きょうも上天気 SF短編傑作選 (角川文庫 ア 100-1)

  • 角川書店(角川グループパブリッシング)
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  • Amazon.co.jp ・本 (333ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784042982135

作品紹介・あらすじ

何度も映像化されているジェローム・ビクスビイの表題作の他、そうそうたる顔ぶれの、意表を突く企みに満ちた永遠の名作を、浅倉久志の名翻訳でおくる珠玉のSF短編傑作集。

感想・レビュー・書評

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  •  浅倉久志の翻訳したSF短編を集めたアンソロジー

     あまり翻訳ものに詳しいわけではありませんが、大森望さんの解説を読んでいるとその存在の大きさを感じます。そういう先人がいたからこそ今の自分たちがさまざまな小説を楽しんでいられるかと思うと、本当にありがたいなあ、と思います。

     印象的な短編はアーシュラ・K・ル・グィンの『オメラスから歩み去る人々』
     15ページほどの短編ながら都市の美しさの描写の巧さ、そしてその裏に隠された残酷な真実はいろいろと考え込まされる作品です。自分ならきっとこの真実を見せつけられたら、これ以上オメラスには住めないだろうなあ。でもきっと地下に囚われた子どもを救うこともしないのだろうな、と思います。それをすると街に住む人たちを路頭に迷わせることになるかもしれないから。そこまでの責任を負って子どもを救うことはできない気がします。オメラスから歩み去った人々はそんな無力感を抱えながらこの街を離れていったのだろうな、と思います。

    ロバート・シュクリイ 『ひる』は古典ホラー系SFではベターなアメーバ状の宇宙物体が登場。ラストの皮肉なオチが恐ろしくて効いています。

     ジェローム・ビクスビイ『きょうも上天気』はシニカルかつブラックな味の効いた短編で、あんまり超能力もののSFはなじみがないのですが楽しめました。

    マッドサイエンティストの登場するワイマン・グイン『空飛ぶヴォルプラ』は人の身勝手さが描かれつつもそれに対する新種の生物ヴォルプラのだした最後の行動がよかったです。

    カート・ヴォガネット・ジュニア『明日も明日もその明日も』は不老薬の生まれた未来が舞台。人が死なないことによって生まれた居住地問題、遺産問題は今の日本や世界の状況から考えるとなかなか笑えないものがあります。作品自体は遺書の書き換えを脅しに、わがまま放題の家長の機嫌を窺いながら暮らす家族の様子やその顛末は皮肉なユーモアたっぷりで楽しいのですが……。

    『オメラス』も『明日も明日も』も60年代、70年代の作品ながら、今現在の世界の問題、そしておそらくは将来にわたる問題を描いていて、SF作家の目というものはやはり鋭いんだな、と感じました。

  • 「オメラスから歩み去る人々」ル・グィンの作品なのか。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「ル・グィンの作品なのか。」
      辛辣極まる一編ですね。
      「ル・グィンの作品なのか。」
      辛辣極まる一編ですね。
      2012/12/11
  • SF小説の翻訳で知られた浅倉久志氏の追悼アンソロジー。つまり、「訳・浅倉」の短編傑作選である。翻訳者を軸にしてアンソロジーを編むって、あまり聞いたことよね(ありますか?)。でも、いい企画だと思う。南青山氏とか柴田元幸氏の「短編傑作選」なんか読んでみたい気がします。翻訳者としての村上春樹短編傑作選もいいな。本書の直接の感想になってないけど、そんなことを思ったのでひと言。

  • 何処かで映像化されている為か、先が想像出来る場合が多々。それだから傑作とも言えるが、既知故に面白味に欠けるとも。読み易さは、訳者のおかげ。有難し。それが大事。

  • あたかもPKD本と誤読を招くDBが悪いけど有罪

  • きょうも上天気 SF短編傑作選 (角川文庫)

  • 浅倉久志訳のSF短編傑作選。
    SFを読みたいけど、何を読もうかな?と迷った時の浅倉久志だったなー

  • ●アーシュラ・K・ル・グィン『オメラスから歩み去る人々』
    ●J・G・バラード『コーラルDの雲の彫刻師』
    ●ジェローム・ビクスビイ『きょうも上天気』
    ●ウォード・ムーア『ロト』

    上の4作品が特に面白かった。
    特にル・グィンの作品は、功利主義や人間の残酷さについて、考えさせられるもの。

  • とてもいい。SF翻訳家 朝倉久志が訳出した作品だけを集めた傑作選。ディック、ヴォネガット、バラード、それからみんな大好きサンデル先生も取り上げたグィン「オメラスから歩み去る人々」も収録。個人的にはバラードの「コーラルDの雲の彫刻師」がよかった。雲に彫刻を施すグライダー乗りの話なんだけど、描写のひとつひとつがとても美しい。他の作品もクオリティはやたら高いし、9編まとめてのバランスも絶妙。編者の大森望いい仕事するわ。ほんと素晴らしい作品集です。SFもっと読まなきゃいかんなあ。

  • 浅倉久志訳の英米SF短編集。浅倉久志(このペンネームはアーサー・C・クラークのもじり)は1930年生、2010年没。生涯に147冊の単行本、600以上の短編を訳した。この本は彼の訳した短編から傑作を集めたものである。『ゲド戦記』で有名な、アーシュラ・K・ル・グィン「オメラスから歩み去る人々」は、「ハーバード白熱講義」のサンデルが『これからの正義の話をしよう』のなかで引用している。テーマは「最小不幸社会」で、楽園のような都市オメラスに住む人々の幸福が一人の幽閉された少女の犠牲によって成り立っているという話である、この少女はわけも分からずに土間の狭い一室に隔離され、教育も愛情も満足な食事すら受けていない。ふくらはぎがないほどやせ衰え、自分の排泄物のうえに座るのであちこちが爛れている。彼女のことは都市の全ての住人が知っているが、彼女には優しい言葉ひとつかけてはいけないことになっている。彼女の境遇は「契約」であり、彼女にひとかけらでも「幸福」が与えられれば、都市のすべての幸福は消え去るとされている。このオメラスには時々都市を去って帰ってこない人がいるという。ル・グィンは文化人類学SFといわれ、書かれている社会習慣を理解するのが大変である。内容も陰鬱で深刻である。ほかにはヴォネガットの「明日も明日もその明日も」が入っている。22世紀に不老薬が発明され、人口が120億を突破した社会で、170歳を越えた「おじいちゃま」に何とか死んでもらいたいと思っている112歳と93歳の夫婦の話である。この世界では人口増加のため資源が枯渇し、みんな「加工オガクズ」を食べており、ガソリンがないからどこにもいけず、物は誰かが死ぬ気にならないと買えない。「おじいちゃま」が120年前からみているお気に入りの連続ドラマは2万回を越えている。住宅難も悲惨で、この家では曾孫まであわせて20組の夫婦が同居し、「おじいちゃま」の気にいると、ソファーベットで寝られるが、寵愛を失うと遺言状から相続抹消された上、廊下で雑魚寝になる。なんとも暑苦しい話であるが、ヴォネガットだから悲しいけど可笑しいという書き方である。他にはディックが70年代に書いた時間ループ小説や、一人の男の子の超能力をおそれてくらす村の話「今日も上天気」(1953)など、『うる星やつら』や『涼宮ハルヒ』、「世にも奇妙な物語」などのモトネタとなった短編が入っている。どれも半世紀くらい前のアイデアなのである。

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著者プロフィール

Philip K. Dick

「2009年 『髑髏』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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