偶然の祝福 (角川文庫)

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著者 : 小川洋子
  • 角川書店 (2004年1月1日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (201ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784043410057

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偶然の祝福 (角川文庫)の感想・レビュー・書評

  • 再読。
    夢と現の境界線が曖昧な寓話の様な7つの短編。
    "私"は少し特殊な生い立ちのせいか幼い頃から胸の内に孤独を抱えた女の子で、その"私"を現に繋ぎとめていたのが彼女の弟やキリコさんの存在だった。
    母親に顧みられない幼い"私"を魔法のように救け慈しんでくれたキリコさんはわずか1年ほどである出来事の責任を問われやめされられ、バラバラの家族の鎹であった弟の死で"私"と両親を繋ぐものはなくなってしまう。
    弟の死を機に"私"は彼方と此方を行ったり来たりするようになってしまう。
    ともすると彼方の世界に沈み込んでしまいそうになる"私"を現である此方側に引き戻してくれるのは、バスで乗り合わせる女性であったり、偽物の弟であったり、アナスタシアと名乗る老女であったり… どう考えても彼方側の住人と思われる人物たち。
    そして、まだ幼く言葉を発することも出来ない息子と、飼い犬のアポロ。
    息子とアポロの描写には穏やかで温かな陽だまりのような幸福を感じる。

    作品の全体を通して、かなりヘビーな人生を送っている"私"の物語は常に穏やかに静かに進行していてドラマチックさはないけれど、美しい文章に心を掴んで離さない魅力がある。

  • 息子と犬のアポロと暮らす「私」の前に現れ、去っていくものたち。喪失の悲しみと引き換えに残される幸せを掬い取る7つの物語。

    物語は文章を書くことを生業としている「私」が中心である。文章を書くことを志した幼い日、小説家としてデビューし、始めてもらった本の印税で買った犬のアポロと暮らし始め、妻子ある指揮者の恋人と出会い、彼の子供を妊娠、出産、そして息子とアポロと過ごす日々。7つの物語からは「私」の人生の歩みが垣間見えるが、それらの物語は時間の流れと関係なく並んでいる。そのため「私」の記憶の淵からふわりと浮き上がり、思い出した順に並べられているような印象を受けた。文章も切なく儚げな雰囲気が漂っており、「私」がふと昔を思い出し、過ぎ去ってしまった日々に寂しさを重ねているようだった。

    思えば、日々は“時間の喪失”の繰り返しである。楽しかったことも悲しかったことも、次の瞬間には失われた時間になる。その出来事が記憶に残っていれば良い方で、大半の時間は記憶の籠からこぼれ、永遠に失われていく。確かに私が生きていたあの時間は、どこへ行ってしまったんだろう。私が歩いたそばから通り過ぎた道が消えていくようで、避けようがない虚しさを覚えた。

  • 小川洋子さんの作品の中でも、特にあたたかみのある一冊だと思います。
    小川さんらしい神秘的な作品もありつつ、とっつきやすい作品もほどよく納められていると思うので、小川洋子さんを初めて読む人にはたいていこの作品を勧めています。
    私は「涙腺水晶結石症」が一番好きです。

  • 大分前に読んだので、粗筋をまとめる為にパラパラ読み直しました。相変わらずの、美しく優しい小川ワールド。もうこの方の作品は外れることないんじゃないかな。やっぱり大好きだなってことを改めて再確認。私、毎回ブクログで小川先生に告白してるわ(笑)。

    連作小説って、視点を変えたりドンデン返しの要素が入ったり、なドラマ性を楽しめる類の性格だと思うんですが、やっぱり小川作品は一味違います。静謐です。単調です。それが良いのです。
    章毎に主人公の過去のエピソードが語られるのですが、その内容がすごくファンタジックなのに、主人公の人生がリアルに肉付けされていく感覚がとても心地良い。生々しい人間の人生を見せられているのではなくて、飽くまでも“ファンタジーな世界のキャラクタ”が、章を読み進むに連れてリアルさをまとっていく描写が、最後までそのファンタジー性を失わずに描かれています。


    何でこんなに心地良いんだろう?
    何作読んでも、これほど惹かれる要因が、世界観なのか言葉の綴り方なのかそれ以外の物なのか分からないなー。好きなら好きでいいじゃん、で済ませばいいんですが、何でこんなにドンピシャな所を毎回突かれるのか、気になるんですよね…。いくら好きな作家
    って言っても、お気に入りとそうでない作品って出てくるものなのに、小川作品に限ってはそれがないからなあ。不思議だ。


    ◎失踪者たちの王国…私の隣には、いつも失踪者の影があった。何の前触れもなく、彼らは静かに行方をくらます。そして私は、彼らの記憶の依り代である乳歯や傷跡や嘔吐袋に、思い出を蘇らせるのだ。

    ◎盗作…弟が死んでから、私達家族の日常は崩壊した。アパートを追い出され、恋人は横領容疑で逮捕され、交通事故の後遺症で病院通い。そんな惨めな日々を送る私の前に、ある日一人の女性が現れた。彼女はやがて、自身の弟に起こった不思議な体験を話し始めたが…。

