恋愛中毒 (角川文庫 や 28-10)

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  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041970102

作品紹介・あらすじ

もう神様にお願いするのはやめよう。-どうか、どうか、私。これから先の人生、他人を愛しすぎないように。他人を愛するぐらいなら、自分自身を愛するように。哀しい祈りを貫きとおそうとする水無月。彼女の堅く閉ざされた心に、小説家創路は強引に踏み込んできた。人を愛することがなければこれほど苦しむ事もなかったのに。世界の一部にすぎないはずの恋が私のすべてをしばりつけるのはどうしてなんだろう。吉川英治文学新人賞を受賞した恋愛小説の最高傑作。

感想・レビュー・書評

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  • あなたは、『中毒』でしょうか?

    いやいやいや。いきなり『「中毒」でしょうか?』と訊かれて、はい、そうです!と答える人はいませんよね。そもそも『中毒』とはこんな風に定義されてもいる言葉です。

     “毒性を持つ物質が許容量を超えて体内に取り込まれることにより、生体の正常な機能が阻害されること”
    
    定義そのままに症状が現れるものとしては一酸化炭素中毒、薬物中毒、そして食中毒などが思い浮かびます。一方でその本来的な意味の先に何かに強く依存する症状を『中毒』という言葉で表す場合もあります。ニコチン中毒、アルコール中毒、そしてネット中毒という言葉などでしょうか。いずれもマイナス感情の先にある表現ばかりです。『中毒』という言葉にプラスの意味を探す方が難しいのだと思います。

    さてここに、「恋愛中毒」という、プラス感情の最右翼である『恋愛』という言葉にマイナス感情の最右翼とも言える『中毒』という言葉を組み合わせた摩訶不思議な書名が付けられた作品があります。スピード感のある展開にぐいぐい読ませるこの作品。主人公の心の内に読者もどんどん引き込まれていくこの作品。そしてそれは、表紙に描かれた女性の印象が読後にホラーに転じる狂気な物語です。
    
    『目の前にいるのは、創路(いつじ)功二郎だ』と思いつつ『短く刈り込んで金色に染めた髪』の男性に『お決まりですか?』と声をかけたのは主人公の水無月美雨。『う〜んと低く唸る』創路が『お勧めってある?』と訊くのに対して、『唐揚げかトンカツ弁当ならすぐできますけど』と返すも『揚げ物っていうのは、どうも胃がなあ』と言われ、『カルビ弁当はどうですか?』と言うと『焼肉は昨日食ったから』…となかなか決まらない中、『炒飯と餃子っていうのはどうですか?』という提案に『それ、いいね』とすらりと言う創路。『おねえさん、可愛いね』と言われ『まともに目と目が合ってしま』い、『うわっと内心怯んだ』水無月でしたが、『何も言わずに少し笑』い、出来上がった弁当を渡すと『にっこり笑い「ありがとう」』と言われ『耳まで真っ赤になっ』てしまいます。そして、『アルバイトを終えて部屋に戻』ると、『編集者の荻原』から『明日の打合せの時間を一時間遅らせてほしい』というファックスが届いていました。受話器を手にした水無月はデスクに電話し『時間は平気』ということをまず伝えると『今日、創路功二郎がバイト先に来たんだ。びっくりしちゃって誰かに言いたくて』と話します。『私ファンだから、どうしようかと思っちゃったよ』と続ける水無月に『何だそれ』と呆れる荻原。用事がある荻原に早々に電話を置いた水無月は本棚から『創路功二郎の著作を何冊か取り出し』ます。『元々テレビの構成作家だった』創路は『独特の雰囲気とがたいの良さが買われてテレビに出はじめ』、『クイズ番組から映画の端役まで』何でもやる一方で、『コラムやエッセイ』、そして『数年前からは小説も書きはじめて』います。高校生の時、『田舎の一番大きい書店で彼のサイン会』があり『親に黙ってこっそりとサインをもらいに行った』という水無月。翌日、荻原との約束で都心へと出た水無月は、『いつもじゃなくてたまになんだから、遠慮しないで沢山飲んで食べてよ』と荻原に勧められます。『私は駆け出しの翻訳家』という水無月は『今のところ私に仕事をくれる出版社の人間は荻原だけだ』という今を思います。『彼は大学の時の同級生で、実力もコネもない私にこうして時々仕事をくれるのだ』と思う水無月。そんな水無月に『そういえば創路先生の家って、植物園のそばらしいよ』と情報をくれます。『じゃあまたお弁当買いに来るかもね』と返す水無月に『水無月、狙ってるわけ?』と訊く荻原。それに『黙ってしまった』水無月を見て『創路先生って根は悪い人じゃないと思うけど、あんまりいい噂は聞かないから気をつけた方がいいよ』とアドバイスする荻原。そして、再び店に現れた創路に『腹も減ったし、可愛い女の子がいた弁当屋に行こうって思い立ったんだ』と言われ『言葉を失ってうつむ』く水無月。それから数日後、『バイトは休み』という日に、『散歩がてらの行き先』として創路の家があるという『高級住宅街』へと向かう水無月は、『弁当屋の女の子じゃない?』、『この辺に住んでるの?』と『輸入住宅』のような外観のベランダから創路に声をかけられます。『入っておいで。玄関空いてるから』と言われる水無月。そんな創路との出会いから水無月の人生が大きく変化していく物語が描かれていきます。

