悪の論理: 地政学とは何か (角川文庫 白 267-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (298ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784043267019

感想・レビュー・書評

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  • 米の建前はデモクラシー。ソ連の建前はマルクスレーニン主義。どちらも本音は地政学。日本は戦前、本音の部分(地政学)を露骨にむき出しにして建前を忘れがちであったが、戦後は建前を鵜呑みにして本音の部分(地政学)を完全に見落としている。p.27

    国際政治において、道義の宣揚や人権人道などが押し売りされるとき、常にその背後でもっと大きな本音が進行している。p.50

    海洋国(英米)は海洋交通の自由、貿易の自由、物資交流の自由を確保する戦略を考える。大陸国(独ソ中)は閉鎖的な自給自足と生存権としての一定領域の確保を考える。p.30

    日本は海洋国であり、1890年から1915年頃まで海洋型の戦略を取っていた。しかし、1915年からドイツ流の大陸型の戦略を取ったことが失敗の原因。無意味な大陸政策(シベリア出兵・済南事変・満州事変・上海事変・日華事変・ノモンハン事変)にのめり込まず、海軍力と商船隊の拡充に力を入れ、石油備蓄・レーダーの技術開発に専念すべきだった。p.49

    地政学は他の社会科学同様、あくまで仮説であり、仮説に盲目的に従って行動してはいけない。p.27

    *************

    アメリカ人は顔を黒く塗ってハワイ人に扮し、クーデターを起こし、ハワイ王国を併合した。p.42

    ヒトラーがチェコを併合・解体したのは、チェコをとれば東欧・ロシア平原への進撃ルートが開けるから。p.122

    ソ連のスパイ尾崎秀実。共産主義者。朝日新聞社記者。ソ連(ゾルゲ)から日本と中国の間に戦争を起こせと指令を受ける。右翼や愛国主義者の仮面をかぶり、軍部に接近して対中国強硬論を煽り、近衛文麿の秘書として中枢部に潜り込んだ。支那事変を起こすことに成功。スパイ容疑で逮捕、死刑。p.59

    極東裁判。(筆者の考える)米の対日心理戦略。敗戦国の大衆の怨みを、敗戦国リーダーに向かうよう仕向け、これが戦勝国によって処刑されることで敗戦国の大衆に自分たちは責任を逃れたかのように錯覚させよ。極東裁判に法的根拠はないが、マスコミに戦争犯罪記事を書かせ、裁判が儀式化された復讐・リンチに過ぎないことに大衆に気づかせないようにせよ。p.63

    米は海洋型であり、海軍・海兵隊は強いが、陸軍は所詮二流にすぎない。にもかかわらず、アジア大陸にのめり込み、結局、毛沢東中国の成立で大陸から追い出され、朝鮮半島で大量の血を流し、沖縄は日本から奪い返され(1972)、ベトナム戦争では不名誉な撤退(1973)を余儀なくされた。p.51

    (著者の考える)米の現代の対日戦略。日本が軍事・資源で自立しようとするのを封じる。日本の右翼を抑え、親米の左翼リベラルを育成する。叩き上げの田中角栄、中曽根の系列は危険なので切り捨てる。日本の総合商社を叩いて無力化させる(その際、日本の左翼リベラルが協力が得られる)。p.279

  • 地政学とは地理政治学のことでその他の社会科学がそうであるようにいくつかの仮説によって構築された虚構論理の1つである。敗戦後、米ソの占領政策によって、日本とドイツでは研究が禁圧されていた。
    アメリカの海兵学校の教科書には地政学のことを、政治の地理学に対する関係の科学と定義づけている。
    イギリスもアメリカも日本が真珠湾攻撃をした時は大喜びした。これでアメリカが堂々と国民に戦争参加の理由ができる、ということで。

    欧米の新聞ではソ連時代もRussiaと表現していた。ソビエトと書くようことは絶対になかった。

    世界の主な海峡は常に強国の狙うところとなり、力の弱い国家は海峡を持つがゆえに、侵略や圧迫を受けることが大きい。ロシア人にはこの欲望が特に強い。

  • 虚構論理の本領発揮。
    約40年前の地政学の視点から見た日本と世界。

    戦う前に勝つとは何かの戦略(大戦略、政治)の要から今となっては予言と呼べる内容に。
    戦中の日本のシーパワーの弱体化の流れがすばらしいまとめ。
    随時戦略としてひと世代かけて戦い続けるのが国際化した現代に通ずると感じる。

