警視庁草紙 上 山田風太郎ベストコレクション (角川文庫 や 3-102 山田風太郎ベストコレクション)

著者 :
  • 角川書店(角川グループパブリッシング)
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  • Amazon.co.jp ・本 (525ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041356555

作品紹介・あらすじ

明治6年、征韓論に敗れた西郷隆盛は薩摩へ。明治政府は大久保利通を中心に動きだし、警察組織もまた、大警視・川路利良によって近代的な警視庁へと変貌を遂げようとしていた。片や、そんな世の動きを好まない元同心・千羽兵四郎と元岡っ引・冷酒かん八。2人は元江戸南町奉行・駒井相模守の人脈と知恵を借り、警視庁に対決を挑んでゆくのだが…。開化期の明治を舞台に俊傑たちが東京を疾走する時代活劇譚。

感想・レビュー・書評

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  • とにかくツルツルッと軽快に読めてしまうのだが、この史実とフィクションを幾重にも織り交ぜるのはなんという技巧であろうか。

    もともと気になっていた作家だったのだが、このたび渡辺京二の推薦からたどりついた。なるほど、渡辺京二がこれを好きだったのはわかる。汽車も横浜までしか走っておらず、銀座も煉瓦造りを建ててみたもののまだ中身が伴わない、丸の内あたりは焼け野原、元武士が刀を差して歩いている。そんな近世と近代の汽水域みたいな明治初頭が舞台になる。

    また、泰三子が川路利良を主人公に新作を描いているようなので、そちらも読んでみよう。

  • 「明治牡丹燈籠」
    ■”征韓論”に敗れた西郷隆盛が東京を去る前夜のこと。西郷の警備を担当する油戸巡査が夜半、路上に停まる不審な人力俥を見かける。人力俥の俥夫は梶棒の間にうずくまったままで動かない。安否を問えば幌の中からひとりの美女が顔をのぞかせ、俥夫が腹痛を訴えたので一時休んでいるだけだと答えた。油戸巡査は了解していったんそこを離れたが、気になったのであとで戻ってみると人力俥はすでになく、俥の下には血だまりが残っていた。油戸が次の朝あらためて現場に出かけて検分すると、ぬかるんだ泥道に俥輪のわだちがあるのを発見、油戸は迷わずその跡をたどる。するとそれは一件の民家へと続いていたのだが、そこを訪ねると、雨戸の内側から目張りがしてあり、部屋の中ではひとりの男が血だらけになって死んでいた。………事件は岩倉具視暗殺計画につながり、さらに「牡丹燈籠」創作秘話がからんでくる。
    ■ゲスト……三遊亭円朝、半七

    「暗黒淵の警視庁」
    ■場所は赤坂食い違い坂、ついに岩倉具視が襲われた。警視庁の加治木警部は犯人が土佐の壮士たちであることを突き止め、彼らの根城を包囲して今まさに一網打尽にしようとしている。一方時を同じくして千羽兵四郎は、取り囲まれている犯人のうちのひとり、大国源次郎の女中お常から、なんとか源次郎を救いだして、あとひと目でもその妻に合わせてやってくれないか、というムチャな依頼をされる。……千羽兵四郎の奇策で大国源次郎を含む犯人たちはいったん逃亡に成功するが、結局源次郎夫妻は追い詰められてそろって自害、他の一味はことごとく捕縛のうえ、のち斬首される。なお同時期、江藤新平が佐賀で反乱を起こしたとの報が届く。

    「人も獣も天地の虫」
    ■明治政府による娼妓解放令によりいわゆる公娼は存在しなくなったが、隠し売女というのは横行していた。松岡警部はこの事態を憂慮し、彼女らを一斉に検挙、収監した。そしてそのあと、保証人と念書(金輪際売女をやらないという)のあるもの以外は釈放せず、との決定を下した。これで売女たちにとってはなはだ困った事態となる。というのも、彼女たちの中には幕臣や侍の娘が少なからず含まれていて、現代のその姿が親元に知られることはすなわち一家心中を意味することにほかならないからだ。この事態を知った芸者・お蝶は、売女として捕まった多くの友人を牢獄から救い出してくれるようその愛人・千羽兵四郎に無理な頼み事をしてきた。
    ■ゲスト……次郎長の子分・小政、青木弥太郎、高橋お伝、高杉晋作の愛人・おうの、坂本龍馬の妻・お竜

    「幻談大名小路」
    ■盲目の按摩がとつぜん路上で数人の男たちに声を掛けられ、大名小路にある殿さまの屋敷というところに連れていかれる。そこで按摩を待ち受けていたのは意外にも、かつてその失明の原因となった元加賀藩の家老・奥戸外記だったのだが、按摩は驚いているヒマも与えられず、男たちによって奥戸の背におんぶの恰好で押し付けられ、なおかつ奥戸の後ろからその首に匕首の刃を当てた姿勢で身構えるよう強いられる。一方奥戸の方も男たちの命令には逆らえないようで、按摩を背負ったまま屋敷内の長い廊下を歩かさせる。行き着いたところで奥戸は、”殿”と呼ばれる人物から”鶴姫”の居所を難詰される。奥戸が「小松川の癲狂院」と答えたところで按摩は腹を打たれて気絶。再び意識をとり戻したのはもと居た路上。隣で声がして、今からここに来る男に先ほどの出来事を全て話すよう命じられる。やがて男が到着し、按摩は言われたとおり全てを物語るがそれを聞きおえた男は按摩を切り殺そうとする。按摩は命からがらその場から逃げ去るのだが、そもそもこの一連の出来事は一体何だったというのか? ……ところで按摩が不思議な体験をした大名小路はその2、3年前大火で灰燼に帰し、屋敷など何も残っていない場所のはずであった。
    ■ゲスト……芦原将軍、夏目漱石(子ども時代)、樋口一葉(子ども時代)

