海のある奈良に死す (角川文庫 あ 26-2)

著者 :
  • KADOKAWA
3.32
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  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041913024

作品紹介・あらすじ

半年がかりで書き上げた長編が、やっと見本になった!推理作家・有栖川有栖は、この一瞬を味わう為にわざわざ大阪から東京へやってきたのだ。珀友社の会議室で見本を手に喜びに浸っていると、同業者の赤星学が大きなバックを肩に現れた。久しぶりの再会で雑談に花を咲かせた後、赤星は会議室を後にした。「行ってくる。『海のある奈良』へ」と言い残して…。翌日、福井の古都・小浜で赤星が死体で発見された。赤星と最後に話した関係者として、有栖は友人・火村英生と共に調査を開始するが-!?複雑に絡まった糸を、大胆にロジカルに解きほぐす本格推理。

感想・レビュー・書評

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  • 推理作家・有栖川は出版社で同業者の赤星学(あかぼしがく)と出会った。そこで赤星は「行ってくる。『海のある奈良へ』」と言い残して取材旅行へ。しかし、彼は福井の小浜で死体となって発見され──。

    作家アリスシリーズ(火村英生シリーズ)の長編第三弾。一つ前に短編集『ロシア紅茶の謎』が入る(長編も短編もどこから読んでも大丈夫)。

    同業者の赤星が言い残した「海のある奈良」という謎のキーワード。彼と最後に話した関係者の一人として、アリスは事件の真相と書きたかった物語を火村とともに調査していく。赤星がつけたタイトルは『人魚の牙』。赤星はどんな物語とトリックを考えていたのか? アリスが同業者の視点から読み解こうと足跡をたどるミステリーツアーが、まさに赤星の書きたかったものを体現する構成になっているのが上手い。

    『ダリの繭』に引き続き、今回も「海のある奈良とはどこなのか?」「牙のある人魚とは何を指すのか?」という魅力的な謎が提示され、魅入られるように読み進めていけるのが楽しい。そこに今回のテーマである人魚にまつわる八百比丘尼伝説や、セイレーンの神話などがたっぷり盛り込まれていく。年不相応に若い「シレーヌ企画」社長・穴吹奈美子の美貌と彼女を取り巻く男たち。セイレーンの神話を彷彿とさせるこの物語に秘められた沈黙の正体とは?!

    謎解きの途中で明かされる地理的な話にびっくりした。あれは偶然なのか必然なのか。あと、赤星が買い求めた「お守り」の正体の手がかりを見つけた火村とアリスが「お守りぃ!?」と声を上げたところはぼくも声が出ちゃった(笑) これはなるほどなあと。そして、事件の真相を解くだけではなく、赤星の書きたかった物語を見つけるというドラマもよかった。作家仲間の朝井小夜子の洒落た言い回しが好き。彼女が愛飲するジャックダニエルが飲みたくなる。

    作品中のとあるトリックは、それを仕込んだ手段が盲点で驚かされた。ただ、これで目的が果たせたかどうかについては、現代の知見からすると怪しいのかな? 調べてみたけど、ハッキリはしなかった。大ネタのトリックはドラマとも絡んでいて、タイトル回収された時の哀愁感と余韻が深かった。

  • 有栖川さんのミステリの魅力は、アリス・火村コンビの掛け合いやロジックはもとより、時折不意に顔を見せる、有栖川さんの知的な面であったり、文学的な雰囲気もあるような気がします。この『海のある奈良に死す』は、そんな有栖川さんの側面が発揮された作品のようにも思います。

    「行ってくる。海のある奈良へ」そう言い残し取材旅行に出かけた、アリスと同業の作家、赤星。彼が死体で見つかったのは、福井県の小浜。アリスは火村と共に調査を開始するも……

    今回は旅情ミステリの側面も強かったかなあ。赤星が次作に取りかかる予定だった『人魚の牙』と「海のある奈良」という言葉の謎を追って、アリスたちは小浜に行くのですが、この辺の知識量がなかなかのもの。
    小浜の歴史や寺社、様々な伝説や地域への言及と、アリスのガイドっぷりは、火村も思わずうなるほど。この辺の二人のやり取りも、ファンにはたまらないのではないかなあ。