    “他人を愛するぐらいなら、自分自身を愛するように。哀しい祈りを貫きとおそうとする水無月。彼女の堅く閉ざされた心に、小説家創路は強引に踏み込んできた。人を愛することがなければこれほど苦しむ事もなかったのに”と悩ましい雰囲気漂う内容紹介に読むタイミングを選ぶ必要性を感じさせるこの作品。1999年に吉川英治文学新人賞を受賞した作品であり、2021年10月に亡くなられた山本史緒さんの代表作に位置付けられる作品です。また、この作品は薬師丸ひろ子さん、鹿賀丈史さん主演で2000年にTVドラマ化もされています。

    文庫本415ページとそれなりの分量で書き下ろされたこの作品の読みどころは三つあると思います。それを見ていきたいと思います。

    まず一つ目は鮮やかな視点の切替です。物語は、〈introduction〉から始まりますが、その冒頭にはこんな一文が置かれています。

     『恋は人を壊す。僕は転職を機に、そのことを肝に銘じた』。

    『僕』とあるようにこの作品は『社員五人と事務の水無月さんでやっている小さな会社』という『編集プロダクション』に転職してきて三ヶ月という二十五歳の井口視点で始まります。『恋は人を壊す』という強い言葉を胸にしている井口ですがこれは井口だけでなくこの作品「恋愛中毒」自体のメインテーマとしても響いてきます。しかし、それ以上に読者は井口の物語として作品世界に入っていきます。そこに地味だけれども大きな存在感を放つのが水無月という『製造年不詳、とっくに販売中止のパソコンみたいな事務員』の存在です。『社長とできてるらしいって噂、聞いたことがあるわよ』といった噂を耳にしていく井口は、水無月のことが気になっていきます。そんな中に核心に迫る噂を聞く井口。

     『全部の単行本の印税の五パーセントがあのおばさんに入ってるんだ』。

    そして、水無月と二人で会話する時間を得た井口はさまざまな疑問をぶつけます。そこに鮮やかな視点の移動が行われます。本来の主人公である水無月が表に登場する瞬間。物語は上記で取り上げた『目の前にいるのは、創路功二郎だ』と、弁当屋でバイトをしていた時代の水無月の物語へと一気に切り替わり本編がスタートします。山本さんは本屋大賞ノミネート作でもある「自転しながら公転する」でも〈プロローグ〉と本編の絶妙な視点の切り替えで読者を魅せてくださいましたが、この「恋愛中毒」の構成も是非その絶妙さを味わっていただければと思います。

    次に二つ目は、これまた「自転しながら公転する」同様に結末へ向けたどんでん返しな展開です。「自転しながら公転する」ではテクニック的に物語を締めにかかる山本さんの上手さを感じましたがこの作品では読者が絶対に予想できない衝撃的な裏事情が後半になって突如語られていきます。後半40ページほどに『その顚末に夫も両親も友人も、私を知る人すべてが驚いていた』という先に突然なまでに展開する物語。これ以上の詳細はネタバレ直結なので触れることは避けたいと思いますが、物語を読み進めていく中でどこか引っ掛かりを感じる内容の核心、物語に隠されていた真実がここにあったのか!という水無月に隠されたまさかの秘密が露わになる衝撃的な物語が描かれていきます。そして、水無月という人物の見え方が〈introduction〉、本編中盤まで、そして本編後半と三つの段階それぞれに大きく変化していきます。同じ一冊の本の中で同じ人物の印象をここまで変化させる凄さ、これから読まれる方には水無月美雨という主人公に兎にも角にも注目してお読みいただければと思います。また、一度読んだ後も水無月に着目しての再読をしたくなる、そのような作品でもあると思いました。

