- Amazon.co.jp ・本 (273ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041305140
感想・レビュー・書評
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筒井康隆の奇想が炸裂した短編集。すでに読んだのもあるが、やはり表題作の「農協月へ行く」は素晴らしい。特に田舎者の会話がすごくリアルで今読んでも全く古びていないのに驚いてしまった。それ以外にも田舎者特有のノリや下ネタ、親戚の動向を気にする見栄など、細部に至るまで描写は丁寧である。
「信仰性遅感性」は全ての感覚が半日遅れでやってくるという設定を禁欲的なシスターと合わせて意地悪くこねくり回した短篇である。ギャンブル狂いの関西弁のファーザーが実に筒井キャラらしくて非常に良い。ある種の上品さやお行儀の良さなどをあざ笑い、人の本性や下劣な様を眺めて楽しむ悪趣味ぶりが極まっている。
「自殺悲願」は世にも奇妙な物語でも取り上げられた作品だが、非常にスラップスティック。オチのあっけなさも含めて非常にまとまりのいい短篇だろう。「村井長庵」の主人公である長庵もまた筒井キャラらしい欲望の権化で、その肉欲に対する執念はおぞましさを通り越してシュールな笑いを帯びている。犯罪者で逃げ延びているわけなのだが、その強烈なキャラクター性が彼を取り巻く物語の奔流に負けておらず、徹頭徹尾お銀という女を手篭めにできるかどうかにその執念を傾けており、物語がキャラクター個人の欲望に競り負けているのだ。
あとがきで、筒井康隆が自分の小説の世界観を要約した文章が載っているのだが、これがたまらなく素晴らしい。あとがきにある通り、筒井康隆を嫌う人間はその下劣さやあさましさの描写を嫌悪するわけだが、どう否定しようが現実はあさましいもので、そこから出発しないと、奇想天外な飛躍はできず、真実には決してたどり着けない。
ーー人類はみな平等。愛。「わたしは嘘を申しません」。性善説。「戦争はご免だ」。まごころ。先人を敬おう。不幸な人に愛の手を。こういうものはみんな嘘であり、それを嘘と認識したところからドタバタでスラップスティックなハチャメチャSFは始まる。/人間は差別が好きで、肉欲に生きていて、嘘をつかねば生きられず、悪いことばかり考える。戦争は大好きである。平和運動は戦争の第一段階だ。裏切りこそ繁栄につながり、老人を馬鹿にし、早く死ねと思い、不幸なやつがいるため自らは幸福だといって喜ぶのである。この真実を、今やSF以外の文学は、描こうとしない。否、描けない。自らがそうした虚偽の中に取り込まれてしまっているからだ。ただ一つ、下等にして半気ちがいで、嘘つきと思われていて、そして何ものからも自由な、ドタバタ、スラップスティック、ハチャメチャSFのみが、この真実を描き得るのであるーー
あらためて読むことで筒井康隆の毒舌と奇想っぷりに酔いそうになった短編集である。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
筒井康隆ワールドは、まさに奇想天外。7短編それぞれパターンが異なるが、どれもここまで書いていいのかと思うような思わずいやな感じがする愚劣さや悪行を描く。タブーに挑戦して本来表にださない人のもつ悪魔的な面を出した様子を描いている。
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有名な「農協月へ行く」がやっと読めた。おもったより大暴れしてないのね。
「村井長庵」もひどくておもしろかった。 -
性的なシーンが多いので、読み手を選ぶかと
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「農協月へ行く」
農協のおかげで宇宙人との第一接触は犠牲者ひとりに収まるし
宇宙に神がいなくたって月に神社ぐらい建つだろう
むかつく
「日本以外全部沈没」
日本以外全部沈没した世界の片隅で
もはや人類に綺麗事いってる余裕はなかった
人間を冒涜している
「経理課長の放送」
全編放送事故
ひどい
「信仰性遅感症」
宗教とは暗示である
ろくでもない
「自殺悲願」
自殺しようとするのに死ねない小説家の話
三島由紀夫の「命売ります」に似ている…しかも美しくない
「ホルモン」
失敗を繰り返しながらもホルモン注射で進化の道を歩む人類の歴史
神を冒涜している
「村井長庵」
勧善懲悪の時代劇
サイコパスの欲張り爺さんが無責任な暴君として島に君臨するが
やりすぎて自滅する
しかしこの世はやったもん勝ちやぞ、ってこのバカ! -
短編集だが、今書いたら炎上しそうな話ばかり。全話女を犯す描写あり、若干マッチョイズムも透けて見えるか。話自体のおもしろさはそこそこ、農協のが比較的あたりだった。
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【自殺が自死なんて簡単な言葉になったら】
マイナスな方へグイグイ引っ張られてしまって頭が痛い。筒井さんの話は好きだけれど理解には程遠くて、星さんが読みたくなる。 -
配置場所:摂枚文庫
請求記号:913.6||T
資料ID:95970289 -
よくこんな、めちゃくちゃな性格の人物を作れるなあと。ブラックすぎて刺激がつよすぎだっ