    ◎キリコさんの失敗…お手伝いさんのキリコさんは、なくし物を取り戻す名人だった。私が困っているとたちまち解決してしまう魔法使いのような彼女が最後に見せてくれたのは、大きな代償を払った素敵な贈り物だった。

    ◎エーデルワイス…コートやズボンの内側に私の著作を縫い付けた男は、自分が死んだ弟だと奇妙な主張を繰り返す。私の本をこよなく愛し、生活圏に気づけば不意に佇む奇妙な男との交流。

    ◎涙腺水晶結石症…愛犬、アポロが病気になった。

    ◎時計工場…小説を書いている時、私の心は時計工場にいる。物語を構築する作業は、時計を作る作業に似ている。

    ◎蘇生…ある朝起きると、声が出なくなっていた。治療に訪れた病院での、アナスタシアを名乗る老女との奇妙な交流。

  • 何かを失うことで、何かを得るというテーゼが通奏低音となっている小説。小説の中の物語とはいえ、人生の不思議さをしみじみと感じられる作品です。短編でありながら、それぞれの短編が相互につながっている展開。

  • この方の小説は読了後いつのまにか半分以上内容を忘れてしまいます。しかし断片的に鮮明に覚えていて、どの小説にも美しかったなという印象を受けます。日常を丁寧に書いているのに普通の日常とは思えない、不思議できれいで、仄暗い雰囲気が好きです。

  • なんでこの人の書く物語は
    こんなにかなしくて絶望的でくらくて
    なのになぜか優しくてどこかにひっそり希望が隠れてるんだろう

    そして、夢と現の狭間のような世界

  • お手伝いのキリコさんのお話は良かったな。自分の出来ることをやるとこ、私との内緒のおやつとか何でも話せる人になっていた。しかし、頼まれ事で失敗して辞めさせらてしまった。

  • 人間は全員クズだと豪語してはばからない私ではあるが、それでも人生のどこかで誰かに助けられた場面があったことは認めざるを得ない。いかに人間嫌いな私でも、たった一人で生きてきたわけではない。普通の人は助けてくれる人というのは家族であったり恋人や友達であったりするのかもしれない。だが極端に知り合いの少ない私は、いざというとき力になってくれたのは、赤の他人であることが多かった。通りすがりの優しいおばちゃんや、名前も告げずに去っていったサラリーマン。よくぞあの時あのタイミングで、と奇跡を信じたくなるほどありがたい助けもあった。
     たぶん、世の中はそいういうふうにできているのだ。不幸と幸福のバランスがとれるように、なんらかの物理的作用が働くに違いない。
     だから、用事が終わった後煙のように消えてしまってもちっとも不思議ではない。たとえそれが恋人であっても。役目を終えて舞台から降りただけなのだから。

  • 7つの短篇は独立したお話だが、小説家である主人公の語り手「私」は全部に共通している。
    短篇の並び方は時間順ではなく、読んでいくうちに主人公が最初の短篇の「今」の暮らし方になった経緯がわかるようになっている。
    後半の短篇では、主人公の恋愛が主に描かれる。
    私は「エーデルワイス」が心に残った。主人公の前に現れた熱狂的な男性の読者。
    この短篇を最後まで読むと、この男性が何者か、なぜ主人公の前に現れたのかがわかる気がした。
    それから、主人公の息子(赤ちゃん)の友達であるカタツムリの縫いぐるみがでてくる部分がいいです。この縫いぐるみを見てみたい。

  • 文体が綺麗!切ないのにキラキラしている。

  • 短編集で、所々に小川洋子の別の作品のアイコンが散りばめられていて、彼女の作品を読んでいる人にはたまらん一冊。

    物語自体も、小川洋子特有のオマージュや隠喩が散りばめられていて、人の内面を鋭くえぐるというより、やんわりと押し入ってくるような風合いの作品ばかり。
    ちょっと難解な所も私は好きです。☆4つ

  • 「失踪者たちの王国」「盗作」「キリコさんの失敗」「蘇生」がよかった。

    あたしとは違う温度感を持つひとから見たお話なのに彼女の周りに起こった事、見た事があたしの頭の中で精彩に浮かび上がる。

    キリコさんのような生き方はステキだ。
    自分に想いがあり、もしかしたら伝わる人には伝わるかもなくらい。
    多くを語らない。

    「盗作」のあの頃のわたしに必要だったとのくだりになんだかとっても共感した。私も一時とても必要としていたものがあってそれを得てたかどうかもあやふやなんだけど、そんなときに道義的かどうかはさして問題じゃないのだ。

    アナスタシアもステキなご婦人だった。

  • 「まぶた」「博士の愛した数式」以来の小川さん作品。この人の小説はするすると読めて、読んでるときはとても心地いいのに、読みおわったあと不思議なくらい透明なままだ。自分の中に残らないと言ってもいい。心のささくれにひっかかりもせずに、少し離れたところで息をし続けている。そう、確かに、感情移入とかそういう感じはないのだが、それが嫌ではなくて、繰り返し眺めてはまた伏せる、静かな結晶のような。

