燃ゆるとき (角川文庫)

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  • 角川書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041643198

作品紹介・あらすじ

築地魚市場の片隅に興した零細企業が、「マルちゃん」ブランドで一部上場企業に育つまでを描く。東洋水産の創業者・森和夫は「社員を大事にする」経営理念のもと、様々な障壁を乗り越えてゆく実名経済小説。

感想・レビュー・書評

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  • 「マルちゃん」ブランドの 東洋水産の創業者・ 森和夫を主人公にした実名経済小説である。

    企業小説としてウェルメイドで、とくに株式上場やライバル企業との特許係争の舞台裏を描いた部分を、面白く読んだ。

    ただ、「社史」本をそっくりそのまま小説に置き換えただけのような感じで、エンタメとしてのふくらみに乏しい(エラソーですいません)。

    文章も野暮ったくて、しみじみ「昭和だなァ」という印象だ。たとえば池井戸潤の企業小説の洗練されたエンタメぶりとは、まったく違う。

    まあ、昭和14年生まれの高杉良が昭和期の東洋水産の歩みを描いているわけだから、全編にむせ返るような「昭和の香り」が横溢しているのはあたりまえなのだが……。

  • 経済小説家の高杉良による実名小説。マルちゃんラーメンで有名な東洋水産の創設・拡大、アメリカ市場進出やそれに関わる日清食品との特許紛争などを通して、創設者である森和夫のフィロソフィーを描いている。経営判断、采配、人づきあいなどにおいて、仁義や筋を通すことを大切にして仕事に命をかけている姿や、人の良さが逆に仇となったような事例を見て、森の人となりを知ることができるほか、一人の職業人としてもまたこんな生き方をしたいと思わせてくれる。

    なお同じ著者による実名小説で公認会計士事務所TKC創設者の飯塚毅を描く「不撓不屈」と比較して、本書の話の筋はよく似ている。両者とも、裕福ではない出身から努力して会社を興し、仁義や努力や熱意を大切にして会社を軌道に乗せていくが、当局や競合の巨大会社などの既得権益を持つ強大な敵から言われなき咎めを受け、苦しみながらも、諦めず、一所懸命に立ち続け勝利する、というストーリーである。

    高杉小説の魅力は仕事に命をかける人の生き様だと思うが、同時に仕事に命をかけることが非常に難しいしそれだけが価値ではないということも思わされる。命をかけられるだけの仕事をしてきた覚悟の強さや、そういう仕事を作ったり見つけてきた人としての強さなどは魅力的だが、これを読んで「じゃあ私も命をかけよう」とすぐに思えるものがあるわけではない、覚悟をできない、というのが感想である。また、同様のテーマに触れていた小説として、城山三郎の「官僚たちの夏」があるが、熱血官僚が前時代的になり、ワークライフバランスをとりなが、仕事に命はかけないクールな若者たちが台頭してゆく姿が描かれていたように、仕事以外の部分にも楽しみを持つ生き方にむしろ共感する面もあるのもまた素直な感想である。

  • 築地市場の6坪のオフィス?から、一代にして大会社に育て上げた東洋水産の社長の物語です。どんな苦難にも負けず、お客様のため、従業員のため頑張りぬく彼の鉄の意志に感動します。

  • 高杉良さんが書いた、企業実名モデル 小説。

    インスタント食品で名高い東洋水産を取り上げ、森社長がどのように会社を立ち上げ、苦労し、育て上げたかを詳細に記した、社史とでも言うべき一冊。

    お金のやりくり、親会社との駆け引き、競合他社との熾烈な裁判。一世紀近く前のことにはなるが、リアルな会話と共に著者が現代に甦らせている。

    東洋水産といえば、インスタントラーメン、マルちゃんの愛称でおなじみだが、なぜ「水産」の文字が入ってるのか、いまいち分からなかった。しかしこの本を読んで、合点がいった。東洋水産にとって、水産は「祖業」。外せないわけですね。

