小説帝銀事件 新装版 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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感想 : 33
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041227695

作品紹介・あらすじ

昭和23年1月26日、帝国銀行椎名町支店に東京都の腕章をした男が現れ、占領軍の命令で赤痢の予防薬を飲むよう告げると、行員らに毒物を飲ませ、現金と小切手を奪い逃走する事件が発生した。捜査本部は旧陸軍関係者を疑うが、やがて画家・平沢の名が浮上、自白だけで死刑判決が下る。膨大な資料をもとに、占領期に起こった事件の背後に潜む謀略を考察し、清張史観の出発点となった記念碑的名作。文字が読みやすい新装版で登場。

感想・レビュー・書評

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  • たらればが頭をめぐる一冊。

    昭和史に残る謎多き「帝銀事件」。

    その事件を著者なりの考察で描いた作品。

    読み応えあり、かつ事件の経緯、詳細、時代背景を知ることができて良かった。

    もしもこの戦後の占領期の時代じゃなかったら、もしもこの犯人とされた平沢氏の性格が奇矯でなかったら…もっと決定的な証拠があれば、自白重点主義でなく証拠第一主義であれば…と、たらればがずっと頭をめぐる時間だった。

    人の記憶ほど曖昧で、怖いものはない。

    時の経過と問いかけ法でいくらでも変わり危険な証になり得ることをしみじみ感じた。

  • 帝銀事件についてのお話
    当時の捜査の杜撰さにちょっとあきれた
    軍関係の捜査は大変そう
    内容的に平沢は犯人にしたてあげられた感がある
    犯人としては矛盾するようなところもありながら
    警察が決めつけてしまったような感じ
    事実はいったいどうだったのだろう?

  • ★4.8
    日本の警察捜査史上初という、モンタージュ写真が作成され、実際の捜査にも活用された。そして、横溝正史の悪魔が来たりて笛を吹くのモデルとしても知られている。
    帝銀事件の予備知識はこんなところだった。絵空事ばかりに関心がいって、実際の事件を恥ずかしながら、調べたことはなかった。昭和史に関心を持つようになり、色々漁り始めて、冤罪の可能性が極めて高いことを知った。この作品を読み、それはほぼ、確信に近いと思えた。

    「しかし、とに角、個人的なおれの力ではどうにもならない」

    この、最後の一行は、松本清張自身の嘆息に思えて仕方がない。

  • 終戦後、旧刑事訴訟法最後の取扱事件である帝銀事件の真相に迫る小説。冤罪事件ではないかと言われており、死刑判決を受けた平沢死刑囚は無実を訴えつつ獄死。病気のため虚言癖があった画家の死刑囚に薬物を扱えたのか、見えかくれする陸軍特殊部隊とその記録をめぐる米ソのしのぎ合い、真実はどうであったかに松本清張が迫る。
    時代の巡り合わせと当時の世論、ある警察官の執念、米ソの情報線でGHQの影響もあったかなどさまざまがあるとはいえ、無実の市民が突然逮捕、有罪にされる社会にはしたくないものです。

  • 作り話かと思うような事件だと思った。一部フィクションの部分があるので、タイトルに「小説」が入っているんだろうか。松本清張さんの取材力に圧倒させられる。GHQや731部隊など、史実を知る意味でも、読むべき作品だと思った。

  •  帝銀事件について事件発生からその後の捜査までわかりやすく解説されている。小説というよりはノンフィクションで読みにくい箇所も多いが、事件への興味から割とすらすら読めた。平沢はどう見ても冤罪で警察の威信のためのスケープゴートとしか思えないが、彼自身が供述で引っ掻き回したり金の出所を明かさなかったりと、犯人にされても仕方ない状況を作っている。画界の興隆のために大量殺人犯の汚名を着せられてもいい、というのは理解できない。

  • 真犯人はおそらく旧軍部の人間。731部隊関係者であり、毒物は青酸ニトリール。
    私がこの事件で一番印象に残ったのは「第二薬(セコンド液)」の使用である。これは常人には決して思いつかない。これはただの水であった。しかし、一分後にそれを飲むように指示したことは、この一分間が非常に重要であったことを示唆する。極めて知能的な、そして無慈悲な犯罪であり、旧特務班関係者の犯罪であることを匂わせる。
    日本が抱える深い闇の一つである。

  •  松本清張が描く、帝銀事件。

     平沢は果たして真犯人だったのか。犯行の様子、平沢の暮らしぶりから事件が書き起こされる。そのあとの捜査では、生存者の記憶をもとに作られた似顔絵と本人の自供をもとに平沢犯行説が組み立てられた。

     確かに怪しいところはあり、平沢が捜査線上に浮かぶのは無理はないが、犯行当日のアリバイや犯行に用いられた青酸化合物の入手経路が不明確。

     また時代背景としてGHQの影響力がなかったとは思えない。戦後史の闇。

  • 占領下の日本、青酸カリを飲ませ行員十数名を殺害し現金が奪われる。画家の平沢貞通が逮捕されるが…。最後の「しかし、とに角、個人的なおれの力ではどうにもならない」に「小説」とせざるを得なかった作者の無念がにじむ。

  • 昭和23年の大量毒殺事件を「小説」として発表しているのであくまでもフィクションという事か。軍部犯行説に動いていた捜査陣が平沢犯行説に傾いていく過程が描かれている。生存者がいるというところに被験者を絶滅させたとされる731部隊にしては手抜かりがある様に思える。
    平沢氏が芸術家は命より名を惜しむという考えだったにせよ金の出所がハッキリしなかったのは作中にあるように疑惑を晴らすのに障害であったといえる。
    生き残りの人が顔を見ても意見が割れた事から人間の観察力の薄弱さがよく分かった。

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著者プロフィール

1909年、福岡県生まれ。92年没。印刷工を経て朝日新聞九州支社広告部に入社。52年、「或る『小倉日記』伝」で芥川賞を受賞。以降、社会派推理、昭和史、古代史など様々な分野で旺盛な作家活動を続ける。代表作に「砂の器」「昭和史発掘」など多数。

「2023年 『内海の輪 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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