    赤星の目的地はどこだったのか。この謎に迫る過程が「そこから迫るのか」と思わされるもので面白かった。この辺は鉄道が大好きな有栖川さんの知識もあるのかな。さらにはアリスの仕事面での相棒、編集の片桐も活躍を見せるのも面白い。

    事件の容疑者の一人として出てくるのが、映像会社の女性社長である穴吹。年齢は40代半ばらしいのですが、アリス曰く20代にしか見えないそう。彼女と作中に出てくる人魚との伝説の絡め方も印象的。
    下手すると味気なくなってしまいがちな、本格ミステリの人間関係部分ですが、ここまで伝説や伝承の部分をしっかりと描いているので、不思議な余情が生まれます。

    そして終章のアリスの独白も、有栖川さんらしいセンチメンタルさがあります。赤星が書くはずだった小説をめぐる旅が、事件解決につながる、その思いをアリスはどこかセンチに、そしてロマンをのせて言葉にします。
    このスッとでてくる文章の言葉選びが、良い意味で本格ミステリぽくなくて、有栖川さんやっぱりいいなあ、となるのです。

    事件のトリックの一部分に関しては、どうしても時代を感じる部分が出てきてしまうのですが、旅情ミステリの面であるとか、アリスのセンチな部分であるとかは、まだまだ当分通用するのではないでしょうか。

    余談ですが、作家アリスの初期作だからか、シリーズではちょくちょく出てくる登場人物が、この作品ではがっつり容疑者の一人だったのが、ちょっと可笑しかった。たぶんこれが初登場作品なのかな。

    なので「いやいや、あんたはちゃうやろ」と心の中でツッコみながら読んでいました(笑)でも、こうやって読んでると、あのキャラはやっぱり容疑者メンバーの中でも濃いなあ。そりゃシリーズでもちょくちょくだしたくなるよなあ。

  • ビデオテープという懐かしい単語が出てきて年代を感じたけれども、充分楽しめた!

    今回はアリスの同業者が殺されたということで、黙ってられずに首を突っ込んでいく。
    タイトルからして土地の蘊蓄があって色々な伝承が知れた。
    だけど海のある奈良、か…
    初っ端からこっそりとトリックを仕込まれていて、アリスたちと一緒に右往左往した。
    まさかこんな真相だったとは…
    また、彼らの関係にも衝撃だった。
    最後は何となく物悲しい余韻がある。

  • 作家アリスシリーズ。
    旅情ミステリー。
    2時間ドラマみたいな内容だった。
    技術より頭を使ったトリック。
    犯人の手の平で踊らされた被害者。
    殺害現場は?
    海のある奈良とは?
    がテーマかな。
    ラストはなんかパターン化してきたな。

  • 火村とアリスの掛け合い、小浜の観光など、楽しめはするのだが、少し中弛みしてしまっている印象。

    ミステリーとしてもトリックは小粒。
    犯人を特定するための手がかりは、確かにフェアではあるものの、『ダリの繭』と特定の仕方がかなり似ている。まぁそれでも気づかなかっただろ、って言われればそれまでなんだが...

    といっても、小粒なトリック、少しありきたりなストーリーながらも「海のある奈良」という謎を絡めるなどしてこのレベルまで持っていく、というのはやはりプロの作家だなぁと感じる。
    それにしても有栖川さんの文章は読んでいてどこか心地良いな...

  • 火村英生と作家・有栖川有栖のシリーズ。
    久しぶりに本格推理物を読んだ。
    フロッピーディスクに原稿を保存したり、レンタルビデオがダビングできたり(コピーガードが入る前は普通にできました)、懐かしさを感じる部分もあるが、作品の面白さは少しも損なわれていない。

    『海のある奈良に行ってくる』と、取材旅行に出かけた、作家仲間・赤星学が小浜で遺体で発見された。
    確かに小浜市は歴史的遺産の多さから「海のある奈良」と呼ばれるが、東京を出た赤星が小浜で仏になる間の足取りが全く掴めない!

