時のアラベスク (角川文庫 は 10-1)

著者 :
  • KADOKAWA
3.22
  • (4)
  • (8)
  • (28)
  • (6)
  • (0)
本棚登録 : 137
感想 : 12
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (323ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041785010

作品紹介・あらすじ

東京、冬。出版記念会の席上に届けられた一本の真紅の薔薇から、惨劇の幕が開く。舞台は、ロンドン、ブリュージュ、パリを経て、再び東京の冬へ。相次いで奇怪な事件が続発し、事態は混迷の度を深めていく。精緻な文体と巧妙なトリックを駆使して、人生の虚飾と愛憎を描く、本格長編推理。第七回、横溝正史賞受賞作。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 最近続けて読んでいる服部まゆみさんの
    デビュー作で、横溝正史賞を受賞した作品。

    新進作家を巡ってロンドン、ブリュージュ、
    パリ、東京と次々と事件が起こる。
    もしかしたらと思っていた人が犯人だったし
    推理的には難しくはないけれど、
    登場人物の関係性を深めていくのが巧みで、
    それによってどんどん物語の世界へと
    のめり込ませるのが上手い作家さんだと思う。

    服部さんは早くに亡くなられており、
    もう読める本が限られているのが淋しい限り。

  • 『この闇と光』の衝撃には及ばなかったが、耽美な筆致はこのデビュー作から。ヨーロッパの街を舞台に起こる事件と、アーティストばかりの登場人物たち。完璧な青年に思えた慶と、まるでボーイズ・ラブのようにうっとりしながら読んでしまった亮との関係が浅はかだったところに途方もない虚しさを感じる。

    以下に引用する、解説で紹介されている著者の言葉が良い。私は「ロマンのない謎だけ」の小説も決して嫌いではないが、こういうハッキリした立ち位置を貫かれているのは素晴らしい。本書と著者の執筆スタイルの本質が表れていると思う。
    「よく文学のすべてにミステリーの要素が含まれているというが、ロマンの中の謎というのは、物語を進める中でも魅惑的なものであり、それは頷ける。しかし、ロマンのない謎だけというのは、いただけず、クロスワード・パズルに“です”“ます”を付けただけのようなものに付き合う気にはなれないし、“A点からB点まで五分で行くのは不可能だ”となどという事を知るために一冊の本を読む気は起きない」

  • 1987年に出版され、第7回横溝正史賞を受賞した、服部まゆみさんのデビュー作品。

    あらすじ
    東京、冬。出版記念会の席上に届けられた一本の真紅の薔薇から、惨劇の幕が開く。舞台は、ロンドン、ブリュージュ、パリを経て、再び東京の冬へ。相次いで奇怪な事件が続発し、事態は混迷の度を深めていく。

    読み終えた時私は、考え抜いて作成したプロットに、緻密な文章で丁寧に肉付けしたミステリー小説だなと思った。
    無駄がない。
    無駄な人物も無駄な舞台も無駄な出来事も・・・。
    たぶん、すべて計算されている。

    もし当時この作品を読んでいたらどれほどの衝撃を受けたことだろう。
    30年以上経った今となっては、目新しいトリックなどはないが、それでもこの独特な世界観と繊細な描写には思わずため息がでる。そして、そこにこそ、この物語のミステリーにおけるトリックがある。
    と思う。
    ただ、主人公の僕こと亮の虚無感を想像すると、切なすぎる・・・。
    そしてそれを最大限に引き出す舞台がそこであることが更に無駄のない計算された作品であることを私に印象づけた。

    「この闇と光」でファンになり、少しずつ残された作品を読み漁っているが、服部先生の原点がここなのかと思い感動した。

    うん。私はやっぱりこの世界観が好き。

  • 登場人物をよく見れば、筋は大体読める。
    何だかあまり怨みが深くない感じがする。

  • 私がなぜこの作家の作品に触れたのか、そのきっかけは今となってはもはや思い出せない。『このミス』でも何度かランクインしている新本格以前のミステリ作家であり、2007年、惜しまれながら夭折した。
    本書は角川書店が開催する横溝正史賞を受賞した作品である。

    出版記念パーティに寄せられた深紅の薔薇に包まれたナイフとファンの1人と思しき糸越魁なる人物からの脅迫状。作者の深井慶は自作の映画化のために関係者とともに渡欧するが、その最中にロンドンで父が殺される。一行は一旦帰国するが、再び渡欧することになり、再び糸越魁の襲撃に出会う。

    非常に読者を選ぶ作品だと思う。少女マンガ的な登場人物と舞台設定は女性読者の方が肌にあっているのかもしれない。今にして思えばどこか『虚無への供物』に似た雰囲気を持った作品だと云えるかもしれない。
    で、終始なんとももやもやした、掴み所のない感じで物語は進むが、横溝正史賞の名に恥じないトリックも盛り込まれており、率直な感想を云えば、それだけでも本書を読む意義はあったかと救われた思いがしたものだ。

    ミステリとして読んだ私は最後の最後までこの世界観に没頭できなかった。おかげで犯人はすぐに解ったのだが。逆にこの手の作品が好きな人は雰囲気にのめり込めるだろうし、そういう人はミステリ的仕掛けにビックリするのかもしれない。そういう意味では横溝賞受賞というレッテルはもはや邪魔なのかもしれない。

    現在は長らく絶版である。私が持っている版は表紙は天野喜孝で、実に雰囲気とマッチしている。この頃はアルスラーン戦記とかけっこう文庫の表紙は天野氏のイラストが席巻していたんだなぁと関係のない事を思い出してしまった。

  • 小説・映画・美術の世界だし、ヨーロッパ各都市を股にかけるミステリーだし、登場人物は美しい人が多いし裕福そうだし、状況設定は華やかで派手で引きつけられるのだけれど、ミステリー部分は割りと平凡で、私ごときにでも途中で分かってしまった。物足りないような惜しいような…。

  • 服部まゆみせんせいのデビュー作。耽美な雰囲気にどっぷりつかったミステリ。でも甘くありません。途中でうっすらと「こういうことかな?」っていうのは読めるんですが、真相はわりと意外性があって面白いです。

  • クノップフの作品をみてブルージュを舞台の作品が読みたくなり読んだが、クノップフの絵画には及ばなかった。

  • 実はかなり昔に読んだので忘れてるのですが、明らかに中井英夫を読んでいるというアピールっぷりだけ覚えています。
    意外な落ちだったようですが、あれれ???

  •  著者らしい美しく幻想的な世界観で東京、ロンドン、ブリュージュ…と舞台を変え、不穏な雰囲気の中事件が起きてしまう。真相は結構複雑だったが、ミステリとして楽しむというよりこの世界観を楽しむ作品という感じ。ロンドン塔の描写などよく表現されており、脳裏に記憶が鮮やかに蘇った。慶も命を狙われているが性格に難があるのであまり同情できないし、どちらかというと主人公・亮が可哀想。

全12件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1948年生まれ。版画家。日仏現代美術展でビブリオティック・デ・ザール賞受賞。『時のアラベスク』で横溝正史賞を受賞しデビュー。著書に『この闇と光』、『一八八八 切り裂きジャック』(角川文庫)など。

「2019年 『最後の楽園 服部まゆみ全短編集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

服部まゆみの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×