- Amazon.co.jp ・本 (289ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041357132
感想・レビュー・書評
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自分が何者かに取り付かれ、一定の時間、自分の知らない行動をしている、何とも恐ろしい話である。
この本のそれとは全然違うけれど、ある意味で老人性のボケなども、本人からするとこれに近い感覚があるのかもしれない。
自分が何者で、一体どのように自分をコントロールしているのか分からないけれども、生まれてこの方自分は自分でしかなく、常に同一なわけだから、それが分離するような経験というのは想像もできないし、考えると恐ろしい。
反面、では自分の行動は、本当に自分でコントロールしているのかと考えると、必ずしもそうとは言い切れない。人間は社会やある一定の集団の中で生きているわけで、自分の考えとは別に、その所属している社会や集団のルールに従わざるを得ない場面が少なからずあるからだ。
そういうある種の服従に、我々は慣らされてしまっているので、違和感すら感じなくなっていることが多いし、逆の言い方をすれば、違和感を感じる人間は、その社会や集団に適応できないとも言えるわけで、もしかすると、自分で意識しないままに、自分は他人にコントロールされているのかもしれないと、改めて気づかされた。
SFに限らず、いくら小説だからといえ、あまり荒唐無稽の話ばかりでは、読み手に共感させることはできない。その意味で、眉村さんの作品は、現実といい距離感を保っているようで、気軽に作品の中にのめりこむことができる。
この本には、「閉ざされた時間割」「少女」「月こそわが故郷」「押しかけ教師」の4編が収められており、特に、タイトルになった作品は、丁寧な状況設定があり、主人公同様、この危機からいかに逃げ出すのか、読み手をひきつけて離さない。
若干、後半の解決に向かう場面が、性急過ぎるきらいもあるが、無責任に読者を放り出すことなく、絶体絶命の場面から私たちを救い出してくれる。何度読んでも、何を読んでも、眉村さんの世界観は、私にとって魅力的であり続ける。