猫楠―南方熊楠の生涯 (角川文庫ソフィア)

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著者 : 水木しげる
  • 角川書店 (1996年10月1日発売)
  • Amazon.co.jp ・マンガ (427ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041929070

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猫楠―南方熊楠の生涯 (角川文庫ソフィア)の感想・レビュー・書評

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  • 南方熊楠は、慶応3年、和歌山に生まれた博物学者である。
    博物学者とひと言で言うが、その興味は広く、民俗学や生物学、人類学、生態学とさまざまなものに渡った。記憶力は驚異的で、よそで100冊の本を読んできて、家に帰ってから書き起こすほどであったという。語学力も抜きん出ており、18ヶ国語を操った。英学術誌、Natureへの論文掲載は51本あり、単著では最多という。
    これだけであれば、天才・秀才というところだが、熊楠の尋常ならざるところは、その学識だけではなかった。癇癪持ちで著しい奇行はおよそ凡人のものではなかった。一例を挙げれば自由自在に嘔吐ができ、気に入らない相手には吐瀉物を吹きかけることができたという。猥談も大好きで始終一物をぶら下げて歩くが、一方で意中の相手を目の前にするともじもじしてしまう。ある種、無邪気と言ってよく、子供がそのまま大人になったようであった。浮世離れしているというか、出世や金銭には興味がなく、自分の感覚に素直な人物であったのだろう。

    そんな「怪人」を、妖怪を描かせたら右に出る者がいない水木しげるが描くのだから、濃くならないはずがない。
    水木は怪人・熊楠を描く狂言回しとして、1匹の猫を配す。熊楠は実際、猫好きであったことが知られており、どんなに困窮しても、手元には常に猫がいたという。食べ物は自分がしゃぶった残りかすを猫に与え、布団代わりに猫と寝たというから恐れ入ったものである。
    物語は熊楠がアメリカ・イギリスへの外遊後に和歌山に戻ったところから始まる。熊楠は野良猫を飼い、これを「猫楠」と名付ける。実は猫語も操れる熊楠は、それまでの体験を語って聞かせたり、研究に伴ったりする。猫はこの後、熊楠の半生をじっくり見ていくことになる。

    熊楠が熱心に取り組んだ粘菌の話もあれば、自身の結婚にまつわる逸話もある。遠野物語のように、妖しのものとのエピソードもある。大小さまざまな事件に熊楠が奮闘する様を、猫楠と仲間の猫たちがゆるりと見守る。猫であるだけに、必要以上に熱くなったり立ち入ったりしない。暑苦しくはないが、さりとて無関心でもない、「猫目線」の距離感が、熊楠ほどの大変人を扱うには、意外にちょうどよいのかもしれない。

    全般にこの人は、常人とは違う透徹した目で周囲を見ていたように思われる。同じ世界にいても、他の人と見えるものがまったく違う。それはさながら、ユクスキュルの『生物から見た世界』で、種の違うもの同士がまったく違うものを見ているかのようだ。

    晩年、熊楠は昭和天皇に粘菌に関して進講をする栄誉に浴する。それは大きな喜びであったが、一方で、その数年前には、かわいがってきた長男の発狂というショッキングな事件もあった。
    粘菌だけでなく、植物や菌類の標本も数多く、熊野の自然を愛し、時代に先駆けて森を守る運動に奔走した。
    孫文や柳田国男、ディキンズ(『方丈記』の英訳者)など、多彩な人物との交流もあった。
    よく笑い、よく怒り、よく学んだ、密度の濃い一生。
    熊楠という複雑な巨人を知るには恰好の1冊だろう。

  • 猫だわ熊楠だわ水木しげるだわでもう言葉になりません。

  • 史実に沿っているとのことですが、いまいち偉大さが伝わってこない。。もっと粘菌の話を。

  • 博覧強記の大変態、南方熊楠。その伝説の数々は今更自分の語るところではない。英語、フランス語、ドイツ語はもとよりサンスクリット語に至るまで19の言語を巧みに操り、科学雑誌『ネイチャー』に掲載された論文、記事51編は、未だ世界で最多を誇る。柳田国男をして「日本人の可能性の極限」と言わしめた大天才。無類の酒好き、女好きにして、40歳まで童貞。ついには昭和天皇に進講する際、標本をキャラメルの空き箱に入れて献上したことは、あまりにも有名。なお、そんな南方熊楠に敬愛を表して、さる水木しげるは紫綬褒章受賞の際、その時と同じ燕尾服にシルクハットの出で立ちであったという。