  • 地政学の入口に。ただし奥山真司「地政学」や曾村保信「地政学入門」の方が入口向きか。

  • 著者自身が言うとおり、大抵の記述は一見して筋が通ってるように思えるし、書いてあることが自然に事実かのように思えてくるような箇所も結構あれど、ただ読むだけじゃ正しいのかどうか判断しづらいところの方がやっぱり多い。でも時折、これは正しいと言える記述も出てくるので読まないわけにはいかない。読んで始めて、調べて議論する土俵に立てる。

    個人的にメモした項目を羅列します。
    The Hull note に関する記述は正しそう。時系列が行ったり来たりするので慎重に読まないとわけがわからなくなるかも。
    日中韓の団結がなかなか進まないように妨害されているというのは2010年現在でも健在の論調。
    チベットに関しては、自分が知らなかったことが数多く書かれていて、池上彰なんて目じゃないほどに納得できた(鵜呑みはいかんけども)。
    途中まで電子化の話はほとんど出てこなかったので、最後まで触れられないのかと思いきや、アメリカの世界戦略の話の中で大きく取り上げられていて、いい意味で期待を裏切られた。
    アメリカの世界戦略といえば、原発開発発注巨大キャンセルの話はどこかで聞いたような気も。
    琉球と日本の関係については、自ら調べる必要がありそう。

    総じて断言調かつ推測の域を出ない書き方が多いので、後半に進むほど不信感を抱いてしまうものの、得られる視野の広さと思考の深さは貴重。大体が2010年でも通ずる記述。全くと言っていいほど古臭くない。
    蛇足ながら、「おわりに」での日本人についての記述は素晴らしいと感じた。

  • 三十年前に書かれた本だが地政学入門書としてはこれに勝るものはないのではないか。
    国際社会を生き抜くために小善人ではなく悪党に、醜草になれという。国家が世界戦略を策定する上で他の科学と同じ虚構論理体系の地政学が未だに研究されていることを述べる。
    大東亜戦争の原因や流れについての地政学的な考察があり、米がマハンの教科書どおりに行動していたこと、サイパンの陥落が事実上の勝敗の分かれ目であったこと、日本もマハンを学び極東と西太平洋に完全な海洋国家としての戦略体制を整えていたこと、米ソの陰謀が日本を大陸へ引きずりこみ日本の道を誤らせたこと、ゾルゲと尾崎などのスパイのこと、海軍の将星が秀才ではあったが動物的カンが退化して善人であったことなどを論じている。
    次にロシアの地政学。共産主義がユダヤ教、キリスト教、イスラムと同じ系統の一神教であることを喝破。ソ連の赤軍参謀がマッキンダー地政学を信奉していること、それはハートランドを制するものが…ってヤツであること、リムランド論を唱えたスパイクマンについて、そしてそれがために米ソはリムランド内での団結を快く思わず妨害すること(日英同盟など)、海へ進出しようとするソ連と諸国の動向などについて。
    あとヒマラヤの山脈国境について。チベット対チャイナの戦いの流れはこれを読むまで知らなかったので勉強になった。
    それから半島の地政学。海洋国家と大陸国家の均衡する場所で、朝鮮半島、ヨーロッパ半島、インドシナ半島、インド亜大陸などを例にあげて解説。
    そしてドイツ地政学。生存圏とゆう概念があるが、これは大陸国家のもので日本にはなじまないこと、チャイナやソ連が生存圏意識をむき出しにしていること、ハウスホーファーの地政学がシベリア出兵後の日本の道を誤らせたことなどについて述べる。
    また植物生態学的環境がその国の軍に与える影響についても考察。海流地政学も紹介し、二十世紀以降の文明が海流流線の集中点近くに栄えるとの仮説を提起。
    戦後地政学として周海の地政学を紹介。戦略兵器の発達により北極が内海となってしまったこと、沖縄における米ソの工作、米ソの謀略としての大陸棚条約、中韓の海底資源を巡る思惑など。
    最後に二十一世紀の地政学について。エネルギー、食糧、情報の重要性を説いており、エネルギーでは米国内の原子力産業について、それからドイツが原子力開発でうまく立ち回っていること、また日本の原子力開発に対する米ソの妨害などについて述べる。資本主義第三世代への移行の中にある米国の地政学としての対日本、韓国政策にも触れる。また日本が独自の地政学として「経済ゲオポリティック」ともゆうべき東洋的地政学を発展すべきとしており、今までの西洋地政学が剛なら柔であるべしと主張、硬いテーゼを含まぬ日韓台三国の人々に受け入れやすいものであるべしと述べる。

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