    そして、三つ目は書名にもある通り「恋愛中毒」という言葉の意味するところだと思います。この作品には複数の登場人物が上記した水無月の印象の変化の中に登場します。その中で落とせない三人の人物をご紹介しましょう。TVドラマでの配役も記しますが、絶妙なキャスティングだと思います。

     ・水無月美雨: 主人公、『駆け出しの翻訳家』、弁当屋でアルバイトをする中に、創路と知り合い、彼の事務所の社員としてドライバー兼秘書を務めることになる。大学時代の同級生・藤谷と結婚するも離婚した今を生きる。
      → 薬師丸ひろ子さん

     ・創路功二郎: テレビの構成作家出身でタレントとして活躍。小説も執筆。『沢山の羊ちゃん』がいる。
      → 鹿賀丈史さん

     ・荻原映一: 水無月、藤谷とは大学の同級生。〈introduction〉では『編集プロダクション』の社長に就いている。
      → 岡本健一さん

    主人公・水無月に関係する複数の男たち、その中でも『当時まだ高校生だった私は彼が出ているテレビは欠かさず見るほどファンだった』というタレントの創路功二郎と、水無月の大学時代の同級生であり、〈introduction〉で彼女が務める『編集プロダクション』の社長でもある荻原の二人は全編に渡って登場するのみならず水無月の人生に大きな影響を与えていきます。そんな水無月は「恋愛中毒」という書名に象徴される通り『恋愛』に恐ろしいほどに情熱を注ぐ人生を生きています。そして、そのことによって生じるさまざまな苦悩とその結果が物語を動かしていきます。とは言えこのようなありきたりの説明ではピンとくる方は少ないと思います。「恋愛中毒」という書名が伊達ではないことを知るために水無月が〈introduction〉で語る次の言葉を引用しておきたいと思います。

     『どうか、神様。いや、神様なんかにお願いするのはやめよう。
      どうか、どうか、私。これから先の人生、他人を愛しすぎないように
      愛しすぎて、相手も自分もがんじがらめにしないように。
       ︙
      私が私を裏切ることがないように。他人を愛するぐらいなら、自分自身を愛するように』。

    実は『︙』で省略した箇所にはさらに具体性を帯びた『…ように』も記載されていますが、まさしくこの祈りにも似た言葉の先に水無月の心からの叫びを見ることができます。

    物語は、〈introduction〉に引き続いて水無月の過去が描かれていきます。『離婚した時、父親の知り合いが紹介してくれた』という弁当屋で『週に五日アルバイトをしている』水無月は一方で『駆け出しの翻訳家』でもあります。そんな翻訳の『仕事をくれる出版社の人間』が荻原という関係性です。翻訳だけでは生活できずにアルバイトを掛け持ちするという日常。そんな日常に、運命の人でもある創路功二郎との出会いが訪れます。初めて会った、しかもレジ向こうに働く店員に対して『おねえさん、可愛いね』と気軽に声をかけてしまうところに創路の性格が垣間見えもします。しかし、店員と客という立場で親しく対峙していく関係性は世の中いくらでも存在します。そこから先に男と女の関係性が進むとしたら、そこにはどちらか一方に大きな一歩が必要だと思います。物語では、創路の家のある近辺へと訪れ出会いの確率を高めていく水無月の行動があり、その先に創路の元で働くようになる水無月の結果論の人生が描かれていきます。それこそが、水無月本人も認識する次の言葉に現れています。

     『選択。そうだ、窓を開けるか閉めるか。それも些細な日常の選択だ。欲を出さず、ささやかにひっそり暮らしているつもりでも、やはりこうして何かを選んでいる』。

    そうです。私たちは誰でも平凡な日常を生きているようでも実は日々の中でその一瞬一瞬に未来に何かしら影響を与える『選択』を繰り返しています。そして、その『選択』にその人が日頃から認識している、していないに関わらずその人が内在するその人本来の心の声が顔を出します。「恋愛中毒」という書名を想起させもする水無月という存在がそこに浮かび上がります。

