警視庁草紙 下 山田風太郎ベストコレクション (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (528ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041356562

作品紹介・あらすじ

東京を騒がせる怪事件の影で、知略によって警視庁を出し抜いてきた元江戸南町奉行の一派。業を煮やした大警視・川路はとうとう直接対決に踏み切る。同じ頃各地では、反政府派の叛乱により不穏な空気が漂っていた。そんな中ついに西郷蜂起す、との報が入る。その裏に隠されていた大からくりとは?そして近代化を巡る争いの帰趨とは…。華やかな明治に潜む闇の中を流浪するものたち。その哀切を描く、山風明治群像劇の一大傑作。

感想・レビュー・書評

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  • 「痴女の用心棒」
    ■広沢真臣参議暗殺事件の犯人捜しは一向に進展せず。相も変わらず警視庁がやっていることといえば、暗殺現場に居合わせた広沢の愛妾おかねの拘留を続け、拷問をくりかえして情報を搾りだそうというただそれだけ。それも4年間の長きにわたって。しかしそもそも事件に何の関係もない白痴美女のおかねは、”知らないものは知らない”のだった。やっと釈放されたおかねは、娑婆に出たあと知り合った男とすぐに結婚する。が、警視庁はまだあきらめきれず、紙屋巡査をおかねの新居にさしむけ夫婦の会話を徹底的に盗聴させることにする。紙屋巡査は、音に聴く淫婦・おかねの夜ごとの激しいいとなみに閉口しながらも盗聴を続けるが、ついに夫に不審者として気付かれることになる。夫は夫でこの不審者におびえ、隅のご隠居に相談を持ち掛けることになる。そこでご隠居は、兵四郎におかねの家にいりびたってその不審者を探るよう言いわたす。ここに、毎夜毎夜男ふたりがおかねの痴態を黙って見守るというおかしな画が完成する。――こんな猥談に、黒田清隆の狼藉、木戸孝允と井上馨の陰謀がからんでくる。
    ■ゲスト……長連豪(大久保利通の暗殺)

    「春愁 雁のゆくえ」
    ■隅のご隠居の手になる脅迫文が奏功し、警視庁による平四郎の逮捕は見送られることになった。しかしそれにひとり納得のいかないのが事件を担当していた紙屋巡査。加治木警部はそんな紙屋巡査に百円という高額の慰謝料を払ったうえで、謎の男・平四郎の捜査だけは密かに続けるよう特命をいいわたす。だが紙屋巡査は逆に、端無くも百円という大金が転がりこんだことで気が変になってしまう。彼は妻子持ちでありながら、爺さんと孫娘がいるだけの家庭に無理やり押しかけ、婿としてのさばり始める。さらに捜査の最中で知り合った芸者お千に目をつけ、執拗に追いかけまわす。紙屋巡査の奇行はさらにエスカレートし、お千から叛乱に関する密書(暗号で書かれている)を取りあげ、それをネタにお千に体を要求してくる。お千は困り果てて隅のご隠居に相談を持ち掛ける。
    ■ゲスト……森林太郎、賀古鶴所(森の親友)、乃木希典、永岡敬次郎

    「天皇お庭番」
    ■広沢参議暗殺の黒幕は、やはり隅のご隠居が睨んだとおり、井上馨であった。そしてその実行犯というのが、かつて”幕府のお庭番”と呼ばれた三人の隠密たちだった。彼らは、すでに警視庁が自分たちに目を付けていてそのためかつての”薩摩藩のお庭番”を使って自分たちをつけ狙っているのを知っている。そんな中彼らは、昔の同僚で今は大道芸人になってはいるが、薩摩藩への侵入捜査の際捕らえられたうえで盲目にされた元隠密に再会する。悪知恵に長けた彼らはすぐに奸計をめぐらしすぐに実行に移す。すなわちそれは、①その盲目の元隠密の妻を凌辱したうえで惨殺する。②それを警視庁の巡査の犯行に見せかける。③この事件を兵四郎に知らせ、義憤に駆られた平四郎と、警視庁のかつての”薩摩藩のお庭番”とを決闘させる。④生き残った方をその場で殺害して、あたかも同士討ちしたかのように見せかける……というもの。しかし彼らは知らなかった、盲目の元隠密の恐るべき能力を。

    「妖恋高橋お伝」(「警視庁草紙・外伝」)
    ■あの高橋お伝が恋をした。相手は美少年・長連豪。しかし長連豪はかつて最愛の女・おせんを黒田清隆によって奪われるという悲恋を経験しており、それから後は女断ちを続けている(もとよりお伝などには興味がない)。お伝はそれでもけなげに、売春で得た金を長連豪とその仲間に貢ぎつづける。だがそんな中、金をめぐってお伝はひとりの客を就寝中に殺してしまうことになる。お伝はすぐに逮捕され市ヶ谷囚獄署に収監される。そして2年後。同じ場所に大久保利通を惨殺した壮士たちが収監されてくる。その中には、今でもお伝が想いつづけるあの長連豪の姿があった(……なんと、テロリストの一味にはあの浅井巡査も含まれていた)。
    ■ゲスト……高橋お伝、長連豪

    「東京神風連」
    ■ついに廃刀令が発布された。これが引き金となり、ただでさえ不満鬱勃としていた士族たちは各地で決起、叛乱が続発した(神風連の乱/熊本、秋月の乱/福岡、萩の乱/山口)。その際政府側の要人に犠牲者は出たものの結局、反乱軍は奮闘むなしく相次いで壊滅。思案橋事件では千葉に渡ろうとする永岡敬次郎が襲われ捕らえられた。……さて、鹿児島の西郷はこの事態を拱手傍観して見守っているだけなのか?
    ■ゲスト……田中久重(からくり儀右衛門)、山岡鉄舟、皇女和宮、種田少将と愛妾小浪、永岡敬次郎 

