雨はあした晴れるだろう (角川文庫 み 5-20)

著者 :
  • KADOKAWA
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感想 : 17
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  • Amazon.co.jp ・本 (332ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041437216

感想・レビュー・書評

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  • 三浦綾子さんの初期作品3編を集めた短編集です。
     これらの作品は、三浦綾子記念文学館設立を機に、原稿を整理していたら出てきたものや、不完全なままだったものを東西奔走しながら復元したものであるらしい。特に「茨の陰に」の復元にはかなりの労力をかけたとのこと。
     
     表題作「雨はあした晴れるだろう」は義理の兄に密かに憧れている主人公がある事件をきっかけに彼に失望、同級生の男の子とほのぼのとした関係が始まりそうなところまでを日記形式で書かれている作品。「この重きバトンを」は、主人公が父の半生を知り、父に対する見方が変わるという作品。「茨の陰に」は町長一家を描いた作品。

     初期作品と言うことはたぶんこれらの作品も昭和2じゅうウン年頃に書かれたものだとは思うが、どれも古くささを感じさせません。(「茨の陰に」には「純潔について」などの記述があるのでこれはさすがに時代を感じるが)特に表題作は十代の憧れの気持ちと、間違ったことを許さない気持ち、これらのみずみずしさがどの時代にも通用しそうに思えます。

     初期作品と言うこともあり、三浦作品の原点とも言えるところがあります。「雨はあした晴れるだろう」は「ひつじが丘」や「氷点」、「茨の陰に」は「積木の箱」に通じるところがあるように思います。読み比べするのもいいかも知れませんね。

  • 収録作品は、表題作「雨はあした晴れるだろう」、「この重きバトンを」、「茨の蔭に」の三つ。

    「雨はあした晴れるだろう」
    解説での評価はあまり高くない印象を受けるけれども、私は好きな作品。
    姉の夫に対する少女の恋愛感情の生々しさがいっそ美しく見えてしまうのが、三浦綾子の力だと思う。
    おにいさんに恋焦がれつつ、クラスメイトの直彦君を失いたくないと思う主人公の「狡さ」ともとれる感覚
    ひとの「罪」に傷つけられ、嫌悪やら後悔やらでいっぱいになっても、その「罪」を犯したひとも苦しかったのだ、
    とくるりと見方を変えて見ることができる人の心の不思議さ、と救い。
    少女の日記形式で書かれる文章は読みやすくて、感情移入も出きる。
    時折出てくる乱れた感情から来る過激な台詞にいちいちドキリとするのが、どん底のやけっぱちな快感を覚える。

    「この重きバトンを」
    タイトルかっこいいですよねこれ。

    「茨の蔭に」
    卑怯で愚かな血筋の中でただひとり素面のように見える主人公の、その辛さ。
    社会正義どこにあるんだろう救いはどこにあるんだろう、ないのだろか。私も汚いのだろうか。
    そんな風に息苦しくなってくるけれども、それは主人公がひとり素面なためだ。
    作中に主人公の真の理解者はいないのだけれども、読んでいる人はきっと主人公自身か、唯一の理解者の視点を持つと思う。
    それがやっぱり苦しいのだけれど、その苦しさが尊いもののような気がしてくる。


    図書館で借りてきて、この本を読んだ後に古本屋で三浦作品三冊買ってきました。そんな感じでオススメ。

  • 著者の文章は読みやすく、描写も生き生きとして、登場人物たちや景色が脳裏に次々に浮かんできます。収録されている全3作品はジュニア向けに書かれたもので、特に読みやすい。今回、読むのは2度目。解説で書かれた三浦夫婦のエピソードに涙涙。やさしい人になりたいわ。

  • やや凡庸。しかし、性善説を貫く姿勢は真摯でとても聖(きよ)らかだ。
    最後に収録されている『茨の蔭に』は、漱石『こころ』の続編とも、アンチテーゼともいえる作品だと思った。

  • 実は三浦綾子の作品を読んだのは初めて。初期の短・中編3本が収載されているんだけど、総じて時代のせいか、それとも自身が敬虔なクリスチャンのせいか、ずいぶんとお行儀のよい小説、主人公や中心的な人物が善良すぎる印象でいたら、どうも若者向けの雑誌が初出のものらしい。それがわかると何となくうなずける。
    登場人物が善人は限りなく善良で、悪人は限りなくしょうもなく描かれていてまるでひと昔前のテレビドラマのようにさえ思える。小説はもっと微妙な人の姿を描いてこそだと思う。

  • 表題作を。

    義理の兄に密かに恋をしているサチコ。
    それを隠して優しい姉に申し訳思いつつ、義兄への気持ちが止められない。

    高校3年生のサチコ。
    恋に一直線で潔癖。初々しいね。誰もわかってくれない。
    全てに対して潔癖で、それがはたから見ていると生きづらそうなんだよね。
    でも本人は真剣。