  • 短編小説が連作となって一つの小説を構成している。一つ一つの短編にはそれぞれの音色があり、全体を通してとても面白い小説であった。
    自分として特に良かったのは「キリコさんの失敗」と「涙腺水晶結石症」であった。「キリコさんの失敗」は幼い日常の視点から優しく包み込んでくれていたキリコさんとのエピソードを柔らかく描く。また、「涙腺水晶結石症」は積み上げられた困難に立ち向かう先に救いが現れる有様を繊細なタッチで描く。本作は本書を読み進める中で連作なのだと実感できた作品でもあった。(笑)
    「盗作」と「エーデルワイス」は小川洋子さん独特の世界全開となっておりとても楽しめる作品となっている。
    最後の2作「時計工場」と「蘇生」は、本書短編全体を結びつける役割があるのと、主人公が作家で、小川洋子さんの別の著作「ホテル・アイリス」と「貴婦人Aの蘇生」がそれぞれ登場し、とりわけ「時計工場」での作家としての境地を描く場面から、本人自身と交錯する硬質で内面に迫るような作品になっている。「貴婦人Aの蘇生」は「蘇生」の外伝か後日譚のような位置づけと思われ、なかなか楽しい。
    全体を通して思ったのは、この小説は演奏会を意図したのではないかということである。あえて短編連作とし、さまざまな小川洋子風メロディの調べを聴かせてくれる。そういえば主人公の恋人も指揮者だ。長くこの演奏会に浸っていたいと思えるような贅沢な作品群だ。

  • 【あらすじ】
    お手伝いのキリコさんは私のなくしものを取り戻す名人だった。それも息を荒らげず、恩着せがましくもなくすっと―。伯母は、実に従順で正統的な失踪者になった。前ぶれもなく理由もなくきっぱりと―。リコーダー、万年筆、弟、伯母、そして恋人―失ったものへの愛と祈りが、哀しみを貫き、偶然の幸せを連れてきた。息子と犬のアポロと暮らす私の孤独な日々に。美しく、切なく運命のからくりが響き合う傑作連作小説。

    【感想】

  • 孤独な女性小説家の過去、日常を描く連作小説。
    間違いなく日常が描かれているが、そこにあるのは、ミステリアス、生々しい神秘性、非現実感、虚構。
    最初はエッセイ?と勘違いしそうになりました。ご自身の経験も多かれ少なかれ盛り込まれてるとは思いますが。

    小川洋子さんは静謐な文章を書かれる方、と紹介されることが多いが、その通り喧騒とは正反対のところにいる。
    流れている時間がすべらかで秒針の音ひとつしないのだ。
    主人公の人生は穏やかなものではなく、しかし落ち着き払っている。
    終わり方はストンときたし好みだが、その後主人公にとってやさしい時間はやってくるのだろうか、という読後感が残った。
    暗い話が好きな私にとっては良い余韻だった。

  • よかった。
    小説家の私と息子と犬のアポロの、静かで、ときに残酷で、優しくもある不思議な空気を纏った連作短編集。
    各短編の時系列は違うけれど、読了後にもう一度最初に戻って読み直したくなる。
    いちばん好きなのは「失踪者たちの王国」。
    さよならも告げず、未練も残さず、秘密の抜け道をくぐってこちらの世界から消えていった、失踪者たちが住むという王国。
    客観的なフリをしながらもどことなく失踪者たちの王国に惹かれているような“私”の不安定さと、空気感が、絶妙。

  • 良質な短編集でした。キリコさんの失敗が良かった。

  • 小川洋子の小説は、博士が愛した数式しか読んだことがなかったけど、この人のほん。面白い。

    ほんの少しの非日常をこんなうふうに淡々とミステリアスに、そして、ささやかな幸福に、ほんの少しのラブストーリーに、不思議なホラーに、少しづつ姿を変えて読ませてくれる、身近によくある話のようで、なかなかないんだけど、なんか自分でも経験したような気になるような日常風景の中に取り込まれる世界。

    ふとした瞬間に、今の自分と本の中の主人公が簡単に入れ替われるほど普通の日常の出来事が、どんどん読ませてくれます。

    ゾクっとしたり、え!?そうくる!?って思ったりオチも完璧なのに、なぜかとても日常的。

    そんな不思議なもう一人の自分の人生のような一冊です。

    ハマるかも。小川洋子!

  • 徹底して、どこを切り取っても小川洋子の世界。漂う冷たさと静寂な空気、突き放したようでいてどかかにある暖かみ。リコーダー、恋人、声、さまざまな物が喪失する。それはその人の存在を形作ってきた象徴である。喪失は黄泉への旅立ちか、新しい世界への旅立ちを祝福するかのようである。

  • 不気味だけど懐かしい。キリコさんの失敗のパンの届くところ、盗作、失踪者。静謐は十分だったが、つながり、掘り下げがイマイチだったか。
    現実と創作が混じり合ったエーデルワイスの感じは好き。

  • 性愛の描写が無い著者の作品ばかり読んでいたので、少し意表を突かれた。

  • その人にだけ見える存在。

  • 短編連作、なんだけど。最果てアーケードとどことなく似た感じの作品。書いた時期は結構違うんだけどね。割と好き。

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