夜明けの縁をさ迷う人々 (角川文庫 お 31-6)

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  • 角川書店(角川グループパブリッシング)
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  • Amazon.co.jp ・本 (207ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784043410064

感想・レビュー・書評

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  • 9つの物語を収めた短編集。
    グロテスクな身体感と、メビウスの輪のような捻れた永遠性とを持つ作品ばかり。

    『博士の愛した数式』の作者とは思えない陰鬱な雰囲気の作品群だが、こちらが彼女の本来の作風なのだろうという落ち着きを感じる。


    「曲芸と野球」
    河川敷の水門小屋で練習する曲芸師がいつも気になる僕だが…。

    「教授宅の留守番」
    火事でアパートを焼け出されたD子さんは、教授の留守宅を預かることに。
    私が彼女を訪ねたとき、教授が高名な賞をとったという連絡がきて…。

    「イービーのかなわぬ望み」
    街で一番古い中華料理屋のにはエレベーターボーイのE.Bがいる。
    彼はこのエレベーターで産まれ、このエレベーターから離れたことはない…。

    「お探しの物件」
    事情をかかえた住宅に、その物件が求める住人を探すこと―それがこの不動産屋の役目なのです…。

    「涙売り」
    私の涙を刷り込むと、どんな楽器でも音色がよくなるのです―。
    放浪しながら涙を売っていた私だが、あるとき人体楽団の男と出会い…。

    「パラソルチョコレート」
    私は弟とともにシッターさに面倒を見てもらっていた。
    あるとき、シッターさんの家で「私の裏側の住人」だと言う老人と出会うが…。

    「ラ・ヴェール嬢」
    作家Mの孫だと言う老女のもとに足裏マッサージに通う私。
    彼女はマッサージの間中、かつてある男と結んだ淫靡な体験を語るが…。

    「銀山の狩猟小屋」
    私は売りに出された狩猟小屋の下見のため、秘書の青年と山に出かける。
    小屋に着くと、隣人だと名乗る男が現れ…。

    「再試合」
    私の高校の野球部が甲子園に出場することとなった。
    レフトの彼を眺め続けてきた私も応援バスに乗り込み甲子園を訪れるが…。
    終わりのない夏の決勝戦。

  • 9つの短編集。

    グランド脇で逆立ちの練習をしている曲芸師、エレベーターで生まれ育った少年、涙売りの女性等、どこか不気味で背筋がゾクっとする話ばかり。

    しかし、小野洋子ならではの静かで上品な言葉遣いで表現されている為、一風変わった奇妙な童話を読んでいるような気持ちになれる。

    個人的に、物語の合間に描かれている挿絵が好きでした。

  • 怖いけれど好きで読んでしまう、小川洋子作品。
    精神的に麻痺させられているような、どこまでも純粋に美しいと淡々と見つめる語り口で、摩訶不思議で残酷?な出来事が記録されている。
    あり得ないと考えることは簡単だけれど、もしかして隣人が…と想像することの方がスリリングで魅惑的。
    甘くて強いお酒のような作品集。

  • 洋子さんが 眠りから目覚めの間の 朦朧としているときに思いついた短編集・・・・・なのかもしれない
    磯良一氏の挿絵が夜明けの縁のゆがみをうまく表現している

    1 曲芸と野球・・・少年の頃の思い出・曲芸士と野球少年だった自分
    2 EBのかなわぬ望み・・・小さな人が主人公、猫を抱いて・・・を思い出す
    3 お探しの物件・・・短編集の中の短編集
    4 涙売り・・・人体楽団 演奏している半裸の上半身 ゆれる葉の影に愛撫されるように・・・等きれいな表現があるものの最後はグログロ><
    5 パラソルチョコレート・・・出ました チェス この程度のお話が好き
    6 ラ・ヴェール嬢・・・うす味
    7 銀山の狩猟小屋・・・ゾクゾク 不安と不気味に引きずり込んで・・・
    8 再試合・・・さわやか系高校野球! 洋子さん得意分野・・・ が・・・最後は朦朧・・・ 

  • 稲沢という街は全国的には全く知られていない。
    大都市名古屋から電車でたった10分なのに長閑な田園地帯だった。少なくとも私が知っている20年ばかり前までは。
    そこにある農協が仕事上のお客だったので車でよく通った。
    見通しのいいだだっ広い田んぼや畑のなかのひと区画だけに、ぽつんと立派な「松」や「梅」が生えていたりした。実は植木の産地である稲沢では松や梅も「作物」なのだ。
    ぽつんと立っていたのは植木だけではない。「三菱エレベータ」と記された細長い塔も畑や野原しかない中に唐突に立っていた。シュールなあの光景を小川洋子の短篇集『夜明けの縁をさ迷う人々』を読んでいて不意に思いだした。(今、ネットで調べてみると三菱エレベータ稲沢工場のテスト塔は世界で有数のエレベータ製品テスト塔であるらしい)