    「開化写真鬼図」
    ■ひょんな成り行きから果し合いの介添え人になった兵四郎。だが相手側の介添え人として現れた人物が誰あろう油戸巡査で、平四郎は”「人も獣も天地の虫」の事件の時のアイツ”だと気付かれ、その場から遁走する。しかし兵四郎に介添えを頼んだ男は兵四郎に関係ある者として逮捕され連れ去られてしまう。このままでは兵四郎の正体がばれて身に危険が及ぶ。男を釈放させるため、隅のご隠居は珍妙な策を考え出す。
    ■ゲスト……唐人お吉、下岡蓮杖(写真家)

    「幻燈煉瓦街」
    ■銀座――明治五年の大火のあと建築された煉瓦街。しかし当時の人びとにとって洋風建築は肌に合わなようで人気がなく、空いたスペースは香具師たちによる見世物小屋などに利用されるばかりだった。そしてその中のひとつ、覗きからくり屋では鍵屋茂兵衛の悲劇(井上馨の非道ぶりをあげつらう内容)が演じられていた。演目が終わり一座が引き揚げたのち、つい先ほどまで衆目が集まっていたはずの覗きからくりのステージ上で、すでに完全に冷たくなった男の割腹死体が発見された。いつの間にこんなことが? しかもその死んだ男は、井上馨の腹心で尾去沢銅山で経営者にあたっていた岡田平蔵なる人物であることがわかった。
    ■ゲスト……河竹黙阿弥、幸田露伴(子ども時代)、田中久重(からくり儀右衛門)

    「数寄屋橋門外の変」
    ■先の事件の舞台となった”からくり煉瓦”でまた事件発生。しかも今回は男18人が一斉に毒殺されるという痛ましいものだった。しかし調べてみると被害者は全て井上馨の息のかかった元彦根藩士で井伊直弼の家来だった。さらに事件前、現場におびき出されていた巡査は、かつて井伊を暗殺した水戸浪士のひとりであった。

    「最後の牢奉行」
    ■市ヶ谷・新監獄へ移転が決まっている伝馬町の囚獄に川路大警視他が視察にやってきた。ある死刑囚の斬首に立ち会うことが視察の目的のひとつであったのだが、刑執行にあたってその死刑囚を連れてこようとすると、囚人は鍵の掛けられた檻の中で縊死されていた。そしてその牢の鍵を預かる牢番こそは、かつて老屋敷奉行として代々襲名をかさねてきた石出帯刀、そのひとであった。石出はこの大失態によりまずは収監される。そしてそのまま獄死することはまぬがれない成り行きとなる。……しかしそもそも死刑囚は石出に殺されたのか? それもなぜ死刑の直前に? 事件の裏には、囚獄所長・鳥坂喬記による悪辣な奸計がはりめぐらされていた。

  • 推理劇、と言うよりは、江戸から明治に移る時代の人情劇を楽しむ物語という印象。歴史上の実在人物が多数登場するので、つい調べたりしてしまってなかなか読み進められなかった。

  • 維新からそんなに月日が経っていないので江戸が色濃い中での事件の数々。隅の隠居の奉行所VS川路率いる明治警察という図式。虚構入り混じっているがタイムラインがかなり緻密。実際にあったかもしれないような趣を蜃気楼の如く描き出す風太郎氏の筆さばきが素晴らしい。

  • 他の読者諸氏も書いていらっしゃるが、幕末の動乱から抜け出ていない江戸情緒を懐かしむ人々と、地方の成り上がり者が築いた明治政府、その官権の犬たる警察との攻防劇がみごと。

    ミステリー自体はあっとうならされるものではないのだが、まあ、時代劇の人情を楽しむもの。

  • 感想は下巻に

  • 明治小説。
    歴史小説という感じが好きになれなかったが、読んでみると意外にすらすら進んだ。
    ただ、文庫本で500頁以上の厚み、結構応えます。

  • 山田風太郎さんの傑作小説です。
    帯の
    「これほど見事に日本近代化の陣痛を描出した作品はない」森村誠一
    これにヤられました。
    見事な帯文句ですね。
    僕の帯歴No.1です。

  • 山田風太郎作品、初めて読みました。こんなに面白かったとは!
    近代化を進める明治初年の警視庁と、御一新が気に入らない元江戸南町奉行所の面々との知恵比べ。私たちは「明治維新」により江戸から明治にスパッと時代が切り替わったように思ってしまいがちだけれど、人の心や社会というのはもちろんそんなものではなく、新しい時代と古い時代のはざまで人は揺れ動きながら日々を生きているんだな。
    脇役として西郷隆盛から新撰組斉藤一まで綺羅星のごとく登場し、いい意味であっという間に読める、歴史・娯楽ミステリの連作集。

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著者プロフィール

1922年兵庫県生まれ。47年「達磨峠の事件」で作家デビュー。49年「眼中の悪魔」「虚像淫楽」で探偵作家クラブ賞、97年に第45回菊池寛賞、2001年に第四回日本ミステリー文学大賞を受賞。2001年没。

「2011年 『誰にも出来る殺人/棺の中の悦楽 山田風太郎ベストコレクション』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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