    だんだんと明らかになってくる情報を登場人物たちと一緒に推理し、容疑者たちを吟味する、楽しいひと時でした。

    ーーーーーーーーーーーーーーー
    令和元年11月20日発行の、32版
    図書館の蔵書の有栖川作品の文庫がみんな汚されていたり折られていたりした(同じ人間の仕業と思われる)のを新しく入れ換えたようです。
    本はきれいに読みたいですね。
    特に、公共の物は。

  • 2回目の読了。

    正直、海のある奈良というものがそんなに大きな意味をもつとは思っていなかった。半分くらいミスリードだと思ってから。けど、けっこうそのまんまだった。もちろんミステリーとして。そして作中作という構成のせいか、主人公=作者という構図の妙なリアリティのせいか、時代設定という人によってはアンフェアと捉えるかもしれないファクターをストレートに持ってきても、まぁ作中作だしなみたいなある種の達観した読み方ができる。その達観さを導いたのは氏のなせる技なんだと思うから、そういう意味でアンフェアではないような気もする。

    大オチは古代なのかもしれないけど、宗教史や文芸史なども何層にも重ねてるし、かなりの大作じゃなかろうか。

    ただ、それにしても毎回漂う2時間ドラマ感はなんなんだろう?

    ------
    1回目の読了:2015/11/25

  • 有栖川さんの火村英生シリーズの一作。
    火村シリーズはどこから読んでも読めるので順番を気にせず見つけたときに買って読んでます。
    ただ、海のある奈良は早めに読んだほうがいいかも?

    2人のやりとりが微笑ましいのは毎度のことですが新たな登場人物も出てきてこれからのシリーズも楽しくなりそう。
    伏線がたくさん出てくるので文を読んで読み解くのが好きな方にはおすすめ。

  • 東京に出来立ての最新作を受け取りに(その他の古本屋巡りがメインではあるが)東京の珀友社で担当編集者の片桐氏が見本を持ってくる間の待ち時間に同業者の赤星楽がアリスの元へと顔を出した。彼は今から次回作の取材旅行へと向かうことを告げる。「『海のある奈良』へ行ってくる」そう言った彼は次の日、若狭の海岸で波に洗われているところを海上保安庁の調査船に発見される。人魚のモチーフを使った作品になる作品を書くといって言っていた彼は若狭の八尾比丘尼伝説を下敷にしたものを書くつもりだったのか、と思われたが、その若狭で赤星氏の足取りはたった一枚のテレホンカード以外見つからなかった。旧知の仲とは言えないが、知らない仲ではなかった彼の死を、アリスは独自に捜査することを決意する。その協力者として火村を頼った彼は、若狭、奈良、東京と動き回りながら事件の真相へと近付いていく。

    今回のベストワンなアリスと火村のやり取りは
    「うん、さすがは『日本のシェイクスピア』や」
    「それは近松門左衛門だろうが」
    しまった。うっかりしていた。
    「しっかりしろよ、『浪花のエラリー・クイーン』」
    詳しい。そんなからかいの言葉に、しばし耐えるしかなかった。  P170より

    職場で一人にやにやしながら読んだ部分でした。
    有栖川さんのミステリは地道で、地味ともおもえるものだけれど、そこがいい。ついに『鍵のかかった男』を単行本で買ってしまった。
    それにしても、34の男二人でせーの、は可愛すぎる(笑)

  • 地名がなかなか覚えられなかった。準不動に読んでいるけど、相変わらず面白かった。合間合間のクスっと笑わせてくらる二人の掛け合いのタイミングば抜群。最後まで、えー?!っていう推理で、楽しめた。

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著者プロフィール

1959年大阪生まれ。同志社大学法学部卒業。89年「月光ゲーム」でデビュー。「マレー鉄道の謎」で日本推理作家協会賞を受賞。「本格ミステリ作家クラブ」初代会長。著書に「暗い宿」「ジュリエットの悲鳴」「朱色の研究」「絶叫城殺人事件」など多数。

「2023年 『濱地健三郎の幽たる事件簿』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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