あゝ野麦峠 ある製糸工女哀史 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA/角川学芸出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (418ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041433010

作品紹介・あらすじ

過酷な労働に耐え、明治の富国強兵政策を底辺で支えた無数の少女達。その女工哀史の真実とは。四〇〇名に及ぶ元工女を訪ね、歴史の闇に沈んでいた近代日本の民衆史を照らし出す、ノンフィクションの金字塔。

感想・レビュー・書評

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  • 映画やドラマは見たことは無いですが、話だけは聞いていました。雪の深い峠の山道を小さな女の子たちが仕事のために死に物狂いで歩き、そして死にそうになるくらいまで製糸工場で働かされるというお話だと。

    こういう聞いていた苦労話と違って、当時の日本の歴史的背景が詳しく書かれていて、明治維新から世界へと進出するための経済的費用をまかなうためでもあったということも知れて勉強になりました。そして当時の日本人の勤勉さに改めて頭が下がる思いがしました。

    一方で、やはり今のように労働基準法、安全衛生法などといわれる世の中ではなかったため、想像以上の職場環境、生活状況だったことも分かりました。

    当時の日本経済や世界に向けて発信する日本の状況を、本当に支える女工さんたちのような働く人々の目線で、もっと知りたいと思いました。

  • 正確な表題は『あゝ野麦峠 -ある製糸工女哀史-』
    (1968)

    山本氏の主張には共感できる。
    製糸女工史を、単なる哀しい出来事として記憶してはならない。確かに、女工の中には辛い思いをした方もあっただろう。しかし、彼女達のその経験を悲惨な昔話として捉えてはいけない。むしろ、未来に対する重要な教訓として、彼女達の汗と涙に溢れる経験は積極的に語り継がれて行くべきだ。それこそが、当時を生きた女工さん達の努力を無駄にさせないための、私たちのやるべきことである。

  • 大竹しのぶの映画のイメージが強くて(予告編のみ)、悲惨な境遇の女工さんの物語かと思っていた。

    360人を超える聞き取り調査や、飛騨や信州へ何度も足を運んでのルポルタージュだったのですね。

    資本家に搾取された労働者としての一面だけでなく、飛騨に残るよりはマシと考える、または是非とも製糸工場で働きたいと望む人達がいたというのは驚きだった。

    それは飛騨という特殊性もあるかもしれないが、世界を意識しだした日本が置かれていた脆弱さが背景にあるのだろう。

    残念なことに、紆余曲折を経ながらも、結局彼等の労苦を通して獲得された外貨が、最終的には海の藻屑となってゆく軍艦に姿を変えていってしまった。

    自分はその歴史から何を学んで活かしていけるのだろうか?

  • プロレタリア文学2冊目読了。
    年の暮れに峠を超えて飛騨へ帰る場面は、涙が出た。何の涙かわからない。日本を作り上げてくれた畏敬の念か、辛さに共感してか、峠へ着いた達成感と安堵感か…。
    祖父や母から「お蚕さん」の話は聞いていたが、その話は昭和のことで、本著にあるような工女のことは初めて知った。今がいかに豊かな社会か、この社会ができるまでにどれほどの涙があったか、噛み締めて生きていこうと思う。

  • 冷静な筆致で書かれていて、面白かった。
    悲惨なんだけど、お涙頂戴ではなくて、女工哀史のイメージと違う読後感。
    最初の25ページで泣いたけど。
    また他の作品も読みたい。

  • 悲しい。でも約100年前の工女さんたちが今の日本の基盤を支えてくれたのだなぁとありがたく思う。
    外部から見たら悲惨な環境に見えても、当事者たちは意外とそうは思っていなく、むしろ感謝しているフシもあるという点は、現代のサラリーマン生活にも似たようなものを感じる。(当時に比べて現代は格段に恵まれているが。。。)

    現在の新興国からのニュースでも、本書と似たような状況が報じられている。近代化するのに通らなくてはならない道なのだろうか。

  • 歴史の証言という意味では名作だろうが、純粋にノンフィクションとしてみた場合にはお世辞にも美文とは言えない、この辺が昔の社会科学およびその周辺の書籍の最大の欠点。
    産業勃興時の弱者の惨状は産業革命時のイギリス然り、資本主義の本質が如実に表れているのだろう。昨今のアジアでの労働争議の本質も基本的には同じで歴史は繰り返されているように思われる次第。

  • 雪と氷の峠を越えて生糸紡ぎに励んだ女工哀歌。壮絶な生き様が描かれるが、明治大正の飛騨の娘たちにとっては生きるための必然だった。現代で言えば残業過多のサラリーマンか、あるいは日本人のために魚の骨をとるアジア諸国の女工さんか、はたまたミニカー組立の。。。