     『結婚していた頃、いや、そのずっと前からも私は何かのウィルスに冒されているようだった。私はどうかしていた。頭がおかしかった』。

    創路との出会いの先に再び『ウイルスに冒されて』いくかのように「恋愛中毒」な時間を繰り返していく水無月。

     『もう二度と恋愛することはないと思っていたし、そんなことにならないよう気をつけていたのに、私はまたしても深い森に踏み込んでしまったようだ』。

    そんな言葉の先に展開していく物語は、視点の主としての水無月に感情移入していた読者に衝撃を与えると共に、からめ取られる恐怖が襲います。『恋愛』という言葉が書名に入っているにも関わらず、単なる”恋愛物語”からもっと深い人の心の闇へと読者を誘う物語への変質。愛するということ、愛されるということ、その先に続く幸せというもののあり方。山本さんが『中毒』という強烈な言葉まで使ってまでこの作品で表現されようとした”愛のかたち”とその先に続く幸せとの関係性。この作品では水無月が見せる極端なまでに歪な”愛のかたち”によって愛すること、愛されることの幸せを再認識させられる物語が描かれていたのだと思いました。

     『これは本当に私の望んだことなのだろうか』。

    そんな言葉の先に主人公・水無月の深い苦悩を見るこの作品には「恋愛中毒」という書名を体現する水無月の劇的な人生が描かれていました。山本さんの構成の上手さでぐいぐい読ませるこの作品。『恋愛』という言葉に恐怖を感じる読後が待つこの作品。

    「恋愛中毒」という言葉の行き着く先に、『恋愛』の狂気を見る物語でした。

    • バス好きな読書虫さん
      初めてコメントさせていただきます。
      いつも素敵なレビュー、読ませていただいております。
      とても好きな作家さんで、亡くなったことが残念でなりま...
      初めてコメントさせていただきます。
      いつも素敵なレビュー、読ませていただいております。
      とても好きな作家さんで、亡くなったことが残念でなりませんが、昔の作品をこのように丁寧に評価いただいて、なんだか嬉しい気持ちになりました。
      この作品も思い入れのある作品で、まだまだいろんな人が読んでくれることを祈ります。
      2024/03/09
    • さてさてさん
      バス好きな読書虫さん、こんにちは!
      こちらこそいつもありがとうございます。

      山本文緒さんが亡くなられた衝撃はとても大きかったです。私...
      バス好きな読書虫さん、こんにちは!
      こちらこそいつもありがとうございます。

      山本文緒さんが亡くなられた衝撃はとても大きかったです。私は女性作家さんの小説限定の読書を続けていますが、読書&レビューの日々を始めた時には現役、そして訃報に接した…という唯一の作家さんになります。山本さんについては、「絶対泣かない」の〈あとがき〉で、”どうか、あなたがあなたの仕事を好きになれますように”と書かれたひと言が強く印象に残っており、今もって私の中で一つの位置を占めている方でもあります。
      今回、ようやく「恋愛中毒」まで行きつきました。バス好きな読書虫さんに、そうコメントしていただき嬉しいです。ありがとうございます。
      コンプリート目指して読んでいきたいと思います。
      2024/03/09
  • ただただ一言。おもしろい。一気読みでした。
    解説にもあったが、始まりから終わりまでの構成が完璧で読後の満足感が高い。

    起きた事件はホラーだが、どうかもう他人を愛し過ぎないようにと祈る彼女に同情するのだ。もっと要領よく生きればいいのに、、バカだなぁと思う反面彼女にピュアさを感じたりもする。

    あとがきに「原始的とも言える愛し方で、主人公は男を愛していく。どうしようもないほど愚かであるが、愚かさゆえに純粋で真摯である。それがお利口になった現代の女たちの心をうったのだ。」とあった。
    強さやプライド、理性などを取り除いた女性の本質的な姿なのかもしれないと感じた。