    これも、時間を忘れて、読みふけった。

  • 最近はマルちゃんのカップ麺を食する事が多々あり、そう言えば十年以上前に本書を購入したまま読んでないな、というのを思い出し、今更ですが読んでみました。
    ノンフィクションのビジネス小説だけあって企業の成り立ちや変遷が淡々と書かれている為、文体が畏まっているのもあり、それなりに読みづらさはあるから読む人を選ぶ。と言うか、企業経営者向け。
    読み進めていく中で、企業経営者というのはかなりの努力と忍耐が必要なんだと思い知り、頭の下がる思いです。
    登場人物が皆、実名で書かれているのは驚いたけど、マルちゃんで有名な東洋水産について多少なりとも知る事が出来たのは良かったし、商品名である赤いきつねの由来や、CMに武田鉄矢さんが起用された理由なんかは興味深かったです。

  • 困難を社員一丸となって乗り越える物語。会社サイトを見ると、まだ活躍されている方もいて親近感が湧いた。

  • 経済小説、ビジネス小説なんてほとんど読んだことがなかったのですが、こんなに面白いとは。
    「マルちゃん」で知られる東洋水産の創業者森和夫の生き様がかっこいいのです。

    北海道ではインスタントラーメンといえば「サッポロ一番」より「マルちゃん」です。(個人の感想です)
    カップ焼きそばといえばマルちゃんの「焼きそば弁当」。
    うちの子たちは魚肉ソーセージもマルちゃんのが一番美味しいと言います。
    そのくらい身近。
    物心ついた時から、当たり前のようにあったので、まさかこんなに苦難続きの企業だったとは思いませんでした。

    戦後4人で起業した零細企業ですから、大企業や商社から無理無体を押し付けられ、会社が大きくなったら今度は、つぶれそうな会社の再建を頼まれては引き受けています。
    経営者ですからもちろん論理的ではあるのですが、行動の根本には「義」があります。
    だから人がついてくるのだろうなあと思いました。

    まあ、小説なので、すべてが事実ではないのかもしれません。
    一番びっくりしたのは日清食品の(作中では日華食品)の安藤百福(作中では安東福一)の姿です。
    これまで私が見知ってきた安藤百福という人は、おなかをすかせた人がなくなるようにとチキンラーメンの特許をとらず、戦後の日本の食品業界をけん引した人、でした。
    が、この作品を読むと、チキンラーメンは彼の発明ではなく、実際に発明した人から特許権を買い取ったらしい。
    そればかりか、社員は使い捨て、権力者にはすり寄り、弱者を恫喝し、マスコミを使ったイメージ戦略に長け、えげつないほど金に汚い人物。

    さすがにそれはないだろうと、読書の途中でちょっと中断し安藤百福氏を調べてみたら、結構黒い噂はあるみたい。
    日清食品自体が、業界ではあまり評判が良くない。
    だからドラマも小説も、フィクションであることを念頭に、あんまり信じすぎてはいけないなと思った次第。

    でも道民だからマルちゃんが好きなのよ。
    これからも食べると思うわ。

  • 「燃ゆるとき」
    高杉良作
    2005年
    角川書店
    (初出版は1990年、実業之日本社)

    「まんぷく」がヒットする中、インスタントラーメンはモデルの安藤百福が考えたのではない、という噂がネット上を飛び交うようになっているけど(そのことも書いてある)、ここで、実名企業小説でおなじみの高杉良の古い小説を読んでみた。日清食品を痛烈に批判したとされる「燃ゆるとき」。マルちゃんの東洋水産の創業から成功までの話だけど、実名は東洋水産や政治家の名前だけで、あとは誰でもわかるような仮名。例えば、日華食品の安東福一、村野証券と言った具合。しかし、最後の解説で中沢孝夫兵庫県立大学教授(当時)が、実名と照らし合わせて解説し、東洋水産が一時子会社となっていた三井物産と日清食品を辛辣に批判している。実名小説だし、書いてあることは基本的に全部事実だと思っていいかも。

    以下、メモ

    第一物産(現在の三井物産)。この商社の汚さには反吐が出るが、詳しくは本書を読んでもらう以外にない。起業家の苦労を知らないサラリーマン根性の悪さ丸出しである。さんざん東洋水産に儲けさせてもらいながら、下請け扱いどころか、泥棒のような社員を「経営監督者」に押し込んだり、巨額な負債を隠して、ゴミ会社と合併させたり、トンあたり六万円から七万円が普通の建設コストの冷蔵庫を十二万円でつくらせたり、不良品の冷蔵設備を買わせたりと、とにかくめちゃくちゃなのである。<中沢氏解説より>