  • 「ああ、飛騨が見える……」
    故郷を前に野麦峠で死んだ若き製糸工女みね。富国強兵政策に押しつぶされていった無数の娘たちの哀しい青春を描く、戦後ノンフィクションの名作。

  • 映画化もされ女工哀史の代名詞となつた『あゝ野麦峠』。「アー、飛騨が見える、飛騨が見える」と口にして息を引き取つた女工・政井みねが有名になりました。
    著者は数百人に及ぶ元女工に取材し、本書を世に問ふたのであります。
    明治の文明開化を支へたのは、劣悪な労働条件に耐へたかういふ女性たちでした。

    ではこれら製糸工場の親方たちは、女工たちをアゴでこき使ひ、自分は涼しい顔で楽をしてゐたのでせうか。どうやらさうではなく、親方も自ら水車を回すなどして、労使ともに額に汗してゐたやうです。
    製糸工場の運営の実情はまことに心細く、女工たちの待遇が悪いのも「無い袖は触れない」といふのが正確なところみたいです。
    世の中のどこかにシワ寄せが行かないと、あの驚異的な国力増強は無理だつたのでせう。昭和戦後の高度経済成長も、終身雇用を前提とした会社に忠誠を誓ふモーレツ社員が主流だつたからですね。無責任男なんてとんでもない! 滅私奉公。

    さらに意外な話。著者による糸ひきの後日調査の結果を見ると、必ずしも女工さんたちは悪い思ひ出ばかりではないみたいです。
    出される食事は「うまい」が大多数、労働も「苦しい」よりも「楽」を選んだ人が多く、賃金についても「高い」と評価してゐます。総括は「行ってよかった」が圧倒的でした。
    しかし体調が悪くても働かされるとして、病気については「冷遇」が多いとか。

    日常の労働よりも、冬の野麦峠の往復が辛かつたやうです。何しろ熟練の荷受家業の男でも遭難することがある危険な道程。女工たちは一年の給金を故郷の父母に届けるために、命がけで野麦峠を渡るのでした。涙。
    間違ひなく当時の日本経済を支へた女性たち。わたしらもその恩恵を受けてゐると思へば感謝であります...

    http://ameblo.jp/genjigawa/entry-11144334453.html

  • 社会の教科書に出てきた富岡製糸場。

    産業発展の象徴のように語られていたが、飛躍的に発展を続けた製糸業の裏にあった悲惨な事実が本書に込められている。

  • 中学1年の時に読んだ所為か、記録のように淡々と書かれていたせいなのか、あまり悲劇性を感じなかった分、なにか頭に引っかかる一冊。私の中のこの時代に対するイメージは、この一冊がベースとなっているといいかもしれない。

  • おじいちゃんが貸してくれた。
    どれだけ苦しくても、働いて、親を喜ばせることがもったいことだったと。

  • 田舎の貧しさゆえの定めが切なすぎる。
    もし同じ立場なら耐え抜くことはできないであろう。

  • 小説かと思ってましたが史実書でした。
    工場で朝から晩まで1年間働いた報酬が
    上履き1足とか何も無かったとかは、
    ちょっと考えられない。しかし、女工さんに
    してみれば米のご飯を食べられるだけマシと
    いう方もいたらしい。
    今では考えられない労働環境や条件は想像を
    絶する。
    読み終わった後は、自分の仕事の辛さが大した
    事のないような気がして感謝の気持ちと
    頑張ろうという気持ちが湧いてきました。
    著者が靴を何足も履き潰して探しまわった話は
    とても興味深かったです。

  • あゝ野麦峠
    カバー写真 東宝提供
    (カバー写真は女工4人が映っているものでした)
    http://www.eiga46.com/images/items/l/jaa0002s_l.png
    -ある製糸工女哀史-

    昭和52年4月20日 初版発行
    昭和59年6月30日 29版発行

    角川文庫3857.
    著者:山本茂美(やまもと しげみ)
    発行所:株式会社角川書店
    C0193¥460E

    野麦峠周辺の地図 製糸工場の資料(個人の出来高等)
    賃金などの数字も記録あり


    ---------------
    角川文庫 山本茂美の本
    ・ああ野麦峠
    ・喜作新道 小林喜作の生と死のドラマ
    ・松本連隊の最後 終戦食膳にトラック島に散った
    ・塩の道 コメの道 全国の道ルポ
    ・生き抜くなやみ
    ・愛と死の悩み
    ・嵐の中の人生論
    ------------

  • 先日、富岡製糸場に行ったときに、製糸場説明ツアーに参加していた女性が、ツアー員に質問していた。
    「女工は「ああ野麦峠」みたいな感じで働かされていたのですが?」
    「いいえ、富岡製糸場は他のお手本となるように作られた工場なので、労働時間は長くはなかったし、仕事後女工に学問などを教えるなどをしていたのですよ」
    聞いたことはあり、有名な本だとは思うが、読んだことなかったな「ああ野麦峠」