    山本文緒さんは、自転しながら公転する以来。こちらが代表作なのかな?他も読んでみたくなりました。

  • ある小さな編集プロダクションに、二ヶ月前に転職して来た"ぼく(井口)"の語りから始まる、事務員・水無月美雨に関する恋愛事情。水無月本人から語られる形で進むその内容は、あまりにも波乱に満ちた物語で、読んでいて辛くなるところもある。だが、最終的には展開がとても面白く、さすが山本文緒!と思った。

  • 後味が良くなく共感を覚えずってところは、紫のスカートの女と一緒なのに、読後のスッキリしない感じが異なる。(褒めてない)
    水無月さんは、何で萩原さんに見捨てられないのだろう。
    萩原さんは萩原さんで水無月さんに頼られることに満足でもしてるのかな。
    だとして、どちらも良くならない。
    こんな言い方したらアレだけど、男で水無月さんの様な人は目も当てられないと思う。
    女だから、まだ構う人もいるんだろうなと。

    過去のことで「もしも」の想像をするのはやめた方がいいっていう作中のキャラのセリフはそうだなと思う反面、中々出来ないことだよなとも思う。
    感想がまとまらないように、なんかモヤモヤした感じ。

  • 翻訳をしながらお弁当屋でバイトをして暮らす水無月は、ひょんなことから芸能人の創路と知り合い、関係を持つ。
    そこから仕事、生活を恋愛に全振りする水無月。
    恋に落ちて恋にのめり込んでいくのは、共感できる部分もあるし、こーゆー友だちいる!という感じ。

    これどーなるんだろうって思っていたら、後半の衝撃的展開。割と長いのにここまで引っ張って爆弾投下する山本さん罪深い、、、おもしろすぎる、、
    創路も水無月とは別角度のなかなかな恋愛中毒者だ。
    萩尾とのことを知っていたのに関係を持った藤谷は、なんで自分の首が締まることは考えなかったんだろう。

    水無月が両親(特に母)をここまで強く拒否するのはやりすぎじゃない?と思ってたけど読んで納得。
    家族は1番辛い時に支えてくれる存在であって欲しいよなぁ。

    恋愛は1歩間違えるとただの依存関係になる。水無月のは強い依存。でも、誰にでもこうなる可能性はあるよなと思うと、恋愛はほんとにのめり込みすぎてはいけない。

  • 恋愛で自分を失うことがいかに愚かであるか、しかし陶酔している本人は何にも代えがたい快感を得ていること、そういう「恋愛中毒」のありさまを主観と客観の両方で味わえる作品。

    昼ドラ的なドロドロな内容ではあるが、性的な描写は少なく淡白な印象なので、愛憎渦巻く訳ありな男女の関係を神の視点で達観しているような感覚で序盤は読み進めていた。

    しかし、後半になるにつれて主人公水無月に無意識に感情移入している自分がいて、私の中にも「水無月がいた」ことに気づかされる。かつてまさに恋人に依存し、感情と行動の暴走がどうにもならなくなっていた自分と重なる部分があり、読んでいて胸が苦しくなった。

    クールで内向的な性格の内側に激しさや異常性を孕んだ水無月と、自分勝手なのにとてつもなく女性を惹きつける創路の屈折した愛の形から、我々は恋愛における「依存」を知ることになる。

    満たされない心を相手の存在のみで埋め合わせようとすることで、相手への依存が強固になる。上手に自分を甘やかしてくれて、都合のいい相手に限って「好き」以外の多くの理由で追いかけてしまう。それは優越感であったり背徳感であったり、一瞬で過ぎ去る甘美な時間だったり。水無月は、そういう理由で創路に依存する典型的なダメ女で見ていて痛々しかったが、自分にも覚えがあるゆえに共感もしてしまった。

    過去に自分を見失うほどの激しい恋愛を経験した人にはグサリ刺さる作品である。少なくとも私は、かつての自分の愚かさを痛感する一方で、むき出しの感情と欲望で満ちていた当時の恋愛を許されるならばもう一度体験したい気持ちになってしまっている。これが恋愛中毒の恐ろしさだ。

  • 再読かな?昔から本棚にあったが記憶なし。
    怖い怖い水無月さん。最初はテンポも良いのでどんどん読み進める。終わり40ページで一気に怖っってなる。
    恋愛小説ではなくホラー小説だろう、これ…
    人物像で多少、ん?って思うところはあったが、面白かった。

