新装版 人間の証明 (角川文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (509ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041753606

作品紹介・あらすじ

「母さん、僕のあの帽子、どうしたでせうね?」西条八十の詩集をタクシーに忘れた黒人が、ナイフで刺され、ホテルの最上階に向かうエレベーターの中で死亡した。棟居刑事は被害者の過去を追って、霧積温泉から富山県へと向かい、ニューヨークでは被害者の父の過去をつきとめる。日米共同の捜査の中であがった意外な容疑者とは…!?映画化、ドラマ化され、大反響を呼んだ、森村誠一の代表作。

感想・レビュー・書評

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  • 1970年代に書かれた作品であるが、2020年の今、ほとんど違和感なく読むことが出来る。これは時代を描くのではなく、人間の心理に重きを置いたことによるものだろう。
    とてもモダンな雰囲気が小説から感じられた。

    人間の証明とは、個人の主観による極端な考え方であり、読了後に思い返すと時に嫌悪、時に憐れみの感情を抱く。人間らしさという大きく曖昧なものではなく、明確な定義とも言える線引きであった。

    客観的な視点で読むことから脱することは無いが、それは人間の持つ、闇の深さがあまりにも得体の知れないものであるからだろう。

    登場人物についてうまく焦点を合わせ、簡潔な書き方の中に妙にリアリティがあり、感情の多様性を感じずにはいられない。

    終わりにかけて、凄まじい伏線回収が連発する。あらゆる点が、一気に線で繋がるのだ。
    あれも?!これも?!あらら......

    無関係である事件は無関係であり続けるが、それに関わる人間は同じ世界で生きている故に、同じ過ちを犯すのかもしれない。そこには愛、憎悪、虚構、依存、差別という人間の持つ、いわゆる人間らしさがあるのだ。

    人が殺される物語を読むたびに、頭の中で少し違和感を感じる私がいる。罪無く死んでいった登場人物に、何を想うか。楽しい読書、おもしろい小説とは。
    私にとって人間の証明とは何を意味しているのかな。

    読了。

  • 一人の黒人男性が刺されて死んだ。名前はジョニー・ヘイワード。彼が遺した「ストウハ」「キスミーへ行く」とは何を指しているのか。女性失踪事件と絡み合いながらストーリーは展開し、棟居刑事たちは容疑者を追い詰めていく。

    母さん、僕のあの帽子、どうしたでせう(しょう)ね?

    著者森村誠一氏が亡くなったと聞いて、この言葉とジョー山中氏の歌声と崖から飛んで行く麦わら帽子の映像が頭に浮かびました。
    土曜の夜10時からやっていたテレビドラマは、当時子供だった私には難しかったものの、結末だけは覚えていました。

    初版は昭和52年(1977年)。私が今回読んだこの版は平成16年(2004年)に発行された新装版で、巻末には初版あとがき、新装版あとがき、横溝正史氏による解説が書かれています。
    黒人差別問題や、戦後の人々の問題、ドラッグ問題などを扱っていて、今と同じ感覚で語られているか、いないかも興味深いところ。男性たちの女性に対する思いがアグレッシブ過ぎるところには、時代を感じます。初版から46年。時代は昭和なのに江戸を舞台にした時代小説を読んでいるようなファンタージー感がしました。昭和って遠い昔の話になってしまったんだな、と、昭和生まれの私は少し寂しくもあります。

    横溝正史氏があとがきに『鬼面人を脅かすような大トリックはない。しかし、海外の本格推理の達人たちが好んで用いる小さなトリックや小道具が、じつに巧妙なアクセサリのように随所に配置されていて、それが読書に巻をおく時間を吝しませるのである』と書いています。
    大どんでん返しはありませんが、結末を知りながら読んでも面白く、登場人物の人間臭さと哀しさ、美しい昭和の情景描写、そして最大の小道具である西条八十の詩は、読んだ後も心に残ります。
    ジョニー・ヘイワードとその父親の想いにも関らず、ジョニーがどうやって死んでしまったかを考えると、涙なくして詩を読は読めません。

    また一人、素晴らしい作家がこの世を去りました。
    心よりご冥福をお祈りいたします。

  • 追悼のための再読。
    最初に読んだ時には、とても衝撃だったが、
    冒頭に出てくる「ストウハ」。
    どういう意味なのかすでにわかっているので、じんわりした。
    母さん、僕のあの帽子、どうしたでしょうね。夏、碓氷から霧積へ行く道で渓谷に落としたあの麦藁帽子ですよ。
    西条八十の詩集。麦わら帽子。
    谷井新子がグッジョブ。
    伏線が繋がっていく。
    昭和の名作。
    今でもキラキラしているすごい本だと思う。
    あとがきでわかった。
    作者の森村誠一さんは、
    人間性を尊重した小説が書きたかったのだと。
    ご冥福をお祈りいたします。