    3編目に収められている「イービーのかなわぬ望み」の主人公イービーは、映画『海の上のピアニスト』の船上で生まれ陸に上がったことがないピアニストのようにエレベータの中で生まれエレベータの中で生きている。『ブリキの太鼓』のマルタンみたいに少年の時点で成長を止めてしまっている。この小編はそういう「虚」の世界をありありと迫真性をもって読ませてしまう。小川作品のひとつの真骨頂だといえる。小川ワールドの類稀な「虚」の迫真性は、それと同時に、読む者の過去の様々な記憶の中にある光景や場面という、いうなれば「実」の記憶をも触発してくれる。小川作品の迫真の「虚」は読む者の精神の奥底に日頃なら沈殿している深層の原風景に通底する共鳴装置を内蔵してでもいるかのようだ。

    中華料理の店内エレベータのエレベーターボーイであるイービーは、料理店の取り壊しに伴う移転で働き場と生活の場を失う。店主は、新しい店では皿洗いでもやってもらうから問題はないだろうと、こともなげに言う。
    読んでいる私は、懸命に守り育てた事業所を、いとも容易く閉鎖されたり移転させられた、自分の過去と重ね合わせてしまう。「スタッフを守るとか育てるとかは考えなくていい。移転したら行った先でまた新しい人材を雇えばいいのさ」と会社は簡単に言いのけた。

    行き場を失ったイービーが目指したのは、エレベータの製造工場のテスト塔だった。そこで一日中製品テストのためにエレベータの箱を上下させ続ける係員になるのがイービーの夢想する理想だった。「かなわぬ望み」という短編のタイトルから明らかなように、小川の描く虚は、無惨と理不尽という共鳴装置を用いて現実世界に溢れる人々の踏みにじられた無念さに通底する。本書のタイトル『夜明けの縁をさ迷う人々』とは、各々の短編に登場する女曲芸師だったり、忘れらた文豪の娘だったり、そしてエレベータのなかの永遠の少年であったりするであろうが、同時に現実世界を「さ迷う」私たち自身でもある。

    稲沢の野原にシュールに突き立っていた塔。
    仕事のことも世間のことも、人生の行く末さえ見えずさ迷っていた私が眺めたあの塔は、イービーが目指して行き着くことができなかった塔と、全く同じものだったに違いない。

  • 博士の愛した数式や猫を抱いて象と泳ぐ よりは薬指の標本に近いような感じでした。

    どの物語も少しショッキング。
    ちょっとエロくてグロい・・・みたいな。
    人間の本質を表したような・・・。

    私はちょっと読んだ時驚いたけれど、人によってはすごく良い本なのかも。
    パラソルチョコレートは素敵でした。

  • とても不思議なお話、というか人々ばかりが集った短編集。
    現実と虚構の境が曖昧で、ふわふわしているような。
    なんだか怖かったりする。
    イービーのお話が一番好きです。

  • どの物語も小川さんしか書けないような癖のある登場人物ばかりだ。
    1話目から野球少年と曲芸師の組合せだもの。ファンタジーというより正直、ぶっとんでいる。
    9種の短編どれもに物悲しい風が吹いている。
    エレベーターの話は『猫を抱いて象と泳ぐ』にとてもよく似ていた

  • 久しぶりにめっちゃ面白かったー
    やっぱり小川洋子さんの表現がすごい好きだなあ
    本当にきれいですごくすごく好き

  • なんとなく注文の多い料理店のようで、ちょっと皮肉っぽい視点を持つ短編集。すべての作品に「死」が見えている。夜明けの縁は「彼岸」か?
    ただし、暗さというよりなんとなく夢の要素も感じる。

    ちょっと教訓じみたところが、いまいちすっきり受け入れられない感じがあり、点は低めにつけた。

    それにしても小川洋子さんって、いろんな作風で書くな・・・
    語り口調は一緒だけど、内容は別物。

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著者プロフィール

1962年、岡山市生まれ。88年、「揚羽蝶が壊れる時」により海燕新人文学賞、91年、「妊娠カレンダー」により芥川賞を受賞。『博士の愛した数式』で読売文学賞及び本屋大賞、『ブラフマンの埋葬』で泉鏡花文学賞、『ミーナの行進』で谷崎潤一郎賞、『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞受賞。その他の小説作品に『猫を抱いて象と泳ぐ』『琥珀のまたたき』『約束された移動』などがある。

「2023年 『川端康成の話をしようじゃないか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

小川洋子の作品

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