  • グループのメンバーの壮行会で、本を贈ろうと思って代官山の蔦谷書店に行った。そのときに見つけた本。実は、贈る本の一冊だったのだが、自分もほしくなって買ってしまった。

    南方熊楠の生涯を水木しげるがマンガで描くという、なんともいえぬ世界観になっている。熊楠の生涯が良くわかるし、僕はお勧めしたい。熊楠は猫が好きだったらしい。このマンガの中にも出てくるが、猫が好きなので猫楠ということらしい。

    南方熊楠は和歌山の博物学の巨匠。だが、その範囲は広すぎて、どの本を読んだらいいのか分からなかったりする。ともすれば、奇行にフォーカスしすぎだったりもするけど、伝記として読めると思う。写真で見る熊楠は、意外とハンサムだ。でも、裸で過ごしたり、南紀の山奥に入り精霊を感じたり、その行動はとにかく破天荒。だが、今の東大を出て、米国に渡り、そして英国博物館で仕事をこなしながら雑誌ネイチャーに投稿するなど、とにかく、興味と好奇心の塊として何事にも取り組んだ。不思議な人だと思う。

  • 最近はまっている南方熊楠。。こないだ読んだ伝記本は、最後には涙が止まらないほど、その孤独を孤独として書いたドラマチックな本だった。子どもが生まれたなら、南方熊楠といつまでも肩を組んでいられるような子になることを願った。
    でもまあさすが水木しげる先生だこと。熊楠がかわいがった「猫」が見る熊楠は、どうしようもなくて、ひょうきんで、下のことばかり言っていて、学術的名声の反面にみる天才ゆえの孤独というよりは、「本当にどうしようもない人だった」というエピソードばかりの羅列と言うか、ロマンチックに浸りたい熊楠観をがつんと殴られるような気持ちであった。さすが。
    しかし更にすごいのはそれではなくて、この「本当にどうしようもない」奥に見え隠れするしんみりとした孤独がなんとも言えないいい味。というか、この人にしか書けないなあというなんとも人間臭くて、思わず愛してしまう熊楠が見え隠れしている。何を書いても水木しげるだなあとしみじみ感じるというわけです。

  • 猫たちがかわいい。水木先生の描く猫の手(足)大好き

  • 紀伊半島周遊旅行の際、南方熊楠顕彰館を見学した。
    そこで熊楠の生涯を描いた水木しげるのマンガがあることを知る。
    早速ネットで古本を注文。すぐに届いて、一気に読了。
    熊楠の好きだったという猫を狂言回しに使って、熊楠の生涯が上手くまとめてある。
    熊楠の怪人・変人・奇人・妖人ぶりが見事に描かれていて、こうした描写はマンガならではのものと感心する。
    明治という時代の面白さも伝わってくる。
    昭和という時代を懐かしむ人がいるが、私はやはり明治が好き。
    夏目漱石がいて、柳田国男がいて、南方熊楠がいて、そして、私の祖父母も明治の人。
    人間の理想とする原形が、この時代にはあったように感じられる。

  • おちんちんを蟻にかじられて腫れて二倍の大きさになったから、これはと思い、おちんちんを二倍にする研究をしはじめるひとらしいです。猫語も話せるようです。水木さんが描くぐらいだから実在した魑魅魍魎のたぐいであり、おもしろくないわけないでしょう。

  • よくある偉人伝というのは「大人になったらこういう人になりましょう」と言いつつ、結局は社会に都合のいいテンプレートを押しつけているものが多い中、家の中では素っ裸、大酒を喰らって所構わずゲロを吐き、外人相手にも乱闘騒ぎを起こす熊楠の姿はお世辞にも偉人とは言いがたい。
    恐らく他の偉人伝ではオブラートに包まれて偉人化されているのだろうけど、そこは水木御大。
    熊楠の型破りな人生を見事に描いています。
    しかし今の日本に必要なのはこういう人じゃないかと思う。

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