  • 「人はだれでも母から買ってもらった『麦稈帽子』を持っている」。結末を知っていても、長い旅路にまた身を委ねたいと思う推理小説は、この物語ぐらいです。

  • 麦わら帽子、詩集、熊のぬいぐるみ…。
    言葉だけ並べると可愛い少女が浮かび上がりそうなこれらのモチーフが、事件に絡んでつながってゆく。
    たとえ漠然としたものであったとしても何か期待のようなものを胸に日本へ来たのだろうと思うと、なんとも切ない。
    郷愁を誘う詩がよけい寂しく響く。

  • 引き込まれた
    一気に読める

  • 映画とあいまったメディアミックスの先駆け的作品として有名な小説。どんな本かと読んでみたら……こういう小説だったのか。面白くてグングン読めた。
    舞台は1975年頃。つまり戦後30年という頃だけど、根底には終戦直後の出来事が深く影響していて、1975年当時って終戦当時にそこそこの年齢だった人がまだそこそこの年齢のままで生きていた時代だったんだなあと、ある意味驚き。
    人がたくさん出てきて一つの事件を追うようでありながら群像劇のようなテイストがある。そして最終的に、そのたくさんの人々がこじつけなくらい相関してしまうのはどうなのって感じだった。棟居刑事の幼い頃の惨事に直接的に八杉恭子やケン・シュフタンが居合わせたなんてやりすぎ。

  • 今更ながら読んでみたが、40年以上も前の作品とは思えないほど読みやすくてそして面白かった。
    ページ数も多めだったけど一気読みしてしまいました。
    最初はバラバラに進んでいたいくつかの物語が最後は綺麗に纏まる感じが良かった。
    ただジョニー・ヘイワードの人生と母を想う気持ちがあまりにも切なくてなんともやりきれない気持ちになった。

  • ちょっと展開に無理があるんじゃない…?と思いながら読み進めていったけど、たくさんの登場人物の中に少しずつある“つながり”が、「どうも引っ掛かるな」と思っていた。最後まで読むとその“引っ掛かり”が解き明かされて、びっくりします。

    東京である黒人が刺殺される、その事件を追う刑事、東京から連絡を受けてニューヨークで黒人の身元を調べるプエルトリコ人の刑事、黒人と何らかの関係があると思われる女性、その息子、その息子が事故に巻き込んでしまった女性、その夫と愛人。
    みーんながどこかで少しずつ繋がっているのです。つながり具合が不気味でさえあります。でも、もしかしたら自分の人生も、自分がした行為が、知らない間にいろんなつながりを作り、何年も何十年も経って自分のところに“戻ってくる”のかも…、などと考えました。怖いです。

    ところでこの小説は昔、映画化、ドラマ化されて話題になったらしい(観たことないけど)。小説にはニューヨークのスラムの描写がリアルに描かれている。このスラムが映像でどんな風になっていたのか気になるな。

  • 「母さん、ぼくのあの帽子どうしたでせうね?」

    子供の頃、角川映画が大流行りだったころにCMでよく
    流れてたのかな?
    このセリフだけすごく覚えてるのですが、
    内容の記憶が薄く読んでみました。

    読み始めるといきなり興味をひかれる事件が発生。
    その後いくつもおよそ無関係と思われる出来事や人物が登場し、
    それらにどんどん引き込まれていきます。

    例えば松本清張などは大筋はともかく本を読むと、
    書き方でしょうか・・・古臭さは否めません。
    しかしこちらは同じ何十年も昔の作品とはいえ、
    そう古臭さを感じず読めましたね。
    面白かったです。

    ラストはそこまで結びつけなくとも・・・
    と、思うほど見事に全てがつながります。
    不自然さはないのですが、
    逆にそこが現実ではなく小説っぽく感じました(笑)

    証明シリーズは他にもあるので、
    今更ですが、もう少し読んでみようと思います。

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著者プロフィール

森村誠一
1933年1月2日、埼玉県熊谷市生まれ。ホテルのフロントマンを勤めるかたわら執筆を始め、ビジネススクールの講師に転職後もビジネス書や小説を出版。1970年に初めての本格ミステリー『高層の死角』で第15回江戸川乱歩賞を受賞、翌年『新幹線殺人事件』がベストセラーになる。1973年『腐触の構造』で第26回日本推理作家協会賞受賞。小説と映画のメディアミックスとして注目された『人間の証明』では、初めて棟居刑事が登場する。2004年に第7回日本ミステリー文学大賞受賞、2011年吉川英治文学賞受賞など、文字通り日本のミステリー界の第一人者であるだけでなく、1981年には旧日本軍第731部隊の実態を明らかにした『悪魔の飽食』を刊行するなど、社会的発言も疎かにしていない。

「2021年 『棟居刑事と七つの事件簿』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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