文豪挫折す (角川文庫 緑 504-19)

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (365ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041504192

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  • 国木田家、その最初の妻の実家である佐々城家、佐々城夫人・豊寿の姉が嫁いだ森家を次々と襲った不幸の黒幕を、森家の娘、秋(後の相馬黒光)が追求すると言うストーリー。
     不幸の内実というのは、こうだ。まず秋の姉、森蓮子が豊寿の所属するキリスト教婦人矯風会の会長・木島勝子の養子と婚約しながら、一方的に破棄され、狂死。佐々城豊寿の娘・信子(秋のいとこ)は国木田と駆け落ちのようにして結婚しながら、すぐに国木田の元から逃げ帰る。すでに文壇で名をなしていた国木田とのスキャンダルの当事者として取りざたされ非難される。その母の豊寿はこれが原因で矯風会を辞任、失意のうちになくなる。
     国木田の助言や、周辺人物からの証言などを得て秋は徐々にその真相に近付き、黒幕を突き止める。黒幕については、早い段階で国木田も秋も矯風会の木島会長であることを推測し、実際にその通りの結果なので、ミステリーとしての面白味にはかける。その謎ときも、豊寿が木島快調のプライドを傷つける行為を目撃した会の元幹部の証言であっけなく分かってしまうのだから、なんとも拍子抜け。
     でもいいのだ。この作品の眼目はあくまでも、国木田や相馬といった実在の人物が探偵として作品の中で動くことにある。要するに虚実の間に想像を遊ばせる愉しみだ。
     読みながら、しきりに高橋源一郎の「日本文学盛衰史」を思い出していた。国木田の「欺かざるの記」や斉藤弔花の文章などを挿入し、作品のリアリティを支えながら、作者のフィクションを混ぜ合わせていく手法。こういうの好きだ。多分、この国木田らの知識があればある程、この作品は楽しいに違いない。しかし、なぜか。なぜ事実に取材しながらフィクションが混じるこの種の作品を楽しいと感じるのか? 考えてみる必要がありそうだ。
     草野は国会図書館で小説のネタを猟渉するために様々な資料を探している中で出会った相馬の自伝「黙移」から、作品の着想をえたという。これが図書館のだいご味なのだろう。
     ちなみに、国木田の最初の妻は有島武郎「或る女」のモデルである。
     
     「森鴎外」は、作品の語り手であるシナリオライターが、ある日見つけた「警察官吏作品集」という古本におさめられた警察官の作品から、森鴎外の愛人の存在を推測するという内容。これもどこまでが事実なのか? まあ、語り手をシナリオライターと明示しているのだから、おそらくすべてがフィクションなのだろうけど。

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