 『命売ります』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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