    小説かと勝手に思っていたが、明治時代の女工の証言をまとめ、どのように働いていたかの資料になっている本なのだなあ。逆にそのころの女工の生活、思いが生々しく語られており、興味深い。

    明治の文明開化は電話、汽車、軍艦と多くの金が必要であった。また外国技術者に多くの俸給を払っていた。このためにもお金が必要だった。そのお金を稼ぐのが生糸であった。輸出の大半が生糸関係(生糸、絹織物、蚕種)で多くのお金を作ることに女工が大きな役割をしていたのだ。

  • 明治〜昭和初期の工女たちに寄り添い、その知られざる日々の生活に迫った記録文学。著者のヒューマニズムと、当時を知る先人たちの膨大な証言が、本書全体を人間味溢れる温かい作品に仕上げてくれている。工女を襲った悲劇だけに終わらず、「工場側・経営者側はどういった状況だったのか?」まで掘り下げてくれているのも先進的である。興味深かったのは著者が取材した際、工女の多くが誇らしげに証言してくれたというエピソード。辛く苦しい工女生活であっても、そこで仲間達と懸命に生き抜いた思い出は、美しい記憶として色褪せないのである。
    明治時代の息づかいを間近に捉えることができる、歴史好きにはたまらない一冊。最高でした。


  • プロレタリア文学の金字塔と言われた
    小林多喜二の「蟹工船」を読んで
    すっかり打ちのめされたのも束の間

    蟹工船が男の世界であるなら
    女の世界でも、悲惨な労働環境があったのではないかと
    単純に思ったのがきっかけ

    そう言えば、昔TVでやってた「あゝ野麦峠」
    殆ど内容は覚えてないけど
    幼心に、そこはかとなく漂う悲惨さがあったなぁーと



    開国間もない、明治から昭和初期にかけて
    富国強兵の国策の元
    有力な貿易品であった、生糸の生産を支えた
    工女達を描いたノンフィクション作品

    諏訪湖を中心に、次々と建設された製糸工場
    地元である長野を始め、近隣の県からも
    多く糸引き工女が集められた

    北アルプスの向こう側である
    飛騨の貧しい農村からも
    口減しの為、多くの若い女達が
    野麦峠を越えていった

    毎日、10時間を超える労働環境は
    時間もさることながら
    繭を茹でる釜は、季節を問わず灼熱で
    立ち上る蒸気が、水滴となって落ちてくるため
    常に、全身びしょ濡れの状態

    体調を崩す者が後を絶たず
    迎えにくる家族を待たずに
    息を引き取る者も多かった

    「諏訪湖に工女が飛び込まない日はない」
    と言われるぐらい
    現状に耐えられない工女も、一定数いた


    本書が、ノンフィクションの金字塔と言われる所以は
    工女の悲惨な労働環境を描いたのみならず

    当時の時代背景や
    「製糸業」が「生死業」と言われるぐらい
    博打的商売だったのは
    アメリカの生糸相場変動が激しく
    真面に影響を受けてしまうため

    また、工女を監督する検番や
    裏方で操業する工男達の仕事環境

    低賃金で工女を働かせてる、工場主達も
    高額な繭の原価と、生糸相場の変動
    工女の確保に如何に苦労していたから
    などなど

    残された資料だけでなく
    5年の歳月を掛けて
    実際に製糸工場で働いていた
    現存の人々に取材して廻り
    多面的な角度から、緻密な作品に仕上がってるところ

    映画やドラマでは
    工女達の劣悪な労働環境や
    使い捨て同然にされるところばかりが
    描かれているようですが…

    正直、そこを期待して読み始めたものの
    途中から様子が違って来て
    何だか調子が狂ったまま読み終わって
    一体何だったんだ?感が押し寄せて来たけど

    この文を書き始めたら
    実は、とても完成された作品であるコトに気づく 笑

    今まで経験したことがない
    読後感を味わった作品だな


    #あゝ野麦峠
    #ノンフィクションの金字塔
    #山本茂実
    #読書好き


  • 悲惨だった、と考えるのは現代人の思い上がりなんだろうな。

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著者プロフィール

大正6年-平成10年(1917-1998)。長野県松本市に生まれる。農家の長男として農業に従事する傍ら、松本青年学校に通う。その後、現役兵として近衛歩兵第三連隊に入営、軍隊生活・闘病生活など合わせ8年間を送り、傷痍軍人として終戦を迎える。戦後上京して早稲田大学文学部哲学科に学び、小説誌の編集長を経て、作家に。昭和43年(1968)『あゝ野麦峠 ある製糸工女哀史』を発表、250万部超のロングセラーとなった。

「2022年 『松本連隊の最後』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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