    結局、義兄はサチコに興味を示して、手を出しかけるんだけどそれは未遂に終わり、しかも他の女と逃げてしまうことで姉とも離婚となる。

    こんな極端なことはないにしても、初恋なんてこういうものだよね。少しずつ汚れていく。その最初がみずみずしく描かれていた。

  • 2014/07/20

  • 結局周りは変わらない、自分を変えて行くしかないと思った。汚い大人たちに囲まれながらも、主人公景子は哲也の父の言葉で目覚め、自分の人生を歩んで行こうとする姿が立派に思えた。

  • 「雨はあした晴れるだろう」「この重きバトンを」「茨の陰に」の三編が収録されています。
    特に今回は「茨の陰に」について書きます。レビューというより、つれづれなるままに。


    主人公の佐津川景子の父親は、権力と金に執着する町長。選挙のたびに、卑怯な手を使って他の人を陥れてきた。

    景子の母親は父親の応援をしている男性複数人と愛人関係にあり、景子の姉は母の愛人の一人と恋仲にある。

    まだ小学生の景子の弟は、政敵の娘に担任を受け持たれているということで、板ばさみの状態になって苦しんでいる。

    そして、景子はそんな家庭を「汚い」と憎み、佐津川家に生まれてきたことを悩みつづける。
    自分は汚い世界には染まるまいと。ヘッセの「デーミアン」の一文
    「どんな人間も、完全に自分になれたためしはない」
    を読んで、
    「けど、可能なかぎり、わたしは自分自身になりたいの」
    と、自分をまっすぐに保ち続けたいと強く心に思う。

    そして、相次ぐ悲しい出来事に揺さぶられながらも、最後には心を決めて、家を後にする。


    景子の純粋さは、少し幼く危なっかしいところもあるけれど、わたしは好き。
    私も、まっすぐに生きたいと思う。

    でも、景子ほどのことはないと思うけど、自分の周りの世界が曲がってきたら。
    景子みたいに、強い意志を持ってノーと言えるだろうか。
    わたしには自信がない。

    だから、繰り返し本を読む。
    三浦綾子さんの本は、わたしの生き方を、矯正してくれる気がする。
    もちろん聖書もだけど。

  • 3編からなる青春小説集。

    「雨はあした晴れるだろう」の主人公は、姉の夫-義兄に密かに恋心を抱く女子高校生。

    「この重きバトンを」は、年老た父親に甘やかされて育てられ、我儘に成長した青年が主人公。
    彼は父親から一冊のノートを渡され、今まで知らなかった父親の壮絶な半生を知る。

    「茨の陰に」は、選挙に当選するためならどんな汚いことでも平気でするという町長一家の次女が主人公。
    二つの顔を使い分ける老獪な父親、若い愛人をもつ母親、それを知りながらその愛人と関係をもつ姉。
    そんな中にあり、次女の主人公とまだ幼い長男は日々傷ついてゆく。

    登場人物は今正に青春時代を送っている若者たち。
    そんな彼らが、苦悩し、迷い、傷つきながら成長していく姿が描かれています。
    かなり時代を感じる本でした。
    例えば、「雨はあした晴れるだろう」の女子高生は、自分の好きな男性以外には手も握らせないという潔癖さをもち、「この重きバトンを」では年老いた父親が幼い頃から丁稚奉公に出て苦労に苦労を重ねた姿が描かれている。
    そして言葉遣いや会話も丁寧で、いかにも古風で品がいい。
    「茨の陰に」に出てくる教師と生徒たちのやりとりを見ると、私の世代ですらこんな心の通ったやりとりはなかったと思い、ほほえましさを感じました。
    また、いわれない中傷を受けた同僚をかばったり応援する教師たちを見ると、この時代はまだまだ「おかしい」事を「おかしい」と言える正義ある時代だったんだなと思い、羨ましいと思いました。
    物語の中にだけでもこういう世界が存在している事に、ホッとした気持ちになります。

    一本気で純粋な主人公たちを見ていると、自分はいつの間にこういう感情をなくしてしまったんだろうと思いました。

  • 父が五十二歳の時に生まれたこと。

  • この中に収められている3作品のうち、一番最後に収録されている“茨の陰”がとても好き。 

  • 最後の「茨の陰に」が好き。
    全体的に読みやすい。

  • 何度も読み返したくなる恋愛小説。

  • 3つの物語が入っているんですけど、お勧めは「茨の陰に」切ない恋物語です。自己犠牲愛で、理不尽なラストなのになぜか好き。最後まで読むと、引用されているヘッセの言葉がすごい心に残ります。純粋な気持ちになりたいときに。

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著者プロフィール

1922年4月、北海道旭川市生まれ。1959年、三浦光世と結婚。1964年、朝日新聞の1000万円懸賞小説に『氷点』で入選し作家活動に入る。その後も『塩狩峠』『道ありき』『泥流地帯』『母』『銃口』など数多くの小説、エッセイ等を発表した。1998年、旭川市に三浦綾子記念文学館が開館。1999年10月、逝去。

「2023年 『横書き・総ルビ 氷点(下)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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