    東洋水産がアメリカ進出をした。その時、N新聞(日経新聞)が「日華食品(日清食品)が米国で特許を確立し、輸入差し止め権も。東洋水産など大打撃」と昭和51年6月に報じた件に関して・・
    N新聞は裏付けもなく書き、日華食品のお先棒をかついだ。事実関係は本書の中にあるとおりで、日華食品が特許を取得した事実はなく、全ての行動が東洋水産への妨害活動でしかなかった。裁判で危うくなったら、今度は和解工作に来た。相手側に森和夫(東洋水産創業者)はこういう。「安東社長は臆面がなさ過ぎます。わたしは恥を知らない人間だけにはなりたくないと思っています」。こんなことまで森にいわれる相手側(日華)の担当者もたまったものではないが、まったくの嘘をリークするばかりか、嘘の広告まで新聞に掲載したのだから、安東福一(安藤百福)の神経の凄まじさに驚くのである。<中沢氏解説より>

    インスタントラーメンを発明したのは自分だと吹聴していますが、事実に反します。鶏糸麺としてはじめに発明したのは陳という人で、安東さんはそれを盗んだんですよ。お話にならないくらいえげつない人なんです。(本文292P)

    フクイチアントウさんは一九五五年ごろ、大阪の信用組合の理事長をしていたのですが、信用組合の資金を小豆の買い占めに注ぎ込んで、背任罪で起訴されたのです。執行猶予になりましたが、犯歴であることには変わりません。(本文301P)←ドラマでは2度逮捕されているが、いずれも冤罪扱い。それとは別の話もあったのか?

    アメリカでの特許侵害訴訟で嘘がばれてきて、負けが濃厚になった日華食品は、和解案を提示してきた。そこで、米国進出している先輩企業に挨拶料を払えと1億円を要求。東洋水産の森社長は、マフィアかヤクザでもあるまいし、と怒る。

  • マルちゃんブランドの東洋水産の創業者、森和夫氏の創業物語(ドキュメンタリーではなく、実名小説と言うことらしい)。大手取引先で融資を受けていた第一物産(三井物産がモデル)との経営権を巡る闘い、そして日華食品(日清食品がモデル)との泥沼の米国特許紛争など次々に起こる試練を、持ち前のバイタリティーと誠実でぶれない経営で乗りきった森氏の人間の大きさにただただ感服。

    それにしても、第一物産の東洋水産に対する扱いの酷さは度を越している。当時はこういうことが当たり前のようにまかり通っていたのだろうか。この傲慢さは商社に染み付いた体質? それとも今でもある大企業の中小企業いじめの典型?

    日華食品創業者の安東福一社長(安藤百福社長がモデル)が、森氏とは対照的な経営者(モラルに欠け、何でもありの強引な経営者)として描かれているが、実際のところどうなんだろう。

    小説の中で、日華カラー移ってきた平野に「創業社長だから仕方がないとも言えますが、カマドの灰まで自分のもの、という意識が強過ぎます。」と言わせ、森社長には「安東氏は企業のエゴイスムに徹したすごい経営者とは言えるんだろうねえ。僕とは、フィロソフィが違うと言いたいけど」と言わせている。

    続編があるようなので、続けて読みたい。

  • 家の本棚にあったから読んだけど、最初から最後まで全く面白くなかった。実名小説ってこういうものか。
    読み始めたからと、頑張って最後まで読んだけど、時間の無駄遣いした気分。

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著者プロフィール

1939年東京生まれ。専門誌記者や編集長を務める傍ら小説を書き、75年『虚構の城』でデビュー。83年、退職し作家に専念。緻密な取材に基づく企業・経済小説の問題作を次々に発表する。代表作は『小説日本興業銀行』『小説ザ・外資』の他『金融腐蝕列島』シリーズ全5部作など。

「2023年 『転職』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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