    なんか、水無月さんが怖いのではなく、自分にもそういう所あるんじゃないかって気づいた自分が怖くなった。ちょっと目から鱗の気分。きっと若い時に読んだ感想と今じゃ明らかに違う。

    林真理子の解説も良かった。

  • ○感想
    主人公 水無月の「にこやかに話を聞いていても、心の中は全く別の事を考えてる」描写がしばしば出てきて、人間が怖くなった。自分だけ慕って会話してても、一点も交差してないことがあるんだ…、コワイ。

    創路(いつじ)先生の「過去に“もしも“を持ち込むな」は心に留めておきたい。

  • _______________
    この読書感想文を書いている真っ最中、作者の訃報を知った。
    あまりにも早い。ただただショックでした。
    ご冥福を申し上げます。
    ________________

    作家になりたかった。多分小学校の高学年から。

    私の幼少時代の唯一の救いは、父に買ってもらった外国文学集全巻四十冊でした。学校で疲弊して家に帰ると、小説の世界に飛び込んで無我夢中に読んでました。それも何度も。成長と共に読む量も内容もどんどん増えていき、私は常に他人の人生を生きている感覚をして、現実味のない幼少時代を過ごしていた。

    感受性に苦しめられ、日々他者と対応するのが苦痛だった大学生活に、この一冊に出会った。

    「どうか、どうか、私。これから先の人生、他人を愛しすぎないように。他人を愛するぐらいなら、自分自身を愛するように。」

    その言葉はあまりにも衝撃的だったので、しばらく呆然し、次のページに捲れなかった。

    恋愛は献身的てなければとずっと思っていました。相手に従えば愛される。言う事を聞けばちゃんと向き合ってくれる。だが結果はそうじゃないと何度も痛い目に合うのに、性懲りも無く同じことをしてしまう。理由は今になってやっとわかって、人との距離をできるだけソーシャルディスタンスを持つようになったけど、二十代頃の私は、恋愛においても、恋愛じゃなくても、相手に過度の依存をしてしまう。

    それは本当の愛じゃなかった。

    恋愛中毒を読んでいて、全部私。その描写はあまりにもリアルで、何度も息が詰まってしまう。俯瞰で自分を見る事はこんなにも痛々しく、こんなにも情けない。だけど目を逸らしちゃいけない。自分を受け入れるしかないけど、どうして、私を一番受け入れてほしい人にはいつも私を責めて、私を、と言葉が詰まる。

    私は書くしかなかった。書くと言う行為に自分の感情も考えも出すしかなかった。「恋愛中毒」みたいな作品はかけなくても、私の感情を綴るものを書けばいいと思いました。痛くても目を逸らしちゃいけない。痛々しくでも、それは私だから。

    そんな私ですが、受け入れて頂ければ幸いです。

    • kayoko.さん
      爽健美茶さんの感想、とても共感します。自分の気持ちを書くことはとても難しくて自分には上手くできないので、すごいです。
      爽健美茶さんの感想、とても共感します。自分の気持ちを書くことはとても難しくて自分には上手くできないので、すごいです。
      2021/10/26
    • 爽健美茶さん
      kayoko.さま
      コメントありがとうございます。
      自分の気持ちを文字に表すとは難しいですね。更にそれを言葉にするのも難しいです。相手の顔色...
      kayoko.さま
      コメントありがとうございます。
      自分の気持ちを文字に表すとは難しいですね。更にそれを言葉にするのも難しいです。相手の顔色を常に伺ってしまう自分がいて、なんだかね。
      2021/10/26
  • 悪女が居た。

    私が若い時本気で愛した人が妻子持ちで、あまりにのめり込んでしまって気が狂いそうになったから違う人を好きになるように努力した。
    当時の事を思い出した。
    本来男が悪いのに女の人生が狂ってしまう。
    私は絶対そんなの嫌。
    だから無くした感情とかある。
    この本でもその事が描かれていて少し嬉しかった。

    クソ男なのに名言言うとかズルい。

    読みやすい。とにかく素晴らしい本。

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著者プロフィール

1987年に『プレミアム・プールの日々』で少女小説家としてデビュー。1992年「パイナップルの彼方」を皮切りに一般の小説へと方向性をシフト。1999年『恋愛中毒』で第20回吉川英治文学新人賞受賞。2001年『プラナリア』で第24回直木賞を受賞。

「2023年 『私たちの金曜日』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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