    「吉五郎流恨録」 
    ■隅のご隠居の頼れる助っ人、むささびの吉五郎の前日譚。三宅島に島流しとなり、飢え死にの恐怖に脅かされ、島民の奴隷に身をやつすが、携帯していた春画を利用してかろうじて生き延び、明治維新による恩赦をこばんで自ら島に留まるも、15年の風霜を経てついに本土に舞い戻る。――そんな吉五郎には、どうしても吉田松陰の弟子たちに会っておかなければならない理由があった。

    「皇女の駅馬車」
    ■熊坂長庵は長いあいだ思い悩んでいた、いかにすれば現在京都にあるドイツ製印刷機を侘助村に運べるか。そこでなら念願の偽札づくりを実行に移せるのだが……。
    この難題を解決するアイデアをを出したのは意外にも天皇侍従・山岡鉄舟であった。そのアイデアとはこうである。現在東京に居住する皇女和宮は、京都に残してきた故徳川家茂の木像を引き取りたがっている。この事情にかこつけて、葵と菊の御紋がこれみよがしに飾り付けられた馬車を新調し、家茂の木像と、その台と称した印刷機を積みこんで、陸路東海道を堂々と運ぶというものだ。偽札を大量に造れば、獄中で呻吟する永岡佳次郎を助け出せることにもなる。はたして兵四郎とお蝶、かん八は、切歯扼腕する油戸巡査らを尻目に、東海道を馬車で無事に走破することができるのか?
    ■ゲスト……柴五郎(義和団の乱)、熊坂長庵(医師・絵師・校長・贋金づくり)、山岡鉄舟

    「川路大警視」
    ■東海道を馬車が疾駆する。これだけでも前代未聞の珍事であるのに、その馬車には葵と菊の御紋がそろって配されている。かつそれに載っているのは異形の扮装をした公家と女官と烏帽子の舎人たち。さらに虚無僧姿に身をやつした巡査数人がその馬車を追いかけひた走る。かてて加えて、刀をさげた渡世人姿の男たちが、あたかも馬車を護衛するかのように続々と蝟集してくる……。
    一方、深夜の警視庁。川路大警視は精鋭の間諜を呼び集め、鬼の形相で暗黒の密命を言い渡した!
    ■ゲスト……熊坂長庵、清水の次郎長、大政、天田愚庵(次郎長の養子にして次郎長の伝記作家)

    「泣く子も黙る抜刀隊」 
    ■築地。おだやかな冬晴れの日。からくり儀右衛門の軽気球実験を背景に、隅のご隠居と川路大警視のぶつかる視線に激しく火花が飛び散る。
    その時市ヶ谷囚獄署では兵四郎が罠にかけられ四囲を敵に取り囲まれていた。
    ……そして訪れる感動のフィナーレ!
    ■ゲスト……清水定吉(ピストル強盗)、柴五郎                                                     

  • 上下巻まとめての感想。連作形式にして全18話に散りばめた伏線と密度の凄まじさ。上巻は、まだ短編集といった風合いの楽しみ方で読めますが下巻になると、それまでであちこち張り巡らされていたモノが絡み合って回収されていく様が圧巻。
    明治の当時の風俗の描写と実在の俊傑たち、そこに織り交ぜる虚構の出来事とのさじ加減が絶妙で、全てが実際の歴史のような気がしてくる。まさに群像劇。

  • 面白かった。
    敵の正体がはっきりしてくる下巻の方が読み応えがあるね。
    描かれている人たちは何も悲しい。
    でも巻末までの読後感は決して暗くなくスッキリしたものだ。作者の本はいくつか読んでいるけど個人的にはこのシリーズが最高だと感じているよ。

  • 上巻はさり気なく明治期の偉人が錯綜する様に多いに盛り上がりを感じ、下巻は読んでいて寂しさを感じた。
    江戸時代が黄金の時代とは言えないでしょうが、確実に一つの時代が終わっていくのが解る展開は物悲しさを感じずにはいられない。それがまして大きな戦が契機となるなら…。

  • 明治小説続き。
    上巻読んだから、そのまま下巻も読まないと、という感じです。
    上巻に続きの500頁越え。
    でもだんだん読むスピードが上がってた。
    歴史系好きな人にはおすすめ。

  • 様々な人物たちが交錯する。「吉五郎流恨録」が特に面白かった。

  • ラストがせつない。。。

  • 無数の有名人、パロディ、刊行当時の時事ネタを注ぎ込んで語られる山風流明治史。下巻では、上巻でコケにされ続けた警視庁側の逆襲がついに始まる。生き生きと描かれた明治に生きる人々の姿、特に権力に抗う側の人々の生きざまに胸が熱くなる。ひとつの時代の終わりを感じさせるラストの切なさも素晴らしい。

  • どっちもかっこいい。

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著者プロフィール

1922年兵庫県生まれ。47年「達磨峠の事件」で作家デビュー。49年「眼中の悪魔」「虚像淫楽」で探偵作家クラブ賞、97年に第45回菊池寛賞、2001年に第四回日本ミステリー文学大賞を受賞。2001年没。

「2011年 『誰にも出来る殺人/棺の中の悦楽 山田風太郎ベストコレクション』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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